ウォーカー領⑤
傷は腕や足にもあったが背中が一番多かった。
傷口周辺の色が変色している事から毒が塗ってあったと考えられる。
「急いで解毒薬を取ってくる」
「待ってアルノー。その必要はないよ」
「おかん、解毒魔法も使えるのか」
「どうなんじゃろ、でももっといい方法があるん」
そう言ってマォは例の呪文を唱える。
「痛いの痛いのそこに転がってる狸とじらくりんぼに飛んでいけー!」
シュワシュワとサイダーの泡が始めるような音がしてオーガの傷は癒えていく。
変色していた傷口回りの皮膚も正常に戻ったようだ。
「うぉっ」
縛り上げられた2人をモフーに積んでいたオーウェンが変な声を上げる。
無事に傷と毒は飛んでいったようで少々気味の悪い姿になった2人の禿貴族。
(腐乱死体・・・ゲフンゲフン)
思っても口にしないマォ達であった。
「私はこれ等を領主に届けてこよう」
オーウェンは町へと戻って行った。
オーガ親子の傷は消えたもののまだ弱り切っている。
「体力も魔力も消耗してるようだな」
「回復させるには何がいいんだろう。やっぱ肉?」
「もしくは回復薬だろうな」
「持ってる?」
「1つなら・・・」
「じゃぁまずは子供からだね、飲ませてあげて」
さて母親の方はどうしようと考えて、マォは城に居る時に読んだ本の内容を思い出す。
すべての生き物は大小の差はあれど魔力を持っている。
魔力が枯渇すれば死ぬ事もあるので気を付けなければならないが、緊急事態の時は分け与える事も可能だ。
この事をマォは血液と同じかと覚えていた。
(分け与える=輸血? 注射針とかチューブとかないじゃんね。だったら)
「オーガのお母さん、口開けてもらえるかな」
「おかん、何するつもりだ」
「手っ取り早い方法」
マォはナイフで掌を切ると、ポカンと開いたオーガの口に突っ込んだ。
「ふごっ」
「ごめんね、でも我慢して飲み込んで」
「おかん?」
「魔力は血液にも含まれちょんじゃろ?ならこれが早いん」
「なるほど。 いやそうではなくてだな。口に突っ込まなくてもいいだろ」
「零れたらもったいないじゃん」
「いやだから・・・・おかんがいいならいいか・・・」
どういえばいいのかわからなくなって諦めたアルノーである。
少ししてオーガはペッとマォの手を吐き出した。
「もういいのかな?」
コクンと頷くオーガ。
子オーガの方は薬が効いたのか眠り込んでいる。
顔色もいいようだ、たぶん。
何せオーガの肌は明るい緑色でマォは初めて見るのだから分からない。
ただ寝息は穏やかなので体力も魔力も落ち着いたのだろうと判断した。
『マォ、オーガが名前付けて欲しいって』
「へ?」
『マォと話したいから名前欲しいって』
「それってどゆこと?」
「おかん、オーガは従魔契約したいと言っているんじゃないのか」
「えぇぇ、マジで?
話せるのはありがたいけど、従魔とかダメじゃろ・・・」
母オーガはショボンとしてしまった。
それを見てマォはなんだか申し訳なく感じてしまう。
「いやだってね?
嫌とかじゃないんだよ?
でも従魔って事は儂と行動する事も出てくるだろうしさ。
もしかしたら命令に従わなきゃならないかもなんだよ?」
『マォ、このオーガももっちゃんと一緒。
マォの事好き、それだけ』
「うん、それはすごく嬉しいんだけども・・・」
「おかん、ほかの変な奴に隷属化されたりするよりはいいんじゃないか。
それにおかんはもっちゃんに対してだってなにか縛るような事はないだろ?」
「当たり前じゃん。もっちゃんは仲間であり友達だよ。
そうか、従魔契約してもしてなくても同じか」
『会話が出来るか出来ないかの差だね、マォの場合は』
「そっか、会話が出来るか出来ないかの差・・・・
って、もっちゃんや?いつ従魔契約なんかしたかいね?」
『名前貰ったからマォが寝ている時に魔力ちょっと齧った』
「へ? 齧る事出来るの?!」
何やら爆弾発言をしたもっちゃんである。
どうやって齧るのかとか従魔でいいのかとか思うところはあったが結局は気にしない事にした。
マォにとっては分からない事や不思議な事だらけの世界である。
ゲームや小説で似たようなのがあったな程度で気にしない方がよい。
いちいち気にしていたら頭から煙が出そうなのだ。
「分かったよ、名前ね。名前付ければええんじゃね」
母オーガは期待の眼差しをマォに向ける。
そんな期待されても困るのだがと思いながら考えるマォ。
なかなか良いのが浮かばず、オーガを文字ってオルガと名付けた。
『オルガ、気に入った。助けてくれて感謝する』
「もちっと早く来れればよかったんじゃけど、ごめんね」
『主は町の住人か?』
「ぶっ、主は止めて欲しいかな。マォと名前で呼んでおくれ。
町の住人ではないかな。
数日は滞在するけどその後は辺境の地に向かうよ」
『辺境の地?』
マォは土地勘が無いので説明をアルノーに変わって貰った。
オルガの住む森から北東に位置するのが辺境の地になるらしい。
オルガたちオーガは其処を魔の森と呼んでいるそうだ。
なんだか物騒な呼び名だと思ったアルノーとマォだが、スタンピード後に人が居なくなり魔物や魔獣がのんびりと過ごしている森だからそう呼んでいるらしい。
この周辺に住んでいる魔物や魔獣は温厚な種族が多いのだそうだ。
