魔石探し
“僕”消沈。
前に行ったルーネの町の時みたいに、鏡を通ってやって来た先は洞窟の中だった。
それも、ただの洞窟じゃない。どこかの鉱山を思わせる坑道だ。廃坑にでもなって人の出入りがなくなっているのか明かりも何もない。
外よりは暖かいからいいんだけど、空気が何か澱んでる感じがして凄く嫌な感じ。その感覚はヴィヴィアンがランタンに火を灯して、辺りを明るくしても拭えなかった。
「もう既に帰りたいんだけど」
『高純度の魔石を手に入れるまで帰すつもりはない』
なんて横暴な。
僕が肩を落としていたら、前後を確認していたヴィヴィアンが、僕の頭の上で寛いでる鳥さん姿の魔王様にこう尋ねてた。
「俺達に盗掘をさせるつもりか?」
『ここは30年ぐらい前に廃坑になってる場所だ。今更気にする奴も罰する奴もいない』
そういう問題じゃないだろう、ってヴィヴィアンが言うも、魔王様はどこ吹く風。
30年手付かずの廃坑とか本当勘弁してほしいんだけど……。
っていうかそもそも、
「魔石を掘り尽くしたから廃坑になったんじゃないの?」
『いいや、もっと別の問題だ』
そう言った魔王様が翼を使って飛んで、先に進んでいく。
ついて来い、ってことなんだろうけど……気は全然進まない。
僕はため息を吐いて重い足を動かす。ヴィヴィアンに足元に気をつけろ、って言われながら2人で魔王様の後に続く。
明かりがあるとは言え、暗いから気を抜いたら灰色の鳥さん姿の魔王様を見失いそうになる。
「ねぇ、魔王様。さっきの別の問題って何?」
『んー?じゃあ、地理の勉強でもするか。魔石の原石はどんな場所にあると思う?』
「どんな……?こういう洞窟みたいな場所?」
「洞窟以外にもとれる場所はある。森の中や川の中、海底だったりな」
ヴィヴィアンのその言葉を受けて僕の頭の中は疑問符でいっぱい。
どこにでもあるけど、何か、条件を満たしてるところじゃないと存在しないってこと?
洞窟とか海底にもあるなら気候、とかじゃなさそうだし……。地熱、とかだったら、この洞窟ももっと暖かいを通り越して暑いはずだし……。
ゲームでも魔石採掘イベント、なんてなかったから分からない。だからここは正直に分かんない、って答えておく。
『魔石っていうのは要は魔力の結晶石のことだ。つまり、どういうことになる?』
「魔力がないところじゃそんな結晶は出来ない……?」
『そうだ。空気中に存在する微量の魔力を魔素って言ってな。その濃度によって発掘出来る魔石の純度が決まる』
へー、魔石ってそういう風に出来てたんだー、っていう思いよりも、つまりこの廃坑は少なからず魔素濃度があるところ、っていう思いの方が強い。
だって魔素濃度の話はゲームでも出てきた。
濃度が高ければ高い場所ほど……
『ただ、この魔素っていうのは魔石だけを生むものじゃない』
その先の答えを、この鉱山が廃坑になってしまった原因を、僕はもう導き出してしまった。
「魔物が出るなら今すぐ帰りたいんだけどっ!」
『石ころ同然って言ったのはお前だろう。石ころみたく簡単に手に入れてみせろ』
そう言って、魔王様はいい気味だ、って感じでほくそ笑んでくる。
相変わらず器が小さい。9歳児の言葉でしょうが、寛大な心で許してくれてもいいじゃないか。
パタパタと飛ぶ魔王様を叩き落としたい気分になったけど、何とか堪える。
『命だけは守ってやるから安心しろ』
上機嫌な魔王様。
だけど、次の瞬間―――
「あ、」
「おっ」
前方で何か、黒いものが動いたかと思ったら本当に一瞬だった。
一瞬で、僕等の前を飛んでいた魔王様がその黒いものに連れ去らわれた。
僕とヴィヴィアンの頭上を飛び去るその生き物は、大きなコウモリを思わせる魔物。
一拍遅れて、その魔物の爪に鷲掴みにされた魔王様の驚いたような情けない声が響く。
僕等が来た道を飛び去っていく魔物に、僕とヴィヴィアンは何の反応も返せなかった。
遠ざかっていく魔王様の声を聞きながら、僕は隣にいるヴィヴィアンに一言。
「随分早く罰が当たったね」
「言ってる場合か」
ヴィヴィアンがランタンを来た道に向けるも、明かりが届くところにはコウモリの魔物の姿も魔王様の姿も見えなかった。
尊い犠牲だった。在りし日の魔王様を思い浮かべながら心の中で敬礼!ってしてたら、遠くから何かが爆ぜるような音が聞こえた。
次いで、バサバサと翼をこれでもかって程はためかせて戻ってくる魔王様の姿が。
