ダンジョン
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
ダンジョン内にマォの雄叫びがこだまする。
朝食後に準備を整えてダンジョンに向かった。
ジャックに出入口の見張りを頼み一行は奥へと進む。
パッと見は普通の洞窟に見えたのだが中へと踏み入ればモワンとした湿った空気が体に纏わりついた。
足元も濡れていて所々に水たまりも出来ている。
戦闘は慣れているアルノーに任せた。
各々でライトを照らして慎重に進んで行くのだがグニュリとした嫌な感触が足に伝わる。
何を踏んだのだろうかと足元を確認した結果があの雄叫びである。
「おかん、どうした!」
「なんか腐ったスライムみたいなん踏んだ、うぇぇぇぇぇキモッ」
「ああ、そいつはゾンビスライムと言って不気味なだけで
実害はないから安心していい」
「んな名前で安心出来るかぁ!」
マォは高温の炎を放ってゾンビスライムを蒸発させるとコロンと何かが落ちた。
深緑色の小石だった。
「なにこれ」
「魔石だな。ダンジョンモンスターと妖魔の核みたいなものだ。
魔道具の素材になるから売れるぞ」
「へぇ・・・」
なんとなくそのままだと触りたくなかったので水で洗ってから袋に入れておいた。
次に遭遇したのは斑模様のカビた饅頭のようなモンスターだった。
マォ達の気配に気づくとニョキンと伸びて胴体の様なものが現れる。
「ポイズンスポアか、おかん口元を布で覆え。
胞子を吸い込むなよ!」
ポイズンスポアはゲームにも居たなと思うマォだがゲームのスポアは2頭身で可愛かった。
だがこちらのリアルポイズンスポアは可愛くない。
(そりゃそうか、リアルのモンスターに可愛さ求めたらあかんじゃろ)と思うマォである。
ただ動きは可愛かった。
「「「 ぶっ 」」」
フラダンスの様にお尻をフリフリ踊りながら胞子を撒くのである。
「この踊りに呆気に取られて胞子にやられる初心者が多いんだよ」
「なるほど、そりゃ初めてこれ見たらそうなるじゃろうな」
ポイズンの名がついては居るが致死毒ではないという。
ただ体がしびれて動けなくなってしまうらしい。
「所詮キノコの類であれば燃やしてしまえばよかろう」
ルークとオーウェンが火を放つ。
「火はダメだ!」
「「ん?」」
ポンポンとポップコーンが弾けるような音がして、ポイズンスポアが増えた。
「ちょ・・・」
「だからダメだと言ったんだ・・・」
「「 あぁぁ・・・すまぬ 」」
群れとなってにじり寄ってくるポイズンスポア達は相変わらずお尻をフリフリしている。
「どうすんのさこれ」
「触りたくないぞ」
「触ると手にキノコが生えるぞ・・・」
「「「 げ・・・ 」」」
「火がダメなら凍らせるのはいかがでしょうか」
「いやそれもダメだ。乾燥させるのが一番いいんだが」
「火はダメなのだろう」
「温風でええんじゃないん?」
「マォ殿、2属性同時に発動させる事は困難なんだ」
「いえ、もしかしたらマォ殿であれば可能なのでは?」
マォはドライヤーの熱風を思い浮かべる。
ドスンッと音がして地面が揺れた。
「 ・・・ 」
「マォ殿これは?・・・」
「熱風だけでええのにドライヤーごと出てくんなや!」
これは想像する時部分的にしなければと思うマォである。
これはいったい何なのだと騒ぐ皆をよそに、取り合えずそのまま熱風を発生させる。
「はい、皆避けてね」
「ぶぉっ、熱い!」
「だから避けろちゅうたじゃん」
コンコロリン コロンコロン
こげ茶色の魔石があちらこちらにと転がりポイズンスポアの群れは消えた。
「予め弱点とか分かればええのに・・・」
「ダンジョンは毎回ランダムでモンスターが湧くからな。
何が出てくるのかは遭遇するまで分からないんだ」
「なるほど、攻略方法とかないんか・・・」
次は何が出てくるのかと用心しながら奥へと進む。
ピチョンッ
首筋に水が落ちたようで、手を伸ばすマォ。
ヌメッ
(ヌメッ?)
