第93話 牧場のリアー
「ここが私の家の牧場です」
そう言ってリアーが案内したのは広い牧場だった。
「結構広いやん、リアー!」
「メリメリ!」
「……ここまで広い牧場は初めてだ」
「ありがとうございます。
お父様、いらっしゃいますか?」
リアーは厩舎の方へ向かって行った。
「おお、リアー。
久しぶりじゃないか」
そこにいたのはベンガスと似たアメリカ人のような、
金髪の頭と髭をした男性だった。
「彼らは?」
「この人達は私の仲間なの、お父様」
「……彼女のパーティーのリーダー。
……サイレン・マジャンだ」
「俺は練人と言うんや、よろしゅうな」
「メリ!」
「こっちはメリボーのエアリーや」
「ベンガスだ」
「そうか。
俺は【オーム・ドドタル】。
どうか、娘をよろしくお願いします」
「ああ……」
「それでお父様、私は彼らに命を救われたのです」
「命を……」
「そんな彼らに馬をプレゼントしたいのです」
「馬を?
……コーチもかな?」
「コーチ?」
「メリ?」
「キャリッジのことだ。
キャリッジに色んなものを乗せることができる」
「へ〜」
「メリ?」
「こちらの練人様は小説も書くので、
できれば書くスペースも用意させてあげたいのですが」
「……それもできるんか」
はっきり言えば俺は馬車についてはもちろん、
馬についての知識もない。
わかるのは、ファンタジーでは人気で、
ロンドンとかでも出てくるものだ。
後、車の代わりだから高いのもわかる。
「どんな旅にしたいんだ?」
「……どんな旅?
「旅によっては馬の種類を変える必要があるからな」
「……具体的には?」
「優雅な旅とか、クラシカルな旅、王道を進みたいのなら、
【フリージアン】種、
スピード重視、街から街へ早く行きたい旅の場合は、
【ハクニー】種、
山路や悪路でも走れ、パワーもあり、粗食も大丈夫な、
【ハフリンガー】種。
これらがおすすめだ」
「……練人はどのような旅にしたい?
……私は優雅よりもどこでも行ける旅にしたいが」
「せやな。
優雅さはどちらかというとリシアの領分やし、
別に素早い旅も目指しとるわけやないから……
その説明で行くとハフリンガーでええとちゃうん?」
「俺もそれでいいぞ」
「決まりだな。
ハフリンガー二頭の馬車でいいだろう。
二頭立てというやつだ」
「……二頭立て?」
「馬車は普通一頭立て、二頭立て、四頭立て、
六頭立て、八頭立てと、
偶数の数字になるように増えるのが一般的だ」
「……違いはあるのか?」
「当然だが、持てる荷物の重量が変わってくる。
四人のパーティーなら二頭立てがおすすめだ。
二頭立てなら運べる重量は一トンから一・五トン、
四頭立ては倍の二トンから三トンだ」
「……運べる重量やこれからを考えると四頭立てがいいと思うが?」
「そう甘くはない。
四頭立ては普通貴族や馬車の運営業者がやるものだ。
馬車の維持費に報酬が吹っ飛ぶくらいにはな。
もちろん、馭者にもそれなりの技術が必要になる。
何せ四頭の馬を操る必要があるからな。
戦士や魔術師がいきなりやろうとしても上手くいかないさ」
「……確かに私に乗馬の技術はない。
練人やベンガスは?」
「ないな」
「あるわけないわ」
「……私は多少ですけど、四頭同時は不安ですね。
それに四頭は単純に馬を繋げる必要があるから、
小回りも利きにくいのですよ。
狭い道は行くことはできません」
リアーの説明を聞いて、思いついたのは、
元の世界で言うところのバスと軽トラだった。
確かに用途は全然違うし、
バスよりも軽トラの方が小回りがしやすそうだ。
バスも運べる人数が増えるが、
その分、操縦も難しいのはわかる。
「……ならば、私達はハフリンガーの二頭立てになるな」
「ええんとちゃん」
俺としては実感しやすい方が嬉しい。
現実世界で馬車は難しいが、
軽トラの方がバスとかよりも代用しやすい。
アメリカとかでは軽トラは人気だし、
俺も軽トラは嫌いではない
「決まりだな。
少し待て、見繕ってやる」
「でもええんか?
結構高いんやろ?」
「可愛い娘を助けてくれた娘の仲間だ。
特別にやろう。
今回だけだがな」
まあ、この人がいいと言うのなら素直に受け取ろう。
そう言ってオームさんは笑いながら外に出た。
「あ、お父様、私も行きます」
「そうか。
なら、ついでに馬の扱い方を復習しておけ」
「はい!」
そう言ってリアーはオームさんと一緒に行った。
「俺もいいか?
一人よりも二人覚えた方がいいだろ?」
「ならば、来い」
「おう!」
こうして、ベンガスもリアーとオームさんの後をついて行った。
「……少し散歩していいか?
