スカイラー③
執務室にこんもりと積み上げられた箱の山をみてスカイラーはげんなりした。
周辺諸国が挨拶状をと言うからマォにもそう告げたのに贈り物まで届けるとは手間がかかるではないかと溜息が漏れる。
そのままマォに渡す訳にもいかず中を検分しなければならないのだ。
「アイザック、手伝ってくれ」
「承知いたしました」
己の補佐官であるアイザックと共に1つずつ慎重に調べていく。
「なんだこれは!」
「この国は南方の国ですね。ナイトウェアだと書いてありますが」
「このような物渡せるわけがなかろう!」
「では送り返すように手配いたしましょう」
どこぞの砂漠の国の踊り子が身に着けていそうなスケスケの服を見てスカイラーは思わず叫んでしまう。
何を考えているのだあの国はと眉間に皺がよる。
気を取り直して次の箱を確認する。
「ぶっ! こんなもの俺でもいらぬわ!」
「スカイラー閣下、言葉遣いが乱れております・・・」
「お前も見てみろ!崩れるから!」
「何をおっしゃいますか。 ぶはっ、悪趣味だなおぃ!」
「ほらみろ・・・」
「失礼、取り乱しました。これは廃棄いたしましょう」
2人の言葉遣いを乱した元凶は先程の国よりもさらに南にある国から送られてきた半裸の国王の姿絵だった。
誰がこれを飾ると言うのか。
どうどうと送ってくるその自信はどこから来るのか。
これが引き締まった肉体のナイスミドルな姿絵であればマォも喜んだかもしれない。
あくまでも「かも」だが。
たるんたるんの豊満我儘ボディである。
千秋が見たら「オーク!」と言ったであろうその姿絵はそのまま暖炉へと投げ込まれた。
「次はまともなのであろうな・・・」
「次は東にある国からですね。ここの国王は常識人ですから大丈夫なのでは」
不安と期待を胸に箱を開けてみれば、中には異国情緒溢れる人形が入っていた。
「過去に訪れた招き人様が作った物だそうです。
黒髪黒目の特徴から同郷である可能性が高く懐かしいのではないかと
贈ってくださったようですね」
「なるほど。確かに同郷の可能性はあるな。
こういった気遣いと言うのは有難いものだな」
「左様でございますね」
心底ほっとしながら2人は次の箱に移る。
自国の伝統衣装であったり、押し花で作った絵であったり。
海に面している国からは海洋魔獣の図鑑であったりと最初の2つ以外はマトモな物であった。
これならば安心してマォに渡せると安堵する。
贈り物の検分が終わり一息つこうとカップを手にすればスカイラーは絶叫する事になる。
「うぉぉぉぉっ!何故ホワイトマンバがカップの中に!」
「ははは、またご冗談を」
「見てみろ!」
「どこに・・・うわぁ!」
「げふっ」
「ゲフッて、まさか俺のコーヒーを飲んだのか!
えぇい吐け!吐かぬか!」
「ぷいっ」
そっぽを向いてシッポをタシタシ打ち付けるホワイトマンバ。
「おのれ・・・」
「落ち着いて下さい、スカイラー閣下。
以前マォ様たちが遭遇されたマンバの話を覚えておいでですか?」
「確かルークに聞いたな。コーヒーを飲まれたとか・・・ まさか」
「貴方はマォ様とお知り合いですか?」
「コクコク」
「ほら、頷いておられますし」
「だからと言ってコーヒーを飲むでない!」
「新しく淹れ直しましたから落ち着いて下さい。
マンバの貴方はこちらのミルクをどうぞ。
コーヒーの飲み過ぎは体によくありませんからね」
「ぴっ」
最初こそ驚いたもののアイザックは何事も無かったかのように振る舞う。
その様子を見てスカイラーもなんとか落ち着きを取り戻した。
「敵意は無いようですし、何か用事があって来たのでしょうかね」
「聞いてみる訳にも行くまい」
「ぴっ」
「尻尾がペンを差してますね」
「まさか筆談できるのか?」
まさかと思いつつもペンを渡してみれば、器用にしっぽを巻き付けて紙に書き始める。
「なになに・・・
悪者 庭に 投げた
なるほど。悪者を庭に・・・ 庭にだと?!」
ホワイトマンバが描いた文字を読んでいると慌てた様子の騎士が駆け込んでくる。
「閣下!玄関前の広場にモファームと騎獣が!」
「すぐ行く!」
「貴方も来ますか?」