嫌な予感がして恐る恐る手を確認すれば・・・
「ぅげぇぇぇっ」
慌てて手に付いたものを振り払うとそれは違う方へ飛んで行った。
「どうしたマォ殿・・・ヌチョッ。 ぎゃぁぁ」
ルークの顔面に張り付いてしまった。
「ダルク!取ってくれ!」
「えー、嫌ですよ。触りたくないです・・・」
「オーウェン!」
「できれば私も触りたくないのだが・・・」
渋々とソレを払い落としてやった。
「スラッグだな。雷系の魔法に弱い。
長時間接触していると肉が解けるから気をつけろよ」
「アルノー、はよゆうてくれんかね・・・」
「すまん、見えなかったんだ」
足元に落ちたスラッグに電流を放とうとしてマォは気が付いてしまった。
周囲の壁に大小さまざまな大きさのスラッグと髑髏模様のムカデらしきものが蠢いている事に。
「うぇぇぇぇぇ」
叫んだと同時にバチバチと音を発しながら電流が走った。
無意識だった為モンスター以外にも当然飛んでいく訳で・・・
「あぶねっ!おかん、魔法を撃つなら先に言ってくれ」
「すまん、無意識になんか出てもぉた」
「あぁぁ、私の髪が焦げたではないか!」
「ぶっ、ルーク様・・・チリチリになって・・・ぷくくく」
「笑っているがダルクの髪もだぞ」
「えぇぇ、マォ殿なんてことを!」
「悪かったって。無意識だったんだから勘弁してくれ」
多少の犠牲は出たものの、周囲のモンスター達は殲滅できたようだ。
落ちている魔石を拾い集めて奥へと進んで行く。
次に遭遇したのはゴブリンだった。
ぎょろっとした目にとがった鼻と耳、背は低く手は長いのに足が短い。
ゲームに出てくるゴブリンよりも不気味だと思うマォだったがある事に気づいてしまう。
「腰布くらい巻けや!んなもん見せんな!」
マォは奴らのブツが見えない様に腰周辺を氷で覆った。
ゴブリン達は冷たいのか痛いのか、右往左往している。
「今がチャンスだ。首を切り落とせ」
アルノーの指示で其々が剣や魔法でゴブリンの首を切り落としていく。
コロコロと魔石が落ちていく中で時々箱や革袋も落ちていた。
「お、なにかドロップが出たな」
ゴブリンの殲滅が終わるとドロップを回収していく。
中身の確認はダンジョンを出た後にする事になっている。
何が出るのか楽しみなマォであった。
「この先が少し開けているみたいだな。そこで休憩にしよう」
言われてみれば10m先に少し開けた場所があった。
そこへと移動し腰を下ろしてイザベルが用意していた飲み物と軽食を受け取り一息つく。
軽食はマォが作っておいたロールパンのジャムサンドである。
「疲れた体にさっぱりとした甘さが染み渡るな」
「ジャムが作れるほど砂糖があったのですか」
「ん?砂糖は使っちょらんよ。
こっちの果物って糖度が高いから砂糖使わんでも甘さがあるん」
「「「 え? 」」」
「これに砂糖なんか入れたら甘くて食えんこなるじゃろ」
「なるほど、だからさっぱりとした甘さなのですね」
「え?もしかして皆今までくっそ甘ったるいジャム食ってたん?」
「ジャムとはそういった物なのかと・・・」
「そ、そっか・・・」
想像するだけで胸やけがしそうなマォであった。
休憩をすませるとそのまま奥を目指す。
これ以上変なのが出ませんように、もう少しマシなモンスターが居ますようにと願うマォだったのだがその願いはかなう事が無かった。
「ちょぉー、なんじゃこりゃぁよぉ」
「おかん、これは毛玉だ。視線を合わせるとマズイ事になるから気をつけろ」
「は?! 毛玉?毛玉ってのはこうモフモフのにゃんことかじゃないんか!」
「どうやって倒せばいいのだ」
「わからぬ」
「「「 えぇぇ・・・ 」」」
「以前遭遇した時は母が倒したんだ」
「どうすんだよ!」
毛玉とはばっさばさの長い睫毛の巨大な目玉である、そう目玉だけのモンスターだ。
そんな相手と視線を合わさず倒すにはどうすればと悩む一行。
「誰か投げナイフか投げ斧持ってたりしない?」
「「「 ・・・ 」」」
「それをどうなさるおつもりですか」
「デカかろうが睫毛が長かろうがようは目玉なんじゃろ。
じゃったら目潰しをすればと思ったんじゃけど」
「そうか、視線を合わさない様に目を潰せば戦いやすくなるのか」
「目潰しでございますか。であればこれなどいかがでしょう」
イザベルが取り出したのは唐辛子の粉末だった。
騎士団でも目潰しや相手をひるませる場合に使っていたものだ。
「なるほど騎士団でも使っていたな」
「だがよく持っていたな」
「追手が来た場合には投げつけようかと用意しておりました」
「そ、そうか・・・」
イザベルが毛玉に向かって投げ、ルークとマォで追い風を起こす。
何とも表現しがたいような金切り声の悲鳴を上げ身悶える毛玉。
皆で一斉に切りかかるが長い睫毛で振り払われてしまう。
(確か目玉の成分ってほとんどが水だった気がする)
ならば電気が有効であろうと思い、マォは毛玉に向かって雷の矢を放つ。
バチバチッと感電するような音がした後に毛玉は破裂して消えた。
「お、やったぜぃ!」
ガッツポーズをとるマォだったが、よく見ればダルクとルークがしびれてヒクヒクしている。
「あれ?」
「あれ、じゃないぞおかん・・・」
「魔法を撃つなら事前に言ってくれと・・・」
どうやらダルクとルークが剣を振り下ろした時とマォが魔法を撃った瞬間が重なったらしい。
「そりゃぁタイミングが悪かったね。ごめんよ」
「何故私達だけ・・・」
「まったくだ・・・」
何はともあれここが最奥地だったようで、あの毛玉がボスだったようだ。
毛玉が落とした特大の魔石とその他のドロップ品を拾い集めて帰る事にした。
出口に到着した時、ダルクとルークの姿を見て込み上げる笑いを我慢するのが大変だったジャックは見張りでよかったと心底思うのであった。
読んで下さりありがとうございます。




