プリローダ⑧
マンドラゴラで一騒動あったものの、それ以降は割と平穏に過ごしていた。
畑の野菜も順調に育ち豊作だし、ダンジョンからは相変わらず色々な物が出る。
マォが思わず笑ってしまった物の1つが昔懐かしいオ〇Qの形をしたかき氷機だ。
子供の頃によく使っていたものだった。
「随分と懐かしい物が出たんじゃねぇ」
「これはなんだ?」
「かき氷を作る道具だよ。専用の氷が要るけぇ作れんじゃろうけど」
「専用の氷ですか?」
上部にある手回しハンドルが付いた蓋をぱかりと外して中を見せてやる。
「ほれ、ここにでっぱりがあるじゃろ?
ここに氷を差し込むんよ。
んじゃけぇ真ん中に穴があくような形の氷が要るんよ。
専用の型があるんじゃけど、落ちんかった?」
「専用の型でありますか。自分は見なかったでありますね」
「もしかしてこれか」
そういってコルディが粉にまみれた型をみせた。
当たりである。
「そうか、氷の型だったか。ケーキの型にいいかと使っていたんだが・・・」
「なるほど・・・」
「ところでかき氷とは何であろうか」
「氷と言うからには氷なのだろうが・・・」
「マォの世界では氷を食べるのか」
「説明するよりも見せる方が早かろうね」
マォはそういって型を洗い水を張って魔法で氷を作った。
出来上がった氷をオ〇Qのかき氷機へ入れハンドルを回す。
ショリショリショリ・・・
「あ・・・器忘れた・・・」
「マォ・・・」
「マォ様こちらの器を・・・」
「すまん・・・」
気を取り直して削って行く。
ショリショリショリショリ・・・
すぐに器の中に小さな山が出来上がる。
「おぉ・・・」と声があがるのだがまだ完成ではない。
かき氷シロップなんてものはなかったのでジャムで代用した。
「ほら、アルノー。食べてみ」
「雪のようだな・・・」
アルノーの手元に皆の視線が集まる。
「そんなに見つめられると食べにくいのだが・・・」
「はよ食べんにゃ溶けるよ?
ほら、皆のも作るから器持っといで」
「「「 イェスマム! 」」」
早い者勝ちという事で器を持って並んだ順に作って行くマォ。
ショリショリショリショリ・・・
スッ・・・
出されたのは小さなミルクピッチャー。
「ちっこすぎん?」
誰が差し出したのかと見れば、あの小さなホワイトマンバが居るではないか。
「うぉっ・・・」
「どうしたおか・・・んんっ?!」
「なんだ? うっ、またお前か!」
「えーっと・・・ 君もかき氷が食べたいって事でいいのかな」
「ぴっ」
「そっか、わかったよ」
コーヒーの時の様に勝手に飲まずに並んだだけ良しとしようと思うマォである。
ミルクピッチャーにかき氷をいれてやれば、ホワイトマンバは器用にしっぽでジャムを掛けている。
出来上がったかき氷を嬉しそうに一口で飲み込んで・・・
頭がキーンと冷えたのだろう、しっぽでこめかみを押さえていた。
「あ、やっぱマンバでもキーンってなるんじゃ・・・」
「キーン?」
「急いで食べると頭がキーンとなるであります!」
「なったんだ、ジャック・・・」
「イェスマム!」
「しかしこのかき氷、今の時期には良いな。サッパリとする」
「でしょ? ってスカイラー?!」
「いつのまに・・・」
「うむ、プリローダの判が必要になってな」
「判? ああ、判子か。そういやそんなもん無いね」
「早急に作ってくれぬか」
「早急って事は重要書類に必要なんじゃね?わかった」
という事で皆でかき氷を食べながら相談する。
「領旗にも使われるのでそれも踏まえて考えた方がよいだろう」
「なるほどねぇ。ちなみにウォーカー領のはどねぇなん?」
「うちはこれだな」
スカイラーが指にはめている指輪を見せる。
盾の中にモファームが描かれており、それを囲うように蔦が絡まっている。
「うちは国境の守りでもあるので盾を。
ここが領地になった頃は野生のモファームも多かったのでモファームを。
そして絆を蔦で表したらしい」
「なるほど。いいね」
「そのように意味合いを持たせるならば、此処は羆か」
「待て待て、待ってくれ。なにも羆にこだわらずとも・・・」
「え?いいじゃん。北海道も羆がマスコットになってたりするし」
「北海道?マスコット?」
「あー・・・北海道は儂が居た世界の地名。
マスコットってゆうんは・・・
シンボル、トレードマーク。どういやぁええんじゃろ・・・」
「その地を代表する物という事だろうか」
「そそ、そんなもん」
「ならばやはり羆でもよいのではないか?」
「待ってくれ、領主殿・・・」
ここでうだうだ言っても仕方が無いとマォは頭に浮かんだ羆を描く。
北海道土産でよく見る『ヒグマ注意』の黄色いTシャツに描かれているあの羆。
描きあがった羆は・・・
デフォルメされて愛らしい物になってしまった。
「くっ・・・ なんでか知らんがデフォルメに・・・」
「可愛いが判や領旗にはいがかなものか・・・」
「誰か絵の旨い人に描いてもらう?」
「書類に実写的な羆が描かれた判を押すのか?・・・」
「駄目じゃね、威嚇してると思われそうじゃん・・・」
「でしたらウォーカー領を参考にして
立ち上がった羆に剣と盾を持たせたらいかがでしょう」
マォが頭の中でその姿を想像してみる。
判ならばそこまで大きいものでは無い。
となると小さなスペースに羆と剣と盾を書くとゴチャとして何が何だか分からなくなりそうだ。
ならばいっそのこと羆の足跡にしてみればどうだろうか。
猫や犬の足跡よりも少し縦長で鋭い爪の跡もいれれば・・・と描いてみればいい感じではないか。
「これならどうじゃろう?
