プリローダ⑬
カーテンを開ければ、一面真っ白になっていた。
雪ではない。何か泡の様な物である。
「なんじゃこりゃ・・・」
「どうしたんおかん。ってうわぁなんなんこれ」
マォと千秋は外を眺めながら考える。
「おかん、まさかこれ雪とか言わんよね」
「違うよ。ちゅうか千秋は儂よりもこっちの世界の事知っちょろう」
「そぉなんじゃけどね。私が住んじょった場所は寒いけど雪降らんかったん」
「そぉなんじゃ」
「んでこれなんなん?」
「わからん・・・」
恐る恐る窓を開けて外に出てみる。
足を踏み出せばシュワワッと消えていく白い泡。
「あー、マム!動かないで下さい!すぐに片付けるであります!」
「片付けるっちゅうことはジャックはこれが何か知ちょるん?」
「イェスマム!
アシーナが入浴剤と間違えて洗濯石鹸を風呂に入れたであります!」
「「 ぶっ・・・ 」」
何をどうやれば間違えるのか。
しかも朝から風呂に入るとはどういう事なのだろうか。
「マム、申し訳ありません!
つまずいて堆肥置き場に突っ込んでしまったので
風呂へ入ろうとしたらこうなりまして!」
つまずいて堆肥置き場へ・・・
なるほどそれなら朝から風呂に入るのも納得である。
騒ぎを聞きつけて皆が顔を出すので水魔法が使える者達で泡を洗い流していく。
「よし、これでえかろう。飯飯、朝飯食おう」
と皆で朝食を食べたまではよかった。
『マォ!大変だ。地面 凍ってる』
オルガの一言でマォは慌てて外へと向かう。
ツルン ツルリンコ つんつるてん
「うあぁぁぁ、滑る!うぉーっ、庭がアイスリンクになっちょるー!」
「おかん、アイスリンクとはなんだ。って、おぉぉぉ滑る」
「お兄なんせよん。ぅわぁっ」
つんつるりん つんつるてん
皆滑りまくっている。
こけずにいるアルノーやジャック達獣人はさすがと言うべきか。
ルークとダルクは見事にこけて尻を打っている。
コルディや侍女長、侍女さんズは窓から顔を出して見ているだけにとどめている。
「よし、折角じゃけぇ皆でスケートして遊ぼうか」
「おかん、スケート靴なんてなかろう?」
「ふっふっふ。チアキは知らんじゃろうけど昔は竹で滑りよったんよ」
「へ? マジで?」
竹なら冬囲いに使う為に採って来た物が余っている。
それを足が乗るサイズに切り分けて真っ二つに割ればよいだけだ。
出来上がった竹をロープで足に靴に括り付ければ完成だ。
「ほらガイアもおいで」
「あいっ」
皆見よう見まねで作り足に括り付ける。
つぅー つつつぅー くるりんっ
最初にコツを掴んで優雅に滑り始めたのは意外にも侍女長だった。
「これは楽しゅうございますね」
満足げに笑う侍女長の足元を見てマォは驚く。
「ちょ、ヒールなんかいっ!」
「えぇぇ!」
侍女長は靴を履き替えたのだと思っていたのにヒールのまま底に竹を着けたのである。
よくもまぁそれで竹の上に立てたものだと感心してしまう。
さすがに侍女さんズは靴を履き替えたようだ。
ルークはジャックに手を引かれながら教えて貰っているようだが腰が引けている。
ダルクは止まれずにそのまま勢いよく生垣に突っ込んでいる。
オルガは器用に竹のソリを作って子供を乗せて滑っている。
「お、ガイア上手いじゃん!いい感じ!
って、羽で浮いちょるんかい!反則じゃんか」
「まぁまぁおかん。怪我するよりはえかろう」
「まぁそうじゃけど。
あれ? 待って。ガイアいつ羽生えたん?・・・」
「ん~、いま!」
「今なんかいっ!」
「ねぇおかん、ガイアの服も背中に穴開けんにゃいけんのんじゃないん?」
「そういやそうじゃね。あれ?今ってどうなっちょんじゃろう」
2人でガイアの背中を見てみれば見事に破れて背中がむき出しになっている。
「うわぁ、ガイアストップ!止まって戻って!」
「おかん、私新しい服とハサミ持ってくる」
「よろしく」
その後侍女さんズの手によってガイアの服はすべて羽の部分に切り込みが入れられたのでった。
なんだかんだで皆夕方まで遊びすっかり疲れてしまったので、夕飯は手のかからない物にする事となった。
「おかん、そういや鍋やらんのん?」
「「「 鍋をやるとは?? 」」」
「鍋料理って意味なんじゃけど、大鍋で具材を煮ながら食べる料理なん」
「ほぉ、そのような物が。食べてみたいのだが」
「材料があれば作っちゃげるんじゃけどねぇ。無いんよ」
「無いん? 何が無いん?」
「白菜」
「へ? こんなけ色々あるのに?」
「うん、なんでかピンポイントで白菜が無いん。
じゃけぇ漬物もキムチも無かったろ?」
「あぁぁ、そういやぁそうじゃね」
「おかん、白菜とはどのような物だ」
「野菜なんじゃけど、こんな形で緑から白へとグラデーションがかかっちょるん」
マォは形の説明が言葉では出来ずに絵を描いて見せた。
「なるほど。これがあればいいのか」
「キムチというのも気になる」
「では明日は皆でその白菜とやらを手分けして探すとするか」
「「「 イェッサー! 」」」
「「 わかった 」」
わざわざ探さずともと思うマォだが千秋はノリノリである。
そして白菜に気を取られてすっかり忘れていた夕飯は手早く食べれる焼きそば風パスタとなったのだった。
