旅路③
少しばかり痛々しい場面があります。
真ん中くらいまで飛ばしてくださいませ(;´Д`)
子供達が入れられている檻に近づけばモワッとした嫌な空気が漂っていた。
明かりが見張りの机にある蝋燭1本しかないのでマォは魔法で明かりを灯した。
「うっ・・・」
うげぇと言いそうになった口を慌てて抑える。
はっきり見えた子供達の姿は酷い物だった。
やせ細っており殴られた跡がそこらじゅうにある。
(なんなんこれ、こんなん人間のする事じゃねぇだろ・・・)
沸々と怒りが込み上げ全身が震える。
ワナワナと体が震えるとはまさにこの事だろう。
マォは檻越しに声を掛ける。
「今助けるから・・・」
マォの呼びかけに反応する子はいなかった。
うつろな目でこちらを見ている子が多い。
1人の子が口を開けてみせてくる。
「舌が・・・喋れない様に切られたんか」
マォは怒りに任せて力いっぱい鉄柵を引っ張る。
『手伝う』
もっちゃんも触手を巻き付けて引っ張る。
「触手?! どっから出てきたその触手!」
『マォ、気にせずにもっと力入れて!』
「あ、はい」
ならばとマォは腕力の強化をイメージし身体強化の魔法をかける。
メリメリと音がし始め、やがでドゴンという音と共に鉄柵は壁から引き剝がされた。
檻だった穴倉に入り子供達を確認していく。
人族の子が2人に獣人族の子が2人、魔人族の子が1人の計5人だった。
(さてどうやって運び出すか。
儂が1人背負って、2人は抱えれそうだけど)
『もっちゃんが抱える?』
「どうやって?」
『こうやって』 ウニョウニョ
「もっちゃんや、それは止めようか。子供達がトラウマになっちゃう」
『だめ?』
「うん、でももっちゃんには走ってもらうから」
『任せて!』
『ウキョッ ウキョキョキョキョッ』
『モモが2人抱えて走るって言ってる』
「へ? そのちっこさで抱えれんじゃろ」
『ムホッ』
モモはフンッと力を入れるともっちゃんと同じサイズになった。
「えぇぇ・・・ マジで?」
『30分が限界みたい。マォ急いで脱出しよう』
「ちょっと3分待って」
『どうしたの?』
マォは脱毛処理に使う熱々のワックスを想像し叫んだ。
「狸親父とじらくりんぼなんぞ禿ちまえ!」
マォとしては頭髪にべっとりとこびりついた脱毛ワックスを想像したつもりだった。
だが脱毛と考えたのが悪かったのだろう。
ワックスは全身の毛という毛にこびりついてしまったのだった。
知らぬが仏とはこの事かもしれない・・・
「ここから逃げ出すけど、びっくりしないでね。
もっちゃんもモモちゃんもとってもいい子だから」
子供達が頷くのを確認してマォは子供を1人背負い、2人を抱きかかえてもっちゃんに乗る。
モモは器用に両脇に子供を抱えている。
『ウッキョォォォォ』
変な雄叫びと共にモモの口からビームが出た。
地下全体が石化してただの岩になっていく。
「びっくりした、そうかモモちゃんバジリスクじゃもんね。
ナイスだよモモちゃん」
『ウキョホホホ』
『急ぐよ~、皆の場所まで地面掘って進むね』
そう言うが早いかもっちゃんは全速力で地中を進み始めた。
モモは大丈夫なのかと思うマォだったが、そんな心配は無用だった。
『クワックワックワッ ウッホッヒョ』
と地中を駆け抜けているのだ。
鶏って地中走れたっけと一瞬思ったマォだったがすぐに思い直す。
バジリスクなら地中走っても不思議ではないかも、と。
暫くするとポフンと地中から飛び出し、皆の居る場所に戻って来たようだ。
音を立てない様にそっと歩いてテントの中に入れば、イザベルが桶にお湯を溜めて待っていた。
「お帰りなさいませ。まずはその鼻血を拭いてください・・・」
「へ?」
言われて鼻下に手を当てれば、ヌルンとした血が手に付いた。
「うわぁ、いつのまに」
拭き取って何事も無かったかのように振る舞う。
「子供達の世話はしておきますのでマォ様は少し休んで下さい」
「儂も手伝うよ?」
「疲れが残ったままでは移動が困難になりますので寝て下さい、いいですね?」
ニコリと微笑んでいるが言い返せる雰囲気でもない気がしてマォは大人しく横になるのだった。
どのくらい寝ていたのだろうか、外が騒がしさでマォは目を覚ます。
(うっさいなぁ、何騒いで・・・ あ、子供達が居るからか)
のそりと起きてテントの外へと出てみれば、ルーク達が騒いでいた。
「この子供達はいったい何処から現れたのだ」
「この体の傷は・・・」
「寝ている間に何があったんだ」
「あー、もっちゃんとモモちゃんと一緒に連れてきたん」
「「「 マォ殿?! 」」」
「おはよ」
「おかん、おはよじゃないだろ!説明してくれ」
アルノーに言われて損やの出来事について説明するマォ。
その話を聞いて皆唖然としてしまう。
「何故1人で行ったのだ」
「起こしてくれればよいだろう」
