アルノー③
おかんと城を出てから、実にいろいろな経験をしてきた。
俺の騎獣もふりんがまさか岩山をよじ登り滝に飛び込んだり、湖底を走るとは思ってもみなかった。
遠征の際、時々険しい道を進むなとは思っていたがまさかここまでとは。
そう言えば「痔」というのも初めてなったなと少し遠い目になる。
うん、あれは経験しない方がいいな・・・
ウォーカー領では領主殿の騎士団とも手合わせをしたな。
もっともあれを手合わせと呼んでいいのかは疑問だが。
小隊長ともあろうものがたかが手刀1撃で白目をむくなど、領主殿の身辺警護は大丈夫なのだろうか。
他人事ながら心配になってしまう。
このころからだろうか。
どことなくルーク殿がおかんに好意を寄せているのではないかと思い始めた。
肝心のおかんは気付いてないのか、気付かないフリをしているのか。
おかんにとっては初めての、俺にとっては久々のダンジョンではおもしろい物が見れた。
普段は肝の座ったおかんの慌てふためく様子だ。
「うぇぇぇぇぇ、キモッ」
「ちょ・・・」
「うげぇぇぇっ」
慌てるあまりにおかんは無意識で魔法を放った。
お陰で皆被害を受けるのだが。
「ぶふっ、ドリフの雷様コントみたい」
とおかんは笑っているし、お互いの顔を見て俺も思わず笑ってしまったのだが「ドリフ」とは何だろうか・・・
すっかり聞きそびれているのでいつか聞いてみたいと思う。
もっちゃんが木を飛び移りながら移動したときもあったな。
あれは楽しそうだったなぁ。
俺もついもふりんに出来ないか聞こうとしたのだが「無理だからね!」と被せる様に言われてしまったな。
助けたオーガが仲間になって、地面に図面を描いていたのにも驚いたな。
いつのまにか「オルガ」という名も付いておかんとすっかり仲良くなっていたし。
すっかり仲良くと言えば、ホワイトマンバもすっかりおかんに懐いている。
おかんは気付いてないようだが森に侵入してくる不届き者を撃退する手伝いをしているようだった。
モモの羽に埋もれて寝ている姿は可愛いし我々の前では大人しいので忘れているが、世界最小で最強の魔物と呼ばれていたりもする。
それを知っているはずのルーク殿がコーヒーを飲まれたとホワイトマンバと言い争う姿もすっかりと見慣れてしまっている。
そう言えば今俺達が住んでいるこの家もオーガ達が建てたんだったな。
夢で見て来たとかいっておかんの世界でおかんが住んでいた家を再現したとか・・・
最近は「おかんだしな」と何が起きても不思議ではないと思うようになった自分がいる。
慣れとは恐ろしいものだな。
などと思った自分に言ってやりたい。
まだまだ序の口だぞ!と。
気が付けば庭にはいろいろな果物の木が植えられていた。
この国はおろか、この大陸にはないものまである。
おまけにコケコの小屋が建てられ飼育が始まるし、世話しているのはバジリスクのモモだ。
鶏が鶏を世話する光景、なんとも言えなかった。
ダンジョンで出た海産物を持ち帰ればアレルギーでおかんが食べれない物ばかりだった。
「ちくしょー!海産物ってっもっと種類も豊富じゃろぉ。
なんで蟹と海老チョイスしたよ!ダンジョン管理誰がしちょるんよ。
せめて魚の1つや2つあっても良かっただろろろ!!!」
おかんが嘆きの雄叫びをあげるとベチッと何かが落ちてくる。
それを手にしたおかんが固まっていたのでどうしたと声を掛ければ、「ごめーんねっ」と書かれた紙が張り付いた魚が1匹。
何故1匹なのだとか、その軽いノリの謝罪は誰がだとか、突っ込みたい要素はあったのは俺だけではなかったようだ。
「どっから来たこの鯵よぉ!んでこの紙は誰が書いたよ!」
おかんも思ったようだった。
他にももっちゃんやもふりんが会話をするのに家の窓から顔を突っ込んできたり、餅という不思議な食べ物を口にしたり。
ボロボロのエウリケとミランダが地中から現れた事もあったな。
まぁモファームが連れてきたんだが・・・
結局マォは放っておけずエルフィン達まで助けにいったんだよな、騎獣たちを連れて。
連れてと言うかついて行ったというか。
戻って来たおかんが「すげぇ、もっちゃんが空飛んだ」と言った時は驚き過ぎて変な声が出てしまった。
まさかと思えばもっちゃんが飛んでみせてくれた。
「もふり・・・」
『無理だから!出来ないから!』
俺が何かを言う前に、やはり被せ気味に言われてしまった。
せめて聞くだけ聞いてくれよと思わなくもない。
何より驚いたのはゆっちゃんの登場だろうか。
恐らく俺の人生でこれ以上の驚きは無いのではないかと言うくらい驚いた。
キィィーンッと聞きなれない、甲高い轟音が響いた後にポスンと地面に舞い降りたのはトータスに似た生き物だった。
おかんは「ガ〇ラ・・・」と呟いていたが。
その背中から降りて来たのはゆっちゃんで、皆で驚けばいいのか喜べばいいのか分からない状態に陥った。
ゆっちゃんの説明によれば「亀助けたら飛んじょった」らしい。
あの生き物が亀という生き物なのだとしか分からなかった。
おかんは夢の中で娘に聞いてみると頑張って眠りについた。
何故か俺以外の皆も眠っているので起こし、おかんが戻るまでゆっちゃんと遊ぶことにした。
どのくらい経っただろう。
疲れただろうから少し休憩をしようと言ってゆっちゃんにジュースを手渡す。
ゴクゴクとジュースを飲み始めたゆっちゃんの姿が・・・薄れている?