初めて会った時みたいに、あのコウモリの魔物の体に入り込んで中から爆発させたんだろう。灰色の体が魔物の細胞とか血で薄汚れてた。
「汚いから近付かないでほしいな」
『それが捕食されそうになった奴に対して言う言葉か?』
「うん!」
『こいつっ……!』
汚い体で突っ込んで来られそうだったから、ヴィヴィアンの後ろに隠れて難を逃れる。
「ノルディス、こういう場所や洞窟はああいう魔物や虫系、ワーム系の魔物がいるから気をつけろ。こうはなりたくないだろう?」
「分かった」
なんて説得力のある言葉なんだ。
気を付ける!って力強く言った僕にヴィヴィアンは「よし」って頷いてくれる。魔王様は何かプルプル震えてたけど知らない。
後、ってヴィヴィアンはそこで言葉を続けた。
「魔物を初め、こういう暗い場所にいる生物は視覚よりも聴覚や触角が発達していることが多い。あまり騒がず、足音も極力立てずに進もう」
「うん。でも、さっきの魔王様の大声でもう既に僕等の存在はバレてると思う」
「そうだな。だが、魔王に染み付いたさっきの魔物の匂いで臆病な魔物はある程度寄ってこないはずだ」
なるほど。そういう場合もあるんだ。
300年前まで騎士をやってて、今まで生きていた分、ヴィヴィアンは魔物の知識とか戦闘経験が豊富みたい。
1000年以上存在しているどこかの魔王様とは大違いだ。
「魔王、次は捕まってくれるなよ」
『まだこの体に慣れていないだけだ。慣れればあんな魔物の1体や2体、どうってことない』
「だといいんだがな」
『お前……最近一言多いぞ』
恨めし気な魔王様の声もヴィヴィアンは華麗にスルーして、僕にランタンを手渡してくる。
魔物が突然出てくることが分かったからだろう。いつでも大剣を振るえるように両手をあけときたいんだ。
先に進む魔王様とヴィヴィアンの後に僕も続く。
躓かないように慎重に、慎重に。
僕の歩幅に合わせてヴィヴィアンも歩いてくれる。
足元に気を取られ過ぎるなよ、って魔王様に言われて、ならこんなところに僕みたいな子供を連れて来るなよ、とも思ったけど言われた通り前も見ながら歩く。
途中、岩壁にソフトボールよりも少し大きめな丸い穴がいくつか見えて、何だろう、って思ってたらヴィヴィアンがワームが通った跡だ、って教えてくれた。
ワーム系の魔物はゲームにも出てたから知ってるけど、実物のサイズってあんな穴ぐらい大きいんだ……。出来れば出会いたくない。
時々道が分岐してるんだけど、魔王様は迷いなく先に進んでいく。
「魔王様、魔石がある場所分かるの?」
『俺はお前等と違って魔素を感じられるからな』
「ふぅん……それって、」
カナリアみたいだね、って言おうとして止めた。
言ったらまた喚かれると思ったってのもあるけど、貧民街育ちの9歳児の僕に何でそんな知識があるんだ、って突っ込まれる可能性を恐れて。
何より、この世界でもカナリアが重宝されているとは限らないしね。
やっぱり何でもない、って続けた僕に、魔王様は何を言おうとした、って聞いてきたけど笑顔で誤魔化しておく。
「ところで、魔素濃度が高いところに人間が行って大丈夫なの?人体に影響とかない?」
ゲームでは魔素濃度が高ければ高い場所程、高レベルの魔物が出没した。
低いレベルの魔物も濃度が高いところにいれば狂暴化したり、その環境下に適合するために異常で急激な進化を遂げる――って、話だった気がする。
「魔力量が低い人間なら魔力酔いを起こして倒れる。魔力量が多い人間でも、長時間は厳しいかもしれないな」
「ヴィヴィアンならどれぐらい平気?」
「試したことがないから断言は出来ないが……おそらく、2、3時間ぐらいが限界だろう」
「なら、僕は?」
「悪いな。闇と光属性の人間は専門外だ」
そう言ってヴィヴィアンは魔王様を見る。代わりに答えてやってくれ、ってことなんだろう。
僕等の話を聞いていた魔王様がくるり、と身を翻して後ろ歩きならぬ後ろ飛びをしながら、返事を返してくれる。
『光属性の奴はそいつの力量にもよるが、もって1日ってとこだろうな。逆にノル、お前みたいな闇属性の人間は例外だ。いつまでもいれる』
「何で?何で闇属性だけ違うの?」
『何でだろうな』
答える気がないな、この魔王様。
そして、いつまでもいれるからって本当に本気で高純度の魔石が取れるまでここにいさせる気だ。そうはさせるものか!
