十字路に棲む女霊 14
「悪いな那森さん。続けてくれるか? 連中のサイトで嫌なモン見ちまったんだよな」
狭間さんが取り直して促すと、那森さんはコクリと首肯すると。
「年齢、性別、様々な人がその……。何をすれば……こんな姿にされるのか……と、それは悍ましい姿が載せられてました」
よほど思い出したくもない記憶なのか目を泳がせた。
「それはメニューのコースですね」
桐生さんがワケの分からない相槌を打った。
コース? メニュー?
ちょっと理解が追いつかない俺と藤巻の視線が合う。
「どういう意味だ?」
そう訝しく藤巻が聞き返す。
「言った通りですよ。呪道会は呪殺を行い対価を得る集団……殺し屋です。主に呪具を扱って殺すので、凶器ですとか、物的証拠が出ません。だから依頼者にも好都合なんです。那森さんが見たのは ″その対象者をどんな殺し方にして欲しいのか?″ と、その具体例を見せるためのものです」
そう明言する。
「そんな奴らがいんのか……。なんで誰もなんもしねぇんだよ」
藤巻がそう悪態をつくと。
「……お言葉ですが私は何人も倒しました。ただ、薄気味悪い連中で、構成員が何人いるのか、どこを拠点にしているのか全く不明なんです。考えるに定期的に引っ越して根城をコロコロと変えているのでしょう。構成員もその都度、補充して……」
そう少し釈明気味に言うと桐生さんは「歯痒いことですが」と、付け足す。
「で、話を戻すが、連中のサイトを見てから、状況が一変したんだよな? 那森さん」
「はい」
「連中はどんな事をしてきた?」
「最初に……凍矢のPCに着信がきました」
「なんて来た?」
「″用件は?″ と」
「それだけか? で、返事は?」
「……いえ。怖くなったので、何もせずにその時すぐに通信を切りました」
「それから?」
「最初にサイトを見たその二日後です。私達の部屋のテーブルに、写真立てから抜かれた私達二人の写真が置かれていて……マジックで顔に丸く印をつけられてたんです」
「それが連中の仕業だって事がなんで分かった?」
「私達が写真を見た途端、凍矢の携帯にメッセージが入ってきたんです。 ″理解したか? こちらはお前達の姿を確認した″ と。それから…… ″死にたくなければこちらが出す条件を聞いてもらおう″と…… 」
「条件……ご大層だな。連中は何を言ってきた?」
「三日後、今から指定する場所まで来るように、と。……もちろん行きませんでした。恐ろしくなった私達は、別れたフリをして、私は実家の方へ……凍矢はウィークリーマンションへ必要最低限の物を持って引っ越しました」
「話途中で悪いんだけどよ……。なぁ、それで中之中高のモン狙ったんだよ」
なんだかずっと焦ったそうにしていた藤根が割って入った。その藤巻の問いかけに。
「それは私から説明します」
桐生さんがそう切り出した。
「那森さんは呪術で殺されてしまったんです」
藤巻の顔を見据えて桐生さんがきっぱりと言った。
が。
「はぁ? 何言ってんだ。車の事故だったろ。アレのどこが呪術……」
到底納得のいかない回答に、首を捻った藤巻が困惑して聞き返す。
「呪道会の中には、物を使って間接的に呪術を施せる者がいます。この場合は車に呪力が込められていた。それに衝突した那森さんは死んだ後、最後に目にした人を襲う怨霊にされたんでしょう。中之中高で男子生徒と」
「……あの俺もいいですか?」
俺も流れに便乗して、気になっていた事をなし崩しに質問する。
カーブミラーを見た時から聞こえていたあの―――。
「指輪は……あの音をどうして那森さんは聞かせたかったんですか?」
「指輪……」
俺の言ったことに那森さんはハッとした表情で。
「そう……あの、凍矢は……! 睦月がどうしているか知ってる方いますか?」
と、不安そうに狭間さんの方を見る。
