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どうも、観測者Aです  作者: 漣
9歳2ヶ月
12/16

揺れる心


 “僕”仰天。

 魔王様に体を操られてやって来たのは、またまた僕がまだ入ったことがない窓のない部屋。

 その部屋には縦に大きい姿見の鏡が7枚、八角形を描くように置かれていて、その下の床には魔法陣を思わせる幾何学模様が描かれてる。

 うん、何ともそれっぽい部屋だ。



「街に行くんじゃないの?」


《ここから行くんだよ》



 って言って、魔王様は僕の体を幾何学模様の中心に連れて行く。ヴィヴィアンもそんな僕の後に続く。

 転移魔法とか、そういう系の魔法かな?



《お前の魔力だけじゃまだ足りないから、今はこの魔石も使う》

 

「どうやって?」


《今回は俺がやってやるから、お前は今後のためにやり方を覚えろ》


「はーい」



 今後も買い出しは必要だからここは無駄口をたたかずに従っておく。

 途端、熱を持つ体。魔王様が僕の魔力を使い始めたんだ。

 その魔力は魔石を持つ右手に集中して、それに呼応するように魔石も光り出した。



《今から俺が言う言葉を復唱しろ》


「分かった。ゆっくりはっきり言ってくれると助かるかも」



 そうして紡がれるのは僕の知らない言葉。

 これも、古語か何かなんだろうね。意味は分からない。



「はい、聞き取れなかったからもう1回お願いします」


《すぐに後に続け》



 舌打ちでもしそうな勢いでそう言われて、僕は元気良く返事をする。

 一単語ずつ、魔王様の言葉をたどたどしく紡いでいく。



「ファシ オ イーテル リー カルネ ショネム ペァ エト ノスティ ヴェリ タテム クィサム エゴ」



 瞬間、屋内だっていうのに下から風が突き抜けてきた。

 バランスを崩して倒れそうになる僕の体をヴィヴィアンが前みたいに後ろから支えてくれる。


 床に描かれた幾何学模様の魔法陣は光り輝いて、時計回りと半時計周りに動き出す。

 何これ!?何これ!?って内心で僕はパニック状態。

 魔石を持ってる右手が異常に熱い。



「鏡が……」



 後ろから聞こえてきた驚いたようなヴィヴィアンの声で、僕も初めて周りに立ってる鏡を見ることが出来た。

 さっきまでは、どの鏡も僕とヴィヴィアンの姿を映していた。

 だけど今は違うものが映ってる。

 6枚の鏡は黒一色になって、残った1枚の鏡にはどこかの町の風景が遠目に映し出されてる。



《行くぞ》


「え……?」



 魔王様はどうやら僕等に説明する気はないみたい。

 また勝手に体を動かされて、僕の足はどこかの町を映し出す鏡に向かう。

 普通の鏡なら、ぶつかって終わり。

 でも、この鏡は違うみたい。踏み出された僕の左足が、鏡の中に入った。

 そのまま体も鏡の中に入れられそうになったもんだから、僕は咄嗟に大きく息を吸い込んで目を閉じた。



《目を開けろ》



 魔王様の声が頭の中に響いて来る。

 恐る恐る、僕はゆっくりと目を開ける。その目に飛び込んできたのは、鏡越しに見た風景。

 都会ってほどの都会じゃない。かと言って田舎ってほどでもない。

 郊外には羊の群れとか、風車小屋がちらほら見えて、その近くで干された色布が風にたなびいてる。



「ここは……?」


《動物の毛や布、染色技術で有名なルーネの町だ》



 って言われても僕には分からない。

 後ろにいるヴィヴィアンに「どこ?」って感じの視線を向けて教えてもらう。



「確か……シュタイラ帝国の西部の町、だったな。服飾の道を目指す者がよく修業に来る町だと聞く」


「へぇ。……美味しいものあるかな?」


《まずは服からだ》



 即座にそう返されて僕は肩を落とす。

 魔力を大量に使ったからお腹ペコペコなのにぃ……。

 っていうか、



「何で鏡からこんなところに出られるの?」



 後ろを振り返って見てみたら、さっき僕達がいた部屋も僕達が通ってきた鏡も何もなかった。



《そういう魔法だからだ》


