スカイラー①
久方ぶりに弟から手紙が届いたと思ったら、宰相職を辞したと書いてあった。
そして王都での出来事が書いてあり、招き人と共に国を出て辺境の地へと向かうとも書いてあった。
途中で寄るので詳しくはその時に、とも書いてあったのだが気が気ではない。
弟ルークは真面目が取り柄な男だが真面目ゆえに融通が利かない。
そして極たまにだが抜けている時もある。
恐らくはエルフィンに対しても正論を押し付けて反論の余地を与えなかったのだろうと思う。
とは言え反論の余地もないとは思うのだが。
我が領では亜人種とも上手く共存出来ている。
これもひとえに当時の招き人と曾祖父のお陰であり祖父や父の努力の賜物でだろう。
これまで亜人種を異端とし忌み嫌っていた人々に姿形は違えど同じ人間なのだ、髪や目の色が違うのと同じ事だから手を取り合い協力しながら暮らす方がよいのだと各地を回って話をしたと言う。
憎しみは憎しみしか生まず、争いは争いしか生まない。
憎しみ合って生きるより、手を取り笑顔で暮らす方が子や孫にとってもよいのではないかと招き人も説得していたという。
貴族からの反発も多かったと聞くが、曾祖父の努力の甲斐あって表立っての争いは無くなった。
祖父や父もこの穏やかな生活を守るために頑張っていた。
だが王都などでは表面に見えないだけでずっと根強く残っていたのだろう。
それが今回の招き人とルーク達によって露見した。
エルフィンは対応出来なかったのかしなかったのか。
あれは昔から甘やかされたせいか気が弱かったからな・・・
招き人の逆鱗に触れたとかで国とは縁を切ると言うならば私も動かねばならないな。
私を含む国境を守る4つの公爵家は皆縁者であり自領では亜人種や他国とも良好な関係を保ててはいる。
だが国全体としてはいかがなものか。
国境以外の領地では王都の様な迫害はないにしても、入れない店があったり料金が割り増しされていたりと不遇な目にあっていると聞く。
常々話していたのはあまりにも目に余るようならば我等も国を切り捨てるべきではないかという事だ。
3代掛けて築き上げたこの良好な関係を崩されたのではたまったものでは無い。
独立区にするでもよし、隣国に吸収して貰うでもよい。
曾祖父はこのような事が起きる可能性も考えていたのだろう。
各公爵家には有事の際には独自に動く事を許可し独立も厭わないものとするとの公文書も残されている。
そしてこれは国が消滅するまで有効とされているのだ。
(目の前で見てしまったら・・・ 私も怒り狂うだろうな。
さて、近隣諸国や各公爵家にもこの出来事を伝えて今後の相談をせねばなるまいな)
各所に宛てた書簡をしたため伝言鳥を飛ばす。
同時に城へ残してある者から報告が届く。
我が従妹であり王妃でもあるアムリタがこの件に対してかなりの腹立てており、態度を改めねば離婚だと宣言したという。
あの勝気なアムリタの事だ、やりかねないとは思うが仮にも王妃なのだからもう少し穏便にと思わなくもない。
姉と言いアムリタと言い、我が一族の女性は気が強くて困る・・・
これから忙しくなりそうだと溜息を付く。
翌日には各所より返信が届いた。
近隣諸国からは全面的に招き人及び各公爵家を支援すると書かれていた。
カレフに嫁いだ姉などは乗り込んでくる勢いだったのを必死に国王が止めたらしい。
姉らしいとは言え王妃になったと言うのに何をやっているのかとも思う。
各公爵家からはウォーカー家に足並みを揃える旨と可能な事であれば協力は惜しまないと書かれていた。
なんとも心強くありがたい返信である。
まずは正式文書でエルフィンに独立宣言をするつもりだ。
勿論これは4家で同時に出す。
その為にもまずは近隣諸国に承認してもらう必要があるので、さっそく書類作成に入った。
そして数日後ルーク達が領内の屋敷に到着したと報告があった。
思ったよりも随分と早く到着したのだなと思ったがルークの話を聞いて納得した。
道ならぬ道を、滝を飛び降りまた昇り、垂直に切り立った崖を走り降りる。
かと思えが地中を走り川を泳いだと・・・
待て待て待て、頭が追い付かぬ。
私の知っているモファームはそのような無謀な事をしておらぬのだが。
滝を上ったり飛び降りたりだと?地中を走り川を泳ぐだと?
聞いた事も見た事もないのだが、それは本当にモファームなのだろうか。
「やはり驚くだろう?
