枯れない華
「⋯っはは。笑わせないでよ、穫盧?私が自殺志願者?ないない。ほかはそうかも知れないけど、私はそんなんじゃないから」
糖は自分の一瞬の迷いを隠すように、先ほどとは程遠いおちゃらけた声で言う。
「まあいいさ。そんな事。とっとと死んでね。みーんな」
糖は、またさっきの声のトーンに戻ると、苛性カリをそっと数来に近づけた。
「おっと、糖。私から行くのかな。やだなあ」
「へえー。以外だね。仕返しとか、しそうなのにね」
数来の反応が意外だったのか糖は不思議そうにしている。少し間があった。「仕返し。されたいんじゃないの」という、穫盧の小さなつぶやきは、その後の甲高い悲鳴によってかき消された。
「あ”ああああ”ああああ”あ”あ”あ!!熱い痛い苦しいイタイイタイイタ…い」
まさに、ノイズ音のような悲鳴を上げたのは数来だった。どうやら、苛性カリを腕にかけられたらしい。まさに映像はグロテスク。一般の人が見たら卒倒するレベルだろう。
「あはは。どう?痛い?痛いよね?痛くないわけないよね。わざと痛くしてるもん」
糖はひどく楽しそうに言う。
「⋯⋯っ!ちっ。いってえなあ。まあ、私にやったってことは自分もやられる覚悟、あるよね」
「もちろん」
数来は、悲痛な表情を浮かべながら、痛そうに片腕をもう片方の腕で抑えながらも笑っている。
そこからは、数来が糖からかけられるのを避けたり、ビーカを奪い取って糖にかけたり。糖は、ビーカーを奪い返したり、喉を狙ってみたり。いろいろな戦いが繰り広げられていた。
二人とも息が荒く、肌は焦げ、糖に関しては片目をやられ、数来は片腕片足、片耳などをやられていた。幸い、急所には当たっていなかった。幸か不幸か、それはある意味最悪だった。痛くて苦しい中の生地獄。
⋯⋯最も、それを選んだのは紛れもない、彼らなのだが。
◇◆◇ ◆◇◆
そこから、何分。いや何時間経っただろう。糖の悲鳴が聞こえたり、数来の悲鳴が聞こえたり。お互いの体は、もうぼろぼろだった。
「⋯⋯へっ。やるじゃあん」
「⋯ぁ、あんた……こ、そ。やる、ね゙」
そういうと、糖は力尽きたかのように、倒れ込んだ。苛性カリはほぼ使い果たし、腕力をほぼ失った糖は苛性カリのはいっていたビーカーを床に落とした。パリンと音がなる。破片が理科室の床に散らばり、残っていた少量の液体は、大きめのビーカーの破片の縁のギリギリで止まった。
「ねえ。糖。最期に聞いていい?糖はなんで、このゲームに参加したの?」
「ん、⋯⋯そ、なの…あ、たしが、言わなくて、も、わ、かるで、しょ?こ、のげー、むはじ、めてじゃ、なさ、そーだ、し……んー。ね、最期にいい、かな。あり、がと。こ、んなあ、あたしのこと、に、んげだとせっして、く…れ、て……」
糖はそれだけ言うとまぶたをゆったりと閉じていった。
糖の体が冷える。皮肉にも、無惨な肉塊すら糖であれば美しく見えてしまう。今までは、年増女や中年の親父ばかり殺してきた。若い少女は、これほどまでに美しい死に方をするのか。彼女の華の裏にある、闇がその美しさを輝かせていた。本当に、どこまでも枯れない華だ。私は、ゆっくりと彼女に近づき、そっと頬に触れる。
それと同時に、理科室のドアが開き、黒い服を身にまとった人間が現れた。其奴らは、紙束を置くと、すぐに撤収していった。
「⋯⋯ねえ。これ、何?」
身に覚えがないものだったので、数来に聞いてみる。
「ああ。これ?そっかあ、萊猫。初めてだもんね。これ書かなかった?このゲームに参加した理由だよ」
「そうなんだ。ありがとう。ていうか、数来は大怪我してたのにどうしてそんなにスラスラ喋れるの?」
「えっとね。とある職人さんがいて、その人に大怪我しても大丈夫なように身体改造してもらってるの。これでも結構痛みはあるんだけどね。喉と大事な臓器だけは守られるように手術してもらったんだ」
「ほええ」
アイギリってそんな事できるんだ。すごいなあ。そんなことを思いながら、紙束を手に取る。
《東條茜 参加理由 プロフィールなど》
表紙にはそう書かれていた。
次回は3月14日に投稿です!読んでいただきありがとうございました!!
ぜひ次回も読んでください!!