そんな那森さんに狭間さんは。
「あぁ、あの指輪の音は、那森さんが凍矢さんの身柄を案じてたからだ。それが分かったからよ、その……言いにくいんだけどよ……」
そう言って目を伏せる。
「……嘘……ウソですよね」
「悪いな……ついさっきだ。ここへ来る前に教えてくれた人がいてな。……昨日、ホテルで亡くなっているのを、そのホテルの従業員が見つけたらしいんだ」
「そんな……」
狭間さんがいう教えてくれた人ってのは、きっと勝丸さんの事だろう。
那森さんは視点も定まらない様子でただ呆然としている。
その睦月さんの生を信じて離ればなれになったというのに、亡くなってからこうして訃報を聞かされるというのは気の毒の他ならない。
と、そこへ。
「おーーーい」
遠くから呼びかけてくる、男性の明るい声が背後から聞こえてきた。
このほんにゃりした声は……。
振り返って見ると。
「ごめんよぉ、遅くなって」
こちらへ向かってくるずいぶんと古い、黄色の軽自動車が一台。
その運転席の窓から顔を覗かせていたのはやっぱり勝丸さんだ。
「智巳さん。どうだった?」
狭間さんが呼びかける、と。
「うん、まぁ……ハハ、大変だったよぉ。警察がビッチビチにマークしててさぁ。でもなんとか……んしょっと……拉致ってきたよ」
も、拉致ってきたって……?
俺達の前で車から降りた勝丸さんは、後部座席をおもむろに開ける。
そして。
ドサッ!
と、冷凍マグロを引っ張り出しているような、少し雑な仕草で後部座席から何かを引きずり下ろす。
勝丸さんが引きずり下ろしたのは。
「「眞元!!」」
俺と藤巻の声が重なった。
アルミの蒸着テープで口と両手両足をぐるぐる巻きにされた眞元だった。
突然の拉致、だった事は眞元の服装を見て分かった。
紺色のジャージ姿で、それはそれは色落ちして疲れ果てたジャージだ。
……勝丸さん、大胆過ぎる。
「この男ですよね……私を………」
那森さんが眞元をジッと見下ろす。
「おい、那森さん……」
狭間さんが呼びかけたのは、那森さんの表情が猛烈に禍々(まがまが)しくなっているかだ。
その姿を暗い影が覆う。
目の辺りが暗くなって穴のようになり、どんどん恐ろしい怪異の姿へと―――。
「駄目ですよ那森さん、今は冷静になりましょう。後でしっかりとこの男をケチョケチョにしましょうね。私もご一緒しますから……んふぅ………」
「ぃひゃあああああ!!」
突然、那森さんが四肢を伸ばして叫んだ。
諭す桐生さんに耳へと息を吹きかけられたからだった。
変な言い方だけど恐ろしい怪異、怨霊になりかけたのが、まだ見た目が健康な霊魂の姿へと戻った。
ただ、息のせいでその顔は若干青い。
霊に対して顔が青いと思うのはまた変かもしれないども、とにかくさっきより幾分か青い顔をしている。
「な、何をするんですか!?」
那森さんが軽快なバックステップをしつつ、桐生さんを咎めて距離をおいた。
「幸せのおまじないです。ふふ……」
言って悪びれもなく、桐生さんはニコリと微笑む。
俺はその二人を横目に。
「どうやって連れ……いや、訊かない方がいいですよね……」
勝丸さんに訊こうとした。けども、言葉を引っ込めた。
「大丈夫。今度教えるよ涼君」
そう俺にウインクする勝丸さん。
その言い方たるや ″パフェがおいしいカフェ″ を伝えてくれるぐらいに軽い。
「たださぁ……なんか様子が変なんだよねぇ……」
地面に顔を擦り付けてうつ伏せになっている眞元に勝丸さんは、少しだけ困ったような顔で視線を落とす。
「変てどこがだ智巳さん?」
「ん〜……。ねぇ、ちょっと口のテープだけ剥がしてみるね」
そう言って屈んだ勝丸さんは、カーペットでも丸めるように、眞元をひっくり返して仰向けにする。
「ちょっとさぁ……これなんだけど……」




