ウォーカー領①
身支度を整え荷物を持ち各々が1階へと集まる。
「おはよ。皆疲れは取れた?」
「ええ、ゆっくりと休めましたよ」
「俺はちょっと不思議な夢のせいで、寝たような寝てないような」
「自分も不思議な夢のせいで、寝たような寝てないような感じであります」
「あれ、アルノーとジャックもなん?儂もなんよね。
元の世界で普通に過ごしてる夢だったん」
「そうなのか、俺はおかんの娘さんと孫のゆっちゃんに会った夢だった」
「自分もであります」
「「 待てずるいぞ、私は見ていない! 」」
「お2人はどのような夢だったので?」
食堂で朝食を食べながら2人は夢の内容を話した。
「マジでー・・・
なんなんそれ。儂んとこにも普通に出て来て欲しかった。
ちゃんと会話がしたかったー!」
「私もお会いしたかった」
「ダルクは私の後でよかろう」
「次は是非とも私の所へ来て欲しいものだ」
などと2人の事を羨ましがるのだったが、だれも何故そんな現象が起きたのか気にしていなかった。
少しは気にした方がよいのではと思うイザベルだったが敢えて言わないでおく。
何故ならイザベルも夢の中でゆっちゃんに会っているからだ。
「あのね、ばぁばちょっとおっちょこちょいなん。
世話やける時もあるけぇよろしくね、お姉ちゃん」
愛らしい笑顔でお姉ちゃんと呼ばれてご機嫌なイザベル。
「勿論ですとも、ご安心くださいませね」
もともとマォの側を離れる気はなかったが、ゆっちゃんの笑顔の為にもマォに仕えようと思うのだった。
食事と会話を済ませて宿を後にする。
「ケイルから領地の屋敷までは半日くらいか」
ルークはもっふるに問いかける。
『直線コースでいいならもっと早く着ける』
「そうか、ならば直線コースで頼む」
このやり取りを聞いてマォは嫌な予感がした。
「待ってもっふる、その直線コースって・・・うぎゃぁ」
「どうしたマ・・・ぬあっ」
「なんだルー・・・うわぁ」
ボフボフボフッと地中へ潜るモファーム達。
(あぁぁ、やっぱり・・・)
ゴゴゴッと音を立ててものすごい勢いで掘り進むモファーム達とモモ。
ルーク達は何やら叫んでいるがマォは気にしないでおく。
下手に口を開けば土埃が入ってしまうからだ。
それよりもジャックとチョコが心配だった。
(チョコはどうするんだろう)
『チョコは空飛ぶって言ってた』
(へ?!)
『糸使ってぴょーんてするんだって』
(糸を使ってぴょーん?)
なんとなくターザンが浮かんだマォである。
だが実際は子蜘蛛が風に乗って空を飛ぶのに近い。
後程、屋敷で合流した時のジャックは腰が抜けていたのだった。
1時間弱で屋敷には到着した。
「此処は私の個人所有の屋敷だ。
使用人もおらぬから楽に過ごしてくれ」
「ルーク様、そう仰いますがまずは掃除からになるのでは?
此処には半年以上戻っておりませんよ・・・」
「む、そうであったな」
「だから管理人くらいは雇うようにと・・・」
「まぁええじゃん。魔法も使いながらやりゃすぐじゃろ」
「マォ様、恐らく男性陣は掃除など出来ないかと・・・」
「おぉぅ・・・ さすがお貴族様・・・」
「おかん、俺は出来るからな?」
「マォ殿、自分も出来るであります!」
「さすがアルノーとジャック。んじゃさっさとやっちまおう」
「では私はその間に食料の買い出しをしてまいります」
「ダルク頼んだ」
「私は・・・」
「巻き割りとか出来たりは・・・しなさそうじゃね」
「すまぬ・・・」
「まぁしゃーないさ」
「私は巻き割りなら騎士団の遠征でもやっていたから出来るぞ」
「お、じゃあオーウェンは巻き割りお願い」
「任された」
各々が役割分担をして掃除を進めていく。
子供達もせっせとマォを手伝っている。
ルークは何も出来ないのでせめてお茶でもと用意するのであった。
この屋敷では1週間くらい滞在し辺境の地へと向かう準備をしつつ体を休める予定になっている。
ウォーカー領であれば追手の心配も無く、狸達の手の者が探りに来る事も出来ない。
国境にある領地なのでぐるりと壁に覆われているし、出入りするには厳重なチャックが入るのだ。
マォ達は地下を通って来たのでチャックは受けていないが大丈夫なのかと心配するマォだったが、よくよく考えてみればマォ以外は皆身元がはっきりしているので心配なかった。
窓を開けて換気をしながら掃除を進める。
箒で掃く代わりに風魔法でほこりを掃き出し、同じく風魔法で天井や壁の誇りを窓の外へと飛ばす。
雑巾がけもと思ったマォだったが、ここは西洋風なので室内も靴のままだったのでやめる事にした。
カーテンやベッドシーツなどは生活魔法のクリーンで綺麗にしていった。
ジャックは魔法が使えないので雑巾でテーブルや椅子を拭いていく。
手分けしたおかげで1時間もすれば掃除は終わった。
「掃除は取り合えず終わったよ」