「答えになってなーい。鏡消えちゃったけど帰りはどうするの?」


《鏡は消えても道は開いたままだ。お前がまたこの場所で魔力を練れば自然と鏡も出てくる》


「その自然が不自然なんだってば……」


「今の魔法は闇の魔力を持つ者にしか使えないのか?」


《そうだ》



 こんな知識、ゲームの中では出てこなかった。

 まぁ、僕等は敵キャラだから語られなくてもおかしくないんだけど。

 魔王様がまた勝手に僕の体を動かして、右手に持っていた魔石をヴィヴィアンに渡した。

 きっと帰りも使う貴重なもので、孤児設定の僕が持ってるとおかしいからだろう。



 僕はヴィヴィアンと一緒にルーネの町に向かって歩き出す。





――――

――――――

――――――――





 ルーネの町は魔王様が有名、って言った通り、綺麗に染め上げられた色布や紐でいっぱいだった。

 服の店とか、装飾品の店が多いけど、露店はあんまり多くない。

 動物の毛を売ってるらしいお店のショーウィンドウには剥製があって、熊か何かかと思って覗き込んだら魔物の剥製でビックリした。

 前足が4本ある熊とゴリラをミックスしたような、そんな大きな魔物。



「ま、魔物の毛皮って高く売れるものなの……?」


「その魔物の希少性にもよるが、防具の素材に使われるから動物の毛皮よりどうしても高くなるな」



 あぁ、確かに。

 あの乙女ゲームでも何故か自分の防具だとか武器を素材を集めて作らされたっけ。

 時々、これ本当に乙女ゲームだっけ?って思ったのを覚えてる。



「ギルドの人間も魔物退治の傍ら、副業で魔物の毛皮売りをしているらしい。俺も金に困った時はすることがある」


「……魔物を倒せるだけの力がある人はいいね」



 力も知恵もない貧乏人は人に売り買いされるか、道端で野垂れ死ぬことしか出来ない。

 ボソッ、と呟いたから聞き取れなかったんだろう。聞き返そうとしてきたヴィヴィアンの言葉に被せるように僕は言う。



「僕は着れるなら何でもいいから。1番安い服でいいよ」


「魔王の魔法薬や植物で金をつくるんだ。どうせなら1番高い服を買おう」


《おい、こら》


「僕はご飯に1番お金をかけたいかも!」



 そう言ったら「それもいい」ってヴィヴィアンも笑ってくれた。






 魔法薬よりその材料になる植物の方がこの町では需要があるみたい。

 っていうのも、温室で育てられていた植物は僕等が思ってる以上に希少価値が高かったんだ。お店の人もどこで手に入れたんですか、ってかなり驚いてた。

 ヴィヴィアンは誤魔化すので大変だったみたい。店を出た後、すぐに魔王様に食ってかかった。



「おい、魔王。あれほど価値があるものだったなら最初から教えろ」


《物の価値なんて時代によって変わる。いちいち覚えていられるか》


「魔王様、1000年以上生きてるお年寄りだもんね。そりゃボケてもしょうがないよね」


《誰が年寄りだ!》


「服と食材だけにこんな大金を持たせるなんて……魔王、お前は案外過保護なんだな」


《昔は安かったんだよ!昔はな!》



 早口でそう言う魔王様の声が響く。

 一体、何年前の話だって言うんだ。



「フッ、今はそういうことにしといてやる」


《どういう意味だ》



 なんだかんだヴィヴィアンも魔王様の扱いに慣れてきてる気がする。

 って思ってても口にしない。だって絶対魔王様がかみついてくるもん。



「ノルディス、この分なら冬服もたくさん買えるぞ」


「冬……」


「ああ、もうすぐ冬がくるからな。今の内から備えていても問題ないだろう」


「冬は、嫌い。動けなくなるから……」



 グラウールは毎年寒いだけで、雪が降らなかった。

 雪が降ってさえくれればかまくらを作って、少しは暖をとれたのに。雪さえ降ってくれれば、冷たく固まって動かなくなった人の姿も埋めてくれたのに。

 冬は、大嫌いだ。



「今まで、どうやって冬を越していたんだ?」


「……秋の内に落ち葉と布をたくさん集めるの。道に置いてあるゴミ箱を盗んで、空にして、底に土を敷いて集めた落ち葉と布を入れる。その中に入って暖をとってた。気休め程度の温かさだけどね」



