ルーク③
順調に話が進んだと思っていたのだが予想外の事が起きた。
『 マォ 日本種の異世界人
魔力量∞ 属性:ランクⅠの全属性持ち
スキル:想像力次第 固有スキル:どつく・急所掴み
ギフト:おかん 』
何処で暮すにせよ必ず身分証という物は必要になる。
この大陸ではどの国でも共通の物なので今作っておいても問題は無い。
むしろ早めに作っていた方がよいと思うので作る事にしたのだが・・・
まさかこのような鑑定結果が出るとは思わなかった。
「想像力次第でいかなる魔法スキルも使用可能という事か」
「でもランクⅠなんだよね?」
「ランクⅠですが魔力は∞となっておりますし」
「ねぇ、意味わからんのじゃけど」
「私にも分かりかねます」
「私も分からぬな」
当然と言えば当然でこのような前代未聞の結果など誰が説明できるというのか。
勝手がわかるまでは気を付けるようにという事で一旦収めた。
ダルクの説明が続く中、招き人・・・名前を呼ぶ許可が下りていたので名前で呼ぶことにする。
マォ殿がふと何かに気付いたようだ。
「ねぇ、ランクⅠだけど全属性持ちとか表示されてたらマズイんじゃ?」
「「 ・・・ 」」
「マォ殿は支払いは現金払いを好むのであったな。
ならば別途簡易身分証を発行すればよいのでは」
「あぁそれは名案ですね、そうしましょう」
王族や上位貴族の中には珍しいギフトを持っていたりする場合がある。
そう言った場合は伏せておく為、簡易的な身分証が発行されるのだ。
今回はマォ殿にもそれを適用しようと思う。
身分証の手続きも終わりマォ殿に城暮らしをしてはと聞いてみたのだが、逆の立場であればどう思うかと聞かれた。
そう言われて考えてみれば確かに馴染めないやもしれぬと思い至った。
ならばこの世界、国に慣れるまでではどうかと提案すれば納得してもらったのだが。
「城下町?王都?ここの町にはいってみてもいい?
どんな街並みなのかとかどんな店があるのかとかさ。
町の雰囲気や人々の生活を見てみたいんよね」
「王都をですか」
「確かにこの国を知ってもらうなら町を見てもらう事も必要だろうな」
「ですが警備の面で不安がありますし」
「いいじゃないか、僕が案内するよ」
「へ?!」
「殿下!」
正直面倒臭いのが現れたと思った。
オーウェン、騎士団長であり王弟であり従弟でもある・・・
こちらが紹介する前に自己紹介をしてしまい、さらには明日の午後からと勝手に決めてしまっていた。
陛下の許可はと思ったがすぐにその考えを追いやった。
陛下に言えば自分も行くと言い出し駄々をこねるに決まっている。
ふむ、丁度良い機会だ。
視察を兼ねて私も一緒に行くとしよう。
そうと決まれば書類をさっさと片付けてなどと考えている間にオーウェンは消えており、マォ殿も暇するとの事だった。
「閣下よろしいので?
明日となれば急な事で護衛などの手筈が出来ませんよ?」
「オーウェンが居るのだから大丈夫だろう。
それにマォ殿だぞ?護身位できそうでは?」
「確かにそれはそうですが・・・」
「私とて根回しなどされていない町を見てみたい。
毎度毎度根回しされてしまえば、怪しいとは思わぬか?」
「それは私も気になるところではありますが・・・」
「ああ、お前は留守番を頼んだぞ」
「えぇぇ、私は置いていくんですか」
「これまでの視察もお前は留守番だっただろ」
「2人共空けるわけにも行きませんしね・・・」
そして翌日、やはり陛下は駄々をこねた。
「陛下、私が付いておりますので大丈夫ですよ」
「オ・・・団長が一緒にか。それはまたうらや・・・ゴホン」
「それに私もご一緒しますしね」
「へ?」
「ん?」
「待て宰相、何故そなたも行くのだ。」
「視察の時期ですからね」
「別に一緒でなくとも・・・」
「私でしたらおいしいスイーツ店にもご案内出来ますし」
「スイーツ!」
なるほど、イザベルの情報通りマォ殿はスイーツが好きなようだ。
城内では普通に使用される砂糖ではあるが実は高価な物である。
平民などはなかなか口にする事が出来ぬのだが、代わりに蜂蜜や果実がたっぷりと使われた菓子がある。
その店へ連れて行けば喜ぶのではないかと手書きの地図まで渡されたのだ。
「む、でしたら私はおいしいパン屋を案内しましょう。
招き人殿はパンがお好きだと伺いましたしね」
「パン!!」
「其方達ばかりずるいではないか!私は・・・私は・・・・」
「はい、陛下はお仕事がございましょう!」
無情にも追い帰される陛下を少しだけ哀れに思うがそんな暇があるなら政務に励んでもらいたい。
「お話も纏まったようですし、皆様ご退室くださいませね。
これより身支度を整えますので男性陣は邪魔でございますよ」
他人事ではなかった。私達も追い出されてしまう。
まぁ身支度があるのだから仕方がない。
待つ間にオーウェンと2人で茶を飲む。
