第二話 急いで幽霊と遭遇すべし その1
[山咲 涼]
中之中高校は朝から大騒ぎだった。
マスコミから生徒を守る為に先生達は、朝早くから見張りに立っていた。
それも学校の最寄駅や、少し離れた通学路。学校を包囲する様に陣取っていた。
そんな中をご苦労さまです、と心の中で呟きつつ校門を抜ける。
まぁメディアが殺到するのは仕方がない事だ。
なんといっても、教師の不審死。
那森さんを車で撥ねて逃走した数学を担当していた眞元。
その眞元の車は、警察の捜査で押収された。
にもかかわらず。
その車があろうことか、勝手に動き出して眞元自身を轢き殺したのだから、取材も殺到するというもの。
事故で捨てられた車の怨念?
なんてコメントをネットで見た。
おもわず、”いいね!”を付けてしまった。
あの車が勝手に動いた理由はまだ分からない。
おそらくそれについては桐生さんと狭間さんが調べているはずだ。
とりあえず、そんな奇怪な事件なもんで、学校の電話も朝から鳴りっぱなし、だそう。
今日は流石に臨時休校になるんじゃないかな、と思ったんだけどなぁ。
ロッカーで上履きに履き替えている間、周囲の話し声に耳を澄ませる。
桐生さんが何をしたのか分からないが、俺たちは事件に無関係なモブとして警察にそう処理された。
事件に関わりがなく、ただ事件現場に居合わせただけと公にそうなったのだ。
桐生さんとなんらかの事件に関わると、こんな都合の良い事がしばしば起きる。
と、狭間さんが教えてくれた。
だとしても。
学校内で行き交う情報は別かもしれない。
どこかで誰かが俺たちの事を見ていて、殺害された眞元と関わっているところをジッと見つめていた奴が。
そう思うと用心深く周囲の会話を収音マイクさながらに耳に拾い集めてしまう。
やっぱり皆が皆、眞元について話し合っている。
周囲にいた同級生達の話の内容は俺たちの事は含まれていないようだ。
女の子三人のグループが三角集まって、シリアスなトーンでしゃべっていた。
その会話の中で「今日ぐらい、休校でも良かったんじゃない?」と聞こえた。
俺も心の中で激しく同意した。
でも、残念ながら学校側は通常通りに開校。
休校にすると何か都合が悪いのだろうか?
そんな事を思いながら歩いていたらいつのまにか、自分
のクラスに到着していた。
昨日の一件について、いつ声をかけられるかとオドオドビクビクしていたが杞憂だった。
ため息をつきながら教室へ入る。
すると。
「あ! 山咲! 貴様に聞きたいことがある!」
教室へ入った途端に声を上げる者が一名。
突如、並木が俺の顔をみるなり呼び止めてきたのだった。
その声に思わず体をビクン! と跳ね上げてしまう。
俺の机にパン、と手をついて変な形相を浮かべている。
イカリングと思って食べたらオニオンリングだった。
それに対して不意をつかれてちょっと怒っている。
そんな顔だった。
「なんだよ」
「いいから早くお座り!」
と、変な形相を維持したまま言う。
何がお座りだよ。
お前はアクトスリーか。
俺の席で待っているので、しぶしぶ行って座るなり。
「お、おま……お前……昨日、あの暴れん坊漢……藤巻と一緒にいたって、本当なのか!?」
しどろもどろにそんな科白をポプラが吐いた。
「え……?」
本当なのかって確認をしにきた?
コイツ、誰からか聞いたのか?
「だ、誰に聞いたんだ?」
聞き返すとポプラは深いため息をついた。
そのため息のつき方が、なんだかひどく同情されているような……。
「ザッキー……お前、いじめられてるんだな」
「………………………」
………はぁ?
いや、コイツ……。
「違うわ……。ってか、いい奴だぞ? 藤巻」
そう言い開くと。
「……調教進捗度60%ぐらいか……泣けてくる」
大袈裟に両目を覆ってそんなムカつく事をポプラがほざいた。
「お前いい加減にしよろ……」
「”しよろ”?」
「うっさい。いい加減にしろって、言ったんだよ。俺、藤巻に助けてもらったんだよ」
「は? なんで? 何やらかしたのお前? いや、お前は自分から何かを仕掛けるような、そんな思考や行動力は持ち合わせてないな……。じゃあ、恐喝でもされたのか?」
「……ムカつく推察の挙げ句、見当違いな着地だよ。ちょっと……まぁ、人と揉めたんだよ。それで藤巻が間に入ってくれたんだ」
うん。
大半はウソを言ってない。
「ほぉ……」
なんなんだ。
今度はえらく感心したように、うんうんと頷く。
「……そ、それで心友になったのか」
「なってない」
「まさか……お前、そんなこんなで藤巻とマ、マックとか、か、からうぉけとか行って親しくしたり……」
「いや、何言ってんの? なんでお前震えてんだよ」
俺の机に突き立てている手を本当に震わせる。
目の前のそんな変人は何を思ったのか急に真顔になり、机から手を離して姿勢を正した。そして。
「いや、もし……もしだな。藤巻とどっか行く時があるなら、俺にも是非声かけてくれ。ご、ご飯とか」
そんな事を言った。
忙しい奴。
それにしても。
「……なんだよ。藤巻と遊びたかったのかお前。だったら誘えばいいだろ」
「何を言うか。藤巻はきっと俺の事なんて雑食系草食動物ぐらいにしか思ってないんだからな。そんな認識しかされてない奴が声かけても全スルーされるだけなんだかんな!」
「なんだよその面倒な生き物は……大人しく草だけ食んでろよ」
「……これ以上、俺の人生に草はいらん。ただでさえ子供の頃から周囲の連中に生やされてき……」
しゃべっている最中のポプラが、俺の頭上辺りを見て硬直した。
まるでレアキャラと遭遇したように、呆然としている。
そしてさらに、ずっとザワついていた教室の中が静まり返った。
それでおおよそ予想がついた。
そして、振り返ってみる。あぁやっぱりか。
藤巻が俺の後ろで、ぬっと立っていた。
なんだかその表情が険しく顔色も悪い……。
もしかして昨日あれからまた何かあったのか?
「おはよ、藤巻。どうかしたの?」
と、俺が訊くと。藤巻は「おぉ。あぁ、ちょっとな……」と、ぶっきらぼうに返す。
あれ? 顔色は悪いのに耳が赤い。
今のポプラとの会話が聞こえたのか。
「お、おはよう!」
突然、ポプラが無駄に元気な挨拶を交わそうとする。
「あぁ……ウッス。ちょっと顔貸してくれるか山咲」
顎で教室の外へ出る素振りを藤巻が見せる。
やっぱり何かあったのか。
でも、ポプラに何か悟られたらまた面倒なので。
「うん? 分かった」
余計な事は聞かずに返答だけして俺は席を立った。
「おい、並木」
教室の出口へ向かう藤巻が振り返って。
「メシぐらい行くからよ。いつでも声かけてくれ」
そう言い残して藤巻は教室を出た。
「よかったな……って、おい大丈夫か?」
よほどに予想外だったのか、呆気にとられているポプラ。
屍のように返事がない。
うん……そっとしておいてやろう。
俺も教室を足早出た。




