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ルーク④

あれこれと考え込んでいる内に亡骸は真っ白な灰になっていた。

この灰はどうするのだろうかと思えばマォ殿は両手で掬い上げ川へと流していた。

私も手伝おうと灰へ手を近づけるのだがかなり熱くてつかめそうにもない。


「マォ殿この熱さでは手が焼けてしまうのでは」

「それがどうした。この親子はもっと痛い思いをしただろうよ」


言われてみれば確かにそうだろう。

意を決して掴もうとすればアルノーに止められてしまった。


「自分がやります。宰相殿は仕事に支障が出ますので控えて下さい」


確かにペンが握れなくなってしまっては支障が出てしまうので任せる事にした。

しばらくして灰も無くなり、木陰へと移動して座り込む。


「3代前に現れた招き人の思いはどこへ行ったんだろうな」


マォ殿の言葉が重くのしかかる。

自己嫌悪する私をアルノーが慰めてくれるが知らなかったで済む問題ではないように思う。


「戻りたくねぇなぁ・・・」


気持ちは分るがこのまま此処に居る訳にも行くまい。

気が重いのは私やアルノーも同じだ。

そう思うのだがそのまま動けずにいた。


しばらくボーッとして辺りが夕暮れになっている事に気が付いた。

さすがにこれはまずいので戻ろうかと重い腰をあげた時だった。

不審な動きをする男が川へ何かの袋を投げ入れたのが見えた。


「ごみの不法投棄だろうか」

「いや違いますね。微かに子供の鳴き声が聞こえます」


そういうが早いかアルノーはザブザブと川へと入って行き袋を拾い上げて戻って来た。


「なんという事を・・・」


中に入っていたのは生まれて間もないであろう赤子だったのだ。

アルノーは自分のシャツを脱いで赤子を包んでやっていた。


「どうしますか」


アルノーの問いにマォ殿が育てると答えた。


「こう見えても3人の子供を育てたし4人の孫の世話だってしちょったん。

 子育てには慣れちょるよ」


なるほど。ならば子育てにも慣れていて安心出来るなと思った。

だがマォ殿はその育てた子や孫に二度と合う事が出来ないと思うと心苦しい。

普段は気丈に振る舞っているがいつかその心が砕けてしまうのではないかと不安になる。


どうするかを3人で話した結果、獣騎士団へと連れて行くのがよいのではという事になった。

獣騎士団は隣国であるカレフ国に依頼して派遣してもらっている騎士団で妖獣や魔物の討伐を手伝ってもらっている。

カレフ国は姉の嫁ぎ先でもあるし、養子に迎えた義息子が団長をしているので私とは縁が深い。

なによりも亜人種の騎士団なのでこの赤子もすんなりと受け入れてくれるだろうと思う。


「でもその獣騎士団で赤ん坊の面倒見れる?」

「どうでしょう・・・」

「うむ、無理だろうな」

「ダメじゃん。

 じゃあ儂がそこに住んで赤ん坊育てる」


なるほどそれはよいかもしれぬと一瞬思ったがエルフィンが駄々をこねて古狸共が押し寄せてくる図が浮かんだ。


「ダメだとは言わせん」


そう言い放つマォ殿は勇ましい。

そもそも誰がマォ殿に否を言えると言うのか・・・

そろそろ日も暮れてしまうしこのまま此処で話しても埒も開かぬだろうと獣騎士団へと移動する事にした。



従騎士団に到着した時、マォ殿が動きを止めた。

やはり見慣れぬ獣人達に気圧されたのだろうか。


「ごめんごめん、つい見惚れてもぉた」


なるほど。段々とマォ殿がどういった人物なのか解って来た気がした。

義息子であるリオルの姿を探そうと周囲を見渡せば、何かがドスッと背中に突っ込んできた。

見ればリオルの騎獣であるラッセルサーペントのクッキーだった。


「おぉ、サブレ。元気だったか。久しいな」


クッキーは非常に懐っこく毎回こうやって撫でろと突進してくる。

懐いてくれればこちらとしても可愛くて仕方がない。


「すまんな、今日は土産を持ってないんだ」


撫でまわしていると視線を感じた。

誰だと思えばマォ殿が羨ましそうにこちらを眺めていた。


「触るのは後にしてまずは本題を彼らに話しましょう」


アルノーにそう言われて残念そうなマォ殿である。

だが確かにその通りなので私も会話に参加すべく移動しようとしたのだが・・・

クッキーが放してくれなかった。

仕方がないのでアルノーとリオルの会話に耳を傾けながらクッキーを撫で続ける。

しばらく会話した後に「おい、親父殿クッキーと遊んでいる場合ではないだろう」と言われたが話は聞いているしクッキーが放してくれないのだ・・・


「話はしかと聞いておる。カレフに戻るのだろう?