「実はちょっと確かめたい事もあってね」
「と言いますと?」
「宰相殿も気になっているんじゃないかな、毎回視察の時根回しがされている事」
「ええ、ですから今回はよい機会かと思いまして」
「僕も同じだよ。
見せたくない、見られたくない物があるんじゃないかと思ってね」
「陛下はこういうところが鈍感というか・・・」
「見たくない物や知りたくない事を遠ざける人だからね、兄上は・・・」
2人で軽く溜息を付いているとマォ殿の支度が整ったようだった。
迎えに行きアルノーを見た瞬間、ガックシと膝の力が抜ける感じがした。
「宰相殿・・・あれは・・・」
「気付かなかったフリをしておきましょう。
なんというか・・・」
「わかった・・・」
アルノー、お忍びとしては悪くない服装だと思う。
思うがな?お前は隠れての護衛だろう。その服装で立っていればいかにもではないか。
我等が出掛けた後に着替えるなり、誰かに交代してもらうなりだな・・・
マォ殿も同じ気持ちだったのだろう、見なかった事にしたようだった。
王都へ繰り出すにあたり馬車を用意したのだがマォ殿はモファームに乗って行くと言う。
私やオーウェンの心配をよそにもっちゃんと名前まで付けて撫でまわしている。
嬉しそうにモファームを撫でまわす女性は初めて見た気がする。
本人がよいのであればと騎乗して出かければモファームもマォ殿もすこぶるご機嫌だった。
町の待機場へモファームを預けて街中へと入って行く。
私には見慣れたこの街並みもマォ殿には珍しいようで少女の様に目を輝かせている。
まずは腹ごしらえという事になり食事処を目指したのだが、噴水の前で揉めている様子が見えた。
まったく最初からこれでは先が思いやられる。
物取りかひったくりだろうと通り過ぎようとした時に声が聞こえた。
「私たちは不法移民ではありません、ちゃんと市民権も得てます!」
市民権とは他国民が一定の金額を支払う事で得られる滞在許可証だ。
という事は他国民か。
どうすべきかとオーウェンを見ればオーウェンもこちらを見ていた。
そんな私達を置いてマォ殿は走り出していた。
静止するオーウェンを振り切ってマォ殿は駆け寄り、蹴った。
よくよく見れば獣人の親子に絡んでいたのは騎士達だ。
その騎士達をマォ殿が蹴った・・・
女性が蹴るなど、しかも騎士相手に・・・
呆気に取られている場合ではない、このままではマズかろうと慌てて駆け寄る。
「落ち着けマォ殿」
「お前も落ち着つかないか、どこの所属だ」
「うっさいルーク、こいつら・・・
あ、あの親子は!」
「邪魔をするなら貴様も捕縛するぞ、俺を誰だ・・・と。ひっ団長!」
「随分と威勢がいいな。
ルーク、僕はこいつらを連れて先に戻るね。
アルノー、どうせ居るのだろう。代わりに護衛に着け」
「・・・承知いたしました」
物陰からアルノーが出て来て護衛に就いた。
オーウェンはまるでゴミでも扱うかのように縛り上げた騎士達をモファームに積み上げて帰って行った。
すでに事切れている獣人の親子を抱きしめマォ殿は静かに肩を震わせていた。
「マォ殿・・・」
「ルーク、この親子を埋葬したいんだけど」
「残念だが埋葬できる場所はこの町にはあるまいな・・・」
「なら、町を出てどこか河原に行きたいんだけど」
「わかった、マォ殿は子供の方を頼む。母親は私が抱えよう」
「いいの?」
「我が領地ではこのような偏見は無いからな、私とて気にせぬよ」
「ありがとう・・・」
ここでも補助魔法が役に立った。
亡骸を抱えられぬ軟弱な姿などさらしたくは無かった。
補助魔法はあくまでも補助であり体力の前借だ。
前回同様しばらくは痛みに襲われるだろうが、日ごろから鍛えていない私がある意の出致し方あるまい。
何処か弔うに良い場所はないかとアルノーに訪ねてみたところ、心当たりがあると言うので案内してもらった。
案内された先は河原だった。
到着するとマォ殿は遺体をそっと置いた後、流木を集めて積み上げその上に親子をそっと横たえた。
「埋葬するのでは?」
「そう思ったけど場所もなさそうだし、荒らされても嫌だからさ。
火葬にして遺灰は川へ流してあげようかと。
川は海へ繋がってて、海はいろいろな国に繋がってるでしょ。
魂は故郷に帰れるかもしれないじゃん・・・・」
「なるほどな。では私も手伝うとしよう。私は火属性だからな」
「なるべく高温でお願い」
確かに埋葬したところで悪意のある連中は荒らすだろう。
まさかこのような事が起こるとは・・・
住人達のあの目つきや態度から、これがたまたま起きた事ではないと察する事が出来た。
なんということだ・・・
城のお膝元とも言えるこの街でこのような事が起きているとは・・・
私は視察と言いながら一体何を見ていたのだろう・・・
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