僕はその場に立ち止まる。
「正直に答えてくれなきゃ、僕もう魔王様に体貸してあげない。魔石が取れるまでいさせる気なら僕もう先に進まない。ヴィヴィアンに命令して、無理矢理連れて行こうとしたらそこら辺の石で自分の首をかき切る」
必殺、反抗期の子供ムーブ!
動かざること山の如し、って感じで蹲る。
そんな僕を見たヴィヴィアンが足を止めて、諫めるように「魔王、」って呼びかけた。
言葉にならない葛藤、っていうのかな?『ぐっ……』っていう声が鳥の姿になった魔王様から聞こえた気がした。
『お前はそうやって自分の命を人質にするのを止めろ!』
って言われたけど僕は聞く耳を持たない。
仕方ないじゃないか。何も持っていない、何の能力もない僕が魔王様との交渉のテーブルに置けるのは自分の命ぐらいしかないんだから。
僕にとってはとても軽い命、だけど僕の体を依代にしてる魔王様にとってはとても重い命。結果は見えてる。
『…………闇属性の魔力は、それだけ特別だからだ』
渋々って感じで呟かれた言葉。僕は即座に「答えになってない」って返す。
途端、魔王様が黙り込んだ。
答えは勿論、ある。だけど言いたくない、ってことか。
面倒臭くなって、僕はそこでため息を吐いた。
ここは僕が大人になるしかないか。
「どんなに特別な魔力を持っていたって、僕は人間なんだ。魔王様にだって言いたくないことがある通り、僕にだって言いたくないこと、やりたくないことの一つや二つはある。僕の尊厳を守らない奴に僕が尊厳を持って接するとは思わないでね」
立ち上がってそう言った僕に魔王様は何も返してこない。
だからヴィヴィアンが
「1000年以上も生きている存在が9歳の子供に説教を受けるとはな」
『うるさい』
茶化すようにそう言ったら、魔王様がやっと復活した。
『ったく……。仕方ないから魔石採掘は護衛が耐えられる2、3時間で勘弁してやる。分かったらとっとと先に行くぞ』
翼をはためかせて前に進んで行く魔王様。
僕とヴィヴィアンは視線を合わせてやれやれ、って感じで肩を竦めながらその後を追った―――んだけど、すぐに魔王様がその場にピタッと止まったのを見て首を傾げる。
「魔王様、どうしたの?」
翼を広げたまま微動だにしない魔王様。
鳥って、あの状態でも空中に浮けるもんだっけ?とか僕が考え始めていたら突如!魔王様の頭上からバランスボールよりももう一回り大きな赤黒い蜘蛛が糸を垂らして現れた。
瞬間、蜘蛛の巣にかかっていたらしい魔王様がジタバタともがきながら吼える。
『こっち来んな、クソ蜘蛛ー!!』
もしかして魔王様って……脚が多い虫が苦手なのかな?
