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市松さん

色々と贈って貰った品々の中にマォは市松人形を見つけた。

かなり古いものらしいのだが状態は良いのだが、ちょっと怖い。

なんでもこれを贈ってくれた国に現れた招き人が作った物らしいのだが、手紙によれば160年前らしい。

自分が身に着けていた着物を解いて人形の服に仕立てたのだとか。

絹の良い物であるのは判る。

どっかの豪商や武家のお嬢さんかどっかの藩の姫さんだったのだろうかとマォは思う。

だが市松人形と言えばホラーな話が多いのも事実。

夜な夜なカタカタ歩き回るとか、髪が伸びるとか血の涙を流すとか。

もっとも髪が伸びる現象については当時人形の髪には人毛が使われておりノリも米や小麦の粉を煮詰めたものを使っていたので、毛根が残っていた髪がノリの養分を吸収し伸びたのではないかと分析されてもいた。


そんなものだからマォとしてはこの人形をどうしたものかと考えあぐねている。

折角、もしかしたら同郷の物なのではないかと贈ってくれたのだ。

その好意を考えるならば飾るべきである。

だが古い物には魂が宿るとも言うではないか。

作者の思いが物に籠るとも言うし、それを思うと万が一にも人形が動いたらどうしようなどと考えてしまうのだ。


「おかん、考えるだけ無駄ではないか?

 物に魂が宿ると言うならおかんが持っているぬいぐるみにだって

 宿るかもしれんだろう」

「でもぬいぐるみは可愛いじゃん?」

「その市松人形とやらも愛らしいではないか」

「愛らしいか? どちらかというと綺麗な顔ではないか」

「マムの部屋ではなく、この食堂に飾るのもよいかと思うであります!」

「なるほど!よし、ここに飾ろう。そうしよう」


こうして食堂の一角に飾られる事になった。

数日は平穏だったのだが・・・


まずコルディが夢でうなされる様になった。

夜な夜な市松人形が現れて「手拭い(てぬぐい)がない」と泣いていると言う。


「手拭いとはハンケチの事でよいんだろうか」

「あー、ちょっと違うかな。もう少し大きめで長方形なん」

「でしたらわたくしめがお作りしましょうか」


侍女長自らが作ってくれるのでマォは綿生地で人形の頭が覆える程度の長方形でと頼んだ。

すぐに侍女長が作り上げて市松人形の足元に置いておいてくれた。

するとコルディの夢には出なくなったのだが、代わりに侍女長の夢に出てくるようになった。

夜な夜な市松人形が現れて「ハタキがない」と泣いていると言う。


「ハタキ・・・ 羽ばたきでよいのでしょうか」

「んー・・・儂が知っているのは細長く切った雑布を束ねたものなんよね」

「左様でございますか、ではそちらも作ってみましょう」

「人形が持てるサイズで頼むね」


そしてマォは気付いてしまう。

夜な夜な人形が泣きながら夢に出てくる。

それはちょっとしたホラーなんじゃなかろうかと・・・

だがコルディも侍女長もさほど怖がってはいないようだ。


「マォ様、こちらでいかがでしょうか」


翌日完成したと侍女長が見せてくれたのは25㎝丈のハタキだ。

それに加えてミニ箒とミニバケツ、ミニ雑巾まであるではないか。


「もしかしたら掃除用具一式がご所望かもしれないと思いまして

 ご用意いさせていただきました」

「す、すごいね侍女長。これ喜ぶんじゃなかろうか」

「お褒め頂き光栄にございます」

(いや褒めてはないんじゃけど・・・)


ミニバケツまで侍女長が作ったというのだがら何故作れるのか不思議に思うマォである。

ルークやダルクまで感心しているようだった。

これで市松人形も夢に出て来なくなるのではと安心したのも束の間。

今度はイザベルの夢に出て来たらしい。


「タスキという物を忘れていたと申されまして・・・

 タスキとはなんでございましょうか」

「んーと、確かその人形が着ている服みたいに袖が大振りなもんだと

 料理や掃除の邪魔になるじゃろ?

 んじゃけぇその袖を邪魔にならないように止めておくための幅広な紐?」

「紐でございますか?」

「紐ゆうても布で作るんじゃけど、こんな感じ」

「包帯、でございましょうか?」

「似てるけど違うね・・・」

「長さはいかほどあればよろしいのでしょうか」

「こうやって体にバッテンみたいな感じで回すけぇそんくらい?」


何とも大雑把な説明である・・・

だがそこはイザベル、さすがと言うべきか。

見事に市松人形にぴったりなタスキを作り上げた。

そこでマォは考える。

どうも欲しがる物が掃除系の物ばかりだ。

これは掃除がしたいのか、それともどこか気になるホコリでも見つけたのか。


「よし侍女さんズ集合!