 ゴミ箱を盗むところを見付かったら殴られて没収されるし。

 まぁ、全面的に盗む僕が悪いから、自業自得ではあるんだけど。

 冬の越し方を説明したら、ヴィヴィアンは絶句してた。おっと、一般人には刺激の強過ぎる話だったみたい。

 でもね、って僕はすぐに明るい声を出した。



「6歳までだよ、6歳まで。さすがにそんなことをしてたのは。7歳の時は、片腕のおじさんが残してくれた樹の家があったし、去年はそれに狐さんもいてくれたから」


《狐?グラウールにか?》


「そう。前足を怪我した狐さんが道端で唸ってたから拾ったの。モフモフで温かかったんだ。春になったら怪我も治っていつの間にかどこかに行っちゃったけど……」


《……寒さで幻覚でも見てたのか?》


「失礼だな」



 そりゃ確かに寒さで天に召されかけたことは何度もあるけど……。



「狐さんはちゃんといたよ」



 某アニメに出てくるような子供にしか見えない存在ではなかった。

 だって、父親にも狐さんの姿はちゃんと見えてたもん。

 元気にしてるといいなぁ。







 服屋で服を買ってもらって、その後は待ってました!メインイベント!

 ご飯屋さんでの食事ですよ!

 大衆食堂って感じのお店に入った僕達はテーブル席に案内される。お昼を過ぎた時間だったけど、店内にはまだそれなりにお客さんがいた。

 色々な料理の匂いがして、お腹がまたぐぅ、と鳴った。

 席に着いた僕は、さっそくメニュー表に目を通す。あ、これ紙じゃなくて羊皮紙だ。



《胃に優しいものを選べよ。じゃないとまた吐くぞ》


「分かってるよ」



 前世でいた国には食品サンプルとか、メニュー表に写真とかイラストが描かれてるものが多かったけど、この世界ではそういうのはないみたい。

 だから僕は必死に文字と睨めっこして、どれがどんな料理なのか想像する。



「スープはこの右側に書いてあるので合ってるのかな……」


「ああ。卵スープ、コーンスープ、オニオンスープ、今だと……旬のメニューでカボチャのスープなんかもあるみたいだな」



 どれも体にも胃にも良さそうだ。

 前世ではよく飲んだけど、今世では1度も口にしたことがない。全部飲みたいところではあるけど、今のこの体じゃ1種類が限界。

 迷いながら、僕はコーンスープを注文。

 ヴィヴィアンも僕に付き合ってスープだけを注文しようとしたもんだから止めた。食べられる人は食べられるものを食べて、ってね。



 待つこと数分。

 僕が頼んだコーンスープがテーブルにやってきた。

 今世で初めて見るそれは、黄金色に輝いているように見えた。

 立ち上る湯気にのったコーンの甘い香りが鼻先をくすぐって、その匂いでまたお腹が鳴っちゃった。


 ヴィヴィアンが注文した料理が来るのを待とうとしたんだけど、冷めない内に食べたほうがいい、って言われたから「お先にいただきます」って言って、スプーンを手にする。



 そっと、スープの中にスプーンを入れれば、表面の薄い膜が揺れた。その膜を溶かすようにスプーンで軽くかき混ぜる。

 掬いあげたスープを息を数回吹きかけることで冷まして、ゆっくりと口の中へ。

 瞬間、コーンの甘さが口いっぱいに広がる。


 あぁ、そうか……。



(コーンスープって、こんな味だったんだ……)



 前世では当たり前のように食べていたその味が、今世では懐かしい。

 人が、人のために作った温かい食事。まともなご飯。



「ノルディス?」


「え……?」



 ヴィヴィアンに名前を呼ばれて初めて、僕は、―――自分が涙を流していることに気付いた。



「あれ……何でだろう。止まらないや……」



 手の甲で何度拭っても、両目からポタポタと僕の意思なんかお構いなしに勝手に流れ落ちてくる。

 気付けば感情さえも揺さぶられて、嗚咽が漏れた。



 これは、どういう感情?



 悲しいから泣いてるの?


 嬉しいから泣いてるの?


 ホッ、としたような安堵感?


 初めて、生きていると感じられた生の実感によるもの?



 きっとどれも正解なんだろう。

 お店の人に迷惑をかけたくなくて、これ以上、弱い自分をヴィヴィアンにも魔王様にも見せたくなくて、僕はテーブルに突っ伏して嗚咽を押し殺した。



 こんなことで安心するな、って自分自身に言い聞かせる。

 だって、そうじゃないと僕は……



(これ以上、頑張れなくなる……)



 だから必死に内心で大丈夫、大丈夫と唱え続けて、自分を落ち着かせる。

 大丈夫。2年前に、片腕のおじさんの前で言った通り、僕はまだ――



(僕はまだ、頑張れるよ)



 頑張って、生きていられる。


 だからどうか今はお願い。

 誰も、僕を見ないでほしい。僕に、優しい言葉なんかかけないで。


 大丈夫。

 そっとしておいてくれたらすぐに……僕はすぐに、いつも通りの僕に戻るからさ。






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