辺境⑨
いよいよ本格的な冬が始まった。
これまでも十分寒かったのだが一晩で雪が50cmも積もったのだ。
こうなってくると誰も外へは出なくなり家へと閉じこもる。
とは言え渡り廊下があるので互いに行き来はできるし食堂にも集まれるのだが。
家の中で何をするのかと言えば、装備の手入れをしたり集めた素材の仕分けや加工をしたりだ。
コルディとカトルなんかは保存食を作ると言うし、マリア達3人は毛糸やなめし皮を使って手芸品を作るらしい。
では自分は何をして過ごそうかとマォは考える。
(水引細工は紙さえあれば出来るけど、目立つよなぁ。
そうなると組紐なんかも目立つだろうか。
いやでも髪紐や房飾りなんかもあるし組紐なら目立たないかも?)
魔獣や妖獣の中には長毛の物も居るし、鬣や馬の様なふぁさふぁさ尻尾の物も居る。
そういった毛を使えばわざわざ糸を購入する必要もないだろうと思ったのに、目の前にはチョコが伏せ状態で待っている。
『チョコの糸が必要な気がする!って言ってるよ』
「ぶ、なにそのテレパシーで感じたみたいなんは・・・
って言うかさ、チョコなんか小型化しちょらん?」
『家の中に入るのにちっちゃくなったんだって』
「サイズ自由自在なんかい!」
通訳するもっちゃんは縁側から顔だけ中に突っ込んでいる。
ふわふわの毛のお陰で隙間風などは入って来ないのだが、はたから見ればちょっとしたホラーである。
「おかん、ちょっといい・・・ うぉっ」
「どうしたアルノー」
「もっちゃんか、驚いたじゃないか・・・」
「だろうな、儂も最初驚いた」
「もっちゃん、皆がマネをしたら困るから止めてもらえるか」
「アルノー、すでに遅い・・・」
「ん?」
「見てみ・・・」
「ぶぉっ・・・」
あちらこちらの家からモッフルのお尻が突き出ている。
「なんだあれは・・・」
「会話するのに顔突っ込んじょるらしい」
「 ・・・ 」
「それで? 何か用があったんじゃないん?」
「ああ、そうだった。使い道が分からないダンジョン産の道具があるらしい。
おかんなら分かるのではと領主殿が持ってきてな」
「は? この雪ん中を? なんせよん・・・」
「食堂に運び入れてあるから来てくれないか」
「しゃーない、行ってみるか」
よっこいせと立ち上がり食堂へと移動してみれば、ででんっ!と物が鎮座していた。
「これ持ってきたん?重かろうに・・・」
「まぁそこは魔法があるので大丈夫だ。
してこれは一体何かマォ殿は分かるだろうか?」
「石臼と杵、蒸し鍋に蒸籠じゃねぇ」
「ほう。使い方は?」
「餅つきの道具じゃね」
「餅つきとは?」
「餅っちゅう食べ物があるん。
餅米を蒸かした後にこの石臼に入れて杵でつくんよ。
冬場に食べる事が多いかな」
「旨いのか?」
「儂は好物じゃね」
「作ってみる事は可能か?」
「今日は無理。もち米を一晩水に漬けてちょかんにゃぁいけんし
餡子も作るんじゃったら小豆も一晩水に漬けちょかんにゃいけんもん。
餡子煮込む事も考えるんじゃったら下準備に2日ある方がええかな」
「そうか、残念だな」
「ちゅうかさ、もち米や小豆とかってあるん?」
「食料の保管庫を確認してみればありそうな気がするであります!」
マォはジャックと一緒に食料の保管庫へ行き確認してみれば、しっかりと餅米・小豆・白いんげん・黄粉があった。
「黄粉?! 黄粉があんなら餡子もあってもええんじゃないん」
「マム、黄粉とは何でありますか」
「大豆を粉にした物で砂糖と塩で味を調えるん。
餅に絡めて食べるとぶち旨いんよ」
「なるほど、楽しみであります!」
取り合えず持てるだけ持って皆の所に戻るとルークがげんなりとした顔をしている。
何かあったのかと尋ねれば餅が出来るまでここに泊まるとスカイラーが言い出したらしい。
「いやいや仕事はよ!」
「そうだろう、マォも言ってやってくれ」
「寒期は仕事が少ないのでな。2~3日休んだところでどうという事は無い」
「家族はよ?家族ほったらかしにしちゃだめじゃろ・・・」
「妻は寒さが苦手なのでこの時期は里帰りをしておる」
「なるほど。子供は?」
「皆嫁に行ってしまってな。めったに帰って来ぬ」
「全部女の子なん?」
「いや息子が1人いるのだが末っ子でな。今は南の隣国へ留学中だ」
「そっか、じゃぁ泊まってもええんじゃないん?
