ウォーカー領④
「さてとまずは古着屋ってあるかな?」
「あると思うが何を買うんだ」
「子供達の服だよ。
あんなボロボロの服のまま親族に合わせる訳にはいかんじゃろ」
「確かにそうだな。
アンナとハンナに比べても服がボロボロになっていたな」
「旅の途中だったからだろう」
「まぁ理由なんてどうでもええん。あ、靴も必要じゃね」
と言う訳で古着屋に向かったマォ達。
庶民がよく利用する古着屋なので値段も手頃である。
マォはシンプルな綿のワンピースを選んだ。
「うん、これならあの子達にも似合うし清潔感もあっていいね」
「おかん、アレックスにこれはどうだろう。
動きやすくていいと思うんだが」
アルノーが見つけたのは綿のオーバーオールとシャツの組み合わせだ。
「いいんじゃないかな」
「私はどうもセンスが無いようなのでな。
ニアとソニアにリボンを選んでみたのだがどうだろう」
さすがにリボンは新品しか置いてなかったがそう高い物ではない。
オーウェンが選んだのは淡い菫色のリボンだ。
「あの子達の明るい髪色に似あいそうだね」
「ついでにおかんの服も買えばどうだ」
「んー、落ち着いてからでいいかな」
そう言ったマォだったが濃紺色の作務衣もどきを見つけたので買う事にした。
買う物が決まったので支払いを済ませて古着屋を後にする。
「次は靴屋か」
この世界の靴は主に布靴だが冒険者やハンター、騎士などは革靴を履く事もある。
そして庶民の靴はフリーサイズで大人用と子供用の2つしかなく、足の甲部分にあるひもで調節するようになっているのだった。
「この麻靴がよさそう。綿よりも丈夫だし。
色合いもあのワンピースやオーバーオールと合うし」
「値段的にもよいのではないか」
3足購入して靴屋を後にする。
「次は何処へ行くんだ、おかん」
「そうだなぁ。食材の店でも見てみるか」
「いやその前に腹が減らぬか」
「そういや朝は軽く済ませたもんなぁ、先に何か食うか」
3人は食事が出来そうな店を探して歩く。
丁度時間も昼時なのであちらこちらからいい匂いが漂っている。
色々と見て歩くも肉系の、しかも串焼きの店が多い。
肉の種類や味付けが違ったり、添え物が違ったりするだけのようだった。
「うーん、串焼きは割と食べちょるしなぁ。
せっかくなら違う物が食いたいんじゃけど」
「そうだな、何かあればよいのだが」
食堂だけではなく屋台も見て回るとガパオライスのような挽肉料理を見つけた。
「あれ食べてみん?」
「ああ、タジムユか。昔母がよく作ってくれていた料理だ」
「私は初めて食べるな」
「なるほど、アルノーの思い出の味って事か。
よし、食ってみよう」
3人はタジムユを3人分買って近くの広場にあるベンチに座って食べる事にした。
「さぁ食べよう」
匙ですくって頬張れば口の中に肉の香りと胡椒の香りが広がる。
ガパオライスとは少し違っているが塩胡椒の味付けで旨い。
「旨いな、それにしても米があるんだな」
「城では食べた事が無かったがこれが米か」
「ダンジョン産なので安価に手に入るからな。
頻繁にと言う訳ではないが平民はそれなりに食っていると思う」
「へぇ、儂の国じゃ米は主食だったんよね。
もっとも儂はパンの方が好きじゃけど。
まぁ安価に手に入るんなら有難いかな。
もぐもぐ・・・
ん? 今ダンジョン産ってゆうた?