 どうもこの市松人形が掃除を気にしてるっぽいんよ。

 なので食堂の大掃除をやろうと思うんじゃけど一緒にやってもらえん?」

「「「 はい喜んで! 」」」


どこぞの居酒屋かと突っ込みそうになるマォであるが気にせずにさっさと大掃除を開始するのだった。


2時間かけてこれでよかろうと大掃除を終了し、ピカピカになった食堂で皆とお茶を飲む。

雪で汚れた窓もピカピカに磨き上げられている。

さすが侍女さんズだなと感心するマォである。

これできっと市松人形も満足してくれるだろうとその夜は皆安心して眠りについた。




「おはy・・・どぅえぁっ」

「ああ、マォおはよう。私が来た時にはすでにこのようになっていたんだが」

「そ、そっか・・・」


マォは朝の身支度を整えて食堂に向かい、そこで目にした状況に思わず変な声を上げてしまっていた。

何故なら髪が乱れ、タスキ掛けの状態で両手にハタキと箒を持った市松人形がホコリにまみれたまま立っているのだ。

おかしい、昨日食堂は徹底的に大掃除をしたはずなのにと考え込んでしまう。


「マォ、考えるのは後にしてそろそろ皆起きてくる。準備を終わらせよう」

「うん、そうじゃね。ちょっと待っててね。後で綺麗に整えるから」


人間何事にも慣れる物である。最初は怖がっていたマォも今では普通に話し掛けているのだ。


朝食の準備を終えた頃、皆が食堂へと集まり始める。


「ぶっ。ダルクそれどうしたん・・・」

「ええ、まぁ、ちょっと・・・」


ダルクの左頬が小さな紅葉柄に染まっているのだ。

よくよく見ればそれは小さな紅葉柄ではなく小さな手形である。

1つではない、複数ついている。


「まさかとは思うけど・・・」

「ええ、そのまさかですねたぶん。

 その市松さんに昨夜平手打ちを食らいましてね・・・」

「なんで?・・・」

「部屋が汚いと・・・

 いえ、掃除はちゃんとそこのクレアさんに習いながらやってますよ?」

「じゃあなんで汚いっていわれたんよ・・・」

「書類の束や棚の書籍類にホコリがあったようで・・・」

「あー、なるほど・・・

 ダルク以外にも掃除に不安がある人は侍女さんに手伝ってもらって

 隅々まで掃除しときぃよ?

 市松人形に平手打ち喰らうとかどうなん・・・」


皆は一斉に頷き、今日の仕事を始める前に侍女に手伝ってもらいながら掃除をやり直すのであった。

皆が掃除に励む間、侍女長は市松人形の髪を梳いてやり埃をはらって着物の汚れを取ってやっていた。


「マム!全員掃除を隅々いたしたであります!」

「これで市松さんにもご安心いただけるかと思うであります!」

「おかん、俺の部屋も終わったぞ」

「こちらも終わったと思う」

「よし、これで大丈夫じゃろう。お疲れさん!」


皆それぞれの仕事へと散って行く。

マォはせっせと木彫りで湯のみと小皿を作っている。

どちらも3㎝程度の大きさで市松人形用だ。

でもどうせならと15㎝くらいのちゃぶ台と座布団もついでに作る事にした。


(あんなホコリまみれになるくらい掃除したんだから

 お茶と茶菓子くらいはね?・・・)


茶菓子はコルディが作ると言っていたのだが小さなクッキーを作るのに苦戦しているようだ。

その横ではカトルが昼食の下ごしらえをしていた。

そして更にその横では市松人形は器用に芋の皮を剥いている。


「ん?市松人形?! ちょいカトル!横見て横!」

「なんですか? って、えぇぇぇ」

「なんだカトル五月蠅い。ぞぉぉぉおおおおおおおお?!」

「コルディ声でかすぎ・・・」

「す、すまん・・・」


市松人形までもが耳を押さえているではないか。


(へぇ、市松人形も耳はちゃんと聞こえるじゃぁ・・・

 いやそうじゃない。人形なのに聞こえるん?おかしいじゃろ・・・)


市松人形がじぃっとマォを見つめていたのだが、はっと我に返るとテコテコとサイドボードに向かって歩き出した。

サイドボードに到着するとヨジヨジと器用に上り、タスキを解くと何事も無かったかのように姿勢を正し動かなくなった。


「いやいやいや、待って?おかしいじゃろ!

 なにしれっと何事も無かったかのように立ってるの!」

「マォ、落ち着け。今はそれどころではない。

 急いで昼食の準備をしないと間に合わなくなる」

「ん? あれ、もぉそんな時間なん・・・」


すっかり時間を忘れていた為、慌てて昼食を作り始める。

とは言え昼食は人数も少なく、この日はナポリタンスパゲティなのですぐに出来る。

簡単メニューでよかったと思うマォであった。


なお昼食にありつこうと顔を出した玄武により、あの市松人形は付喪神になっているとの事だった。

なにか呼び名を付けてやるとよいと言われて、結局呼びやすい「市松さん」になったのだが(まんまじゃん!)と思ったのはマォだけではないと思う。

読んで下さりありがとうございます。

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