翌日、朝食を済ませた皆は白菜探しへと出発していった。
町へ行く者、直接農場へ行く者、ダンジョンへ行く者、森の中を探す者。
雪はまだ降っていないがそれでも寒い。
(皆よぉ行くねぇ、寒かろうに)
とマォはガイアと一緒に留守番である。
マォも最初は行く気満々だったのだが、誰かが戻った時にそれが白菜かどうか判断する人が必要だという事で残ったのである。
確認なら千秋でもよくないかと思うのだが「間違えたら嫌じゃん」と言うのだ。
どうやったら白菜を間違える事が出来るというのか・・・
待つ間にマォはキムチ用のヤンニョムダレを作っておく事にした。
韓国唐辛子の粗挽き粉と細挽き粉、烏賊の塩辛にアミの塩辛。イカナゴエキスに梅エキス。
エゴマオイルまであるのだからマォは呆れてしまう。
「だったら白菜もダンジョンで出してくれよ!」
思わず叫んでしまうのも仕方があるまい。
具材となる大根人参ニラを千切りにして玉葱と梨、生姜と大量の大蒜を摩り下ろし、そこへ唐辛子粉や塩辛、各エキスを加えて混ぜ合わしコクを出すために少量の砂糖も加える。
水にとかした小麦粉を火に掛けてノリ状になるまで煮詰める。
出来上がったノリを混ぜてよくかき回せれば完成である。
後は白菜が見つかるのを待つだけだ。
見つからなければカクテキやオイキムチ、チョンガクキムチにヨルムキムチ、パキムチにしてもいいのだ。
(ホンマこんだけ色々野菜があるのになんで白菜だけないんじゃろ)
お茶を飲みながら不思議に思うマォ。
のんびりしながら待っていれば土まみれのエルフィンが現れた。
「話は聞いたぞマォ」
「ハウス!」
「えぇぇ、まだ何も言ってないではないか」
「聞かんでも分かる。エウリケの静止振り切って仕事も投げ出して来たろ?」
「ま、まさかぁ・・・」
「図星じゃね? ハウス!」
「せ、せめてこれを見てくれ!」
エルフィンが差し出したのはチコリだった。
「はい残念!違うね。ほれさっさと帰って仕事しろ」
「くっ、違うのか。これだと思ったのに・・・」
「か・え・れ。毟るぞ」
ニコリと微笑むマォにそっと草刈鎌を渡すガイア。
「分かったから!また来る!」
「来んでもええんじゃけど・・・」
エルフィンを追い払った後ガイアと昼食をとる。
ガイアのリクエストで焼きおにぎりだ。
「かぁちゃ、おいしぃねぇ」
「囲炉裏で焼くから余計に美味しいねぇ」
なんてほのぼのしていたところへやって来たのはスカイラーだ。
「マォ、ハクサイとかいう野菜を探していると聞いた。
これはどうだ?」
と差し出されたのは山東菜だ。
「似てるけど違うね。ってゆぅかむしろよくあったね山東菜が」
「んむ、旅の商人が見本として置いて行ったのだが食べ方が分からぬ」
「あー、サラダでもいいし炒めるのでもいいよ。
火が通り易いから食べる直前に入れるとええかもね」
「なるほど。まだたんまりとあるからこれは置いて行こう。ではな」
「もしかして仕事中に抜けて来た?・・・」
「ハテナンノコトヤラ・・・」
スカイラーはそそくさと帰って行った。
午後になれば次々と戻ってくる。
「「「マム!これはいかがでしょうか」」」
「マォ、これはどうだ?」
「マォ様こちらはいかがでしょう?」
「どうだマォこれではないか?」
持ってきたのは青パパイヤ、ロマネスコ、ウチワサボテン、モロヘイヤ・アイスプラント・スイスチャード・エンダイブ・セルバチコ・ルバーブ・アマドコロ・ユキウルイなどである。
「ごめん、全部違う・・・
っちゅうかよぉもまぁこねぇに色々あったね?・・・」
「「「 ダンジョン産であります! 」」」
「森の中で見つけたんだが」
「洞窟にあったのですが・・・」
「雑貨屋にあったんだ」
「 ・・・ 」
これだけ探しても無いのだ。
この世界には白菜が存在しないのだろうと思った時にドスドスと地面が揺れた。
何事かと思えば直径1mはあろうかという白菜が山積みされていた。
『これペチェ言う。マォの絵に似てた。どうだ』
「儂が知ってるのとはサイズが違うけど白菜じゃね。
オルガどっから持ってきたん?」
『森の父の畑 植えてある』
「なるほど、灯台下暗しって事かぃ!」
『マォの希望する物 あってよかった』
「そうじゃね、オルガありがとう。パパさんにもよろしく伝えて」
『わかった』
さて白菜が見つかったのはいいが、このサイズである。
しかも1玉でキムチも鍋も出来そうなサイズなのに6玉もあるのだ。
「おかん、ハクサイみつから・・・ なんこれデカッ!」
「お帰り千秋。アンタが言い出しっぺなんじゃけぇ切るの手伝いんさいや?」
「へ?私?私鍋が食べたいゆうただけじゃん・・・」
「それが発端じゃんか・・・」
「うぇぇぇ・・・」
取り合えず1玉だけ切り分ける事にしたのだが、2人でなんとかなる訳でもなく。
結局オルガに手伝って貰うのであった。
読んで下さりありがとうございます。
誤字報告やリアクションもいつもありがとうございます!
作者は作るのが好きで各種キムチをよく作ります。
が、唐辛子と大蒜がNGなので自分では食べれませんw
せっせとゲーム仲間に押し付けております(*'ω'*)てへっ