そんなことをボーっと突っ立って考えている僕とは反対に、ヴィヴィアンは大きなため息を吐いて鞘から大剣を抜いた。
口を動かして、今まさに魔王様を捕食しようとしている蜘蛛型の魔物。ヴィヴィアンはそんな魔物を大剣で一閃。
斬られた蜘蛛型の魔物は茶色っぽい色の液体、血?を出してぼとりと地面に落ちた。
ヴィヴィアンの大剣は蜘蛛の巣も一緒に斬ってたみたい。蜘蛛の糸から解放された魔王様が即座に飛び立つ。
僕はと言えば、今のヴィヴィアンに拍手をしながら翼に残った蜘蛛の糸を嫌そうに嘴で取ってる魔王様に向けてこう言った。
「凄いや、魔王様!今のところ足手まといにしかなってない」
『黙れ、クソガキ』
「魔物とか、こーいう場所に慣れてない僕よりも足を引っ張るなんてもはや才能としか思えないよ」
『おい、ヴィヴィアン。こいつの口にまた猿ぐつわ噛ませろ』
「はいはい、仰せのままに。何ならお前の身を守るために鳥籠でも用意しようか?」
『お前もうるさいから黙ってろ。口を開くな』
魔王様、ご立腹。
蜘蛛の巣に引っかかって恥ずかしかったんじゃないか、って思って冗談めかして言っただけなのにね。
猿ぐつわによって物理的に黙らせられた僕と、命令によって口を開けないヴィヴィアンはご機嫌ななめに飛び立つ魔王様の後にまた続いて歩き出す。
先に進むにつれて採掘されて運搬されてたんだろう魔石の欠片が地面に転がってて、それを踏む度にパキンッ、て独特な音を鳴らした。
霜で凍った田んぼの土を踏んだ時みたいな音に、僕は楽しくなって欠片を踏み潰していく。
『そんな欠片は売り物にならないが、価値で言えば平民の1ヶ月の食費が賄えるぐらいはあるからな』
その魔王様の言葉に一瞬で息が詰まった。
つまりそれって、大貧民だった僕の何ヶ月分の食費に相当するの?
踏みつけていた足を止めて、僕は地面に転がっている欠片を拾い集めることにした。きっと何かの役に立つかもしれない!
単純だな、って魔王様に言われたけど気にしない。拾った色とりどりの欠片をポケットに詰め込んでいく。
そういえば京伽だった頃も、小さい時に河原で綺麗な石集めしてたっけ。結局、兄’sの水切り石として川の中に捨てられたけど……。
なんていう感傷?物思い?に耽っていたら、魔王様が「早く来い」って僕を呼んできた。仕方なく、僕はそこで欠片集めを止める。その時、ふっ、と――
「ん?」
何かが、聞こえた気がした。
岩の間を流れる……そう。まるで、せせらぎみたいな音。
今の音、何だったんだろう?なんて疑問に思いつつも、僕は魔王様とヴィヴィアンの後を追いかけた。
蛇行するように延びている坑道を慎重に進んで行けば、ぽっかりと大きく開いた広間みたいな場所に出た。
僕が持つランタンの光が岩肌に、そこにむき出しになっている赤や青の魔石の原石に反射して広間がほんのりと明るくなる。
驚いたのは、その原石の大きさだ。僕の胴体ぐらいはある魔石がそこかしこに見える。凄いけど、それだけここの魔素濃度が高いってことだよね……。
『おかしい……』
魔王様が小さく呟いたような気がした。
喋れない僕とヴィヴィアンは顔を見合わせて首を傾げるだけ。
『……まぁ、いいか。ノル、ヴィヴィアン、とっとと採掘して帰るぞ。後もう、黙ってるだけでもお前等は存在がうるさいから口を開いていい』
って言われたから、僕は即座に猿ぐつわを下げて――
「でも今のところ気配で魔物に襲われたのは魔王様だけだよ」
『お前、1回口を縫い付けてみるか?』
「見て見てー、ヴィヴィアン。綺麗な花が咲いてるよー」
魔王様の言葉とジト目から逃れるために僕はヴィヴィアンの袖を引っ張って足元に咲いている花を指差した。
確かこの花は植物図鑑に載ってた洞窟で咲く花だった気がする。名前は、
「ベベべ何とかって花だ」
「そうか。ベベべ何とかか」
『ベベジュールだ、バカ』
「魔法薬の材料になるんだよね?摘んでいっていい?」
