旅路②
温泉に辿り着いた時には日が傾いており空はオレンジ色に染まっていた。
モファーム達のお陰で最短距離かつ人目に付かない移動が出来ている。
だが皆疲労困憊である。
寝ずに走ったせいもあるが道なき道を進んだのだから仕方がない。
「簡易的な物ですがテントを張りましょうか」
イザベルがテキパキと動き始める。
「では俺は肉を獲ってくる」
町で肉は買わなかった。
売られている肉はハンターや冒険者が狩ってきた魔獣肉だ。
ならば買わずとも獲ればいいとアルノーが言ったのだった。
「じゃあ儂はそこらで野草でも採ってくるよ」
マォは野草という言い方をするがハーブの事である。
この世界では薬草として扱われるのだがマォは気にしない。
食後のハーブティーに使おうとしているのだ。
(たぶんローズヒップかそれに近いものがありそうなんだよなぁ)
無ければレモンティーかアップルティーでもいいかと思うマォだったが、すぐに見つける事が出来た。
こんもりと群生していたのである。
(余れば乾燥させるかジャムにするでもいいし、半分採らせてもらおうかな)
山に生える果物や木の実、山菜なんかを採りに行くとマォは半分は残しておくようにしている。
野生動物の為と来年もまた採れる様にする為だ。
欲をかくから翌年不作になったり、人里に野生動物が出てきたりもするのだ。
とは言えマォが住んでいた場所は山の中なので野生動物は隣人であったのだが。
黙々とローズヒップを摘んでいると奇妙な鳴き声が響いた。
『ウキョーホッホッホ、ホゲッコー』
(なんだろうかこの声は。ゴリラのようなどっかの南米の鳥の様な・・・)
まさか妖獣や魔獣だろうかとマォは持っていた鎌を構える。
ガサガサと藪をかき分けるような音が聞こえ『ホゲゲッコー』と飛び出してきたのは・・・
「ぶっ・・・
えーっと、チョコだっけ?」
ジャックの騎獣、ラージタラントだった。
(蜘蛛ってあんな鳴き声じゃったっけ?
いや魔獣だしきっとあんな鳴き声でもおかしくはないのか?)
「1人で来たん?」
マォが尋ねてみるとチョコはブンブンと横に首を振り答えた。
「ジャックと来たん?」
ブンブンと今度は縦に首を振る。
「そのジャックは何処?・・・」
こてんと首をかしげる。
「途中で落としてもぉたんかな?」
てへっと頭を搔いている。
(まぁ獣人なら逞しいしすぐに合流出来るじゃろうて)
マォがそう思っていると何かが足をつついている。
「誰が足をつんつくせよん。
って、なにこのちっこい鶏!」
『ウキョーッ ホッホホ』
「ぶっ、鳴き声はお前かー!」
マォの足をつついていたのは小さな鶏、バジリスクの幼体だ。
なんでこないに小さいのかとか、何故ここにいるのかとか考え込むマォの足からバジリスクを引き剝がすチョコ。
器用に前足でバジリスクの尻をペシペシと叩いている。
どうやらお説教をしているようだった。
しばらくその様子を見ながらローズヒップを採取し、目的の量が採れたので戻る事にする。
「ほら戻るよチョコ。そのちっこい鶏も連れてきて」
皆の居る場所まではそう遠くないのに、チョコはひょいとマォを掴んで背中に乗せた。
なにやらご機嫌な様子なのでマォはそのまま載せて貰う事にした。
皆の所へ戻ってみれば、枯れ葉まみれのジャックがそこにいた。
「なんか天然の迷彩になってるねジャック・・・」
「イェスマム! そこのモモにつつかれてチョコから落ちたであります!」
ビシッと敬礼して報告するジャックだが、枯れ葉のせいでいまいち恰好がつかない。
バジリスクの名前はモモと言うらしい。
「それにしてもよくこの場所が分かったね」
「チョコの仲間は至る所におりますので!」
「なるほど?」
「それでジャック。ここにはどんな用で来たのだ」
「イェスサー!隊長から手紙を預かっております!」
ルークが手紙を受け取り内容を確認するのだが、読み進めるにつれて眉間の皺が深くなる。
「おのれタヌークィ男爵!私自らこの手で成敗してくれよう!」
「ルーク、どしたん?珍しいね、そこまで声荒げるなんて」
「落ち着いてなどおられぬわ!今すぐ向かう」
「まぁ待たぬかルーク。まずは説明してくれ」
「これを読んでみろ」
と手紙をオーウェンに押し付ける。
オーウェンは皆に読み聞かせた。
内容はタヌークィ男爵がジラクール伯爵に人身売買をしているという物だった。
その中に獣人の子供や魔獣の子供も居るようで、おそらくはそういった性癖の持ち主なのだろうとも書かれている。
手紙には子供たちが監禁されている場所の地図も添えられていた。
「なるほどな、リオル団長を始めとする獣人達が動くと国際問題になる。
だから我々に連絡してきたのか」
