辺境③
マォ達が居住区に戻るとすでに他の皆も戻っていた。
「おかん、お疲れさ・・・ うぉっ」
「なんだアルノー。どうし・・・うげっ」
「ちょっとなんなん。さっきからアルノーもルークも」
「おかん、背負い籠の上に蛇が・・・」
「まさかマォ殿が連れて来たのか」
「ルーク、殿いらんってば。っていうか蛇ってなんなん?」
よっこらせと籠を降ろして確認してみれば、ちょこんと乗っかっている真っ白な蛇が居た。
「うぉあっ!なにこれ!」
「おかん、いいか手を出すなよって、なんで掌に載せてんだよ!」
マォは掌に載せた白蛇を見つめたまま動かない。
さすがにマォでも蛇は苦手だったかと思う皆であった。
「マォ、ゆっくり地面に降ろすんだ」
「真っ白な体にブルーアイってぶち綺麗じゃん!」
「「 そっち?! 」」
「君は誰かな?どこから来たのかな?森から着いてきちゃったのかな?」
掌に収まるほどの小さな白蛇は頭をかしげている。
「君は誰かな?」はマォの癖である。
畑仕事をしていればしかやイノシシ、狸などの獣に遭遇する事だってある。
そんな時はまず声を掛けていたのだ。
「うーん、ヤマカガシやアオダイショウとは違うしコーンスネークかな?
それともこっちの世界の固有種かもしれんし。
なんにせよ毒も無さそうじゃし敵意も無さそうじゃし。
ほら、ここだと踏まれるかもしれんけぇ森の中へ帰りんさい」
居住区の外れに放してやると白蛇はマォの足元にスリスリした後、森の中へと消えて行った。
可愛かったし綺麗だったなぁと思うのだがダルクが爆弾発言をする。
「マォど・・・ マォさん、先程の蛇ですがホワイトマンバと言って
猛毒を持っている魔獣なんですよ」
「へ?! でもなんか懐っこかったじゃん」
「一般的には攻撃的なんですからうかつに手を出さないで下さい!」
「へーい・・・」
攻撃的だの猛毒だのと言われても、そうは思えないマォなのであった。
夕食はリオルが準備していてくれた。
狩りの途中で見つけた川で魚も獲ってきたらしい。
「たまには魚もよいだろうと思ってな」
「うわぁ、こっちに来てから初めての魚じゃぁ。なんの魚じゃろうか」
「アークティックチャーと言う魚だ。串にさして塩焼きにすると旨いんだ」
「思ったよりでかいね。イワナにちょっと似ちょるかも」
マォの知っているイワナは25cm~35cmだ。
だがこのアークティックチャーは50cm以上ある。
(これ串焼きにするん?でかすぎんかね・・・)
そう思うのだったが焚火の周りに串と言うよりは小枝に近いものに刺されたアークティックチャーが並べられていた。
「儂あの大きさ食いきれんと思うんじゃけど・・・」
「マォ様には小ぶりなものを用意してあります」
「よかった、ありがとうイザベル」
だが実際は小ぶりなものでも40cmはある。
『食べきれなかったらもっちゃんが食べてあげる』
「助かるよもっちゃん」
辺りに焼けた魚のいい匂いが漂い、皆で焚火を囲って座り食べ始める。
「「「 ・・・ 」」」
「おかん、おかんの隣にいるのは・・・」
「ん?儂の隣はイザベルじゃろ」
「いや、イザベルとの間にだな・・・」
「ん? どぅぁおっ! さっきのマンバ!」
マォとイザベルの間にチョコンと居る白蛇。
「な、な、なんでおるん?!」
『匂いに誘われて来たみたい』
「匂いに・・・ 少し食べる?」
マォは魚の身をほぐして冷ました後、マンバの前においてやる。
マンバは嬉しそうにしっぽを振りながら食べ始める。
「蛇ってしっぽ降るんだっけか・・・」
「俺はサーペントしか知らぬが中にはそういった種も居るのかもだな」
「威嚇ではないのか?」
「いや、喜んじょるっぽい」
「と言うかだな、マォ。餌付けをするでない」
「しまった、餌付けになるのか。次は気を付けるよ。
君も食べ終わったら今度こそ森の中に帰るんだよ?」
食べ終わったマンバはケプッとかわいらしいゲップをして森の中へと帰って行った。
(本当に帰ったよな?)と思いながらテントに戻り休んだ一同であった。
翌朝、朝食後のコーヒーを淹れ終えたマォは盛大に吹く事になる。
「ぶっ、なんで居るのさ白蛇くん!」
「どうしたおかん!」
「アルノー、これ見てよ」
「ぶほっ」
マォに渡されたカップを見て吹くアルノー。
カップの中にはコーヒーの代わりにマンバが入っていた。
マンバは小さく ゲフッ とゲップしている。
「まさかコーヒー飲んだのか!」
「その小さな体にあの量のコーヒーがどうやったら入るん?!
ちょっと戻しんさいよ!」
マンバはしれっと視線をそらし尻尾をタシタシとさせている。
「目をそらすな!こっち見んさい!」
「あ、こいつ寝たふりしやがった!おい!」
マンバはたらりと冷や汗をかき、コテンと転がり寝たふりを始めている。
「ちょぉー!
そもそもカフェインたっぷりなのに蛇にはダメじゃろぉ!
