旅路④
この日の移動は子供達も居るという事で、モファーム達は比較的穏やかな道を走った。
比較的穏やかな道とは言ってもあくまでもモファーム基準だ。
子供達は楽しそうにきゃっきゃと笑っているが大人はたまったもんではない。
「滝を飛び降りるなと言ったであろう!」
「垂直な崖を登るんじゃない!」
「登ったら降る事になるでしょう」
「垂直に走るならいっそ飛び降りてくれ」
などと悲鳴が上がるのだった。
そんな中、マォとイザベルはすっかり慣れてしまい周囲の景色を楽しんでいた。
「あ、もっちゃん。あそこにアケビがあるからちょっと寄ってくれん?」
「あちらには山ブドウがありますね、もっちゃんさん止まっていただいても?」
移動中にあれこれと見つけては採取している。
この国では砂糖はとても高価だとマォは買い出しの時に気が付いた。
だからお菓子なんて子供達はめったに食べられないだろう。
お菓子の代わりに甘い果実でも食べさせてやりたいと考えた2人だった。
だからもっちゃんも2人を手伝う。
走りながらも木の実や果実を見つければ触手を使って採取していく。
「ねぇもっちゃん、昨日も聞いたけどさ。その触手どっから出ちょん?」
答える代わりに振り向いてカパッと口を開いて見せた。
「うぉっ、プレ〇ターみたいに開いたら中にはトレ〇ーズ!」
舌の代わりだろうか、口の中に触手が待機していた。
なるほど、普段は毛で隠れてるけどこんな口だったのかと納得するマォ。
「マォ様それらは何ですか。
と言うかもっちゃんさん、前を向いて走ってくださいませ」
もっちゃんはフフンと得意げに前へ向き直った。
マォは何ですかと聞かれても言葉でうまく説明できる気がしないので答えようがない。
その後も今夜の休憩場所へ到着するまであれこれ採取し続けた2人と1匹であった。
なお遅れない様にもっちゃんが速足だった為お尻が痛いマォとイザベルである。
心の中で痛いの痛いの飛んでいけを唱えてエルフィンに飛ばしたのは内緒だ。
「ここなら魔獣や妖獣も近寄らないから安心らしいよ」
勿論もっちゃん情報である。
「もっちゃんさんは詳しいのですね。
モファームは皆そのような能力があるのでしょうか」
イザベルの問いにもっちゃんが答えるのだがキュイキュイとしか聞こえないらしいのでマォが通訳する。
「この国の人間はモファームをただの乗り物としか思ってない。
マォみたいに名前を付けたり仲良くしてくれないから皆教えないだけ。
らしいよ」
この会話を聞いていたルーク・オーウェン・ダルクはバツの悪そうな顔になる。
その様子を見たマォがピクリと青筋を立てた。
ニコリと微笑みながら手招きをする。
「自分はちゃんとチョコと名付けているであります!」
「おかん、俺も名前は付けてるぞ。もふりんだ」
「さすがジャックとアルノーだね。で? ほかの3人は?」
マズイと思った3人は何か言い訳を考えるが言い出す勇気がなかった。
「モファームを単なる乗り物としか思ってなかったって?
それってどうなん?
モファームだって生き物なんだよ?
ちゃんと感情もあるし個性だってあるんだよ?
自分達が『おい、人間』て呼ばれたらどうなん?嫌じゃないん?」
「反省しております・・・」
「申し訳ない・・・」
「すまなかった・・・」
「謝る相手は儂じゃないよね?
はい、各々のモファームに謝って名前付けたげて。
ダルクはルークと考えな」
マォとイザベルが夕飯の準備をしている間に、あの3人はなんとか名前を決める事が出来たようだ。
「それで名前は何になったん?」
「もっふる、だ」
「モフー、だ」
「「「 ・・・ 」」」
(なぜ皆もふから離れない・・・
見ろ、子供達まで微妙な顔になっちょるじゃんか)
突っ込みを入れたいマォだったが自分も『もっちゃん』と名付けたのだから言えないのだった。
夕飯を済ませるとそれぞれがテントで休む。
子供達はすぐに眠ってしまった。
「そういえばマォ様、赤子の名前はまだ決めてらっしゃらないのですか?」
「それがさ、いいのが浮かばなくて悩んじょるん。
逞しく育って欲しいと思っちょおけぇ、大地とかガイアとか」
「ガイア、良いなだと思います」
「まぁ大地よりはこっちの世界っぽいよね。
よし、じゃぁガイアにしよう」
赤ん坊の名前も決まり、マォとイザベルも眠りにつく。
男達もすでに眠っているようだ。
モファームに乗っているだけとは言え体力は消耗する。
なにせ道ならぬ道を進むのだから精神的な疲労もあるのだろう。
特にダルクは『こんな経験は初めてだ』と目を白黒させていたのだから。
翌日、朝食を済ませるとエルム村へ向かって出発する。
勿論いつも通りの道なき道である。
連日の事なのでオーウェンとアルノーも少しは慣れてきた。
さすがは騎士と言うべきだろうか。
ルークとダルクは相変わらず雄叫びを上げている。
午後にはエルム村に到着した。