「よし分かった。ルーク、皆で助けに行こうや。だから今日はまず休もう」
「休んでいる場合ではなかろう!」
「逸る気持ちは分るよ?じゃけどね、まずは儂等が体調整えておかんと
助ける途中でへこたれて魔力も切れてってなったらどうするんよ」
「だが・・・」
「だがじゃないん。焦って行こうが休んで行こうが事態が急変するこたぁないん」
「ルーク様、ここはマォ殿の言う通りかと。
我々の体力を回復させておかねばいざという時に困るかと」
「そうか、そうだな。すまない、つい気が急いてしまった」
「ほら、飯食おう飯。腹が減ってるからダメなんだ」
気が付けば夕飯が出来上がっておりイザベルは赤ん坊にミルクを飲ませている。
「寝不足や腹が減ってる時ってさ、短絡的な考えになったり感情的になったりで
思考能力や判断力が鈍るんよね。
だから確実に助け出すためにも食って寝る。わかった?」
「ああ、わかった」
しっかりと夕飯を食べた後、ゆっくりと温泉に浸かり各々が眠りについた。
3時間後、マォはもそもそと起き出す。
「マォ様どちらへ?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いえ、大丈夫ですがまさか単身で救出に向かうおつもりで?」
「げ・・・」
「げ、とはなんですか・・・」
「いや、ごめん」
バレてしまっては仕方が無いとマォはイザベルに説明する。
カレフの人が動けば国際問題になってしまう。
かと言ってマォ以外の人が動けば顔が割れているので面倒な事になりそうだ。
異種族への迫害を黙認してきたのなら今回の人身売買だって黙認している可能性だってある。
そうなった時ルークやオーウェンは打ちのめされてしまうのではないか。
これ以上心に傷を負ってほしくないのだと。
「ですがマォ様の身に危険がおよぶのではないでしょうか」
「ん~・・・イザベルはさ、知ってるよね?
儂の魔力量が多い事もスキルが想像力次第なのも。
そして固有スキルの事も。だからなんとでもなると思うんよねぇ」
「それは例の急所掴みを使うという事でしょうか」
「掴みたくはないから蹴るけどね」
この時マォは忘れている。
急所とは何も股間にぶら下がっている物の事だけではない。
心臓もまたしかり。 眉間、こめかみ、喉、みぞおちなども一応は急所なのである。
「んじゃサクッと行ってサクッと帰ってくる」
「どうか無傷で帰ってきてくださいませ」
マォはヒラヒラと手を振りそっと場所を離れていく。
少し離れた場所ではもっちゃんが待機していた。
『行こうかマォ』
「うん、よろしくねもっちゃん」
『任せて、いざとなったら変身してマォを守るから』
『ホゲキョッ』
「 ・・・ 」
『 ・・・ 』
「なんで居るのさモモちゃん!」
『マォ静かに・・・」
「はっ」
『一緒に行くって。マォがピンチになったらビーム吐くって』
「へ?」
まぁいいかとモモも一緒に行く事になったのだが、ビームって吐くものなの?と頭に?マークが浮かぶマォであった。
マォの中でビームは目から出るものという変な認識があるのだ。
カサカサと枯れ葉がこすれる音がする。
もっちゃんはなるべく揺れない様にと気遣いながらも急いで移動する。
タヌークィ男爵とジラクール伯爵はジラクールの屋敷に居る。
人々は屋敷の地下に捕らわれていると書いてあった。
(馬鹿正直に正面から行く気はないけどもどうすっかな。
イザベルみたいに地下を掘りすすめる?
でも監禁されてる部屋がわからんしなぁ)
考えていると問題の屋敷の裏手にある林に到着したようだった。
もっちゃんの全速力で20分。あっという間だった。
「さてどうすっかね」
『任せて、しっかり捕まってて。いい?
もっちゃん、行きます!』
「へ?!」
ズゴゴゴッと音をたてもっちゃんは地中へと潜って行く。
ちゃんとマォとモモに土が被らない様にシールドも張ってある。
時々方向を確かめるかの様にクンクンと鼻先らしき場所を動かしている。
何故鼻先らしき場所なのか、毛で覆われていて見えないからである。
ズゴゴゴッ ゴゴゴゴッ ゴンッ ぼふんっ
鈍い音が聞こえた後に視界が明るくなった。
マォはもっちゃんから飛び降りで周囲を確認する。
すると見張りの男らしき物がもっちゃんに轢かれて潰れていた。
(さっきのゴンって音は壁突き破った音か。
それにしても見事に白目向いて、まぁ自業自得だよね)
「もっちゃんナイス」
『フフン』
そして目の前の檻に子供達が捕らえられているのを見つけた。
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