米ってダンジョン出取れるん?!」
「ああ、色々と珍しい食材が手に入るぞ。
ただどう調理すればよいの解からない物も多いんだ」
「なるほど、ダンジョン行ってみたいな」
「ならば明日子供を送り届けてから行ってみるか?」
「行けるなら行きたい。
今日の試合物足りなかったつーか肩透かしくらったつーか。
もちっと体動かしたかったん」
「「 わかる・・・ 」」
3人は食べ終わると雑貨屋や食材を扱う店などを見て回った。
どんなものがあるのか、値段は幾らなのかなどを確かめたかったマォは本当に見るだけで買う事は無かった。
それにオーウェンがあれこれと興味を持ってしまい「あれはなんだ」「これはなんだ」とうるさいのである。
次に来るときはアルノーと2人で来ようと思うマォであった。
「おかん、何か欲しい物はないのか」
「今は見るだけでいいや、今買っても荷物になって邪魔じゃん」
「なるほど、まぁモフーに乗せて貰えばすぐ来れるしな」
「辺境の地の近くにも小さな町はあるからな」
「そろそろ帰ろうか」
モファーム達に乗り移動しようとした時だった。
「大変だ、冒険者かハンターを集めてくれ!」
1人の男が叫びながら町へ駆け込んでくる。
「どっかの馬鹿貴族がオーガに手を出しやがった!」
その声にマォが反応する。
「そこの人、その話詳しく教えてくれん。
儂等冒険者だから対応するよ」
「おかん?」
「放っておけんじゃろ」
もっちゃんから降りて話を聞く。
どうやら近くの森には魔物や魔獣が住んでいるらしいのだが、お互いに一定距離を保ち無益な争いは避けるようにしているらしい。
河が氾濫した時や倒木で道がふさがれた時などは手助けしてくれる事もあり、人々はお礼代わりに時々農作物などを森の入り口に置いておく。
そんな関係を保っているのだそうだ。
だが観光に来ていたどこぞの貴族がオーガを見つけて手を出してしまったらしい。
「あれだけ手を出すなといっておいたのに」
ピキピキとマォの青筋が浮き上がる。
「アルノー、オーウェン。オーガを助けに行くぞ」
「おかん?」
「その貴族を助けるのではなくオーガをか?」
「当たり前じゃん。
話聞いてた?ここの魔物や魔獣は無益な殺生せずに共存しちょるん。
困ってる町の人を助けてくれる事もあるんてよ。
そんなオーガを一方的に攻撃した奴をなんで助けにゃならんのん」
「我々としてもオーガの方を助けてやって欲しい」
何処からか現れた町の住人達が声を上げる。
馬車が脱輪した時に助けてもらっただの、妖獣が現れた時に助けて貰っただのと口々に言う。
自分達では行っても貴族相手だと何も出来ないからどうか頼むと言われてしまえばアルノーとオーウェンも行くしかなくなる。
「じゃぁ行って来るけどさ、誰か領主殿に報告入れておいてね」
「ああ、俺が行ってこよう」
「頼んだよ冒険者殿」
もっちゃんに頼めば場所はすぐに分かった。
鬱蒼とした森へ突入すると川を渡って滝の音が聞こえる方へと走って行く。
オーガの場所が近いのか更にスピードを上げるもっちゃん。
お陰でマォの顔にはペシペシと木々の枝が当たりまくっている。
「あたたた、もっちゃんや。お急ぎのとこ申し訳ないんじゃけどね。
枝が当たって儂顔が痛いんじゃけど・・・」
(もうすぐだから我慢して。もっちゃん怒ってるの!)
「怒っちょるって・・・
気持ちは分るけども、いたたたっ」
(着いた!)
バフンッと茂みを抜ければオーガに向かって切りつけているツルピカ禿の男が2人見えた。
「ええい、そこをどかぬか!大人しく子オーガを渡せ!」
「何をしている、さっさと捕まえぬか!」
「そう言うならジラクール伯爵も手伝ってくださいよ!」
「うるさい!お前が言い出したのであろう、タヌークィ男爵!」
どこかで聞いたような名前だと思うマォだが思い出せない。
まぁいいかと思いオーガを助けに行こうとしたのだが・・・
『グギャァーオッ!』
マォよりも先にもっちゃんが飛び出していった。
行き成り飛び出すものだから、マォは後ろへと振り落とされてしまう。
「ぐぇっ」
「大丈夫か、おかん」
「儂は大丈夫だからオーガを。子連れらしい」
「ああ、子供を捕獲しようとしているのか」
「うわぁ、なんだこの化け物は!」
「化け物が居るなんぞ聞いておらぬぞ!」
「失礼な!化け物じゃなくて儂の相棒のもっちゃんだ!」
そう叫んでジラクールと呼ばれた男の頭に蹴りを入れるマォ。
「なっ、ぐへっ」
ジラクールはそのまま白目を向いて気絶してしまった。
「貴様等、貴族に対してこのような事をしてただで済むと思うのか!」
「貴族がなんぼのもんじゃい!知ったこっちゃねぇわ!」
マォは倒れているジラクールを踏みつけてタヌークィに向き直る。
タヌークィは慌ててしまい剣を振り回す。
ヒュンとマォの頬をかすめて一筋の血が流れる。
「おかん!」
それを見てキレたのはアルノーである。
むんずと近づきタヌークィの剣を掴み圧し折る。
「ななな・・・貴様よくも・・・
そうだ、それだけの腕っぷしががあるなら召し抱えてやろう。
だからすぐにこのオーガを ぶへぇっ」
アルノーの鉄拳が飛びメキッと音がしてタヌークィの鼻が砕ける。
「二度とその薄汚い口を開けぬようにしてやる」
アルノーはタヌークィの顎を掴むとゴキッと外してしまった。
「ふがふが・・・」
「そのくらいでやめておけ。
モフー、糸でこいつらを縛ってくれるか」
『キュイ』
「儂の出番なかった・・・」
「ジラクールを倒しただろう・・・」
「倒した内に入らんじゃろ・・・」
そんなことよりもオーガの様子を見なければと思い、マォはオーガに近付いてみる。
オーガは警戒しているようだった。
「驚かせてごめんね。町の人たちにね、貴方達を助けて欲しいと頼まれたんだ。
だから傷の様子を見せて貰ってもいいかな」
オーガは言葉を理解したようで警戒を緩めた。
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