プリローダ⑫
そろそろ雪の足跡が聞こえてきそうなある日の事。
天気も良いしと餅つきをする事になった。
事前に準備は済んでいる。
「わぁお、臼と杵まであるんじゃ」
「そうなんよ、びっくりじゃろ?」
「去年も餅つきやったん?」
「やったよ、食べれんかったけど・・・」
「そうなん。なんか失敗したん?おかんにしちゃ珍しいね」
「失敗はせんよ、大盛況じゃったし」
「んじゃなんで?」
「自分達が勢いよく食べた為マムの分が残って無かったであります!」
「ぶっ」
「だ、大丈夫だ。今回はきちんと残すから・・・」
「ほんとに?・・・」
イマイチ信用できないマォである。
なんせ彼等は好物を目の前にすると我を忘れたかのように喰いまくる。
あっと言う間に皿が空になるなんてざらである。
「まぁええわ。今回は春に摘んだ蓬もあるけぇ蓬餅も作ろうと思うん」
「おかん、豆餅も作って」
「はいよ。黒豆ってあったっけ?」
「水煮にあったよ」
と言う訳で、今回は白餅、蓬餅、豆餅の3種類をつく。
去年よりも人が多いのでつく量も増えるが人手も増えているのでなんとかなるだろう。
女性陣は返し手とちぎり手を交代でやる。
初めての人もいるのでまずはアルノーとリオル、マォの3人が手本を見せたのだが。
「そうそう。おかん、私リオルと結婚する事になったけぇ」
「はっ? はぁぁぁぁ?!」
ゴリッ ペキッ
「っっだぁぁぁぁ!」
マォの上げた声に驚いたリオルが手を滑らせ、マォの手がまだ餅の上にあるにも関わらず杵を振り下ろした結果、マォの手の甲が折れた。
「ちょ、おかん大丈夫なん?!」
「おかん大丈夫か」
「すまないマォ」
「ぐっ、くっ、ったぁ・・・」
コントほどでは無いがパンパンに腫れあがり痛々しい。
マトモに喋る事が出来ないマォは頭の中で唱える。
(痛いの痛いの、今犯罪犯してる奴に飛んでいけー!)
スッと腫れと痛みが治まり手も元に戻る。
「おぉぅ、凄い技もっちょるねおかん・・・」
「ハァハァ・・・ぶち痛かった。なにするんリオル・・・」
「すまない、マォの声に驚いてしまって」
「千秋も千秋でなんで今ゆうん」
「忘れんうちにと思って・・・」
「「 忘れんだろ! 」」
「ほんで? 千秋が結婚するって?」
「うん」
「リオルと?」
「うん」
「あ、そう。どっちが口説いたん?」
「 私 」
「ぶ・・・ 千秋からなん?」
「だってリオルの顔見ると鐘が鳴るん」
「鐘?」
「そう、ゴーンッってほら、除夜の鐘みたいな音」
「そっちの鐘かーいっ!
普通洋風のリンゴーンッみたいな鐘なんじゃないん?!」
「でもゴーンッじゃったんじゃもん。
これが漫画とかでよく見る運命の鐘の音かと思うて」
「マォ、俺も同じだったんだ。
チアキの顔を見ると聞いた事も無いゴォーンという音が頭に響いてきた」
あーそう、と遠い目になるマォである。
確かに異世界だから何でもありだなと思った事はある。
だがこれは予想の斜め上をいってないだろうか・・・
(なんで梵鐘・・・)
毎度ながら悩んでも答えは出ないので考えない事にする。
「詳しくは後で聞く。取り合えず餅つきが先じゃ」
蓬餅は茹でて粗ミジンにした蓬を蒸した餅米と一緒につけばいい。
豆餅は茹でた黒豆と塩を少々、蒸した餅米に入れて一緒につけばいい。
ただあまり力を入れると豆も潰れてしまうので加減が必要だ。
マォが注意事項を伝えて手本を見せ、白餅は10臼、蓬と豆は各5臼ずつついていく。
オルガ達が居るのでこの量でも順調につきあがっていった。
半分はそのままつきたてを絡み餅で食べるが残り半分は丸餅にして固めて冬の間の保存食にする。
「おかん、鏡餅作ってどぉするん?こっちじゃと正月ないじゃん」
「鏡餅って元々神様へのお供えなん。
じゃけぇ正月がなくてもお供えしてええと思うんよ。
まぁ去年はそれも食われたんじゃけど・・・」
「なるほどねぇ」
本来4神獣は中国の神ではあるがそこは気にしないマォである。
祭ったからにはお供えするべきだろうと4つの鏡餅を作った。
「黄粉餅もええのぅ」
「ぅわぁっ。玄武さん・・・」
「ねぇおかん。神様ってこない身近におるもんじゃろか」
「普通に考えちゃ駄目なん。ほら異世界だし目の前におるもんはおるんじゃし」
「ほっほっほっ」
「玄武さん、黄粉餅は今食べんさい。