盾の中にこの足跡描いてさ。ウォーカー領のモファームの代わりに羆の足跡。
ウォーカー領と似てるけど、それだけ親密な関係なんだとアピールも出来る。
よくね?」
「なるほど。確かにルークが代表を務めるのだしありかも知れぬ」
「アピールしときゃウォーカー領に手を出そうとする阿呆は出てこんじゃろう。
万が一にも阿呆が出て来ても儂等も手を出せるし」
「そうだな。ではそれにするか」
『判 これでいいか』
「オルガ? 早いね・・・」
『急ぎだと聞いた』
「うん、そう言やぁそうじゃったね・・・
さすがオルガ。ありがとうね」
「オルガが作ったのか。器用だな」
カバノキで作られたその判はサイズもピッタリな標準規格サイズ。
オルガはそのサイズを何処で知ったのかは謎である。
偶然の一致かもしれないが・・・
朱肉は侍女長がしれっと用意していた。
さすが侍女長、出来る女である。
必要書類にペタペタと判を押し、スカイラーは帰って行った。
「早めに領旗を作っておくように」と言い残して。
スカイラーを見送った後に皆は気付く。
(いつから領になったんだ・・・)と。
「国を名乗り、そこへ属するのであれば領とする方が対外的には便利だからな」
「そうかもしれんけどさ。
儂何処の国にも属したくなかったんじゃけど・・・」
「分かっておる。だからこその独立特区領だ」
「独立特区か、なるほどね。
まぁそうした方がスカイラーやルークはやり易いのか」
「小難しい事はエルフィンに任せておけばよい」
「エルフィンで大丈夫なん?・・・」
「エウリケにするか・・・」
エルフィンの信用はイマイチ下がったままである。頑張れエルフィン・・・
領旗は侍女さんズが頑張って作ってくれると言う。
染めの部分と刺繍の部分を使い分けて作るのだそうで、本来は領主館の外と政務室や応接間に飾る物とで複数必要になるらしい。
だがマォは目立つようなことはしたくないし、政務室や応接間なども無い。
政務室や執務室の代わりになっているのがルークの家だし、応接間の代わりになっているのは食堂だ。
「食堂に1つ飾って有ればええんじゃないん?」
「旗としてはそれでもよろしゅうございます。
ですがマォ様、今後は式典に参加する事もございましょう。
従者は旗を掲げて歩きますし護衛の騎士などは襟章として刺繍を施します。
マォ様やルーク様にも領旗と同じ刺繍が施された意匠が必要でございますよ」
「うぇぇぇ、ルークだけじゃ駄目なん?・・・」
「ここぞ!と言う時にだけでも参加なさいませ。
そうすればルーク様は勿論の事
スカイラー様やエウリケ殿下にも箔が付き他国へのけん制にもなりましょう」
「なるほど。水戸黄門の印籠みたいなもんか?・・・」
「ミトコモン?インロー? 何でございましょうか」
「あ、ごめん。気にせんで。
さすが侍女長。頼りになるねって事じゃよ」
「お褒め頂き光栄でございます。
私共にとってマォ様は大恩あるお方。
誠心誠意を持って終生お仕えいたしたく思っております」
「そないおおげさな・・・
でもその気持ちはありがたいし、これからもよろしくね。
でもその内アムリタに付いて行くんじゃないん?」
「ご心配なく。マリアとクレアが付いて行く事になっております。
2人共わたくしめが育て上げた優秀な侍女でございますから。
わたくしは、この地でマォ様と共にスローライフとやらを楽しみたいのです」
「何かとスローライフになっちょらんけどね・・・」
「これからでございますとも!」
「そうじゃねぇ、これからはほんとゆっくりしたいよ・・・」
マォはまた気付かない。
そう言ってしまう事がフラグになる事を・・・
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