「こちらも巻き割りは終わったぞ。しばらくは間に合うと思う」
「疲れただろう、休憩してくれ」
ルークが入れてくれたお茶を飲みながら休憩していると買い出しに出かけていたダルクが戻って来た。
「いろいろと買い込んできましたよ。
夕飯用には屋台の物を買ってまいりました。
皆様お疲れでしょうからね、今夜は簡単に済ませてしまいましょう」
「明日からは儂とイザベルで作るよ」
この言葉にアルノーとオーウェンがピシッと固まった。
「どしたアルノー。オーウェンも」
「おかん、イザベルはその・・・ちょっと」
「手伝いが必要なら私の方がまだマシやもしれん」
「ん?」
「申し訳ありませんマォ様。
私が料理をすると何故が出来上がりが岩の様な硬さになるのです・・・」
「はぃ?」
何をどうすればそうなるのか、遠征中イザベルが食事当番になるとものすごく硬い物体になったらしい。
「見た目は完璧なんだ見た目は・・・」
「なのに齧れば歯が折れるかと思うような硬さで・・・」
「折れた新人もいたではないか・・・」
「マジで・・・
あー、うん。儂が作るよ・・・」
そうして今後マォが料理担当になるのだが当然元の世界で作っていた料理、皆からすれば異世界料理となる訳である。
ちょっとしたブームになるとはこの時思わなかったマォであった。
「さぁまだ温かいですから、冷めないうちに食べてしまいましょうか」
「そうだね、ちょうど日も暮れ始めたし」
明かりを灯して屋台で買った料理を並べる。
ダルクが買って来たのはボアの煮込みスープと野菜を挟んだバケットサンドだった。
子供達にはオレンジジュースもあった。
「私とダルクは明日兄上の所へ行って来る。
いろいろと情報が集まっているだろうからな」
「それにこちらも対策を立てねばなりませんからね」
「俺は町でこの子達の親族について何か情報がないか調べてみよう」
「では私はジャックと共に少し狩りでもして来よう。
肉が必要だしドロップ品を売れば金にもなるからな」
「了解であります」
「儂はイザベルと子供達の面倒みとくよ」
食事が終わるとイザベルが用意してくれた風呂に順番に入った。
男性陣に先に入って貰い、マォとイザベルは最後からガイアや子供達と一緒に入る。
一緒に入れるだけ広い風呂だったのでマォはさすがお貴族様と感心してしまう。
マォはつい広さに浮かれて子供達とはしゃぎまくってしまい、イザベルに叱られてしまった。
「子供達はまだしも貴方まで一緒になって浴槽で泳いでどうするのですか」
「ごめん、つい・・・」
「つい、ではありません。
ニア、ソニア、アレックス。いいですか、お風呂で遊ばない様に。
分かりましたね?」
「「「はーい、ごめんなさい」」」
風呂ではしゃぎつかれたのか、その夜子供達はぐっすりと眠った。
勿論マォもぐっすりと、と言うよりはウォーカー領へ着いた安心感からか熱を出してしまった。
イザベルが付き添い看病をするのだが、マォのうわ言が気になって仕方がない。
「違・・・、それじゃ・・・。和唐辛子・・・めなん。
韓国唐辛子・・・なん・・・」
「青じそじゃ・・・ん。エゴマの葉が・・・」
「背開きじゃな・・・ 腹からさばいて・・・」
一体何の事だろうかと悩むイザベル。
翌日熱が下がったマォに聞いてみたところ、和唐辛子・韓国唐辛子・青じそ・エゴマの葉は食材の事で背開きは魚の捌き方だと分かった。
そしてそれらの食材は意外と早く目にする事となるのであった。
「うぇぇ、だるぅ・・・」
一晩で熱は収まったもののだるさは残っているマォ。
脱水でも起こしたかなと水を飲めば少しは楽になる。
お腹がすいたような気もするのでリビングへと向かう。
「おかん、大丈夫か?」
「マォ殿無理はなさいませんように」
「大丈夫だよ、それより腹減った」
イザベルがパンとスープを運んでくる。
「安心してくれ、私が作った」
「オーウェン料理出来るんだ」
「野営では作る事もあったのでな、覚えた」
「そのスープだけですけどね」
「団長が食事当番の時は毎回このスープ」
「文句があるなら食わなくていいぞ」
「「 いえ、いただきます 」」
これしか作れないと言うが、そのスープはポタージュに似ていて美味しかった。
マォはお代わりまでしていた。
朝食を摂り終えるとそれぞれが出掛けていく。
マォは庭にブルーベリーの木があるのを見つけたので子供達と採取する事にした。
「濃い色になってるのだけ採ってね。
全部は採らないで鳥さんの分を残しておいてあげてね」
「わかったぁ、皆で仲良く分けるんだね」
「そうそう、全部採ると鳥さんが困っちゃうからね」
「森の茸も残す方がいい?」
「そうだね、ボアとかディアの御飯にもなるから全部採ったらだめだね」
「「「 はぁーい 」」」
強欲な大人と違い子供達は素直である。
読んで下さりありがとうございます。




