第四章 食品業界の反乱
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第四章 食品業界の反乱
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騒動は一気に燃え上がった。
最初に声明を出したのは日本最大の食品メーカー、ヤマオウ食品工業だった。傘下に「家庭の味シリーズ」を持つ同社の主力商品のひとつは、五十年以上秘伝とされてきた「ヤマオウ醤油ダレ」だった。
声明はこう述べた。
「弊社は RML 形式の採用を即時中止し、独自フォーマットへの移行を検討します。わが社のレシピは企業の根幹たる知的財産であり、いかなる形式であれ GPL の解釈の下に置かれることを容認できません」
しかし、問題はすでに公開してしまったレシピにあった。
食品業界の多くの企業が、過去三年間に RML 形式でレシピをウェブサイトやアプリに掲載していた。それらのレシピについては、すでに GPL の対象となっているとの主張が、ネット上の「RML 解放運動」活動家たちから上がっていた。
「レシピ・フリーダム連合」と名乗るグループが GitHub にリポジトリを立ち上げ、企業の公開済み RML レシピを収集し始めた。連合のマニフェストはこう宣言していた。
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食の知識はすべての人のものだ。
企業が料理の知恵を囲い込む時代は終わった。
RML のコピーレフトに従い、あらゆる RML レシピを
自由に共有し、改変し、再配布することは我々の権利である。
食料の自由を!
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一方で、「独立料理人連合」は全く別の立場から反発した。
「我々は自分のレシピを自由に選択する権利がある。GPL を使うも使わないも、公開するもしないも、個々の料理人が決めることだ。シュルツの『解放』は、結局のところ、他者の意志を無視した押しつけに過ぎない」
代官山のキッチン・ソノラでは、陽介が連日の問い合わせに追われていた。
「葛西さん、法律事務所からメールが来てます」さくらが言った。
「どっちから?」
「えっと……三件あります。一件は RML 解放連合から。公開済みレシピの再配布について。一件は消費者団体から。一件は……うちがよく使う醤油メーカーのヤマビシ醸造から」
「ヤマビシから?」
「うちのレシピにヤマビシの特製醤油の使い方が書いてあるから、その企業秘密に関わるって……」
陽介は天井を見上げて大きく息を吐いた。
「俺は料理がしたくて店を開いたんだがな」
その夜、陽介は初めてシュルツのインタビュー動画を最初から最後まで見た。そして一通のメールを書いた。英語で。下手くそな、しかし誠実な英語で。