「ぴっ!」
急いで広場へと向かえば確かにモファームと騎獣達が居て、足元には何かが転がっている。
騎士達が転がっている物が何なのかを調べていると息を切らしたジャックが到着した。
「ぜぇぜぇ・・・
お前らな、俺を、おいて、行くなよ・・・」
「ジャックか。いったい何事だ」
「ああ、閣下。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。
本日の祭りでマムに絡んで来た輩がおりまして。
一旦は退けたのですが尾行してきたので撃退しました。
指名手配犯の可能性が高いためこちらへと連行してきたのでありますが・・・」
「そうか、ご苦労だったなジャック」
「いえ、もっちゃんやチョコ達の成果であります!」
「そうか、少し休んでから帰るといい」
「ありがとうございます!」
ジャックを応接間で休ませるように指示を出しスカイラーはボロ布のような状態の犯罪者達の身元確認をする。
いずれも瀕死状態ではあるが生きてはいる。
「ぴっ! ぴぴっ!」
ホワイトマンバは犯罪者の額をシッポでペシペシと叩いている。
「貴方も手伝ったのですか?」
「ぴっ!」
アイザックの問いにドヤ顔でうなずくホワイトマンバを見て少し可愛く見えたスカイラー。
撫でてみたい衝動を押さえつつ身元確認作業を続ける。
確認を終えれば5人共A級犯罪者であった。
「これで人身売買組織の尻尾が掴めればよいのだがな」
「大丈夫ではないでしょうか。
これまでのような下っ端ではなさそうですし」
「しかし何故マォ殿に絡んだのだろうな」
「それも尋問で聞き出しましょう」
マォ達も疲れているだろうと数日間を開けて挨拶状を届ける事にした。
休憩を終えたジャックを見送り執務室へと戻れば、いつのまにやらホワイトマンバの姿も消えていた。
「マォ様の所へ戻られたのでしょうね。
そう言えば先程祭りの警護に当たっていた兵士達に聞いたのですが。
なんでも魔王様がいらっしゃっていたようで
愛らしい絵や飴を売っていたのだとか」
「魔王? 魔人族の王であろうか。立ち寄ったと言う知らせは来ておらぬのだが」
「話を聞く限りではマォ様の事ではないかと」
「何故にマォ殿が魔王になったのだ・・・」
「恐らくは・・・」
「恐らくは?」
「単なる聞き間違いではないかと」
「ぶっ。ならばもったいつけずにさっさと言えばよかろう!」
「いえ反応が楽しみで、ゴホンッ。なんでもございません」
アイザックはスカイラーとは乳兄弟であり仲が良い。
その為ときどきこうやってからかって遊んでいるのだった。
「所詮噂ですからその内立ち消えるでしょうからね。
放っておけばよいのです」
「そうだな、しばし様子を見るか」
「ああ、そうだ。もう1つ聞いた話があるのですが」
「なんだ?」
「ジャック殿達が作ったメドベーチェの木像が大変人気だったようです。
後はマォ様のタンフルと言う飴と愛らしい魔獣の絵も大人気だったようです。
コルディ殿の焼き菓子も人気ですぐ完売したとか」
「タンフルとは?」
「飴です」
「飴なのは聞いた。そうではなくどのような飴なのだ」
「キラキラとした輝きを纏った果物で食べるとパリパリと音がするそうです」
「すまないが、想像が出来ぬのだが?」
「私も分かりかねます」
「私の分はないのか」
「ある訳ないでしょう」
「・・・少し出掛けてくる」
「よしなさいね。どうせマォ様の所へでも行くつもりでしょう」
「ぐっ・・・」
「後日疲れが取れてからお願いすればよいでしょうが、まったく」
「・・・」
しょぼくれるスカイラーだったが食後のデザートとしてタンフルが出されたので大喜びである。
予めマォが届けておいてくれたのだ。
しかも使用人達の分まで1口サイズの苺のタンフルではあるが用意してくれていたので使用人たちも大喜びであった。
後日何か礼をしなければなるまいと考えるスカイラーだったが、スカイラーよりも早く使用人や妻がお礼の品を送っていて再びしょぼくれるスカイラーであった。
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