 ならばマォ殿我々も国を出ようではないか」

「「「 は?! 」」」

「まてまて親父殿。仮にもこの国の宰相だろう」

「なに、此度の件で責任を取り辞職すると言えば良いだけの事。

 これまでもどれだけ煮え湯を飲まされて来た事か。

 息子や親族を愚弄されてなおも国に仕えるなどありえん」


話がどんどんと大きくなっていくのでこのまま立ち話と言う訳にも行くまいと部屋で話す事になった。

その際マォ殿が赤子の乳が無いかと尋ね騎士の1人は心当たりがあるというので案内する事になったのだが何故かマォ殿が上官認識されていた。本能的に察したのだろうか・・・

マォ殿が乳を探す間に3人で話を進める。

マォ殿の性格を考えて負担にならない様にするにはと意見を出し合う。

結果として辺境の地、アルノーの故郷だった場所へ行くのがよいだろうという事になったのだが、建物の残骸すら残っていないのではないだろうか。


「ん?っ辺境にいくの? 簡単な小屋なら作れるけど?」

「うぉっ、驚いた・・・」

「マォ殿脅かさないでくださいよ」

「いつからそこに。と言うか小屋なら作れるのか・・・」


もしかしてマォ殿は何でも出来てしまうのではないのかと思ってしまった。

やはり私達の常識を基準に考えてはならないようだ。

そして魔獣であるエマレーの乳を飲んだと聞いて素が出てしまう。


「そうか、飲んでみたのか。

 ん? 飲んだのか。生で?」

「え?飲まんのん?」

「団長、自分も飲んでみましたが濃厚で美味かったであります!」

「「「 マジか! 」」」


リオルとアルノーも崩れていたので自分だけではなくてよかったと安心した。

一刻も早くここを立ち去るという事で纏まり、私は即刻部屋へ辞表を書くことにする。

一旦領地に寄って兄とも話をしておかねばなるまい。

アルノーは当然の如くマォ殿に着いて行くと言い、騎士の誓いまで立てたと言う。

いつのまに・・・

だが戸惑ったマォ殿は「どうせなら息子に」と言い出した。

少しアルノーが羨ましく思うが私とマォ殿では年齢的にも親子は無理だろうと諦める。

いすれまた会おうと挨拶をかわしリオル達獣騎士団と別れた。


政務室へと戻りダルクに指示を出す。


「ダルク、陛下にすぐに会いに行くと伝えろ」

「閣下無理です」

「何故に?」

「すでにいらっしゃってます」

「なんと・・・」


ソファに座ってのんびりと茶を啜っているエルフィンが居た。

こういった時だけ無駄に動きが速い・・・

エルフィンはすぐに赤子の存在に気付き妙な勘違いをしている。


「まさかあの愚息はそんな赤子まで・・・」


何故そうなる。大けがをして寝込んでいたのはマォ殿だけだったではないか。

現場を確認した時もおびただしい量の血痕しかなかったではないか。

動揺するエルフィンにマォ殿が説明を始めたのだが、話が進むにつれ雲行きが怪しくなる。

言葉の端々が気になり、まさかあの様子を前々から知っていたのかと疑いたくなる。

アルノーとオーウェンの顔も曇って行く。


「よそ者に何が分かる!    あ・・・」

「エルフィン!言葉を慎まぬか!」


思わず声を荒げてしまった。

何故そのような言葉が出てしまうのか、それがお前の本音なのかエルフィン・・・

何に対する怒りなのか解らないが、心底腹立だしい。

知っていて私にも黙っていたのかとか、手を打っていると言いつつ何もしていなかったのかとか。

いくら第二王子のしでかした事とは言えマォ殿はすべてを奪われた被害者である事すら忘れたのか。

これまでの信頼関係が音を立てて崩れて行った。

よそ者はさっさと退散すると啖呵を切って部屋を出て行くマォ殿。

同じく辞職を伝えてマォ殿を追いかけるアルノー。

エルフィンは私に説明を求めてくるが何故私が教えてやらねばならんのだ。

これまで国にというよりも従弟であるお前の為に頑張って来たのに、それすら無駄だったという事かと情けなくなる。


「我がウォーカー領は国境が近い事もあり亜人種への偏見や差別は無い。

 領民も皆良好な関係を築いている。

 これも曾祖父殿の教えを皆が守り父がそうあるようにと努力してきたからだ。

 我がウォーカー領は今後独自に統治させてもらうぞ。

 言っておいたはずだ。

 何かあった時は独自に動くと。

 宰相職も辞させてもらう」

「待ってくれルーク。

 其方が居なくては政が回らぬではないか」

「陛下と同じ考えの者に任せればよろしいのでは?では御前失礼致します」


私は追い縋るエルフィンの手を振り払い部屋を後にする。

早歩きでマォ殿を追いかけるがなかなか追いつかずに息が上がってしまう。

やっと追いついた時にはダルクは私の従者なので解るとしても何故かオーウェンまでもが追いかけて来ていた。

マォ殿にも声を掛けるのだが一刻も早く出たいから話は後だと言われ、先程の河原で落ちう事になった。

マォ殿が私物を取りに行くと言うのでアルノーが着いて行く。

私とオーウェンは衣服以外の私物など無いのでそのまま手ぶらで行く事にした。


「ダルク、その背負い鞄は何だ」

「私とルーク様は体力がありませんからね。

 体力回復薬と傷薬、それに湿布薬です。

 後は退職金代わりに魔道具を少々」

「なるほど、よくそんな余裕があったな」

「皆様が話されている間に準備出来ましたよ」

「さぁ急ぎましょう。あの雷鳴で皆動き出していますよ」


厩へ向かえばモファーム達も準備万端とばかりに待っていた。

すぐに乗って城を出て河原へと向かう。

気のせいかいつもより速度が速いきがする。



そしてこの後マォ殿と合流し、前代未聞の体験をして絶叫するなどこの時の私は思いもしなかったのだ。

読んで下さりありがとうございます

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