第90話 腐る剣
「うわ……
マジで臭いな……」
俺達が訪れた平原には魔獣が横たわっていた。
身体中から血が流れており、目も閉じている。
「……そうだな。
……練人のマスクで多少軽減した程度だな」
「万能あらへんしな」
ギルド職員も配備されており、
書類などをまとめている。
「私は今回の剣を担当させていただいている【オギノ】だ。
君達が派遣された冒険者かね?」
そう言ってオギノさんは俺達に敬礼する。
「ああ……」
「すみません、あの魔獣の状態はどうなっていますか?」
「受付嬢に報告した通りだ。
魔獣の死骸を見つけたが、今のところ捕食者などは現れていない」
「魔獣の死因は?」
「それは調べた。
あの魔獣はどうやらーー」
「……あの魔獣」
「どないしたん?
サイレン」
「……僅かに漏れているが、魔力が溢れている」
「……お嬢ちゃんの言う通りだ。
死因を調べたら魔獣の死因は典型的な魔力暴走が原因のようだ」
「魔力の暴走?」
「ああ……
体内の魔力を制御できずに、
暴走すると下手をすれば死ぬこともある。
あの魔獣を調べたところ目の血管が切れているところもあるから、
まず間違いないよ」
「……」
俺は魔獣の死骸を見つめた。
魔獣の死骸には受付嬢が言ったように、
ところどころ血管が浮かび上がり、
そこから血が噴出されている。
平原から鉄錆のような臭いが漂っている。
「実は報告があるのです」
そして、俺は受付嬢に話した通りに、
魔獣の死骸を放置する危険性、
そして、魔獣の体に穴を開けることの重要性を伝えた。
「なるほど」
「ほんで、穴を開けるために何かを使いたんや。
魔法やと引火してしまう可能性もあるし、
何か鋭いもんやったら助かるんやけど」
「ならば、予備の槍を使うといい。
安物だが、鋭さなら十分だ」
「ありがとうございます。
ベンガス、出番だ」
「出番?」
「この槍を魔獣に投げてくれ。
ベンガスの筋力なら一発で穴開くで」
「うむ。
練人殿が言うのなら、わかった。
ちょっと離れてくれ」
ベンガスは投げ槍の選手のように、
距離を判断して槍を強く握る。
オギノさんも他の職員に離れるように呼びかけて、
職員は急いでその場を離れた。
「行くぞ!」
ベンガスが力強く槍をぶん投げた。
槍はそのまま魔獣の死骸を貫く。
誰もが、そう思っていた。
魔獣の体が突如動き、槍を掴んで止めた。
「!?」
そして、グシャっと嫌な音を立てて、
その槍を握り潰した。
そして、ゆっくりと動き出す。
「なっ!?」
そして、魔獣は立ち上がった。
「し、死んでいる筈じゃ!?」
「死んだふり!?」
「さ、《サーチ》!」
リアーは急いでサーチをする。
「そ、そんな!
あの魔獣!
本当に死んでます!」
「死んでいるだと!?」
「生体反応がないんです!
肉も腐敗したまま!
熱もなく、脈もない!
まるで、人形なんです!」
「操られているのか?」
「そうでもありません……
恐らく魔力が暴走している影響かと!」
「このまま暴れられるとマズイ!」
「行くで!
ベンガス!」
「おう!」
「《マジック・ウェポン》!
《ダブル・アップ》!」
剣に魔力を付与させて、
力とパワーをバランスよくアップする。
死んだ魔獣が動いている。
何が有効なのか想像もつかない。
「俺が先に行く!」
俺は魔獣に近づいて切り掛かる。
腕は簡単に切断できたが、
魔獣は気にする様子がない。
「くっ!」
俺は急いで離れる。
「思った通りかよ!」
あの魔獣は死骸。
死んでいる以上、奴に痛覚とかないし、
恐怖、特に死に対する恐怖がある筈もない。
すると、魔獣はまるでブレスを履くような仕草をした。
「!?」
俺は急いで射線上から離れた。
魔獣が放ったのは見えないブレスだった。
だが、大きさは口の大きさと比例しているようで、
息吹と書いた方が正確かも知れない。
その息吹に俺は当たらなかった、
だが、マジック・ウェポンを付与した俺の剣に当たってしまう。
「なっ!?」
魔獣の息吹に当たった俺の剣は赤錆、
酸化してしまった。
「さ、酸化した!?
