第95話 サイレンとの模擬戦 2
「よぅ、兄ちゃん!
ようやく完成したぜ!
これがお前さんの新しい剣だ」
そう言って、ドワーフのおっさんが渡してくれた剣。
それは青い本流が漏れていて、
前の剣よりも性能がいいと確信させてくれるほどだった。
「おぉ!
これが俺の、進化した剣!
何や!
めっちゃ軽いやん!」
そう硬度も切れ味も何もかもがパワーアップしているのに、
持った感覚は重くなかった。
「え?
軽くなったから、
剣の威力は低くなったとかやないよな?」
「なら、試しに切ってみるといい」
「……練人、訓練場に行ってみよう」
「お、おう!」
「おおきにな!」
「……その剣を大切にしろよ」
「……わかっとるわ、ありがとうな、おっさん」
そして、俺達は訓練場に来ていた。
「まずは素振りや。
せい!」
まずは何も使わずに剣を振ってみる。
やはり、剣は軽い。
だが、その分、素早く空気を切れている。
「……!」
「……どうした?」
「……この剣……
まるですでにダブル・マジック・ウェポンがかかっているみたいだ」
「……剣にも記憶を持っている。
……お前が常にマジック・ウェポンを二回かけているから、
剣が自然と覚え、常時発動している」
「……これが魔法の剣」
これなら、魔力の節約になる。
マジック・ウェポンを使わなくても済むから、
戦闘に入るスピードも格段に上がる。
「……この状態で《ダブル・アップ》!」
パワーとスピードをバランスよく上げる。
その剣で素振りをする。
剣が輝き、威力も確実に上がっているのがわかる。
「《マジック・ウェポン》!」
この状態で剣に魔力を付与させる。
「わっ!」
今まで届かない位置に斬撃が飛んだ、
剣の攻撃範囲が確実に広がっている。
剣に注意して剣が届く位置に逃げても当たるようになっている。
「はっ!」
力任せに剣を振るうと本当に斬撃が飛んだ。
「次!
《ダブル・パワード・アップ》!」
ダブル・パワード・アップの状態で、
剣を振るう。
剣はまるで大剣のように遅くながらも、
ダブル・アップより威力が確実に上がっている。
岩石でも真っ二つに切れるほどに
「せい!」
横に思い切り剣を振るうと、
大きな斬撃が遠くまで飛んだ。
「《ダブル・スピード・アップ》!」
次はスピード特化の形態、
ダブル・スピード・アップの状態で振るう。
「……速い」
剣自体が軽く思えたが、
ダブル・スピード・アップの状態ではそれが強く感じる。
なのに、切れ味が落ちたとかそういう感じがしない。
剣というよりもナイフを持っているような感じだ。
「……ゴブリンやったら、すぐに処理できるで!」
その言葉通り、例え細い道だとしても、
ゴブリンに気づかれることなく、
素早く無数のゴブリンを倒すことができる。
「はっ!」
剣を思い切り振るうと斬撃は細く、
だが、猛スピードで飛んでいく。
まるで、棒手裏剣のようだ。
「……練人、どうだ?
……久しぶりに模擬戦やるか?」
「……え?」
サイレンからそんな申し出が飛んできた。
「……マジで?」
「……マジだ。
……実際に私にどこまで通用するのか気になる」
「……まあ、気にならないと言えば嘘になるわな」
「……なら、模擬戦用の木剣と杖を借りてくる」
サイレンの楽しそうな顔、
本当に楽しみにしているような顔だった。
しばらくして、サイレンは言葉通り、木剣と杖を借りてきた。
「ほんまに借りてきたわ……」
「……早速やるぞ、練人。
……今回はシャイニング・バーニングのような、
殺傷能力の高い魔法は使わないが、
私もある程度自由に戦わせてもらう」
この時点で勝てそうにない雰囲気になっているが、
つべこべ言っている隙はないだろう。
「……行くぞ!
