十字路に棲む女霊 16
頭を垂れたカーブミラーに寄りかかるようにして、眞元は絶命していた。
絶命していると分かるのは、体はカーブミラーに寄りかかっているのに、顔は眞元の背後にいる俺達へと向いているのだ。
首がくっきり捻れている。
その姿、猛禽類が如く………ウェッッッ。
人が遺体となる瞬間を見るのは初めてで……。
これはかなり ″来る物″ がある……。
そんなリアクションを施している俺を見て、狭間さんが立ち上がりながら。
「……よう。今度は助ける事が出来たな。きっちりリベンジ果たしたじゃねぇか」
と、隣で座り込んでいる藤巻に手を差し出した。
藤巻はその手を掴むものの問いかけに答えず、フィと顔を逸らす。
ただ、耳がほんのりと赤い。
ちょっと照れているらしい。
「……何かいますね」
ぽつり、と神妙な面持ちで桐生さんが言った。
ここに来てから初めてじゃないか? というぐらいにシリアスな声のトーン。
そんな桐生さんを見ると、ある方向を見つめていた。この車が突っ込んできた南の方を。
その桐生さんの視線を目で追う。
すると、桐生さんが言った言葉がすぐに理解出来た。
こちらを遠巻きに見ている群衆の中に、やたらと際立つ存在が目に飛び込んできた。
同時に俺は恐怖心により体ビクッと振るわせてしまった。
本来、いないはずのものが急に現れた……的なアメリカのホラー映画を見た感覚に近い。
そこには透き通るような肌をした……いや、本当に半分透き通った男の子がボーッと立っていた。
小学生………一年生か二年か、三年……。遠目じゃちょっと判別がつきにくい。
その子は傍に立つおじさんをずっと見上げている。
そのおじさんの顔を確認しようと少しずつ横にずれる。
と、視線を察知したのか? フッとその姿が消えた。
しまった。余計な事をしたか。
すると桐生さんが隣に来てブツブツと。
「……朱雀、私の声が聞こえますか? 聞こえますよね……。ねぇ、聞こえているんでしょう!? 跡をつけて欲しい人がいます。私のいるところから―――」
誰かと話を始めたけど通話では無さそうだ。誰に話してるんだろ?
「どうかしたのか?」
俺が変な動きをしていたのが気になったのか狭間さんが訊いてきた。
その問いかけに桐生さんが。
「首謀者か、もしくは関係者かどうか……。何とも言えませんが、気になる人を見つけましたので ”あの子” に追わせます」
そう答える。
「……どんな奴だ?」
「男の子の魂と縁を結んでいる術師のようです」
魂と縁を結ぶ?
どういう意味でしょうか?
そう俺が桐生さんに訊ねるより先に。
「……ねぇ、桐生さん。聞きたいことがあるんだけど」
勝丸さんが桐生さんに静やかに声をかけた。
「はい?」
「さっき、この眞元さんの爆発を見ようとしてたのは、何か目的があったんじゃないか、って思ってさ。よかったら教えてくれないかな」
まるで誰かを慰めるような表情をして勝丸さんは訊いた。
そんな勝丸さんの問いかけに桐生さんは。
「少し……、少しだけ似てたんです」
そう言って横目で誰かを見た。
その視線の先にいたのは。
『狭間さん……?』
そう狭間さんだった。
そんな桐生さんの視線に気づいた狭間さんが、何やら肩を振るわせている。
そのお顔たるや……いますぐに誰かを殺しそうだ。
ゴン!!
狭間さんが壁に拳を突き立てる。破片がパラパラと砕けて落ちる。
そして。
「本当か……いたのかよ? 俺の両親を殺した奴が!」
そう咆哮した……。
狭間さんの両親は呪術師に殺された?
「落ち着いて下さい……。今回は……いえ、今回も残念ながら別人です。術がほんの少し似ていたのでそう思ったんですが」
無念そうに桐生さんが言った。
そんな二人のやりとりに俺が言葉を無くしていると。
「申し訳ないんですが、私、少し急ぎます。ここはちょっとお任せしますね」
桐生さんが足早に立ち去ろうとする。
さっきの人を追跡するのかな。と、思っていたら。
「今の奴を追いかけるのか」
と、俺の疑問を狭間さんが訊いてくれた。
「そちらの方は問題無いと思います。朱雀に追跡させてますし、あと……」
嫌がらせに術をかけておきましたから、向こうからのリアクションが期待できます、と悪い顔で笑いながら付け足す。
ってか、あの一瞬で術をかけたのか?
デタラメにめちゃくちゃな早業だ。
「私は凍矢さんの事が気になります……。もし、面倒な奴と縁を組まれていたら……」
「……だな。分かった、頼むわ桐生さん」
「えぇ。では、那森さん……」
那森さんから凍矢さんが住んでいた家や職場、二人でよく行っていた場所などの詳細を桐生さんが聞いていると那森さんが。
「私は、その、どうなるのでしょうか」
と、桐生さんに訊いた。
すると桐生さんが。
「ん〜と、そうですねぇ。何もしなければ40日ほどで成仏してしまいますが、その前にあなたの事を必要とする人がきっと現れます。なので、しばらくそのままで居てください」
そう宥める。
それだけ言うと。
「では、私はこれで」
桐生さんは立ち去った。
なんか、すっごいもやもやする事を残して行ったな。
特に嫌がらせにかけた呪術ってどんなだろう。




