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十字路に棲む女霊 13


 俺達の話が少し落ち着いたところで藤巻が「おい、そろそろ話、聞かせろ。俺をここに呼んだのは山咲なのか?」と、少し怒りを含ませて俺に訊いてきた。


 その藤巻の言に、あ、やべ、と思ったがもはや手遅れだ。


 正直、ここへ到着してからなにやら忙しくて藤巻に事情を話すのをすっかり忘れていた。


「うん。そうなんだ。ごめん……」


 呼んだのは確かに俺だ。

 そこは間違いない。

 そして呼んでおいた後、ほったらかし。

 

 これは一発、二発殴られるのを覚悟が必要そうだ。


 そう思っていたら。


「じゃあ、お前もアレか? 呪われたってか?」


 なんて訊いてきた。


「あ、うん。まぁ……そうだったかも」


 悪ぶってる藤巻のクセに事情を聞いてくれるなんて少し意外だった俺は、「呼んだりしてごめん。藤巻がいないと解決出来そうにないと思って」と、流れに乗ってついでに謝ってみる。


「別に……。どっちみちここに来るつもりだったからよ。それはどうでもいい。ただ……悪霊になったかなんか知らねぇけどよ。あんたウチの学校のモンなんでやったんだよ」


 そう睨みをきかせて言った、その相手は那森さんだ。

 那森さんとは初対面でないにせよ、幽霊相手にすごむっていい度胸している。


 こっちは結構前からハラハラしているってのに。

 そんな状況に俺がやきもきしていると。


「……本当にごめんなさい。話を聞いてもらえますか」


 俯いた那森さんが、か細い声で話を始めた。




――――――――――――◇―――――――――――




「私には婚約した男性がいたんです。名前を睦月 凍矢といいました。凍矢は今思えばなんですが、良い意味でも悪い意味でも好奇心が旺盛で……。ある日でした。その凍矢がソフトウェアを使い、ダークウェブにアクセスをしたのが始まりでした……」


 と、思い出すのも辛いのか、那森さんがそう弱々しく言う――――――と。


「なるほど。凍矢さんは過激でディープなアダルトサイトを、なんとかこじ開けようとなさったんですね」


 そう曲解ややこしくした桐生さんが、勝手な想像を突きつける。


「え……? いえ、違います! 最初は本当にただ興味本位で……」


 那森さんが僅かに動揺して目を伏せる。

 那森さん、思うところがあったのかな……。

 そんな那森さんに桐生さんが、手をワキワキと何かをつかむような仕草で。


「それは嘘です! 健全で健康な男子ならまず、激アツなアダルトサイトを見るはず。そしてその後、彼女と一緒にキャッキャと、イッチャイッチャとするんです……! あぁ! なんてハレンチな二人……!」


 と、非難を向けるようにえらく熱く語った……。

 ………何この人。


「ハァ、おい桐生さん。話が進まねぇからちょっと黙……」


 狭間さんが諭す。

 と。


「おわっ!!」


 桐生さんがいきなり俺の両肩にグッと手を乗せてきた。

 なんかすげぇ力が入って重い……。

 表情を見ようとするも、その顔は項垂れて見えない。

 

 何……急に……。


 そんな困惑する俺に顔をバッと上げて。


「えぐ……ひっぐ……うらやばじい(羨ましい)……。えぐっ……わ、わだじも……(私も)好きな人ど……いっちゃいちゃしたい……えぐっ……ひぐっ……」


 そんな事を言って、顔いっぱいに止みそうにない涙雨を流す女性。


 やがてドロッともずくのごとく、俺の両肩を持ったままその場に崩れ落ちて……って。


 ……俺、この人とさっき会ったばっかりで、初対面のはずなんだけどな……。


 っていうか両肩に乗っけられた手がいい加減に重い。


 なので持ち直してもらう言葉を探した俺は。


「桐生さんもすればいいじゃないですか。すぐにでもできる……」


 言った刹那。


「………………………あ?」


「ヒッ………!」


 俺の余計だったらしい一言で、恐ろしい感情モノを呼び出してしまった。


 泣き崩れた顔から一転。

 俺に向けられた恐ろしい表情がそこにございました。

 その顔は深い闇そのもので。


「何それ、植物の葉脈?」と思えるほど、 ″ご立腹″ なる血管を顔中に走らせた桐生さんが俺の肩を。


「今………何か…………言いましたか…………?」


 脱臼はずしそうなぐらいの握力を込めてきた。

 

 いや! 何!? この握力!


力強ちからつよ……! ごめんなさい! なんだか分からないですけど余計な事を言ったみたいで!」


 そう心から俺がひれ伏すと。


「あ! ごめんなさい! つい嫌な記憶が蘇って、八つ当たりしてしまいました」


 そう言って桐生さんは気分が沈んだのか、ちょっと悲しそうに目を伏せた。

 

 やっぱり触れてはいけない個人的事情のものらしい。


 うん。


 悪かったです。

 わかりましたから!


「桐生さん! いい加減離してください!! 本当に肩が外れますから!」


「おい! テメェら邪魔すんな! 話が進まねぇじゃねぇか!」


 そう藤巻がイラついて、ごうをコトコト煮やしながら俺と桐生さんを叱ってきた。


「「はい、ごめんなさい……」」


 俺と桐生さんが一緒に頭を下げる。

 藤巻に普通に怒られた……。

 ちょっとなぜか顔が赤くなる。


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