……友達に似たような場所に住んでいるが、
牧場は初めてだからな」
「俺も行くわ。
てか、一人になるしの」
「メリリ!」
「エアリーも行くって」
「……そうだな。
……行こうか」
そして、俺達は牧場を歩き回った。
牧場はのんびりとしていて、
多くの動物が牧草を食べていた。
俺はカメラで撮り始める。
「サイレン、エアリーも」
「……ん?」
そして、エアリーを抱えたサイレンを撮った。
「サイレンって牧場の知識とかないん?」
「ないな……
私にも知らないことは山ほどある」
「……それもそうやな」
「……だからこそ、冒険者になって旅をしているが」
「メリ!」
「……そういう練人は牧場についての知識は?」
「うろ覚えや。
解説とかあるんやが、
積極的に見るわけやないし、そう言うのは途中で止まることあるし」
好きな動画も製作者のテンションが下がったのか、
途中で急に辞めることもある。
続けることはそれだけ難しいのだ。
「……止まる?」
「要するに打ち切りや」
「……ふむ。
……それは困るな。
……練人にはできれば長く書いて欲しいものだ」
「ま、真面目に書いとるで」
今は時間に追われて必死に書いているが、
必死に書いているからか、
カナイチシリーズも止まっている。
「……大丈夫。
……急かしたりはしない。
……今、練人が書いている私達の物語も面白いしな」
「そう言ってくれると助かるわ」
「メリリ!」
エアリーが指している方を見ると、
羊がのんびりと牧草を食べていた。
「おっ!
エアリーに似とるやん!」
「メリリ!」
「……そうか?
エアリーの方が可愛いと思うが」
「……それはそうやな」
この牧場には多くの従業員がいて、
牛などの家畜の世話をしている。
「……リアーも案外、
ここで育ったから野菜が好きになったのかもな」
「……かも知れないな」
牧場の景色を撮ったり、
サイレンとエアリーと一緒に歩いていると、
時間が経ち、いつの間にか日が落ちていた。
「練人様!
サイレン様!
エアリーちゃん!
馬車とお馬さん決まりました!」
「おっ!
さよか!」
「……楽しみだ」
そして、俺達はオームさんが用意した馬車を見た。
「メリ〜!」
「おお〜!
ほんま、貰ってええんか!
オームさん!」
俺達が目に映った馬車は、
映画やドラマ、アニメで見たような貴族が、
乗っていそうな馬車だった。
確かにこれに乗るとテンションが上がる。
「……すごいな」
「せやな!」
「中も凄いぜ」
「入ってみようや!」
「……わかった」
さらに俺達はキャレッジの中に入った。
キャレッジの中はふかふかのソファーがあり、
クッションもあった。
加えて、リアーの要望通りの書くためのスペースもあった。
「めっちゃええやん!
俺、ここが特等席でええか?!」
「メリ!」
「……ふっ。
……ああ、好きにしろ」
サイレンは面白そうに笑った。
そして、窓の景色を眺めた。
「……徒歩も悪くないが、
これはいいものだ」
「メリメリ!」
エアリーにとっても初めての馬車だからか、
嬉しそうに跳ねている。
気持ちはわかる。
今の俺も相当テンションが上がっているからだ。
「せやろ!
リアー、ほんまありがとうな!」
「どういたしまして。
喜んで貰えて嬉しいです。
それでサイレン様、お願いがあるのですが」
「メリ?」
「……お願い?
やはり、費用がーー」
「いえ、それは大丈夫なのです。
お願いしたいのはこの馬車に乗るために、
時間が欲しいのですよ」
「……時間」
「はい。
今、ベンガス様が私のお父さんから、
馬車の乗り方などを教えていますが、
それが少々、時間がかかっているのですよ」
「……まあ、普通に考えればそれはそうやな」
車でも免許を取るために、
時間がかかるものだ。
運転はもちろん、法律や車に必要な知識を学んだりなど。
そう考えると、不思議ではない。
「覚えきるには今、お父様がベンガス様に、
付きっきりで教えているのです。
終えるのに、一週間くらいかかるのですよ。
キャレッジも調整とか必要ですし」
「……構わないぞ。
……練人の新しい剣ができるのは、
同じ頃だからな……
……待つことになるのは同じだ」
「……だから、依頼も受けることができませんが」
「……それも練人の剣が完成しなければ同じことだ。
……気にしないでくれ」
「ありがとうございます。
お願いはそれくらいです。
それで、今日はお母様がビーフシチューを作っていますので、
一緒にどうですか?」
「ええやろ」
「ああ……
ご相伴に預かろう」
「はい!
こちらですよ」
「メリ!」
牧場にある一軒家に入ると、
オームさんとベンガスがすでにいた。
「この子達がリアーの仲間?
初めまして。
リアーの母【ハイプ】だ」
「……サイレン・マジャン。
リアーが入っているパーティーのリーダーだ」
「俺は練人、よろしゅう。
こっちはメリボーのエアリーや」
「メリ!」
「あら、可愛らしいわね。
ビーフシチューできているよ」
「……いただく。
どうもありがとう」
「硬くならなくていいよ、サイレンさん。
こちらもリアーがお世話になってくれているんだから」
そう言って俺達にビーフシチューを差し出した。
「さっ、冷めないうちに召し上げ」
「ほんなら、お言葉に甘えて。
いただきます」
「……いただきます」
「エアリーちゃんはこっちよ」
「メリ!」
エアリーは用意してくれたきのみを美味しそうに食べる。
「美味しい!」
「……確かにな」
「この子はちょっと緊張しがちだけど優しい子なのよ。
……だから、本当によろしくね」
「……ああ。
……今日のことがなくてもリアーは大切な仲間だ」
「サイレン様、ありがとうございます」




