第91話 腐った剣の使い道
「この度、職員を守っていただきありがとうございます
まずは当初の報酬通り三千二百デラル。
そして、あの魔獣には毒があったため、
放置すれば職員の被害、自然への影響、同族が増える可能性と、
多くの功績から考えて、二千四百デラルを追加。
合計で五千六百デラルになります」
「……つまり、一人辺り千四百デラルになるか」
「なあ、俺のこの剣どないしよ?
もう使えへんし捨てるしかあらへん?」
流石に剣が錆びついてボロボロになっては、
研いでも無駄だろうし、
切ることもできない。
やはり、この世界にも、
不燃ごみを回収するところがあって、
そこに捨てることになるのだろうか。
すると、ベンガス、リアー、受付嬢が少し驚いた顔で見ていた。
「どないしてん?」
まさか、オルド・ドラゴンの時と同じパターンか。
「……練人はこういうことに慣れていない。
……剣が目の前で錆びついてしまう経験も、
そういう魔獣と戦う機会もなかったから、
動揺してもおかしくはないさ」
唯一俺が転移者だってことを知っているサイレンは、
みんなにおかしくないようにフォローをしてくれた。
「……確かに使い慣れた剣が、
急に錆びついてショックを受けるのも当然ですよね。
わかりました。
練人様には私が説明します」
そう言って受付嬢が俺を指した。
「今の練人様の選択肢は二つあります。
今の武器を捨てて新しい武器にする。
つまり、練人様が考えた通りのやり方です。
しかし、普通はそのやり方はしないのですよ」
「せえへん?」
「それをやるのは、今の武器に飽きた、
新しい武器を使いたいなと思う飽き性か好奇心が旺盛な方、
そういう人物が大半なのですよ」
「なら、普通はどないすんねん?」
「……普通の冒険者は壊れた武器を素材に、
新しい武器を製造してもらうのですよ」
「壊れた武器を素材に?」
「はい。
練人様のその剣は錆びついています。
ですが、その状態はむしろ良い兆しなのです」
「良い兆し?」
「錆びついた素材は高額で買い取られるケースが多いのですよ」
「錆びついた素材が高額!?
何でなん!?」
「錆びついた剣は皆、
例外なく魔力が込められた武器になるからです!」
「魔力が込められた武器?
魔法の剣のようなものか?」
「ああ……
練人の場合はより効率的に《マジック・ウェポン》が付与される、
あるいは《マジック・ウェポン》一回で二回分込められるとかな」
「……そりゃ、凄いんやけど……
え!?
ほんなら、あの時、ベンガスを助けんと、
ベンガスのハルバードを錆びつかせれば良かったん!?」
俺は思わず、ベンガスのピンチだからと守ったが、
あれは余計なことだったのか。
「いや、壊れた武器を素材に新しい武器に変えるのは、
それなりに金がかかる……
酒代で使って一文なしの俺では、
資金が足りなかった」
「……そのための共有資金なのだが」
「……守ってくれてありがとうという意味なのだ、サイレン殿」
「まあ、ベンガスが気にせぇへんのやったら、
ええんやけど……
どのくらいなん?」
「……練人様は一段階目ですので、
千六百デラルになります」
「……今回の報酬が消えて二百デラルを払うことになるんか」
日本円で十六万円相当。
他のものと比べても値段が段違いだ。
「一段階目ってことは……」
「はい。
二段階目は三千二百デラルになります」
一部の社会人の給料より高い額だ。
「……武器の値段が低くても問題ない理由はこれだ。
……私の杖は最初から高くて性能も優秀だが、
この方法なら強くなれて自分の武器が誕生する」
「結構おもろいやんか!