目の錯覚かとこすってみたがそうではないらしい。
ならば夢かと頬を叩いてみたが痛いだけで状況は変わらない。
いや益々薄くなっているような・・・
俺は慌てておかんを叩き起こした。
ゆっちゃんはおかんと話す間もどんどん薄くなっていき・・・
「ゆっちゃん会えて嬉しい!ありがとねぇ!皆大好きよぉ~」
そう言って消えた・・・
次に亀も消えた・・・
おかんは幼子の様に泣きじゃくっていた。
それはそうだろう・・・
俺達ですら泣けてくるのだから。
しばらくして泣き疲れて眠ってしまったおかんをベッドへと運んだ。
おかんは大丈夫だろうか、心中穏やかではないだろうに。
だがおかんは強かった。
俺達に夢の中で聞いて来た事と亀から聞いた事を話すと王都に向けて雷を放った。
「クソッタレ第二王子もいけ好かない古狸も落ち武者禿になってしまえ!
ついでに耳毛と尻毛も癇癪起こす度に伸びてしまえ!
オマケに1日10回机の角に足の小指ぶつけてしまえ!
も1つオマケに痔にもなっちまえ! ハッハッハッ ざまぁみさらせ!」
呪いの様な言葉を吐いた後は「ゆっちゃんが生まれ変わってくるまでは元気でおらんにゃあいけん」と皆にも通常通りに戻るよう言ったのだ。
その後しばらくは割と平穏だった。だがあくまでもこれまでに比べればである。
一般的な平穏とは少し違う気がするが・・・
だがその平穏を南の有翼人が打ち破った。
おかんがあの保護した子供達に会ってくると出かけたところを攫って行ったのだ。
あの時のルーク殿は鬼気迫る物があった。
まぁ結局はおかんが自力で抜け出し、助け出しに向かう途中で遭遇したのだが。
どうやって抜け出したのか話を聞いて思わず笑ってしまう。
もっちゃんが放屁・・・ バフンと放屁・・・
そうか、放屁したのか。俺初めてしったよモファームが放屁する事を。
そしてプリローダに戻れば今度は森の主と遭遇した。
初めて遭遇する森の主は禍々しくも美しいアラクネだった。
おかんは何故か興奮し「尊い・・・」と鼻血を流した。
すまん、おかん。俺にはおかんの言う「推し」とやらが分からん・・・
だが森の主は何かを察したのかご満悦で森の奥へと消えて行った。
よくわからないが友好な関係を築けたのであればなにより。
さすがはおかんだと思っておこう。
エウリケに頼まれ渋々建国の手伝いをしにも行った。
とは言え俺はオーウェン殿と一緒に騎士や兵士の面接をして配置を考えるだけなのだが。
結論を言えば騎士や兵士の半数以上は俺やオーウェン殿の元部下だった。
そして何故かホワイトマンバがオーウェン殿の頭の上に居て、本人はそれを気にしていない。
と言うかおそらく気付いていない。
訓練中の騎士や兵士を見て回る中、ホワイトマンバがスッと移動してしっ!と尻尾で足を叩いている物が数名。
なるほど、気に入らぬのか。つまりは信用するなと。
ホワイトマンバの合図があった者達は早々に解雇した。
その後は順調に進み、2か月と少しが経過した頃、建国祭を見届けてから俺達はプリローダに戻った。
今度こそのんびりスローライフをとおかんは言っていた。
が、帰還した俺達を待ち受けていたのはおかんの娘千秋だった。
「あ、おかん。おかえり。えらいなごぉ留守じゃったね」
「「「 うぉっ! 」」」
「へ?! 千秋? は? え? 嘘、どないなっちょん」
「説明するけぇ、まぁ座りんさいや」
「あ、うん。そうじゃね?・・・」
おかんが驚くのも無理はない。俺達だって驚いている。
ダルクなんかは腰を抜かしているしリオルは呆けていた。
千秋の話を聞いてなんとも言えない気持ちになる。
おかんもたいがいだか、何故もこう不運に付きまとわれるのか。
このまま此処で暮らすと言うので俺の妹になる訳だが・・・
人族の俺、有翼人のガイア、獣人となった千秋、そして異世界人のおかん。
種族の見本市だろうか・・・
ガイアも千秋もおかんも、散々な経験をしてきている。
出来る事ならばこれからはおかんの希望通りにスローライフを過ごさせてやりたい。
その為にも俺は尽力しようと決意を新たにするのであった。
読んで下さりありがとうございます。




