エルフィン④
「な、なんだ?」
「何かにぶつかりましたわね・・・」
2人共膝をぶつけたのだろう、スリスリと撫でている。
「陛下、妃殿下いかがなされたのですか」
「何かにふさがれている様で通れないのだ」
「こうなったら腹を括りましょう。どこまで耐えきれるかは分かりませんが
あの子達が逃げ切れるように時間を稼ぐことくらいは出来ますわ」
「そうか、わかった。1人でも多く道連れに・・・ ゴンッ
いったぁ・・・」
エルフィンの頭に拳骨が落とされた。
「なにをするのだアムリタ」
「私ではございませんわ」
「では誰だと言うのだ」
「儂だね。よぉ陛下、妃殿下。
こんな雑魚相手に何しちょるん? 魔法ぶっ放しゃええじゃん?」
「「 マォ殿?! 」」
「まぁ話は後にしてさ。
エウリケとミランダが心配しちょるけえ行くよ」
「行くとは何処に・・・」
「なんだ貴様は!行き成り床から出て来おってからに!」
「うっせぇなぁ」
マォは古狸の1人に掴み掛りどてっ腹に膝蹴りを入れるとそのまま後ろへと突き飛ばした。
「国が欲しけりゃくれてやる!あの阿呆王子を祭り上げるなり
てめぇらで王になるなり好きにすりゃあええわ。じゃあね!」
「な、な、なにを勝手な事を!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴る古狸に向かってアッカンベーをするとマォはエルフィンとアムリタを穴へと放り込む。
自分も何か言わねばと思うが言葉が出て来ず、なすがままになるエルフィン。
「ほらそこの騎士くんたちも行くよ」
「「「イェスマム!」」」
マォと騎士達が穴へ飛び込むと今度はもっちゃんが顔を出し、マォのマネをしてアッカンベーをする。
但し舌がないのでベロンと出されたのは触手である。
古狸はヒッと情けない悲鳴を上げ腰を抜かしてしまう。
もっちゃんは顔を引っ込めると穴を塞いでしまった。
訳が分からないと呆然とする古狸達はこの後更に驚く事になる。
騎獣達が暴れまくっており城は半壊、あちらこちらには不気味な石像や干からびた死体が転がっているのだ。
城を抜け出し騎士達は其々が自分のモファームに乗っている。
城に居たモファームは全部もっちゃんが助け出していた。
アムリタはモルトが、エルフィンはサブレが乗せている。
『みんな居る? じゃあ行くね』
もっちゃんの合図で一斉に空へと飛んだ。
フワフワと蝶の様に。
またはパタパタと鳥の様に。
なんて事は無く、例えるならUFOの如くフワッと浮き上がり高度を上げたらバビュンッと飛び去る感じである。
「は?!」
「ヒェッ」
アムリタは勿論エルフィンも驚きのあまり気を失っていて、気が付けば見知らうベッドに寝かされており外はすでに明るくなっていた。
(ここは一体何処であろうか。
確か私は・・・戦っていたはずで・・・
そうだ、謀反を起こされて子供達を逃がそうと・・・)
「エウリケ!ミランダ!」
ガバッと体を起こせばゴツンと何かに額をぶつけた。
「いたたっ・・・」
「痛いのは私の方ですよ父上・・・」
見ればエウリケが額を押さえている。
「父上が目を覚まされたので声を掛けようとしたら・・・」
「そうであったか、それはすまない。
して無事か?」
「はい、母上がご自分のモファームで私とミランダを逃がしてくれましたから」
「そうであったか。なるほど、だからあの穴が開いていたのか」
親子で話しているとスカイラーとルークとオーウェンがやって来た。
「気が付いたようだな」
「ルーク!オーウェン!何故其方たちが此処に?」
「何故と言われてもな。
此処は我らが住まう場所だからな」
「そうか・・・」
「エルフィン、どこまで覚えている?」
「どこまでと言われても・・・」
しばし考え込み自分の記憶を確かめるエルフィン。
「はっ、そうだ。マォ殿に助け出されて・・・
モファームが空を飛んだ・・・」
「「「 は?! 」」」
「父上、まだ混乱しているのですね。
モファームが空を飛ぶ訳ないではありませんか」
「いやだが確かに飛んだのだ。
モファームだけではないぞ。他の騎獣達も・・・
こうふわっと垂直に飛び上がって城が小石の様に小さく見えて・・・
情けなくもそこで気を失ったのだが・・・」
「父上しっかりしてください。
ラージモスなら飛べるでしょうが他の騎獣は無理ですよ」
「エルフィンはまだ話が聞ける状態ではないのかもしれぬな」
「いやいや、アムリタにも聞けばわかるであろう」
「母上がおっしゃるには体がフワッとした後の事は覚えていないそうですよ」
「ならばマォ殿に確認を・・・」
「儂がどうしたって?」
タイミングよくマォが現れたのでエルフィンが皆に説明してくれと頼むとマォはあっけらかんとして言った。
「もっちゃんの固有スキルらしいよ。
儂も最初はぶちたまげたけど・・・」
あのスキルのお陰で早急に城へ向かう事が出来たしエルフィン達を助け出す事も出来たのだとマォは言う。
「そうか。ならばそのもっちゃんとやらにも礼を言わねばならんな」
「あ、勘違いしてるみたいじゃけど、もっちゃんて儂のモファームの名前ね」
「?! モファームに名前を付けているのか・・・」
「父上、私も先程教えていただいたのです。