お供えしても風で黄粉吹っ飛ぶ気がする」
「ふむ、言われればそうじゃのぅ。ではご相伴にあずかろう」
「全部食べんでよ?」
「ほっほっほっ」
マォとアルノーは食べる前に臼と杵を洗う事にする。
去年はそれで食べられなかったのだが餅が固まると取りにくいのである。
「儂とアルノーの分、残しちょけよ!」
と言い聞かせたのに・・・
残っていたのは黄粉餅1こと大根おろしの絡み餅1こ。
「おーまーえーらーぁー・・・」
「マム!自分は止めたであります!」
「マム、自分も止めたであります!」
「マム、自分がこの2つを死守したであります!」
止めようと頑張ってくれたのはエディとその妻で、2個を死守してくれたのはジャックである。
「エディ夫妻とジャック以外にはもぉ丸餅分けちゃらん!」
「「「えぇぇ、そんな殺生なぁ・・・」」」
後片付けをすべて終え、家に戻ったマォは物足りなさで白玉団子を作る事にした。
石臼で餅米を挽くところからだが・・・
「おかん、手伝おう」
「ありがと、アルノーもあんなちびっとじゃ納得せんじゃろ?」
「まぁ物足りなくはあるな」
「餅とは違うけど白玉団子も旨いけぇそれで汁粉にしようやぁ」
「汁粉か、あれは旨かったな」
ゴリゴリと石臼を廻していると千秋がリオルを連れて戻って来た。
「おかん、なんしよん」
「白玉粉作りよる」
「白玉粉って作れるん?」
「アンタねぇ、うちの白玉団子は毎回粉から作りよったんじゃけど?」
「マジで?もしかして普通の団子も?」
「そうじゃよ。普通のは普通の米の粉じゃね」
「そうなん、初めて知ったわぁ。買やぁえかったのに」
「近くに店無かったじゃろ・・・」
「あー・・・ ね」
「それで2人揃ってどうしたん?」
「結婚の話の続きしようかと思って」
「あー、そうじゃったね」
そこで4人は順番に石臼を廻していく。
千秋は結婚後も此処に住みたいと言う。リオルも同意しているようだ。
そして産みの親であるカレフ国王夫妻とルークも2人の結婚については承諾済みだ。
但しルークはあの餅つきの時初めて知ったのだが。
雪が降る前に2人は国王夫妻に挨拶に行って来ると言う。
「それがえかろうね。いつ行くん?」
「明日には行こうかと考えている」
「明日かぁ。土産の用意が間に合わん・・・」
「おかん、タンフルでは駄目なのか?」
「タンフルじゃと代わり映えせんこない?」
「じゃったらたい焼きは?」
「冷めたらおいしゅうないし日持ちせんよ?」
「マォ、別段気にしなくても・・・」
「そうはいかんのよ。何事も最初が肝心なん」
「おかん、あれはどうだ。おかんがこの前作っていた黒いソーセージ」
「ああ、ブラッドソーセージか。
そうじゃね、そろそろいい感じになっちょるかも」
「なんそれ」
「簡単に言えば血のソーセージ」
「美味しいん?」
「食べてみる?」
マォは燻製室から1本持ってきて囲炉裏であぶった後に切り分けて渡した。
「おぉぅ、こりゃええね。
独特の味がするけぇ人によっては好き嫌いがあろうけど私は好きじゃぁ」
「俺も好みだな。このコリコリした触感もいい」
「俺も好きだな。これは両親も喜びそうだ」
「んじゃこれ土産で持っていきんさい。後で包むから」
ブラッドソーセージは普通のソーセージに血を加えてつくるのだが、生臭さを押さえる為に香辛料も多く使う。
歯ごたえを出すために内臓なども細かくしていれるし、血を使っているので鉄分が豊富だ。
先日大物のボアが獲れた時に冬の食料としてマォが作っておいたものである。
後日、ブラッドソーセージを気に入った国王が作り方を教えてくれと単身でやってきた。
「国王ともあろう者がノコニコ単身で来るとは何事か!」
と皆の前で尻ペンされたのだが、それでもレシピを手に入れたとご満悦で帰っていった。
「おかん、一応はカレフの国王陛下なのだが・・・」
「国王じゃろうがなんじゃろうが駄目なもんは駄目なん。
ちゃんとしからんにゃあいけんのん」
「じゃけど尻ペンって・・・」
「落ち武者禿よかえかろうがね」
「それはやめたげて・・・」
なお王妃からは「私も見たかった」と手紙が届いたらしく、「母上・・・」と遠い目をするリオルだった。
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