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十字路に棲む女霊 12

――――――――――――――――――――――――――



 っつか、何者か分からないけど、えらく粘着質で面倒な人を怒らせたみたいだ。


「そう……あれは私が小学生の頃でした。私の声をクラスの男子がイジった後にその男子をですね……。怖気おぞけほとばしる深淵からの使者を当てがわせ………」

 

 今度はほんのり中二しょっぱい風味な武勇伝ノスタルジーを語り出した。

 ってか、テレパシーなんて上等で奇怪な技を使って、チープな武勇伝を語り掛けないでほしい。


 こんな事に巻き込まれている間にも。


 目線の先では狭間さんと藤巻の二人と、暗い幽体の那森さん一人と進展があったらしく、狭間さんが何事かを那森さんに語りかけると、那森さんは藤巻の首を絞めようとしていたその手を引っ込めた様子だった。

 


「おい!! 涼! 何やってん……!」


 あ、ヤバ。

 狭間さんに気づかれた。

 が、俺に声を上げた直後、何か疑うように小首を傾げて。


「おい……桐生きりゅう……さん……か?」


 そう言って狭間さんは俺の背後辺りに視線をやった。


 そんな狭間さんのリアクションに、嫌な感覚を覚えて振り向いた。


「……………?」


 どういう事なんだろう。

 

 誰もいないようだけど。辺り一面を見渡すも誰もいな……。


「おい、ふざけてないでよ。いちいち涼の死角に回ってんじゃねぇよ。あんたが涼を呼び止めたのか? 桐生さんよ」


 狭間さんが再び呼びかける、と。

 黒い影が無作法にぬっと俺の前に現れた。

 同時にどこかヌメッとした微風が俺の頬をなぶった。


 ―――ような気がした。


「あぁ……かわいそうに……。必要なのはエスナですか? それとも万能薬? あなたのそのお顔……やはり状態異常なのですね」


 と、初見から憎まれ口を叩いてきたその人は、縁の広い帽子を被り黒魔術士が好んで身につける衣装に身を包んだ……。

 

「―――えと、女の……人?」


 なんとも中性的な顔立ちの人だった。


「……やっぱり喧嘩を売っているんですよね。私をそんなイヤ〜な目つきで見て。あぁ……状態異常で生まれたかわいそうな顔の人……。目の前の私は美しい現実ですよ? 早く目を覚まして下さい。それとも一発、殴った方がいいのでしょうか」


「いや……状態異常なんかじゃないから、俺のビジュアルは。生まれてからずっとこうで……」


 横目でジッと俺の顔を見ては、静かな声のトーンで失礼なげんのパレード。

 

「……もういい。二人共、こっちに来てくれ」


 痺れを切らした狭間さんが、オラ! と手を振り上げて呼んだ。


 それにしても……。


 俺の前をスッと横切って先へと進み出したこの桐生きりゅうという人。


 なんというか、今まで会った事はおろか見た事がない種類の人だ。


 目の前にいるのに存在がどこか朧気で、すぐにでも姿を消せるような薄い淡い存在感。


 もしかして、ずっと俺の近くに居た? 

 で、気配だけを消し去って話しかけてきていたのか。


 なんにしても器用……というよりかは薄気味が悪くておっかない。


 もしクラスにいたらなるべく関わらないようにしたいタイプだ。


 そんな事を思いつつ狭間さんと那森さん、それにこの状況にかなり困惑気味の藤巻がいる三人の元へ行く。


「涼。俺と那森さんの話、聞いちまったか?」


 俺と桐生さんを交互に見て狭間さんが訊いてきた。


「ううん。何にも聞こえなかっ………」


 俺がそう答えようとすると。


「えぇ。聞こえましたよ。本当は事故なんかじゃなくて、あの事件は那森さんを狙ったき逃げだったと。そこにいる藤巻さんはいち早く車に気づいた。それで那森さんを助けようと突き飛ばした、と」


 桐生さんがそんな事を。

 その言葉に俺は藤巻と黒い影となっている那森を見る。


「…………え?」


 藤巻は那森さんを助けようとした?

 そしてさらに桐生さんが。


「那森さんはあの集団……呪道会と関係をもってしまわれた。それで狙われていたんですよね」


 と言って、黒い人影の塊となった那森さんに近づく。


「なんで全部しゃべんだよ! 涼と藤巻を巻き込むつもりかよ」


 狭間さんが桐生さんに怒鳴った。


「もうすでに巻き込まれているでしょう? このまま山咲さんと藤巻さんを家に帰しても、あの呪道会の連中にバラされるでしょう。彼らの格好の宣伝材料として」


 桐生さんが言い返すと狭間さんは苦い物を噛み潰すような表情をした。


「ごめんなさい。なんですかその……呪道会?」


 訊くと桐生さんが。


「まぁその事は後にしましょう。……それにしても那森さん。あなたすごい魂を持っていますね。普通ならその怨霊の姿になると、ただ人間を呪い殺し続ける機械になるというのに自制心が残っているだなんて。安心して下さい今、治してあげます」


 そう言いながら一歩前へ出ると、桐生さんは自身の人差し指の先をペロッと舐めて。


「これで大丈夫」


 と、那森さんの顔にその人差し指を押し付け……え……?


「ちょっっっ!!」

 

 俺が驚き引き止める間もなく、桐生さんはさも当然といった所作で行った。

 

 いきなり何してんのこの人!?

 霊に唾液付けちまった!


 攻撃バチを受けるぞ?

 そう思いながら狭間さんに視線をやると、その表情はいたって真剣だ。


「大丈夫ですよ。山咲さん慌てないで」


 桐生さんが俺を宥めてきた。

 その数瞬後。


 目の前で、カッ、と光がぜた。


 まばゆい光の渦が突き上がった。

 それが那森さんを包む。


 その光の光量は凄まじかった。


 なんとか目を開こうともがいてみるが、連続するカメラのストロボと化したその光景に、俺のお目々(めめ)は抵抗できず……。


 やっとまともに視界が開けたのは、光が消え失せて数十秒後だ。


 そこには暗いものが抜け落ちてスッキリとしたスーツ姿の女性の霊が佇んでいた。


「な……那森さん……?」


「ごめんなさい……本当に……」


 那森さんが深々と頭を下げた。


「那森さんは悪くねぇ。呪術で殺された人の魂は大抵、悪霊になっちまう。特にあの連中から仕組まれたら尚更だ」


 那森さんに少し近づいた狭間さんは、なんとか気持ちを汲み取ろうと言葉を探しているよう。


 そんな狭間さんを押し退けて。


「えぇそうですとも。あなたは操られていたも同然なんですから」


 桐生さんが那森さんにそう語り掛けた。


 そんな姿勢に。


「……狭間さん。この人どういう人なの?」


 俺が小声で桐生さんを指して訊くと。


「……あぁ。俺が知る限りだが、この国で最強の呪術師であり霊媒師でもある……。桐生 守之上もりのかみさんだ」


 そう紹介してくれた。

 最強の……呪術師……?


 視線を桐生さんにやると。


「はい。呪術パワーの濃縮還元で生まれた、この国で一番美しい呪術師で霊媒師、桐生 守之上です。よろしくお願いします山咲さん」


 ニコッと小首を傾げて言った。


 


 

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