アルノー①
騎士として城に勤めるアルノーは辺境の地で生を受けた。
母はハンターを生業とし父は不明。教えて貰えなかった。
辺境の地はモンスターが多く生息しており統治者はおらず、難民や少数民族がいくつかの集落を作り助け合いながら住んで居る地だった。
決して楽ではない生活であったが母の笑顔と力強さで充実した日々を送っていた。
アルノーは10歳からダンジョンには潜っていた。
「要は慣れだ慣れ。モンスターの放つ殺気を体で覚えろ。
目で見るよりも肌で感じて耳を研ぎ澄ませ」
実母の教えでダンジョンには常に連れていかれていたし、フィールドでも下級モンスターなどは1:1で対峙させられていた。
勿論しっかりと実母が見守っており窮地に陥れば助けるだけの実力があるだからだ。
アルノーが13の年、スタンピードが突発的に発生した。
その日もアルノーは自分も一緒に向かうのだと思っていた。
しかし母は集落の人と逃げろと言った。
「お前はまだ若い。命を粗末に扱うな。
無茶と無謀をはき違えるなよ。お前にはまだ難しいかもしれんがいずれ解るさ。
あたしは無茶や無謀な事をするんじゃない。
可愛い息子の為に無理を押し通すだけだから」
そう言い最高の笑みを浮かべてアルノーと背を押すと自分はスタンピードの方向へと駆け抜けていった。
それがアルノーがみた母の最期の姿だ。
アルノーは唖然としてしまったがすぐに気を取り直す。
今この集落に戦える者が自分しか残っていない。
じきに騎士団がくるはずだ。
それまでは自分が皆を守らねばと自身を奮い立たせた。
騎士団が到着したのは2日後、それでも早い方だった。
幸いにも避難する道中は下級のモンスターしか出くわさずなんとか集落の人々を守り切る事は出来た。
さすがに無傷と言う訳にはいかず多少の負傷者が出たのは致し方ない事だろう。
老人に子供、女性達と闘えぬ者ばかりなのだから。
それでもアルノーの負担を少しでも減らそうと老人は手に鍬や鋤を。女性達は鍋やお玉や包丁を。
子供達を中心にして守るように老人と女性達で外を囲んで歩いた。
このような状況下でもお互いを思いやる事が出来たから、この集落の者達に死者が出なかったとも言える。
自己中心的な者が居た集落では死傷者も多かったのだから。
その後アルノーは騎士団に引き取られた。
アルノーの実力は騎士団でも十分に通用するくらいにはなっていたし当時の団長が実母に頼まれていたというのもある。
「母君はな、最後まで地に膝をつく事も無く勇猛果敢に立ち向かっておられたよ。
これが噂の金色こんじきの羆かと見惚れてしまったくらいだ。
おっとこの名前で呼ぶと殴られてしまうな。
その母君に頼まれた、息子をよろしくと。
どうだろう、私が冥府で母君に有った時、約束を違えたと殴られないように
私と共に来てもらえないだろうか」
団長はわざと冗談めかして話した。
金色の羆とはなんだ、団長を殴ろうとする母はいったい、などと思う所はあったもののこの先どうすればいいのか考えあぐねていたアルノーはそのまま騎士団に世話になる事にしたのだった。
始めはどう扱ってよいのかわからず遠巻きに見ていた団員もアルノーの戦う姿を見て自然に声を掛ける様になっていった。
どんな訓練をしたらそういう戦い方が出来るのかと聞かれアルノーは答える。
「失敗したら母さんの蹴りが飛んでくる、その蹴りを避けれるように頑張った」
それを聞いた団員たちは納得し自分達にはマネできないと悟る。
(金色の羆の蹴りなんか喰らったら死ねる!)と。
「騎士とハンターの戦い方は違う。
俺は騎士の戦い方をしらないから教えて貰えると有難い」
確かにそうかと思った団員達はアルノーに騎士の戦い方を教える。
剣の持ち方からして違うのでアルノーも覚えるまでは苦戦していた。
やがて自分と相性のいい武器が斧だと解ると才能を発揮させていった。
気が付けば皆から弟の様に可愛がられ共に戦場でモンスターと闘い充実した日々を送っていた。
やがて仲間達は恋人を見つけ結婚をし子が生まれ現場から遠のき城内の警護職務にと移って行った。
アルノーにも想いを寄せてくる女性はいたが当のアルノーにその気が無かった。
(お淑やかな女性の付き合い方などわからん)
そう、ここに来て母親の影響の弊害とでも言うべきか、一般的に愛らしいしぐさの女性がアルノーは苦手だった。苦手と言うよりも対応の仕方が解らなかったのだ。
そんなものでずっと独身で通し30になった時、護衛騎士の誘いがきた。
いざとなれば自身の身を持って王族を守る護衛騎士故に独身者が望ましいのだ。
自分の様な者でもよければと引き受け国王や王弟殿下、時には宰相の護衛もおこなった。
実母に鍛えられたお陰でアルノーは護衛としての働きも遺憾なく実力を発し国王や宰相からの信頼を得る事となる。
殺気を捉え国王の暗殺を未然に防いだのも1度や2度ではない。
そして35になったある日 例の第二王子の事件が起こった。
国王の護衛として任務に当たっていたアルノーは衝撃を受ける事になる。
「貴方に拉致されたあげく身代わりに刺されたババァです、二度目まして?