……《バレット》!」
「《ダブル・スピード・アップ》!」
サイレンが光属性の魔力の弾丸を放つ前に、
素早く移動して逃げる。
「……やはり、速いな」
「このスピードが自慢なんや!」
サイレン相手に遠距離で戦うのは得策ではない。
だけど、近距離で勝てるほど甘い相手ではない。
なら、ヒット&アウェイで翻弄して戦うまでだ。
「はっ!」
「ふっ……」
だが、サイレンは初動の攻撃を杖で逸らして躱す。
「はっ!」
しかも、攻撃スピードが上がっている筈なのに、
まるで来ることがわかっているかのように避ける。
「っ!」
「……なるほど、そう来るか」
俺が急いでサイレンの攻撃範囲から離れると、
サイレンは笑った。
「この!」
次の攻撃もサイレンは表情を崩さずに避ける。
前に言ったようにサイレンは俺のスピードでもついて来れている。
単純に後ろに下がると普通に狙われてしまう。
今度は右に移動する。
「……そこだ」
「なっ!
ぐっ!」
サイレンの不意をつけたと思ったのに、
まるでサイレンは俺がどこに移動するのかわかっているかのように、
正確に命中させた。
まずいと思って剣でガードしたが、倒れてしまった。
「……倒れていると、素早い動きは難しいだろ」
そう言って、サイレンはバンバンっと、
シャイニング・バレットを放つ。
俺はゴロゴロと転がって必死に避ける。
「っく!
なら!」
俺は転がりながら立ち上がり、
素早くサイレンの方へ向かう。
「《ダブル・パワード・アップ》!」
パワーを上げてサイレンを蹴りかかる。
「速さを残したまま攻撃か……
だが、甘い」
「なっ!」
その攻撃も躱す。
「はっ!」
そのことにショックを受けるよりも前に、
チョップをする。
サイレンは杖を使っているが、
体を逸らすことでパワーを逃して、
直接受けないようにしている。
「はっ!」
「……そこだ」
サイレンは杖を手放す。
サイレンは遅くなっている俺の腕を掴むと背負い投げをした。
「なっ!?
ぐは!」
まさか魔術師が背負い投げをするとは思わなかったため、
俺は投げ飛ばされる。
それによって木剣を手放してしまった。
「くっ!」
俺は力を込めて、サイレンの手から離れる。
また転がってサイレンから離れる。
パワーだけでもスピードだけでもサイレンには届かない。
「《ダブル・アップ》!」
なら、特化ではなくバランスで戦ってみる。
サイレンはその間に杖を拾った。
「はああ!」
俺はサイレンに飛び蹴りを仕掛けるが、
サイレンはしゃがんで攻撃を躱す。
「はっ!」
チョップしても杖を使って防がれてしまう。
「!?」
そして、ようやく今までの攻撃がサイレンに通じないのかわかった。
サイレンは魔法などを使って未来予知をしたわけではない。
理由は単純、サイレンは俺の動きを冷静に見ていた。
俺の攻撃を真正面から受けない。
大抵は避けるか、避け切れなくても杖などを使ってダメージを抑える。
その戦い方はまさに基本と基礎を徹底的に鍛えた者の動きだった。
相手の動きをよく見て、相手が何を考えているか予測して、
有利になるように戦う。
「なら!」
俺は後ろに下がって、構える。
「……来ないのか?」
「来てもサイレン何とかできるやろ」
今までは先手必勝という感じで動いていたが、
サイレンのような敵ではそれは通用しない。
なら、下手に動かずにカウンターを狙う。
「……ふっ。
……少し厄介になった」
すると、サイレンから攻撃が来ない。
俺が動くのを待っている。
俺も動かないが、それはただ俺が不利なだけ。
サイレンは何も使わなくても強いが、
今の俺は《ダブル・アップ》などを使って、
魔力をかなり消費している。
「……サービスだ。
……はっ!」
「っ!」
サイレンが杖を使って殴打した。
俺は木剣を使って杖の殴打を受け流す。
そして、反対方向を殴打する。
さっきと同じように木剣で防ぐ。
「っ!」
攻撃しようと思った瞬間にサイレンが後ろに下がる。
サイレンも俺と同じようにヒット&アウェイ戦法を使っている。
俺がカウンターを狙っていることがわかっているようだ。
「あっ」
魔力が少なくなってダブル・アップが途中で消える。
「……降参」
「……私の勝ちだが、
順調に強くなっているな、練人」
「……いや、流石サイレンやわ。
……隙が全然あらへんわ」
「……いずれ練人に一発受けるだろうな、私」
「……嬉しそうやな」
「……ああ。
……私もウカウカしていられないな」
だが、サイレンはどことなく嬉しそうに笑っている。




