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ウォーカー領③

翌朝、マォ達はお茶と果物だけで朝食を済ませた。

アルノーとオーウェンは出かける前に体を軽く動かす言って打ち込みを行っている。

マォは軽くストレッチを行った後に鍬で素振りをしている。

この鍬、マォはすっかり忘れていたがマォが召喚されていた時に鎌と一緒に持っていたものである。

イザベラがしっかりと持ち出していたのだった。

移動中に見た覚えが無かったのでマォは不思議に思っていたのだが


「私の鞄はダンジョン産のマジックバックなのである程度の量は収納できます」


と、鞄の中に入れてあったらしい。


「イザベル殿、何故にマォ殿は鍬なのでしょうか」

「使い慣れているとおっしゃっておられました」

「使い慣れて・・・」

「元の世界では小さな畑で野菜を育ててらしたそうですよ」

「なるほど。ではマォ殿は農業を生業としておられたのでしょうか」

「いえ、趣味だとおっしゃっておられました」

「趣味で野菜を?花とかではなく?」

「ええ、野菜をです」


マォの居た世界では家庭菜園やプランター栽培をする人も少なくはなく、別に珍しい事でもなかった。

だがこの世界では趣味で野菜作りを行う者など居ないので驚いてしまうダルクであった。


「まさかマォ殿はあの鍬で試合に挑むおつもりか」

「いえ、鍬だと刃先が鋭いので当たり所が悪いと

 すっぱり切り落としそうなので使わないとおっしゃってました」

「すっぱり切り落とす? あれは本当に鍬なのでしょうか。

 鍬に見える何か別物の武器なのでは?」

「鍬ですがこちらの鍬の様に木製ではなく頭の部分は金属で作られておりました」

「金属で・・・ならばすっぱり切り落とす事も可能なのか」


何故か切り落とす方向に考えるダルクを見て半場あきれるイザベルであった。


「アルノー、オーウェン。そろそろ切り上げて汗流しといで。

 向かう準備しよう」

「「分かった」」


マォはすでに準備済で、2人を待つ間にお茶を飲んでいる。

やがて準備を終えて2人がやって来たので領主館へと出発する。


「マォ姉ちゃん、負けないでね!」

「お兄ちゃん達も頑張ってね!」

「戻ってきたらどうだったか聞かせてね」

「マォ様くれぐれも殺さないでくださいませね」

「マォ殿の勝利を確信しておるであります!いってらっしゃいませ!」


マォはその声に笑顔で答える。



モファームでの移動なのですぐに領主館へと到着した。

門兵に声を掛ければすぐに訓練場へと案内する。

そこのは大勢の騎士とスカイラーがすでに待っていた。


「おはようございます兄上」

「ああ、おはよう。そちらが例の招き人殿か」

「初めまして領主殿。

 その招き人という呼ばれ方は好きではないので

 マォと呼んでいただけるとありがたいのですが」

「なるほど、失礼した。

 マォ殿此度はぶしつけな申し出をして申し訳ない」

「お気になさらずに。実力を知りたいと思うのは当然の事かと思いますし。

 ただ試合後は勝敗にかかわらず遺恨を残さぬようお願いします」

「承知しておる。ではさっそく始めるとしようか」

「1:1のタイマンですか。それとも3:3ですか?」

「1:1の方が分かりやすいだろう」

「分かりました、ではこちらはアルノー・オーウェン・私の順でまいります」


騎士の1番手は小隊長を務める騎士が出てきた。


「では、はじめ!」


スカイラーの合図で第一試合が始まる。

小隊長はそれなりに実力もあり自信があったのだろう。

うぉぉと雄たけびを上げ走りこんでくる。

だがアルノーはそれを余裕でかわし小隊長の後頭部へ手刀を落とす。

小隊長はそのまま白目をむいて倒れてしまった。

斧を使う間もなく終わってしまい不完全燃焼気味なアルノー。


「「「 小隊長! 」」」


部下であろう騎士達が駆け寄り小隊長を医務室へと運んで行った。

その様子を見て一行は思う。

ものすごくあっけなかったなと・・・


「油断するからああなるのだ。次は自分が参ります」


2番手には副団長が出てきた。双剣を手にしている。


「はじめ!」


副団長は前の試合を見て慎重に間合いを詰めていく。

お互いが相手のスキを窺い見つめあう事しばし、先に動いたのはオーウェンだった。

オーウェンは大検をいとも容易く振りかざし、見ている者は小刀でも振り回しているような感覚に陥る。


「腕力はあるようだがこれはどうかな」


大剣を持っているので素早い動きは苦手だとでも思ったのだろう。

オーウェンの背後に回り込み剣を打ち込む。

キーンと金属音が響き、大剣に弾かれた2本の剣が宙を舞う。

大剣の切っ先は副団長の喉元にあった。


「残念だったな、私の剣の師匠は前領主殿だ。

 攻防出来てこその一流騎士、力も素早さも身につけろとしごかれたのでな」

「なっ・・・」


言葉を失う副隊長は両手を上げいざぎよく負けを認めるのであった。


そして大トリはマォと団長である。


「女性とはいえ試合ですから手加減はしませんがよろしいですか?」

「かまわんよ、儂も気を付けるけど加減具合がわからんし」

「随分と自信がおありのようで」

「にこっ」


不敵に微笑むマォである。

手の内を見せても面白くなかろうとレイピアの模擬刀を手にする。


「でははじめ!」


マォは静かに構えを取る。

レイピアは突きに特化した剣である為急所に狙いを定める必要がある。

団長の武器もレイピアではないが細身の剣だ。

相手も急所を狙ってくるだろうとマォは予測したのだが・・・


「でぇぇいっ」


掛け声と共に踏み込んで来て剣を振り下ろしてきた。


(いつも思うんだけどなんで気合の声だの掛け声だの出すかね)