生きてたのかって生きてますが何か問題でも?
本来死に掛けるのは貴方だったはずなんですがね?
好きで身代わりになった訳でもないですし?
勝手に拉致って人の人生まるっと奪っておきながら
怪我をさせたにもかかわらず放置のあげくババァ呼ばわりとか!
ありえねぇー!」
身分と言う物を皆無とした言動を取り、あの第二王子に対して放つ威圧感。
そして無遠慮に胸倉を掴み肩を叩くあの姿。
在りし日の母を彷彿とさせる。
母もよく身分や性別を気にもせず理不尽な相手の胸倉を掴んでいたと記憶にあるのだ。
国王は少し引き気味に、王妃はきらきらと目を輝かせ招き人を見守って居る。
世迷い事を喚き散らし招き人に反撃を試みるもいとも簡単にいなされてしまう第二王子。
始めて目にする招き人の感想は『母さん』だったアルノーである。
宰相から招き人の専属護衛騎士にならないかと声を掛けられた時には即答した。
護衛に就いてからは招き人時折言葉を交わす事もあった。
身分制度がなかった世界から来たとの事でアルノーの様に平民出身のメイドなどにも普通に声を掛けたりもしていた。
だが平穏な時間がすぐに終わりを迎える。
招き人が王都を散策したいと言い出し団長が供として付いて行く事となった。
当日には宰相までもが視察と称して付いて行く事になる。
アルノーは陰ながら護衛に就こうと決めた。
が結局は服装でバレてしまっているのだが
アルノー本人はそれに気づかなかったおまぬけさんである。
王都に入ってすぐに獣人が迫害を受けている場面に出くわした。
アルノーも何度か巡回中に見かけた事がある光景で胸が苦しくなる。
間に割って入る事もあったが後から貴族にネチネチと嫌味を言われる事も多かった。
今回は陰ながらの護衛なのでどうしたものかと考えあぐねていると招き人がツカツカと歩み寄り・・・
廻し蹴りを放った。それはもう見事な廻し蹴りだった。
怒鳴っている声も聞こえ、周囲に住人達も集まり始める。
これはまずいなとアルノーが思った時、団長が事態の収拾に乗り出した。
そして迫害行為をしていた騎士達をまるで荷物のようにモファームに積み込み、アルノーに後を任せて城へと戻って行った。
アルノーが近づけば招き人は肩を震わせ鳴くのを耐えているようだった。
「ルーク、この親子を埋葬したいんだけど」
「残念だが埋葬できる場所はこの町にはあるまいな・・・」
「なら、町を出てどこか河原に行きたいんだけど」
そうして親子を抱きかかえ移動する事となった。
母親を抱える事を交代しようと申し出たが、宰相はこのままでいいと言った。
河原へと辿り着くと招き人は流木を集め始めた。
埋葬するのではと尋ねれば、荒らされるのは嫌だから火葬して遺灰を巻きたいのだという答えが戻ってきた。
確かに掘り起こして遺体を晒す可能性を否定できなかった。
宰相と招き人が魔法で炎を生み出し荼毘に付していく。
しばらくして炎は消え、さらさらとした遺灰が残された。
招き人はそれを両手で掬い上げ、川へと流していく。
アルノーと宰相は手伝おうと遺灰に触るが、熱かった。
考えてみれば当然である。高温で燃やし尽くした直後なのだから。
「マォ殿この熱さでは手が焼けてしまうのでは」
と声を掛けたのだが招き人から返ってきた言葉はこれだった。
「それがどうした。この親子はもっと痛い思いをしただろうよ」
その言葉を聞き宰相が再び手をだしたのだがアルノーはそれを止めた。
「自分がやります。宰相殿は仕事に支障が出ますので控えて下さい」
アルノーは熱さも痛みも受け入れる事にした。
招き人があの親子を思い弔ってくれているのだ。
騎士たる自分がやらなくてどうするのだと自分を奮い立たせたのだった。
すべての遺灰を流し終え、3人は木陰に腰を下ろす。
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