私も何度口から魂が抜け出そうになった事か・・・」
「そ、そうか。私なら気を失いそうだ」
「ダルクは失神しておったぞ」
「ちょ、ルーク様それは言わない約束でしょう!」
「「 ハハハ・・・ 」」
そして話を詰める前に万が一の事を考えてこちらからも護衛を出す事を伝えるとルークは断ってきた。
「うちからも護衛を付けようと思うのだが」
「それは遠慮したいと思います。
面識がなく気心がしれない者が増えるのは嫌がるかと」
確かに招き人は居にそぐわぬ召喚でこちらに来てしまい、馬鹿甥が不遇な扱いをしたあげくにあの件を目にしてしまったのだから人に対する警戒心が出てもおかしくはないが・・・
「だがオーウェンとアルノーだけでは心元ないのでは?
あの森だぞ?」
「む、兄上。私とダルクは戦力外ですか?」
「其方らは戦闘経験がないであろう」
「ありませんが、一応は頭数に入れてくれてもよいではないですか」
「お前なぁ、そんなところで見栄を張ってどうする・・・」
「スカイラー様、ルーク様はマォ殿の前では格好を付けたいので」ゴンッ
「黙れダルク」
「ほぉ、ルーク。もしかして招き人に惚れ」ゴンッ
「兄上五月蠅いですよ」
「「 痛いじゃないか 」」
「話が反れましたからね。とにかくこれ以上の護衛は不要です」
「失礼ながらルーク殿。城の騎士では役に立たないかと。
所詮お飾りの騎士ですし」
「貴殿は騎士団長だったか。
他の城勤め騎士は知らぬがオーウェンとアルノーの実力は確かだが。
それにマォ殿自身も自分の身を守れるだけの力量はある。
彼らの事を知りもせぬのに憶測で行って欲しくはないな」
この騎士団長、仲間思い出良いやつなのだが少々自信過剰なところが難点である。
ルークもルークで言い返すでない、余計に面倒な事になるではないか。
どう穏便にすませるかと悩むがルークの言っていた招き人も戦えると言うのが気になった。
「マォ殿・オーウェン・アルノーの3人とこちらの騎士団から3人。
試合をさせてみればどうだろう。
実力が分かれば私とて安心出来るし、この者も納得するだろう」
「いいでしょう兄上。
私もこのままでは気が収まりませんから。
では明日にでも3人を連れてまいります」
結局この日は今後の話を詰める事が出来ずに終わる。
夜寝る前に妻と話をしながらこの日の出来事を振り返る。
「あなた、そのマォ殿と言う招き人様は男性なのでしょうか」
「いや、ルークが好意を抱いているのだから女性であろう」
「ですが戦闘までいかずとも護身が可能なのは女性騎士くらいですし。
騎士と試合が出来るくらいの方なのであればやはり男性なのでは?」
「まさか・・・」
「これまでルークは浮いた話も無かったではありませんか」
「それは仕事が忙しいからで・・・いや、まさか。まさかなぁ」
「あなた、例え男性であろうとルークが恋に目覚めたのであれば喜ばしい事です」
「そう、だな。まぁ明日会えば判るだろう」
そして翌日、あまりにも圧倒的な差を見せつけられた。
これは鍛え直さねばと思ったが、金色の羆の息子とあのオーウェンだったと判明し納得した。
金色の羆、スタンピードが起きた時我が領は彼女に救われたのだ。
被害は出てしまったが、それでも彼女のお陰で被害は少なくてすんだ。
だが彼女の住む場所は壊滅状態で復興は困難と判断されたのだ。
彼女には返しきれぬ恩がある。そうか、息子が生きていたのか。
そしてオーウェンもこの地から離れて久しい。
久々に見ればすっかり逞しくなっていた。
あの父が指南をしたのだから強くて当たり前だと納得もする。
招き人マォ殿。
これまたなんとも言えぬ方であった。
女性で会った事にまず安堵したのだが、一突きで団長をいなしてしまった。
これは、護衛もいらぬとと言われる訳だなと大いに納得した。
もっと話をしてみたいと思ったのだがルークに邪魔されてしまった。
「兄上諦めて下さい。ささ、我々は部屋で今後の話を詰めてまいりましょうか」
ガッシリと腕を掴まれズルズルと館へと引っ張られてしまった。
「いいですか兄上、マォ殿に興味を持たないで下さいね!」
「お前と違い色恋の興味ではないぞ」
「い、い、い、色恋とは何を言っておるのですか兄上!」
バシバシと背中を叩かれるので痛い。
「ルーク様ほどほどで辞めておいて下さいね、肝心の話が出来なくなりますよ」
「分かっておる」
なるほど、奥手と言うよりも不慣れで自分の気持ちすら持て余している状態か。
これは兄として見守って行かねばなるまいな。
などと考えていたら顔に出ていたようでまた背中を叩かれてしまった。
読んで下さりありがとうございます。