ルークんとこ、部屋はあるじゃろ?」
「ありはするが・・・ 仕方があるまい」
「なんなんルーク。兄弟仲悪いん?」
「いやそうではないのだが・・・」
「ルーク様はスカイラー様にあれこれと聞かれるのがお嫌なのです」
「あれこれ?」
「はい、特にぐえぇっ」
ルークは慌てるあまりダルクの首を絞めてしまっていた。
どこかで見た光景のようなきがするマォ。
「おいルーク。止めぬか。ダルクが窒息しておる!」
「はっ、すまない。つい・・・」
「つい、で首絞めないで下さい!ゲホッゲホッ」
「なにやっちょん・・・」
呆れ気味なマォはさっさと下準備をしておく事にした。
小豆は煮込んで餡子に仕上がるまで竈を占領してしまう為、マォの家で作る事にした。
この日は水に漬けておくだけである。
翌日は朝から竈に付きっきりである。
マォとしては漉し餡の方が好きなのだが手間がかかるので今回は粒餡だけだ。
量が量なので仕上がった時には夕方になっていて驚いたマォである。
次の日はいよいよ餅つきだ。
早朝から餅米は蒸かし始めている。
「懐かしいなぁ。ばぁちゃんがおった頃は毎年やりよったんよねぇ」
子供時代には年末になると祖母の家に集まり毎年餅つきをした。
大人になれば子供達の幼稚園で餅つきがあった。
懐かしく思えば久々だけど出来るのかと思ったが体は覚えているようだ。
蒸し上がった餅米を石臼に移しマォが手本を見せる。
「行き成りつかずに最初はこうやってコネて米を潰す感じ。
粗方潰れたらこうやって杵を振り下ろしてつく。
滑らかになって米粒が残って無ければ完成」
順番にやってみるのだが見ていると危なかしい。
アルノーとリオルがなんとか様になっている感じだろうか。
何度かやらせてみればオーウェンとバックリーもなんとかなってきた。
エディとジャックもまぁなんとかなりそうだ。
バックリーは杵がミシッと変な音を立てたのであきらめてもらう。
合いの手(返し)はイザベルとマリアが中心となり皆で交代でやってみる事にした。
何事も経験する事が大事なのだ。
これなら壊さないだろうとバックリーも張り切っている。
マォとアシーナが餅をもぎって丸め、クレアとエイダが餡子や黄粉をまぶしていく。
コルディには大根おろしをお願いした。
「おおおおお、マム!伸びて杵にくっついて離れないであります!」
「時々杵にも水つけろ」
「マム!、エディが自分の手を狙ってくるであります!」
「なっ、違うであります!狙いが定まらぬのであります!」
「腰を安定させて重心を少し落とせ」
「イェスマム!」
「マォ様この蒸し上がった物を食べてみても?」
「ん?ああ、味見してみ」
「もぐもぐ、あら美味しい」
「ちょ、味見つったじゃん!ごっそり食ってんじゃねぇよ」
「マォ殿、丸めるのはこれでよいだろうか」
「ちがっ!それじゃ団子じゃね、こうやってもうすこし平べったくして」
「ではこれではどうだ」
「ぶっ、それだと煎餅になるね・・・」
「マォ、伸びて嚙み切れないし味が無いのだが」
「あ、切れたけど鼻に付きましたね」
「つまみ食いしてんじゃねぇよ」ペシッ
「おかん、この餡子というの甘くてうまいな」
「餡子だけ食ってんじゃねぇーわ!」
「え、ダメなのか・・・」
「コルディまで食ってんじゃねぇよ、無くなんだろうが」
「へーっくしょいっ」ブワッ
「黄粉巻き散らかすんじゃねぇぇぇぇぇ!」
なんとも大騒ぎな餅つきである。
幼稚園児たちの方がまだマシだったと思うマォであるが、初めての体験をする大人達の方がテンションが上がる物である。
だが皆屈託のない笑顔を見せているので毎年冬の行事にしてもよいなと思うマォでもある。
時間を置くと固くなってしまうので手が空いている者から順番に食べて貰った。
固まった餅も上手いのだがきっと今回は食べきってしまうだろう。
せっかくだからとオーガ達にも食べて貰う。
「いやぁ旨かったな」
「この餅と言うのはなかなかに良い」
「固まった餅は保存食にもなるんだろ?おかん」
「 ・・・ 」
「おかん?どうした?」
「「「 マォ? 」」」
「儂のは? 儂の餅は? 1個も食っちょらんのじゃけど?」
「え?まさか・・・嘘だろ・・・」
「兄上!兄上が食べ過ぎたのでは?!」
「何を言う、ルークの方が多かったではないか」
「お2人共そう言う事ではありません」
「マォ様、申し訳ありません。私としたことが・・・」
「餅米の在庫がもう無いんよ。次はいつ手に入るやら」
「マォ殿、館に戻ったら私も在庫を探してみる」
「俺達もまたダンジョンに潜ってみるから」
「「「 申し訳ない 」」」
「次は残しておいてね?」
マォは餅が固まると洗うのが面倒になるので先に杵と石臼を洗っていたのだ。
その間に見事完食されていたのだった。
(食べたかったなぁ・・・)
よほど残念に思っていたのだろう。
その夜マォは畳大の餅にかぶりつく夢を見たのだが実際は枕にかぶりついていたのだった。
読んで下さりありがとうございます。




