事の始まり③
「ご高齢って、そこまで高齢じゃねぇわぁぁ!」
叫んで目が覚めた。
どうやら寝ている間にあの男性の言葉がよみがえったようだった。
あれからどのくらいの時間が過ぎたのだろう。
寝ていたのか気を失っていたのかも定かではない。
「目を覚ましたか」
「ふへっ?!」
ふいに声が聞こえて横を見てみれば誰かが座っていた。
あの男性ではなさそうなので少しホッとする。
目を凝らして確認しようと試みるも・・・やはり見える訳がない。
なんせ 近視乱視老眼のトリプルである。眼鏡がなければすべてがぼやける。
まったく見えない訳ではないのが救いではある。
ぼやけてはいるが、なんとなくの輪郭などは見えるのだ。
声からすると落ち着いた雰囲気があるので先程の男性よりは年上だろう。
と、その人物と目が合ったような気がする。ぼやけているから断言は出来ない。
「この度は非常に申し訳なかった」
いきなり頭を下げられた。
声のトーンからしても本当に申し訳なく思っている様子が伝わる。
「勝手に召喚術を発動したあげく暗殺者に狙われ
あまつさえ招き人に怪我を負わせ治療もおざなりとは・・・
重ね重ね申し訳ない」
なるほど、さっきの無感情男の説明よりはストンと理解出来た気がする。
小難しい言い回しよりも単純明快に言われる方が分かりやすいのだ。
この言い方だと多少の治療はしてあるのだろうか。
どれどれ、と体を動かしてみるが顔をしかめてしまった。
(うっ、ひきつるような痛みはあるけど多少は楽になっちょるかも)
「ああ、無理をしてはならぬ」
そっと背中に手を当ててゆっくりと上体を起こし、背中にクッションをいれ体制を整えてくれた。
「ありがとうございます。状況はなんとなく理解はしましたが
いくつか質問をよろしいでしょうか」
普段は方言丸出しで少々荒っぽい喋り方ではあるが、喋ろうと思えば敬語も標準語も一応は使える、一応はだが。
「可能な限りは答えよう」
落ち着いた声の持ち主はそう答えた。
「では聞きたい事はまず3つ。
1つ、あなたは何方でしょうか。
1つ、何故治療もされずに放置に近い状態で居たのでしょうか。
1つ、私を召喚した当本人は何故に姿をみせないのでしょうか」
此処は何処とか召喚された理由は後回しでいい。
1つ目の質問はごく普通の疑問な訳で、残りの2つについては疑問と同時に怒りもある。
答え如何では声を荒げるつもりでもある。
「失礼した、最初に名乗るべきであった。
私は当国の王エルフィン・ド・ウォール。
貴殿を召喚したあの愚者の父でもある」
チーンと頭のどこかで音がした。
国王だったよこの人・・・
国王に向かって普通に喋ってたし起き上がる介助までさせちゃったよ・・・
やらかした、後で不敬だとか言われるんだろうか。
確かあの男性は王城だの第二王子が云々だのとか言っていた気がする。
気がするけどもまさか国王がここに居るとは思わないじゃないか。
少しばかり遠い目をした顔になってしまったのは仕方が無いと思う。
「治療も施さずにいた理由については・・・
貴殿の気を害するかもしれぬので控えたいのだが」
「構いません。気になるので教えて頂きたいです」
「どうせ死にかけの老婆なのだから治療など無駄だ、捨て置け
などと言い放ったそうだ。まったく愚か者めが・・・」
(老婆・・・そりゃアラ還で孫もおるけど白髪だってまだ少ないし!
あの最初の男性といい、この第二王子といい高齢だの老婆だのと
拉致犯に老婆とか言われたかぁねえわ!)
声を荒げそうになった自分を何とか落ち着かせ深呼吸をし、3つ目の質問の答えを待った。
「本来ならば当本人にも謝罪をさせるべきではあるが
再教育と反省を促す為に自室にて軟禁状態にある。
情けない事に今の状態では謝罪などしそうになくてな、すまない」
「さようですか、答えて頂きありがとうございます」
なるほど。
これは甘やかされて育ち我儘自己中全開と言う事だろうか。
それとも周囲に悪臣が居て踊らされて・・・ないな。
悪臣もいるかもしれないが、老婆だの捨て置けだの人間性の問題のような気がする。
そう考えればムカムカと怒りが湧いてくる。
「概ね理解しました。それでは陛下1つお願いがございます」
「なんであろうか?可能な事であれば叶えよう」
「では遠慮なく。目を閉じて両手で耳を塞いで100まで数えて下さいませ」
ニッコリと微笑んでみれば、不思議そうな顔をしながらも目を閉じ耳を塞いでくれた。
では 失礼して・・・
「っざけんじゃねぇぞこのクソガキがぁぁぁ!
拉致っといて老婆だから捨て置けとかマジありえねぇ!
そもそもが儂まだ老婆言われるほど年喰ってねぇわぃ!
なんか用があって呼んだんじゃねぇのか、あぁん?
それともあれか、嫁でも呼んだのかっつーの、くそがぁぁぁ!
召喚術ってそない誰でもがほいほい使えるもんじゃねぇんじゃねぇの?
そもそも異次元だか異世界だか知らんけど呼んでんじゃねぇよ!
呼ぶならせめて自国民にろよ。
と言うか誰か止めろよ、止めれないなら陛下に報告でもしろよ!
暗殺者が紛れてたって護衛は?警備は?どうなってんだよ!
護身術くらい習っとけよ!
しかもなんで儂が身代わりになっとんじゃい、訳わからーん!
クソガキ王子も護衛も警備も全員厳しく再教育した方がいいんじゃね?
まぁもっとも儂がそんな心配する必要もないんじゃけど!
さっさと怪我治して元の世界に帰しやがれぇぇぇぇ!!」
感情のままに叫んでスッキリしたと思ったら ケホッ と吐血した。
水分補給もせずにずっと寝ていて弱った喉で叫んだものだから細い血管が切れたらしい。
「だ、大丈夫か! 誰か! 医師を!治癒師を呼べ!!」
陛下が慌てて叫んでいる。
TOPたる者いかなる時も冷静に、表面上だけでも冷静に・・・
よくゲームでギルマスにも言ってたなぁなどと思い出している場合ではない。
陛下を落ち着かせなければ。
「大丈夫ですよこれくら・・・ ダバァー」
「うぉあっ・・・ タオル!タオルを!!」
いやいや陛下落ち着いてくださいなどと言いつつ また意識を失ったようだ。
腹部の傷での出血と今の吐血で間違いなく貧血なのだろう。
増血剤か鉄剤が欲しい、そう思いながら。
読んで下さりありがとうございます。




