ウォーカー領⑨
アルノーの食事も済ませ、屋敷へと戻ればスカイラーが来ていた。
「お邪魔しているよ」
「領主殿いらっしゃい。何か用があったん?」
「用と言うかなんと言うか・・・」
「歯切れ悪いね、なんなん?」
「妃殿下の名をかたった陛下から書簡が届いてな」
「うぇっ・・・」
「うぇっておかん。仮にも陛下からなのだから・・・」
「そうじゃけど嫌な予感しかせんのじゃもん」
取り合えず内容を教えて貰うのだが、マォは盛大に叫ぶ事となる。
「戻ってきてくれ、手伝ってくれって知るかよ!
なぁに他力本願な事言ってんのさ!
自分等の国の事だろうがよ!自分等で考えろよ!
手助け希望するなら自分の身内頼りやがれ!儂に頼るな!
儂、助言する義理はねぇぞ!」
「「「 ごもっとも・・・ 」」」
マォはルークの腕をむんずと掴み外へと出る。
「ルーク、城の方角はどっちだ」
「この方角だな」
マォはルークが指さした方角を睨むと映画にあるような竜巻と落雷をイメージした。
遥か遠くにピカッと稲妻が見えた。
「ふんっ」
「「「 ・・・ 」」」
「おかん、今のは・・・」
「アルノー、気にしたら駄目だ・・・」
屋敷内に戻りマォは溜息を付く。
「よし、ルーク。儂等明日には此処を出よう。
領主殿はすでに領地におらず行き先は知らないとでも返事を」
「承知した」
「では荷物を纏めておきますのでマォ様は食事の用意をお願いいたします」
「私達も食事が出来るまで荷造りをするか」
「マォ殿が料理をされるのか」
「マォ殿の料理は旨いぞ兄上」
「領主殿も食べていく?」
「それはありが」モガモガフガッ
「兄上は忙しい身ですからね、すぐに暇するそうですよ」
スカイラーの口を押えて代わりに返事をするルーク。
ささ、お帰りはこちらからですよなどと言いながらスカイラーの背中をグイグイと押していく。
恨めし気な目をしながらトボトボとモファームに乗り込み帰って行った。
「少しばかり可哀そうではないですか」
「何を言う、1口でも食わせてみろ。入りびたるぞ」
「なるほど、それは困りますね」
(ならば自慢げに旨いとか言わなければよかったのに・・・)
ルークとダルクの間でそんな会話がなされているとも知らず、マォは夕食作りに励んでいる。
本日はロックバードの照り焼きとサラダ、それにシチューだ。
ドロップした調味料の中に醤油と砂糖と生姜があったのだ。
今までも醤油がドロップした事はあるらしいのだが、見た目の黒さと独特の匂いで皆捨てていたらしい。
醤油があれば料理の幅も広がるのにもったいないと、マォが使って見せる事にしたのだった。
照り焼きは老若男女問わずに人気があるので大丈夫だろうとマォはワクワクしている。
(食べた時の皆の反応が楽しみだ)
皆大食漢なので量は多めに用意してある。
出来上がった頃に皆集まってきた。
「マム!ガイアのミルクは完了であります!オムツも変えたであります!」
「ありがとうジャック。助かるよ」
ジャックは時々ガイアの世話をしてくれている。
赤ん坊の扱いも上手いので安心して任せられる。
勿論イザベルも時々世話をしてくれているし、アルノーもたまに手伝ってくれている。
ガイアはとてもいい子で、お腹がすいた時とオムツが汚れた時以外は静かに寝ていてくれる。
(うちの子達は寝グズがひどかったんよなぁ)
そんな事を思いながら食事を始める。
「この香ばしい香りがあの黒いソースなのか」
「食欲をくすぐるな」
「これは、身がパサついておらぬな」
「こんなに柔らかくジューシーなロックバードは初めてであります!」
「私ロックバードは苦手でございましたが、これは別物ですね」
皆一言感想を言うと後は無言で頬張り始めた。
食べるというよりは飲んでいるんじゃないかと思うような勢いで無くなって行く。
あんなに大量にあったはずなのにどこへ入っていくんだかと不思議に思うマォである。
「野菜も食べるようにね。じゃないとデブ・・・狸貴族みたいになるよ」
「「「 ・・・ 」」」
「イェスマム!」
「禿ても知らんけぇね」
「「「 それは困る 」」」
勢いよく野菜に食いつく男性陣を見て、なるほど太るよりも禿るの方が効果があるのかと思うマォだった。
用意してあった食事は見事綺麗に無くなり、後片付けはイザベルとダルクが担当した。
食後のお茶を飲みながら明日の予定を立てていく。
「明日は朝食後すぐに出発ですか?」
「うん、向こうに着いてから寝る場所の確保もせんといけんし」
「エアレーも2頭ほど確保してあるであります!」
「さすがジャック」
