辺境⑤
辺境に到着して1週間が過ぎた。
居住区は小さな集落と言ってもいいくらいに整っている。
家はコの字型に配置され、井戸の横には洗い場がある。
少し離れた場所にモファームや騎獣たちの厩舎が建てられており、その横にはオルガ達オーガの家が並んでいる。
オルガの一族もどうせなら一緒に住んではどうかとオーウェンが言い出したのだ。
確かにいくら近くに住んでいるとは言えオルガだけ離れているのも寂しいのではないかとマォも考え話してみた結果、オーガ達は喜んで自分達の家を運んできた。
そう、お神輿みたいな感じで運んできたものだからマォ達は驚いた。
((( 家ってああやって運べるものなんだ・・・ )))
あくまでもオーガだから出来る事である。
建物が完成すれば今度は内装を整える事となる。
テーブルや椅子などはオーガ達が作ってくれたしクローゼットは備え付けになっている。
その他の細々した物は個人の好みがあるだろうからと此処で揃える事になった。
『マォ、チョコがマォのテーブルクロスとカーテン作るって言ってる。
モルトはラグ作るって言ってるし、ササミとモモで布団作るって。
サブレは何か作るのは出来ないから代わりに狩りするって言ってる』
「へ? いやあの色々作ってくれるのは嬉しいんじゃけど
皆それぞれ相棒がおるじゃろ?
相棒の分作らなくてええん?」
『前に作ってあげてるって。それも持ってきてるからいいんだって言ってる。
もっちゃんも何か作る!』
「そっか、もぉ作っちょったんじゃね。それならまぁええか。
もっちゃん、作ってくれるのは嬉しいけど無理はせんといてね」
『分かってる!』
(魔獣って器用なんじゃねぇ・・・)
マォは皆の気持ちが嬉しくてありがたくお願いする事にした。
他の台所用品や生活小物なんかは町で買う事にする。
獣人達は身の回りの物は収納箱に詰めて持ってきたと言うので、午前と午後の2組に分かれて買い物へと出かける事にした。
まずはマォとイザベル、ルークが行く事にし、アルノー・オーウェン・ダルクが午後からとなる。
もっちゃんともっふるに乗って町へと向かう。
今回は普通に行くようマォに頼まれたので木の上を移動する事は無かった。
町へ到着すると1番大きな店【スェイキョウ商会】へと向かう。
この商会、実はあの侍女長の実家で今は侍女長の兄が経営している。
「このスェイキョウ商会は各地に支店があったんだがな。
今はウォーカー領を始めとする4公爵領と隣国のみにしたらしい。
我々が城を抜けた後にマトモな商人達はすぐに行動に出たようだ」
「どんくらいマトモなんがおったんか知らんけどさ。
自分がマトモだと思ってても第三者から見たらマトモじゃない場合もあるじゃん」
「どのみち、4公爵領には入れぬから安心するといい」
「なるほど、儂等に関わらんのじゃったらどぉでもええわ」
などと話しているうちに店へと到着する。
(おぉぅ、ちょっと大きめのホームセンターくらいあるじゃん)
中へ入ればいらっしゃいませと明るい声が響く。
商品はいくつかの棚の列に別けられており上部には【キッチン用品】【風呂場用品】【生活雑貨】【農作業具】などと分かりやすい様に札が付けられていた。
(まんまホームセンターじゃった・・・)
買い物が終わったら入口で待ち合わせる事にして個別に商品を見て回る。
まずは枕が欲しいと思うマォは寝具コーナーへと向かう。
蕎麦殻枕が欲しいのだがさすがに無いだろうと思い何か手頃なのがあればと探してみる。
(・・・
あったよ、蕎麦殻枕・・・)
「ああ、それは東の大陸の招き人様が作った物が発祥でございますよ」
「なるほど。てことはその人も日本人かぁ」
「ヒノモトと言う場所から来られたそうでございますよ」
「って事は平安時代くらいか」
と、ここでマォは気付く。先程から相槌を入れてくるこの人は誰だろうかと。
「あの、どちら様でしょう・・・」
「これはこれは大変失礼いたしました。
わたくしこのスェイキョウ商会の代表を務めますコープと申します」
「あー!侍女長のお兄さん!初めまして、マォと申します」
「妹から聞き及んでおります。
入用の物があれば他国から取り寄せる事も可能でございます。
遠慮なくお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます。何かあった時は宜しくお願いします」
「それと、買い物が終わりましたら少しばかりお時間を頂けませんか」
「なんでしょう?」
「少々ご相談がございまして」
「分かりました、少しでよいのであれば」
「ありがとうございます」
「買い物が終わったら声を掛けますね」
一旦別れて買い物を続ける。
ボディブラシに洗面桶などの風呂場用品、鍋やトングなどの台所用品。
食器類などもいくつか選ぶ。
石鹸や化粧水などは別の店で買う方がよいとイザベルが言っていた。
後は何が必要だっけなと考えているとヌイグルミコーナーが視界に入る。
(ぬいぐるみもあるんだ)
