夢①
いつものように畑仕事を終えて家に戻る。
玄関の前には見慣れた千秋の車が止まっていた。
「おかん、このカクテキ食べれるん?」
冷蔵庫から取り出したカクテキを抱えた千秋が玄関から顔を出す。
「ばぁば、胡瓜の浅漬け食べてもええ?」
同じく冷蔵庫から取り出したきゅうりの浅漬けを咥えて顔を出すゆっちゃん。
「カクテキも浅漬けも食べごろじゃけど、あんたらもぉ食べよるじゃん」
「へへへっ」
「でへへっ」
「でへへって、ゆっちゃんや・・・」
来て早々に冷蔵庫を開け漬物を食べる娘と孫・・・いつもの事だった。
千秋はシングルマザーになったばかりで料理を余りしない。
する時間が無いと言った方がいいかもしれない。
時々車で2時間掛けてやって来ては作り置きの常備菜を持って帰る。
なのでマォは週末になると常備菜を多めに作って置くようにしてた。
「久々に煮〆が食べたいなぁ。お、材料あるじゃん。おかん作って。
豚バラブロックもあるじゃん、角煮も食べたいなぁ」
「ばぁば ゆっちゃんおからのドーナツ食べたい!」
「煮〆はええとして角煮は時間が掛かるんじゃけど」
「明日休みじゃけん、泊まってくから時間はあるよ?」
「あるよ、じゃないんじゃわ。こういう煮込み系は先にゆうちょきんさい」
「へへへ、覚えちょったら次はそうする」
そういいながら事前に連絡をしたことがない千秋である。
「ひじきも食べたい!煮豆も!よろしく」
「じゃぁゆっちゃんはかりんとうも食べたい!」
「よろしくじゃねぇんだわ、煮豆とかも前もって言っとけよ。
まぁええわ、あんたらが帰るまでには仕上がるじゃろうて」
(ガスコンロだけじゃ追いつかんじゃないか)
そう思いながら竈に火を起こして準備を進める。
娘と孫が居るのならばスキヤキにしようと思いマォは冷凍庫から猪肉のブロックを取り出す。
この猪肉は近所(と言っても4㎞離れてるが)の猟師から貰った物だ。
捌き方が上手いので独特の臭みがほぼ無く、脂身もあまみがあって旨い。
「ゆっちゃん、ママと一緒に畑から白菜と長ネギ採って来て」
「はぁーい。ママ行こう~」
「千秋、ついでに持って帰る野菜も採ってきんさいね」
「はーい」
(そうだ鶏小屋から卵も取ってこんといけん。何個産んどるじゃろか)
そう思い鶏小屋へと移動する。
『 ウキョーホッホッホ、ホゲッコー』
「へ? モモちゃん?なんでモモちゃんがここにおるん。
あ、まさかこれ夢?」
夢だと気が付いたとたんに視界がぼやけていく。
(あぁぁ、待ってまだ千秋に言いたい事が。
千秋、鶏の餌頼んだー!!)
そうして目が覚めたマォだった。
(なんつー夢じゃ・・・)
* * * * *
見慣れない景色の中にマォに似た自分と同世代位の女性と少女が微笑みながら立っていた。
誰であろうかとアルノーは不思議に思う。
そしてこの見慣れぬ景色は何処なのだろうかとも思った。
「うわぁ、おかんどっからこんなイケメン見つけて来たん。
はぁー、おかんの隠し子かと思ったけどこりゃ違うね。
おかんの子でこねぇなイケメン生まれんわ」
なんとも弟に対して失礼な物言いをする千秋。
「イケメーン。ママこの人ゆっちゃんのおじちゃんになるん?」
「そうそう。こんなイケメンが私のお兄になるんじゃぁ。
ゆっちゃんよかったねぇ。イケメンのおじちゃんが出来たよ!」
「やったぁ!よろしくねいけめんのおじちゃん」
2人はアルノーを前にしてどんどん話を進めていく。
「おかん、気が強いし口も悪いけどあれで苦労人じゃし情に脆いけぇよろしく!」
「ばぁばの事よろしくね、イケメンのおじちゃん!」
呆気に取られているアルノーをよそに、言うだけ言って消えていった2人をさすがおかんの子と孫だと納得するアルノーだった。
だがせめて名前を告げて行ってくれとも思うのだった。
翌朝目覚めて不思議な感覚に陥るアルノー。
(義妹になるのか?・・・
ふっ、まさかこの齢で妹が出来るとはな。
それにしてもおかんに似ていたなあの2人)
単なる夢にも思えず、すんなりと義妹と姪の存在を受け入れたアルノーであった。
* * * * *
見慣れない景色の中にジャックは佇んでいた。
どこかで見たような顔をした少女が駆け寄って来てばふんと抱き着いた。
「わぁ~、ふわふわ!ハチみたーい」
「こら、行き成り抱き付かんのよ、まずは挨拶せんにゃぁ」
と言いつつもアルノーに挨拶をし忘れていた事を思い出す千秋。
「初めまして、おかんの娘の千秋です」
「ばぁばのまごのゆっちゃんよ」
「お初にお目にかかります。
自分はカレフ国の騎士でジャックと申します」
挨拶をしながらジャックは『おかんとは誰だろう』と考える。
そう言えばマォ殿の事をアルノー殿がおかんと呼んでいたような気がする。
「おかん殿にはお世話になっているであります!」
「逆じゃないん、おかんが世話になっちょりそう。
ジャックさんに頼みがあるんじゃけど、えかろうか」
「なんでありますか」
「ばぁばね、動物がぶち好きなん。
よぉけ飼っちょったけぇ寂しがっちょると思うん」
「ゆっちゃん、先にママが喋るけぇ待っちょって」
「ぶぅー」
頬を膨らませて拗ねるゆっちゃんを見て『あぁこの顔、マォ殿にそっくりだな』と思うジャックである。
「そっちにペットておるんじゃろか」
「ペットでありますか?それはどういった物でありますか」
「あー、おらんのじゃ。
愛玩動物ちゅうたら解かるじゃろか」
「なるほど、こちらには騎乗用の魔物と家畜化された魔物くらいしか
人が触れるのは居ないであります」
「ありゃま、残念じゃ。おかん寂しがりそう」
「大丈夫であります。
騎獣たちは皆おかん殿に懐いておるであります」
「あ、そうなんじゃ、ならまぁええか。
おかんあれで寂しがりやじゃけぇ、時々相手してやってね」
「勿論であります!」
「じゃあ戻ろうかゆっちゃん」
「えー、まだゆっちゃんハチとお話しちょらん」
「ハチじゃないってば。ジャックさんだよ」
「えー・・・」
「えー、じゃないんよほらもぉ時間無いから」
「ぶぅー・・・」
目覚めてジャックは夢の内容を思い返す。
夢にしては妙に生々しかった。
(ゆっちゃん、マォ殿のお孫さんか。可愛かったな。
それにしてもハチとは誰なのだろうか)
そして慌ただしく消えて行ったあの2人の姿を思い出し、血は争えないものだなと思うのだった。
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