人によっては象徴となる武器が出来上がるってわけか!」
「……武器の形にリクエストがない場合は、
職人の腕次第になりますが……
持ち主が不満を言うことは滅多にありませんよ」
「……リクエストか。
ほんなら新しい剣はよりカッコよくしてええか?」
「できれば、私にではなく、鍛冶屋さんに言ってくださいね」
「楽しみやわ〜!」
剣ビームとか出たりしないのだろうか。
あるいは宝具のような自分だけの必殺技など。
「ただし、武器の性能が良くなったり、
魔力消費が良くなったりするなどメリットはありますが、
強い能力が付与されるわけではありませんので、
ご注意を!」
「……能力や武器に甘えるな、というわけさ」
つまり、チートのような強過ぎる能力は生まれないと言うことか。
むしろ、いい方だろう。
何ならチートより愛着が持てる。
「なるほどのぅ。
俺は割と好きやで、そういうの……
あ、それよりもあの魔獣、死因は結局何やったんや?」
武器の話で舞い上がっていたが、
結局、何で魔獣が死んで、動いたのか、
それがよくわかっていない。
「……まあ、解剖しようにも、ヤバ過ぎたから、
爆発四散して消滅させてしもうたんやけど」
「……推測になりますが、
職員曰く、『連鎖的魔力暴走』が原因かと……」
「……連鎖的魔力暴走?」
「練人様達が倒した魔獣、
あれ、どのようなタイプの魔獣だと思いましたか?」
「え?
せやな、歯の形や大きな口からして……
肉食?」
「はい。
恐らく、あの魔獣は、
すでに死んでいた草食魔獣の死骸を食べたのでしょう。
飢えで生きるために……」
「……?
ほんなら、草食魔獣を食べたら皆あんな風になるんか?」
「……言ったでしょ?
連鎖的だと……
その草食魔獣も、
あの魔獣と同じく魔力暴走で死んだのでしょう」
「魔力暴走で?」
「……はい。
草食魔獣は普段より多くの魔力草を食べたのでしょう。
魔力草は他の植物よりも魔力が多く含んでいます。
適量なら魔力回復のポーションになります」
「……薬になるなら毒にもなる」
「ええ……
魔力草は大量に食べ過ぎると魔力が暴走して、
最悪の場合は死に至ります。
草食魔獣も致死量の魔力草を食べてしまった」
「それが何で肉食ーー
いや、まさか、せやからか?
肉食は自分ではビタミンっていう大切な栄養素を作れへん。
せやから草食を狩ったら、真っ先に食べるんは胃や腸や。
草食の胃や腸には、
食べた植物がいっぱい詰め込まれているからのぅ」
魔獣が元の世界の生き物と同じなら、
決してあり得ない話ではない。
「……その魔力草を食ってしもうた」
「そういうことです」
「……せやけど、それなら何でそれが死骸が動く原因になるん?」
「……ガーゴイルと同じだ」
「……そうか。
ガーゴイルも元々は動かへん像。
それが魔力が染み込んだ結果、動く魔獣に変貌したんやったな」
理屈から考えれば間違っていない。
像が動くのなら、元々動き回っていた死骸が動くのは不思議じゃない。
(せやけど、結局『魔力』って何やねん?)
単純に考えれば魔法やスキルを使うためのエネルギー。
俺も疑問も持たずに使っていた便利なもの。
そして、電気のように貯魔石で保存もできる。
だが、過ぎれば毒にもなる危険なもの。
魔力が暴走して、死に至り、その後も動く可能性もある。
(……そういえば、あの魔獣の息吹を剣に当たったから、
剣は錆びついてしもうた……
あれは元から持っとった魔獣の固有の能力なんか?)
息吹があたったから剣が錆びつく。
あの色は間違いなく酸化鉄。
つまり、あの息吹は多くの酸素が込められていることになる。
その酸化した剣を素材に使えば強い魔法の武器になる。
(いや、それはあの魔獣が、
あの姿に変貌しとったから使える能力やったらわかるが、
元から持っていなかったと言う証明はない。
同じ種類の魔獣と戦わんと……
せやけど、あの魔獣、腐敗進んどったし、
その死骸も爆発四散してもうたしのぅ)
後悔しても遅い。
倒さなければ被害が増える。
それはわかっているが、
謎を放置するのは喉に魚の小骨が刺さったようで気持ち悪い。
「……どうした、練人?」
不意にサイレンに声をかけられた。
「あ、ああ……
サイレン」
「……鍛冶屋に行くのだろ?」
サイレンに言われて長考し過ぎたことに気づいた。
そうだよな。
推理をし過ぎるとネタバレになってつまらなくなる。
それに小説で説明し過ぎるのはいけないと自分で言ったことだ。
「……それでは、鍛冶屋に行こう」
「……おう、すぐに行くわ」