『なるほど、ならば我が一族も其処に移り住んでもよいだろうか』
「ん?一族で?」
『子は一族にとって宝。子を助けたマォは我にとっても一族にとっても恩人だ。
魔の森に住むのであれば我らが助けになれる。
それに町の住民は良い者ばかりだがいつまた変なのが現れるか分からぬ』
「まぁ確かにね。いくら検問厳しくしても紛れ込んでくる奴はおるじゃろうし
落ち着いて子育ても出来んじゃろなぁ。
よし、じゃあ一緒にのんびりと暮そうか」
『感謝する、マォ』
話が終わる頃、ルーク・ダルク・スカイラーの3人を連れてオーウェンが戻って来た。
「マォ殿無事か」
「あれ、ルークまで来たんか。儂は無事じゃよ」
「あの阿呆についての話は聞いた。こちらで適当に処分しておこう」
「適当にって・・・まぁ自業自得で毒に置かされてるし放っといてもいいか」
「報告書には適当な理由をつけておくから安心いたせ」
「で、マォ殿。そちらのオーガは・・・」
「ん?仲良くなった」
4人にこれまでの事を説明する。
「オーガが仲間に・・・」
「オルガって名前があるから名前で呼ぶように」
「失礼した。オルガも辺境の地へ行くのか」
「マォ殿、オルガのようなオーガが従魔になるなど聞いた事も無いのですが」
「ダルク、従魔じゃない。仲間だ」
「あ、はい。失礼しました」
「オルガと言ったか。此度はすまなかった。
今後はこのような事が起こらぬよう警備を一層強化しよう」
『この人誰?』
「領主殿、初対面ならまず自己紹介だよね。オルガが戸惑っちょるよ」
「む、そうであったな。重ね重ね失礼した。
私はこの地を収める領主でスカイラーと言う」
『領主、族長か?』
「違うね、んーと村長なら分かるかね?」
『分かる』
「村長よりもちょっと偉い人じゃよ」
『そうか、分かった。
この時期は子育て中の魔獣も多い。気を付けて欲しい』
オルガはスカイラーの言葉も理解している。
だがスカイラー達はオルガの言葉は分からないのでマォが通訳をする。
スカイラーは町の人にも注意を促すと言ってくれた。
そしてオルガの無事も確認できたからと帰って行った。
ルークとダルクは一応用事は済んだからとこのまま一緒に屋敷へと戻る事になった。
オルガは子を連れて一族の元へ戻り話をすると別れて行った。
話が済んだ後は先に辺境の地へ行くと言っていたのでアルノーは居住区があった場所に井戸が残っているだろうからそこを目指すようにと伝えた。
屋敷に戻ると何やら騒がしい。
「ただいま、って何騒いじょるん?」
「あ、マォ様お帰りなさいませ。
町の方々がオーガを助けて貰ったお礼だと色々届けて下さったのです」
「へ?」
言われた場所に目を向ければ、食材が山積みになっている。
「ねぇ、儂等此処に定住するんじゃないのにこの量どないせえと?」
「私もそう言ってお断りしようとしたのですが・・・」
「ダンジョン産の収納箱があるからと置いて行ってくれたであります!」
「なんでもありだなダンジョンって・・・」
ジャックが聞いた説明によれば、この収納箱はマジックバックと同じで見た目よりの容量が多いらしく冷蔵機能もあるのだとか。
なるほど冷蔵庫みたいな感じかとマォは思った。
「でもこれ貰いすぎじゃない?」
「町の住人からすれば魔物や魔獣との関係性が壊れる事を恐れていたのだろう」
「関係が悪化すれば森や山へ狩りや採取に入れなくなりますし
ダンジョンへも行けなくなりますからね」
「なるほどなぁ。そういう事ならありがたく貰っちょこうか」
「本日の夕食も頂いております。町のご婦人達が作って下さったようですよ」
温かい内に食事をする事にして、食後には食材の仕分けをする事にした。
差し入れて貰った食事は串焼きは勿論、煮込み料理やふわふわのパンに果物まであった。
子供達は食べやすかったのか煮込み料理を嬉しそうに頬張っている。
マォは焼き鳥っぽい串焼きを食べてみた。
シンプルな塩味で肉質は柔らかく油も乗っていて美味しかった。
食べ終わった後は、肉類・野菜類・果物類・調味料に別けていく。
調味料以外は収納箱へと入れていった。
「すげぇ、あの量が全部入ったよ・・・」
「随分と良い収納箱をくれたのだな」
「ありがたいけどなんか申し訳ないな」
「おかん、俺達が狩りやダンジョンで得た素材を町で売ればよい。
そうすれば町も潤うだろう」
「あー、加工して装備品になったりするんじゃったっけ。
んじゃそうしよう」
仕分けが終わった頃合いを見計らって子供達が声を掛けてくる。
「ねぇねぇ、試合はどうだったの?」
「マォ姉ちゃん勝った?」
「お兄ちゃん達も勝った?」
「「「 え? 」」」
余裕で圧勝してしまったので話して聞かせるにもこれといった山場が無い。
どう話したものかと考える3人。
「どうという事ありませんでしたよ。
あまりにもあっけなさすぎて見ている私達も拍子抜けでしたから。
もちろん皆さまの圧勝です」
「あっしょうってなぁにぃ?」
「お兄ちゃん、もっと詳しく!」
「詳しくと言われましても・・・」
子供達にせがまれて、身振り手振りで説明するハメになったダルクである。
自分達が話さなくてよかったと思う3人であった。
読んで下さりありがとうございます。