と近寄りよくよく見てみれば・・・
(ぶっ、デフォルメ化された魔獣じゃんか。
それもそうか。私が知ってる野生動物は居ないんだもんなぁ。
まぁ可愛いし1つ買って行こうかな)
と思ったが1つだと自分のが無い!と騒ぐ子が居そうなので結局騎獣達全種のを買って行く事になったのだった。
後日モファームのぬいぐるみが抱き枕になった。
一通り選んだので会計を済ませて商品は有料の収納袋に入れて貰った。
入口に向かえばルークとイザベルが待っていた。
「2人共早いね」
「うむ、何があればよいのかわからず店員に選んでもらったからな」
「私は数も少なかったのですぐ決まりましたから」
「そっか。待たせてごめんね。
それとコープさんに相談があるって言われたんじゃけど」
「ああ、こちらも聞いているので大丈夫だ」
「では声を掛けてまいります」
イザベルがコープに声を掛けに行く。
やってきたコープに案内され店の奥にある部屋へと案内された。
ソファへ腰を掛けるとお茶を出される。
「それでご相談したい事と言うのは私ではなく、妹からなのです」
「侍女長から?」
「こちらの手紙に目を通していただけますでしょうか」
渡された手紙は侍女長からの物で、アレを支持する馬鹿貴族が幅を利かせており不遇な扱いを受ける者が出始めていると書かれていた。
中でも料理長のコルディは女性だからと行き成り首になったらしく、今は王妃の宮で仮雇いとして保護している。
また料理補助の少年も平民だからとクビになったらしく、コルディ同様仮雇いで保護している。
侍女やメイドの中にも下級貴族出身だから、別派閥だからと給金を減らされたりと嫌がらせを受けている者もいるのだ。
こっそりと送り届けるのでマォの所で受け入れてやって貰えないかという内容だった。
「なるほどなぁ・・・」
「料理長と言えば確か料理人になるならと侯爵家を追い出されたのだったか」
「そうなん? 儂確か胡椒の話したくらいじゃなかろうか」
「胡椒の話?」
「うん。初めて出されたスープにさ、胡椒が実のまんま丸っと入っちょったん。
じゃけぇ聞いてみたんよね。これはこういうスープなんかって。
しったら胡椒はこうやって使うものだっちゅうけぇ驚いてね」
「「「 ん? 」」」
「ん? まさかと思うけど皆気付いてなかったん?
儂が作るときちゃんと粉になっちょったじゃろ!」
「なるほど、そういう事だったか」
「いつもより香りが強いとは思っていましたが胡椒が見当たらないので
てっきり違うスパイスなのかと思っておりました・・・」
「あの、すみませんがどういうことなのでしょうか」
マォはコープに説明をする。
探せばあるのかもしれないが今の所見た事が無いので、ミルの代わりにすり鉢で身を潰して粉状で使用すれば風味も良くなる事。
実の熟成加減や皮の有無によって辛みや香りも変わってくる事。
肉や魚の場合、味付けは勿論臭み消しにもなる事。
「なるほど、これは良い事を教えて頂きました。
マォ様、粉状の胡椒を商品として扱ってもよろしいでしょうか。
勿論教えて頂いた手数料はお支払いいたします」
「へ?いや手数料とかいらんよ。
じゃけどほかの店がマネせんように
スェイキョウ商会のブランド商品にするとええじゃろうね」
「なるほど、専売特許と言う事ですな。
さっそく商人ギルドへ届け出をしておきます」
「今後の事も考えてオリジナルロゴ、商会のマークみたいなんもあるとええね。
それも登録しちょきゃ紛い物とか防げるんじゃないんかね?」
「なるほど、でしたらやはりアイデア料や手数料をお支払いした方がよいですね」
「えぇぇ・・・」
「マォ様、手数料などは頂いておく方がよろしいかと。
今後また何か商品化して頂く事になるかもしれませんし」
「その方がコープ殿も頼みを聞き入れやすいのではないか?」
「なるほど、分かった。
んで話を戻して料理長達をどうするかだよね」
マォとしては受け入れても良いと思っている。
なんせ大人数なのでずっと1人で食事を担当するのは辛い。
侍女やメイドにしたって数人であればよいと思う。
なんせアルノーと獣人達はともかく貴族出身なルーク達は洗濯も掃除も出来ない。
一応は教えながらやらせてみたのだが、箒の使い方や雑巾の絞り方など力加減が微妙で大惨事になったのである。
イザベルとルークはマォの判断に任せると言う。
「じゃぁコープさん。
条件付きで受け入れると伝えていただけますか?
ただし、侍女やメイドの受け入れは3名まで。
いずれは増やすかもしれませんが最初からは無理です」
マォが出した条件は2つ。
ここで見聞きした事はたとえ身内であろうと外部へ漏らさない事。
亜人種への偏見を持たない事。
「承知いたしました。
ではこちらへ来る者には魔法誓約書を記名して貰う事にしましょう」
話が纏まったのは丁度昼時だったのでマォ達は慌てて帰宅したのであった。
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