『勝手にしろ』
ため息混じりにそう言う魔王様。
了承が貰えた僕はランタンを足元に置いて、さっそくヴィヴィアンからスコップを受け取った。そして慎重にベベジュールを根から採取し始める。
図鑑では宝石みたいな花だと思ってたけど、実際見てみると花弁は薄氷みたいに脆そうだ。
「で、どの魔石をどのぐらい取ればいい?」
ペペジュールの採取に勤しむ僕の傍で、ヴィヴィアンが鶴嘴片手に魔王様に向かってそう言う。
『どの魔石も拳大の大きさで運べるだけ取っとけ。……多分、ここにはもう来ない方がいい』
「どういう意味だ?」
『異常なんだよ。普通は、ここまで簡単に魔石は見付からない。ここまでむき出しの状態で地表に現れていないからな』
何だ、僕の日頃の行いがいいから簡単に見付かったわけじゃないのか。残念。
僕は採ったベベジュールをハンカチで包んで鞄の中に入れる。そしてスコップから鶴嘴に替えて、大きく振りかぶった。
力いっぱいに振り下ろした鶴嘴が魔石の原石と岩の境目を砕――くことはなく、表面にちょっと傷がついただけだった。
『貧弱なガキはヴィヴィアンが砕いた魔石でも集めてろ』
「むぅ……ふぁい」
これでも結構、健康体に近付いてきた方なんだけどなぁ……。
自分の非力さにため息が出ちゃう。
魔王様に言われた通り、僕は魔石を集めて鞄に詰め込んでの作業を繰り返す。
今回の魔石採掘は僕に魔石の価値を分からせるためのもののはずなんだけど、これだけ魔石を集めてどうするんだろうね。
まぁ、藪蛇になったら嫌だからわざわざ聞いたりはしない。
「――ん?」
青色の魔石を手に取った時だった。
また、あの“音”が聞こえてきた。ここに来る途中で微かに聞こえたせせらぎみたいな音。
それが、今度ははっきりと大きくなって。僕だけじゃなく、ヴィヴィアンや魔王様の耳にも届いたみたい。
「何の音だ?」
『チッ、まずいな』
魔王様はその音の正体が分かっているみたい。すぐに僕の許へ飛んできて、指示を出してきた。
『剣を持て、ヴィヴィアン。ノル、お前は俺の後ろでじっとしてろ』
多分……ううん、絶対何かの緊急事態なんだろうね。
音が段々僕等がいる方に近付いてくるのが分かる。鶴嘴を手放したヴィヴィアンが大剣を抜いて音の方向に向かって構えるのが見えた。
『来るぞ!』
魔王様の真剣な声が響く。
それとほぼ同じタイミングで、ヴィヴィアンの目の前の地面から夥しい量の土煙が破壊音と一緒に間欠泉みたいに噴き上がった。
大きく揺れる坑道内。その振動でバランスを崩した僕は尻もちをついちゃった。
「痛い……」
「無事か、ノルディス!」
目の前の脅威に視線を向けながら、ヴィヴィアンが僕の身を案じてくれる。
何とか、って言いながら僕は腰を押さえて立ち上がる。
丁度その時、土煙の中で何かが蠢く影が見えた。煙が晴れていくことで、その影の正体が分かっていく。
「何、あれ……!?」
地面から出てきたのは巨大な蛇みたいな、巨大なミミズみたいな―――その2つを足して2で割ったような魔物。
ヴィヴィアンが両腕を広げてもきっと抱えきれない。それぐらい太い胴体が地面から巨木みたいに突き出してうねうねと動いてる。
その全身にはまるで鎧みたいに石や魔石がついている。それでいて、鎌首をもたげるようにすぐ近くにいるヴィヴィアンに向けられた頭部には口みたいなものがあって、複数の牙みたいなものが存在してる。
似たような魔物はゲームでも見たけど、目の前にいるのはその比にならない。
『やっぱりここはロックワームの餌場か……!』
「ど、どういうこと?ロックワーム?図鑑で見たのと全然違うんだけど」
『魔石を食って変異したんだろう。油断するなよ、ヴィヴィアン!そいつはおそらく、魔法を使う!』
瞬間、突然変異したらしい魔物の口を思わせるところから、耳を塞ぎたくなるほどのけたたましい鳴き声が発せられた。
これ……ヤバイかも。