「何か買い忘れなどはないか?」
「まぁあってもすぐ買いに来れるし大丈夫じゃないかな」
「では明日は辺境に到着したらまず寝床の確保だな」
予定というほどの予定でもなかったようだ。
其々が部屋へと戻り眠りにつく。
マォは夢を見る。
あの家に居る夢だ。
「あ、おかん。ちょうどええとこに!」
「どしたん?」
「白菜キムチのつけ方教えて」
「教えてと言われても」
「大蒜と唐辛子だけじゃないん?」
「ぶっ、違うね・・・」
基本のヤンニョムダレの作り方を教えていく。
「へぇ、そねぇによぉけはいっちょんじゃ」
「夏場の直射日光は避けんさいよ」
「わかった」
「そういえばさ、この前ゆっちゃんにチュッパ〇ップス貰ったじゃん。
起きたらそんまま手に持ってたわ・・・」
「マジで?」
「うん、ほんでこれそのゴミね」
「ぶっ。ゴミくらい自分で捨てんさいや」
「セロハンとかプラ、向こうに無いんじゃもん」
「あー、なるほど。ほいじゃぁ捨てれんね」
「でしょ。頼んだ」
とゴミを手渡して目が覚めたマォ。
「嘘じゃろぉぉぉ、あんだけ?!」
「おかん、うるさい!」
「マォ様お静かに」
「すまん・・・」
枕の下に隠しておいたゴミを確認してみるとちゃんと無くなっていた。
(うわぁすごっ。てかあれ本当に夢なん?なんか違う気がするんじゃけど)
そう思うが考えても分からないので考えるのを止めるマォである。
まだ夜明け前なのでもうひと眠りする事にした。
朝起きてマォはすぐに朝食のクラブサンドを準備していく。
飲み物はドロップの中にあったコーヒーにした。
カリカリに焼いたベーコンの匂いにつられて皆が起きてくる。
「おはようございます、マム!ガイアはまだ寝ていたであります」
「おはようジャック。ありがとうね。
ところでジャックさ。今更なんだけど国元に帰らなくて大丈夫なん?」
「大丈夫であります!」
「そっか、それならいいんだけどさ」
「何か手伝う事はあるでありますか」
「じゃあそこの果物運んでくれる?」
「イェスマム!」
イザベルやダルクもサラヤカップを並べたりと手伝っている。
アルノー、ルーク、オーウェンはモファームや騎獣へ餌をやっている。
クラブサンドが出来上がるタイミングで戻って来た。
「さぁ出来たよ」
山盛りになったクラブサンドを目の前に皆が一斉に食らいつく。
「このように焼いたパンに挟んだものは初めてだな」
「香ばしさがいいですね」
「ベーコンのカリカリ具合も最高であります!」
そして無言になり食べ進めるのであっという間に無くなってしまうのである。
(この食欲から考えてもう1人料理出来る人が欲しいなぁ)
などと思うマォであるが、その望みが叶うのはもう少し後になる。
食後の後片づけを終えて、戸締りの確認をし屋敷を出発する。
マォはルークとダルクに残ってもいいんだよと言ったのだが2人共付いて行くと言った。
「なにせルーク様はマォ殿がぐえぇぇっ」
「なんだよ儂がぐえぇって・・・」
ダルクの首をルークが締めているので変な声が出てしまったのだ。
「なにしちょんルーク・・・」
「あ、いやちょっと、な?・・・」
何を言い掛けたのか気にはなったが聞いてくれるなとダルクが目で訴えている。
「取り合えずダルクを解放しちゃげて?」
「勿論だとも」
手を放しながら余計な事を言うなと囁くルークであった。
「もっちゃん、ここから辺境の地までどんくらいかかる?」
『マォがリンゴ1個食べ終わるくらい』
「ん?」
『すぐってこと~』
「そっか。じゃあよろしくね」
『もっちゃん、行きます!』
もっちゃんは走り出し森へ入るとひょいと木を登り始めた。
「えぇぇ、ちょ、もっちゃんや?!」
「もっちゃんさんは木にも登れ・・・ひゃあ~!飛ぶのですか」
そうもっちゃんは木に登ったかと思えばピョンピョンと枝を飛びわたって行くのだった。
「もっちゃん、こんな移動も出来るんだ・・・」
『モモとチョコに教えて貰った』
「へぇ、そうなんだ。モモとチョコにね・・・ モモに?!」
(チョコは蜘蛛だしまだ解る。だけどもモモちゃんは?
バジリスクと言う名前の鶏だよね?鶏って枝を飛び移るんだっけか?・・・)
元の世界で飼っていた鶏を思い出してみるも木々を飛び移っている姿なんて当然見た事がある訳もなく・・・
『マォ、モモはバジリスクだからね?
マォの思っている鶏とやらとは違うからね?』
もっちゃんに念を押されるマォであった。
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