マォは常々時代劇を見ながら思っていた。不意打ちなのに何故声をあげるのかと。


そんな事を考えながらもマォはレイピアで相手の剣を弾く。

そのまま剣を滑らせて相手の心臓を突いた。

勿論手加減はしたつもりだが、青あざくらいは仕方あるまいと思う。


「ぐっ」


団長はそのまま仰け反って倒れた。


「へ? 嘘じゃろ儂そない力入れちょらんがな・・・」


これではまるで儂が怪力女に見えるじゃないかと嘆くマォ。

きっとバランスが崩れて倒れただけだと思いたかった。

が、残念ながら団長はそのまま気を失ってしまっている。

チーンッ

暫く聞いていなかった音が頭の中に響いたマォである。

遠くでさすがマォ殿と叫ぶ声が聞こえる気がしなくもないが、マォはただ茫然としてしまう。

思い切り叫びたい衝動に駆られるマォ。


「ねぇルーク・・・」

「しばし待ってくれ」


心得たとばかりにルークはごそごそと懐から例のスノードームを取り出しスイッチを入れる。


「よいぞ」


息を吸い込み思い切り叫ぶ。


「嘘じゃろー!憶測で人を見下しておいてそれかーい!

 あっけなさすぎじゃろ!もちっと根性みせろやぁ!

 儂もちっと接戦期待したんじゃけど?!

 どいつもこいつもなんですぐ倒れるん、あれじゃ儂が怪力に見えるじゃんけ!

 土産話にもなりゃしねぇ。基礎からやり直して体幹鍛えやがれ!


 ハァハァ、よしOK」

「では解除するぞ」


何が起きたのか解らずにポカンとするスカイラー。

例の雄叫びかと納得するアルノー・オーウェン・ダルク。


「領主殿。これで納得いただけましたかね?

 追加の護衛は遠慮いたします」

「あ、ああ。納得した。

 それにしてもまるで赤子と大人の差があったな・・・」

「兄上。お気付きになりませんか。

 アルノーは例の金色の羆(こんじきのひぐま)の息子ですよ。

 よく似ているでしょう彼女に。

 そしてオーウェンは・・・」

「はっ、もしかしてあのオーウェンなのか」

「気付いてもらえないとは寂しいな義兄上」

「そうか、それならばあの強さにも納得が行く。

 アルノーは彼女の息子であったか。

 あー、うん。小隊長生きていてよかったな」


遠い目になるスカイラー。

何があったのか気になるアルノーとマォだったが聞かない方がいい気もするので黙っていることにした。


「してマォ殿の強さの秘訣はなんであろうか。

 マォ殿の世界は魔物や妖獣の脅威も無く平和な世界だったと聞くのだが」

「別に強くもなんともないと思うんじゃけど?」

「しかし団長をいとも簡単にいなしておったではないか」

「うーん・・・

 これそこにいる騎士達にも言える事なんじゃけどもさ。

 まず体幹を鍛えるべし。そして己が扱う武器の特徴を把握するべし。

 そして一番大事なのが相手の力量を見誤らない事だね。

 これ、妖獣だの魔獣だのに対しても言える事だよ。

 そこらへん鍛え直したらええんじゃないんかね」


あからさまに自分より強い熊なんぞに出会ったら立ち向かわずに逃げるべきだ。

無謀に立ち向かうのは強さでも勇気でも無いと思っているマォである。

今回もちゃんとルークやオーウェンの力量を分かっていればこんな事にはならなかったはずである。


「「「イェスマム!基礎から学び直すであります!」」」


騎士達から声が上がるのだが、何故ここでもイェスマムなのかと思うルークであった。


「さぁて用事も済んだし町の散策に行こう。

 では領主殿、失礼しますね」

「え、いやもう少し話を・・・」

「兄上諦めて下さい。ささ、我々は部屋で今後の話を詰めてまいりましょうか」


ニコリと微笑みながら兄の腕を取りぐいぐいと館の中に連れて行くルーク。

やれやれ、今日はすんなりと話が進めばよいのだがと溜息をつくダルク。

そんな2人の事などお構いなしに町へと繰り出す3人であった。


読んで下さりありがとうございます。

リアクションもいつも本当にありがとうございます。


4日前の夕方に目の開いてない子猫を保護しました。

しばらく寝不足が続きそうで誤字脱字率が上がっているかもしれません(;´Д`)

また更新が滞らない様に頑張るつもりではありますが、遅れてしまったら「寝落ちしたな」と生暖かく見守っていただければ幸いです。

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