「そういうけどさ、儂が行くのが一番めんどくさい事にならんじゃろ。
実際あの狸とじらくりんぼは何が起きたのか理解出来んと思うし」
「狸・・・タヌークィか」
「じらくりんぼ・・・・ジラクールの事か」
「おかん、無事だったからよかったものの、次からはせめて俺に声を掛けてくれ」
「分かった、けど次は無いと思いたいかな」
「「「 確かに 」」」
皆でゾロゾロと言っていれば気付かれて、子供達を無事に連れ出せたかなんてわからない。
極少数だったからこそ気付かれずにすんだのだから。
「子供達をどうするか」
「誘拐されたのか、親に売られたのか」
「聞きづらいですね」
「言い方を変えて聞きゃあええじゃん」
子供達は身綺麗になって怪我の手当ても済んでいた。
マォは子供達の前にしゃがみこんで聞いてみる。
「おうちに帰りたい?」
人族の子供は頷くが獣人族と魔人族の子は俯いてしまう。
「帰る家が無くなったのかな?」
亜人種の3人はポロポロと泣き出してしまう。
「そっか、辛かったね」
マォはそっと子供達を抱きしめるのだった。
「亜人種の3人についてはウォーカー領に着いてから調べてみよう」
「国内の亜人種なら数が少ないから調べやすいだろうからな」
「人族の子達は喋れればよいのですが」
「上位治癒師でもおればよいのだが」
「居るじゃないですか」
皆の視線がマォに集まる。
「へ? 儂?! 無理無理無理無理。だってランクⅠじゃもん!」
「ですが想像力によるんですよね?
マォ殿はこの子達を助けたいとは思いませんか?
思いますよね?さぁやってみましょう。ほら頑張って」
強引に進めてくるダルク。
他の皆も期待を込めた目で見ている。
「出来なくても文句言うなよ・・・」
そもそもヒールの仕組みなんてもんは分らないし、魔法の勉強をした訳でもない。
想像力というけれど、浮かぶのは海外の医療ドラマばかりである。
悩んだ挙句マォは幼い頃母親や祖母にやって貰っていた行為を思い出す。
一か八かでやってみよう、少なくとも痛みはなくなるだろうと。
「チチンプイプイ、痛いの痛いの飛んでいけ~!」
ほわんっと淡く光った。
「どう?痛みは無くなったかな?」
子供達は頷く。
「声は出そうかな?喋れそう?」
子供達が恐る恐る試してみる。
「あ、あ、あ~。出た!声が出る、喋れるよ。お姉ちゃんありがとう!」
「おぉぉ、よかった。成功じゃね!」
「さすがマォ殿!やりましたね!」
「ところで今の呪文は?」
「何処に飛んで行ったのですかね?」
あれは呪文ではなく子供が怪我をした時に使うおまじないなのだとマォは説明した。
本来であれば「遠いお山に飛んでいけ」なのだが、マォが想像したのは狸とじらくりんぼである。
なので敢えて口にはしなかったのだった。
もっともその狸とじらくりんぼは脱毛ワックスのせいで瀕死の状態なのだが。
マォ達がその事実を知るのはもう少し後の事となる。
「とにかくよかったです。
では子供達、名前と何処で捕まえられたのか教えて貰えるかな?」
ダルクもしゃがみ込んで子供達に問いかける。
人族の2人は姉妹でアンナとハンナ。母親と畑仕事中に行き成り袋に押し込まれて連れ去られたとの事だった。
獣人族の子供2人は従妹同士でニアとソニア。2人の父親の兄を訪ねてウォーカー領へ向かっている途中に襲われて両親は殺害されてしまったとの事だった。
魔人族の子供はアレックス、同じく母の姉を訪ねてウォーカー領へ向かう途中に襲われ両親は殺害されたようだ。
「なんとも・・・
我が領へ向かう途中にこのような目に合うとは・・・
責任持って私が親族の元へ送り届けよう」
「アンナとハンナは住んでいた町の名前はわかりますか?」
「エルム村」
「そうか、確かケイルの隣にある村だったか」
「ケイルって何処?」
「ウォーカー領の隣にある町ですよ」
「なるほど、じゃぁ道中にあるって事なんじゃろ?
皆で送って行けばええじゃん。
2日もあれば着くってもっちゃんもゆうちょるし」
「2日で行けるのか、すごいなモファーム」
話が纏まったので簡単に朝食を摂る事にした。
とは言えすっかりと日が高くなっているので昼食も兼ねたブランチになる。
食べ終わった後は休憩をはさみながらの移動だ。
子供達はオーウェンとアルノーのモファームに乗せる事になったのだが、アレックスはモモを気に入ったようでモモが運ぶ事になった。
「待て待てモモちゃん、なんかそれ違う。おかしいじゃろ!」
モモは再び大きさを変えてモファームより一回り小さなサイズになったのだが、何故か嘴で襟元を咥えてぶらさげているのだ。
だが当の本人アレックスは喜んでいるのでまぁいいかと思う皆なのであった。
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