吐けっていいよるじゃろ!吐いて!」
カップを逆さにしてマンバの体を出し、むんずと掴んでぶんぶんと振ってみる。
マンバはイヤイヤと首を横に振り吐き出すのを拒否していた。
「朝から騒がしいな、マォどうし・・・ うぉあ!」
「なんだ騒々し・・・ぅおっ!」
「おかん、マンバを振り回すな!落ち着け!」
「落ち着けるかぁ!ほら、吐き出せマンバ!」
「おかん、いいか。おかんの知っている蛇とは違うんだ。
魔獣だからそのカフェインとやらも大丈夫だと思うぞ!」
「ん? ああそっか。魔獣なんだ。じゃぁ大丈夫か。
いや、大丈夫じゃなかろう!儂のコーヒー返せー!」
「だから落ち着けおかん。
マンバが吐き戻したとしてそれを飲む気か?」
「 ・・・ 」
「マォ、いくらなんでもそれは止めた方がよいかと・・・」
うんうんと頷く一同。
言われてみてそれもそうかと思うマォ。
仕方が無いとマンバを解放し、自分のコーヒーを新しく淹れ直す。
「久々のコーヒーはやっぱいいね。うまぁ」
飲みながら気付いてしまう。
さっきこのカップの中にマンバは入っていた。
そして洗わずにコーヒーを淹れてしまっている。
(まぁ汚れてはなかったし、気にしないでおこうかな・・・
飲んじゃってるし・・・)
カップはコーヒーが入っていた痕跡すらなく、洗い立てのように綺麗だったのだ。
それもそのはず、マンバがちゃんと魔法で洗っておいたのだから。
変なところで気を遣うマンバだったりするのだが、そのことはもっちゃん以外気付いてない。
『マォに伝える?』
もっちゃんの問いにブンブンと首を横に振るマンバ。
実は照れ屋だったりもするのだ。
朝食を終えた後は昨日と同じ様に別れて作業をする事になっている。
準備を終えて出かけようとしたところでオルガが声を掛けて来た。
『マォ、一族紹介する』
「お、頼むよオルガ」
オルガの家の近くに待機していると言うので移動してみれば、身長が5~6mくらいのオーガがずらりと並んでいた。
『これ父。こっち母。
後のこれはは兄達と弟でそっちが姉達。早速家作る言ってる。
ちび達は姉や兄の子、畑作る言ってる 』
「初めまして、マォと言います。
いろいろと手伝っていただけるとの事、ありがとうございます。
よろしくお願いします」
オーガ達は片膝をついてしゃがみ首を垂れる。
『父と母感謝を述べてる。
我等はすでに家族と同然、喜んで手伝うと言っている』
「ありがたいね。
そう言えば皆は何処に住んでいるんだろう」
『すぐ裏の山に家有る。
だからすぐ来れる。安心と言ってる』
「なるほど。儂等にもなにか出来る事があったら言ってね」
オーガ達は任せろと言うかのようにトンと胸を叩くと早速作業へと取り掛かった。
マォ達も別れて森へと採取に出かける。
「マム、今日は少し川に近い場所へ行ってみないでありますか」
「そっちだと何が採れるんじゃろうか」
「カモミールやエルダーフラワー、ミントやタイム等の薬草があると思うであります」
「なるほど、たしか風邪の初期症状にええんじゃったっけ。
よし、今日は薬草類を採取しておこうか」
「イェスマム!」
マォはアシーナと共に川の方へと歩いて行く。
何故かもっちゃんとクッキーも着いてくる。
「もっちゃん達も来るん?」
『クッキーが川で狩りするって。もっちゃんは通訳とお手伝い!』
「なるほど? 怪我はしない様に気を付けてね?」
『分かってる!』
川で狩りってそれは漁なんじゃなかろうかと思うマォだったが突っ込まないでおく。
そしてそれは正解だった。
もっちゃんとクッキーはまさしく川で狩りをしていたのだ。
『もっちゃん上流から追い立ててくる!』
『クッキーはここで待機してる!』
2匹はうまく連携を取りながらオックスボーンと言うバッファローに似た妖獣を狩っている。
川辺に住む妖獣で癖のない上質な肉と毛足の長い毛皮が獲れるのだが、なかなか見つける事が出来ないとされている。
「子連れや若い子はダメだからね!」
『マォ、妖獣は子供産まない』
「へ? じゃあどうやって繁殖しちょるん・・・」
『淀みから生まれる』
「淀み?何それ・・・」
「マムは妖獣と魔獣の違いを知っているでありますか?」
「んにゃ、知らん」
ならばとアシーナが説明をする。
「魔獣と魔物はある程度の知能を持っているであります。
ですが妖獣とダンジョンモンスターはほとんど知能がなく本能で動くであります。
そして魔獣と魔物は我々の様に家族を持ち繁殖していくでありますが
妖獣とダンジョンモンスターは淀みから生まれるであります。
この淀みとは負の感情が集まって出来ると言われているでありますが
一定数を生み出した後は消滅し、また別の場所に現れるであります」
「なるほど、あれか。瘴気みたいなもんか。
て事は妖獣やモンスターは魂は無いと思ってもええんじゃろか」
「イェスマム!妖獣やダンジョンモンスターには魂は無いであります!」
「そっか、教えてくれてありがとうね、アシーナ」
「お役に立てたならよかったであります!」
魂がないのであれば罪悪感も抱かなくて済むと少しほっとするマォであった。
だからと言って乱獲は駄目だ。
「もっちゃんもクッキーもほどほどにね」
『分かった!』
もっちゃん達が7頭ほど狩ったところで籠も薬草でいっぱいになった。
「よし、そろそろ帰ろうか。ってそれ全部持てる?」
『 大丈夫! 』
もっちゃんは触手で軽々と3頭ほど抱え、クッキーは残りの4頭を尻尾で抱えている。
それなりの大きさなのにそうは見えない、羊でも抱えているかのように見えるマォとアシーナであった。
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