自分が「人間」と呼ばれたら嫌ですし
誰に対して声を掛けられているのかも分からなくなるではないですか。
今までモファームに対して随分と失礼な扱いをしていたのだと反省しました」
「そうか、そうだな。言われてみれば確かにそうだ。
私も反省せねばなるまい。後でモファーム達にも謝罪しよう」
「その前にさ、まず名前付けちゃげたほうがええと思うんじゃけど?」
「はい!マォ殿に言われて考えてみました。
私のモファームはモリーにしようかと思います」
「モリー、いいんじゃない? きっと名前がもらえて喜ぶんじゃないかな」
「なるほど、では私は・・・もふ」
「もふりんは俺のモファームの名前だ」
「もっふるは私のモファームの名前だ」
「僕のモファームはモフーだ」
「私のはモフリーヌだ」
「ぐっ・・・ならばモーフィーではどうだ」
「誰もつけてないけどさ、なんで皆モから離れないかね・・・」
「マォ殿とて人の事は言えまい・・・」
「儂の場合はモフモフしてるからもっちゃんじゃもんよ。
まぁ兎に角さ、ちゃんと可愛がって仲良くすればいい相棒になるじゃけぇ。
ただの乗り物って考えは捨てんさいや?」
「あいわかった・・・」
「で、今後の事についてはスカイラーやルーク達と話し合いんさい。
儂は侍女長達と話してくる」
「侍女長達も居るのか?!」
「ササミやチョコに感謝してね?
戦闘中に見つけて保護してくれたんだから」
「ササミ?チョコ?」
「父上・・・ 獣騎士団の騎獣達ですよ。覚えて居ないのですか」
「すまぬ・・・」
マォは手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行った。
そして部屋に残った5人は今後について話し合う。
まずは国王と言う地位は捨てる事をオーウェンに提案された。
それに対しては当然そのつもりだとエルフィンは答えた。
此処で暮らしたいのであれば平民と同じようにある程度は自分の身の回りの事が出来るようにならねばならない。
これまでと変わるだろうが貴族として暮らすのであれば他国への亡命を進めるとスカイラーやルークに言われた。
これに対してエルフィンは教えて貰いながらになるだろうが、自分なりに頑張るので此処で暮らしたいと答えた。
不慣れな事だらけで迷惑をかける事は承知しているが、それでもこれまでの自分が知らなかったことを知るのは大事な事だ。
自分自身が変わる為にも頑張りたいのだと頭を下げた。
「では父上、話し方も変えねばなりませんね。
マォ様はもう少し砕けて話して欲しいとおっしゃっていました。
それに母上はすでにコルディ料理長に手解きを受けているそうです。
私もアルノー隊長に稽古をつけて貰う事になっています」
「そうか、では私はまず何からすればよいだろうか・・・」
「エルフィンはまず体力付けた方がえかろうけぇ
ダルクと一緒に薪割りでもすりゃええんじゃなーい?」
ひょこりと顔を覗かせ言うだけ言って立ち去るマォ。
「なるほど、薪割りか。では早速・・・」
「父上、まず着替えましょうか。
ご自分で着替えが出来ますか?」
「普段使いの服であればなんとかなる・・・」
アルノーが普段着であるシャツとズボンを渡すとエルフィンはもたつきながらもなんとか着替える事が出来た。
アルノーに案内されて薪割り場へと移動するとそこには以前より少しだけ逞しくなったダルクが居た。
ダルクに手解きを受け挑戦してみるもなかなか上手く当たらない。
「マォ殿は腕の力で割ろうとせずに全身を使えとおっしゃっていました。
その時少し重心を下げる、腰を落とすとよいそうですよ」
「そうなのか。案外難しいものだな・・・」
言われた通り腰を下げて斧を振り下ろしてみる。
なるほど、先程よりは幾分かマシになったかと思うエルフィンは時間が掛かったもののその日のノルマをこなすのであった。
薪割りを終えた後に案内されたのは今後エルフィン達が住む事となる家である。
元々はダルクが住んでいたのだが、新たに建てるのも冬場では無理だろうと譲る事にしたのだ。
そのダルクはルークと一緒に住む事となり、少しだけ顔をしかめるルークであった。
家の中は消して広いとは言えないが、家族4人で暮らすには十分である。
暫くの間は侍女長と1人の侍女が身の回りの事を教えながら手伝ってくれるという。
アムリタは今日だけで野菜の皮むきが出来るようになったと喜んでいる。
ミランダは侍女達と一緒に洗濯をしたのだと笑っている。
エウリケは基礎体力とやらを鍛えるために雪かきを初めてやったのだと誇らしげだ。
(すべて失ったと思っていたがそうではない。
家族が楽し気に会話をしているのはいつぶりであろうか。
それに物別れをしたと言うのに危機には駆け付けてくれた者達が居る。
仲間と呼ぶにはおこがましいかもしれぬがこの恩に報いるためにも
私は変わらねばなるまい)
一時は命を落とす事も考えたのだ。
王と言う地位を失ったが代わりに家族や仲間を取り戻せた。
それで十分だ、今度は大切な物を失わない様にしなければと決意を固めるエルフィンであった。
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