エルム村は先日立ち寄ったキエルの町よりも小さな村だ。
全員で行っても驚かせてしまうだろうと考えてルークとマォ、そしてアルノーの3人でアンナとハンナを送って行く事にした。
マォとアルノーが2人を抱きかかえる。
何故ルークではないのか。ルークは腕力が無かったのだ。
最初はルークが抱えてみたのだが、腕がプルプルと震えてしまいアンナに大丈夫?と言われてしまったのだ。
(辺境の地で落ち着いたらダルクと共に体を鍛えよう)
そう決意したルークであった。
村へと入ると人々がアンナとハンナに気が付き声を上げる。
その声で人々が集まり、1人の女性が駆け寄ってくる。
「あ、おかあさん!」
「おかあさーん!」
「アンナ!ハンナ!よく無事で」
2人を降ろしてやるとすぐに駆け出し、母親としっかり抱き合った。
その姿を見てマォ達3人はホッとするのだった。
しばらく眺めていると落ち着いたのか母親がこちらを見る。
「あの、あなた方は・・・」
「あのね、あのお姉ちゃんが助けてくれたの!」
「あのお兄ちゃん達が連れてきてくれたの!」
「そうだったのですか、ありがとうございます」
「いえいえ、無事に親子が対面出来て良かったです。
たぶん、あんな事は二度と起きないと思います」
「もし不審者を見つけたならウォーカー領主にでも連絡をくれ。対処しよう」
「ありがとうございます」
その後駆け付けた村長にだけ、これまでの経緯を伝えた。
勿論、2人の怪我の状態や置かれていた環境などの詳細は省く。
村長は何度も頭を下げ礼を言った。
再びこのような事が起きないようにと若者達で自警団も作ったのだそうだ。
自分達でどうにもならない時はウォーカー領主に助けを求めると約束もしてくれた。
このエルム村、今は領主不在となっているらしいのだ。
村長は何かお礼をと言っていたがマォ達は断った。
子供達の笑顔が見れればそれでいい。
「アンナ、ハンナ。お母さんと仲良くね。元気でいるんだよ」
「うん。お姉ちゃん本当にありがとう」
「お兄ちゃん達もありがとう。また遊びに来てね」
「ああ、近くに来た時は会いにこよう」
3人は別れを告げて皆の元へと戻る。
「あの母親は喜んでいたな」
「村長もマトモそうでよかったよ」
「ああ、そうだな。それにしてお兄ちゃんか。
そんなに若くはないのだがな」
「別にええじゃん、あの子達の気遣いじゃろ。
儂だってお姉ちゃんとはほど遠いんじゃし」
「おじちゃんと言われるよりは良いのでは?」
「うむ、まぁそうだな」
そして皆はケイルへと向かう。
ケイルも領主が不在の町でウォーカー領の隣にある町なので安心出来るとダルクは言う。
もっちゃんも大丈夫だと言うので、皆はケイルの宿屋に泊まる事にしたのだ。
『ケイルで泊まれば次の日はウォーカー領まですぐだよ』
「そっか、じゃあ宿でゆっくり休んで体力回復させんにゃぁね。
あれ、もっちゃん達は宿屋に泊まれんよね?どうするん」
『ケイルは宿屋にモファーム専用の厩があるから大丈夫』
「そっか、よかったよ」
ケイルまでは30分の道程だ。
但し道なき道をモファーム達のあのスピードで行くからであって普通に道を通るならば半日掛かる。
そしてウォーカー領の隣で領主不在と言う事もあり亜人種にも寛容な町でもある。
ジャックも安心して立ち寄れる場所なのだ。
あっという間にケイルに到着する。
モファーム達を預けに専用の厩へと向かえば、マォは押し潰された。
「ぐぇ・・・」
モファームは離れていても仲間同士で意思の疎通が可能である。
もっちゃんから情報を得ていたケイルのモファーム達がマォに押し寄せたのだ。
『私達はあなたの味方だから』
『可哀そうに、仲間と引き離されただなんて』
『僕達を仲間だと思ってね』
「ありがたいんじゃけどね、ちょっとのいてもろぉてもええかいね・・・」
『あれ、なんで地面に寝転がってるの?』
「 ・・・ 」
『皆が押し寄せるからマォが潰れちゃったじゃない』
ずるずると、なんとかもっちゃんに助け出して貰ったマォなのであった。
「なんと言うか、大丈夫かマォ殿」
「愛情表現らしいけど重かった・・・」
「さっさと宿に向かって風呂が必要そうだな」
「そうじゃね」
「これから向かう宿は1階が食事処になってますからね。
皆で旅の汚れを落としてから食事にしましょうか」
マォ達は冒険者がよく利用する宿へと向かった。
マォとイザベルそして子供達、ルークとダルク、オーウェンとアルノーとジャックの組み合わせに分かれて部屋へと向かう。
ざっくりと風呂で汚れを落とし着替えたら食事である。
ここの名物であるビックアントラーズの串焼きを皆で食べる。
「うまっ!ほどよく油がのっていてコクがある!」
マォはつい食べ過ぎてしまい、部屋に戻るとすぐに寝てしまうのだった。
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