第三章 シュルツの意図
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第三章 シュルツの意図
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ドミニク・シュルツへのインタビューは、志賀真帆のブログ記事が拡散した三日後に実現した。場所はビデオ会議。シュルツはサンフランシスコ郊外の自宅から画面に現れた。三十代後半、無精髭にくたびれたパーカーという出で立ちは、いかにもオープンソース文化圏の人間らしかった。
インタビューを行ったのは IT ジャーナリストの前田康夫と、志賀真帆本人だった。
志賀は配信前、マイクのミュートを確認しながら一度だけ深呼吸した。法理の議論に見えて、その背後には誰かの生活が折りたたまれている。彼女はそれを、忘れないようにしていた。
「わかっていた、ということですか?」前田が単刀直入に聞いた。
シュルツは少し笑った。困ったような、しかしどこか満足げな笑いだった。
「わかっていた、というより……意図したことでした」
回線の向こうで、志賀が小さく息を呑む音がした。
「レシピには著作権がない、ということは誰でも知っています」シュルツは続けた。「料理人がどれほど苦労してレシピを開発しても、それは知的財産として保護されない。一方で、大企業は秘密保持契約でシェフを縛り、企業秘密として料理の技術をロックアップしている。矛盾していると思いませんか」
「でも、それがなぜ GPL につながるんですか」志賀が問う。
「ソフトウェアの世界では同じ問題が起きた。企業がコードを囲い込んで、誰も見られない、使えない、改変できない。その流れに抗うために、リチャード・ストールマンは GPL を作った。コードを自由にしろ、知識を共有しろ、という哲学です。私はそれを料理に適用したかった」
「しかしレシピには著作権がないのですから」志賀は言葉を選びながら言った。「GPL の適用根拠が……薄くないですか?」
「そうです」シュルツはあっさり認めた。「法的根拠は微妙です。でも RML を使うことへの社会的な圧力として機能するかもしれない。みんなが RML を使い始めて、RML のライセンス条件が業界標準として定着すれば、事実上のノルムになる。法律は後からついてくる」
「それは……随分と強引なやり方ですね」
「ストールマンだって強引でしたよ」シュルツは肩をすくめた。
「でも彼がいなければ Linux も存在しなかった。Wikipediaも存在しなかった。誰かが最初の一手を打たなければ、何も変わらない」
前田康夫は手元のノートにメモを走らせながら、内心で思った。
この男は確信犯だ。そして問題はこれからだ。