一瞬で、放置された鉄のように酸化鉄になってもうた!?」
当然、こんな状態で切ることはできる筈もない。
「……練人!」
「くっ!」
俺は錆びた剣を投げ捨てる。
あまりやりたくないが、仕方がない。
「《マジック・ウェポン》!
《マジック・ウェポン》!」
両手足にマジック・ウェポンを付与させて格闘戦できるようにする。
「練人殿!」
ベンガスがハルバードを振り回そうとした時、
魔獣が尻尾を振り回して、
ベンガスを転がす。
「グオ!」
不意での攻撃に倒れるベンガス。
そんなベンガスに向けて息吹を吐こうとする。
「させるか!」
俺は魔獣を掴んで殴り続ける。
この魔獣は牙もあるのだが、一向に噛み付かない。
恐らく死んでいるため、食欲もなく、
食欲がない以上、噛み付く行動も忘れてしまっているのだろう。
「たあ!」
魔獣を巴投げで飛ばして、
首根っこを掴んで転がす。
「くっ!」
だが、やはり元は死んでいる魔獣。
いくら攻撃しても動きは鈍ることもなく、
ダメージによる影響も弱い。
それどころか……
「しまっーー!?」
魔獣は腐敗し、柔らかくなっている。
つまり、蹴った部分によっては、
泥や沼のようにぬかるんで足を取られてしまう。
魔獣は息吹を溜める。
このまま食らったら人体への影響は計り知れない。
肉体が剣のように錆びついてしまうか、
あるいは汚染物を体内に入り込んで病気になるか。
「させるか!」
首根っこを掴んで射線をずらす。
息吹はずれて誰にも命中しなかった。
「サイレン!
バーニングの準備や!
もうこいつを焼き払うしか活動止められへん!」
「……なら、練人離れろ!
練人が近くにいては撃てない!」
「OK!」
握り拳を額の前で交差し、一気に開く。
「《ダブル・パワード・アップ》!」
ダブル・アップは解除されたが、
力が漲り、俺は魔獣を押し倒す。
「この!」
魔獣の尻尾を掴み、ぶんぶんと振り回す。
「デリャアア!」
何回も回転して六回転してから遠くまで投げ飛ばす。
魔獣は遠くまで投げられてフラフラしている。
その間に再び握り拳を額の前で交差し、一気に開く。
「《ダブル・スピード・アップ》!」
「……《シャイニング・バーニング》!」
ダブル・パワード・アップを解除して、
俺が素早く逃げている間に、
サイレンが魔獣に光魔法をぶつける。
光魔法を受けた魔獣はしばらく持ち堪えて、
近づくが、耐え切れなくなり、爆発四散した。
「た、倒せた……」
「ふぅ」
平原に静けさが戻った。
「よくやった!
魔獣が村や町に近寄る前に倒せたのは、
君達の活躍のおかげだ」
「褒めてくれるのは嬉しいんやが……」
「……やはり、使い続けた剣が錆びついたことが気になるのか?」
「それもあるんやけど……
あいつ、死んどるんやろ?
まだ像が動くって言うのは納得できるんやが……
なんで死んだ魔獣が動けるんや?
リアーの話やと、生体反応はないんやろ?」
「……はい。
それは間違いないかと……」
「倒すために殴ったり切ったりするんやが……
一切怯まなかった……
痛覚も恐怖心もあらへん。
何やったんや、あれ」
動いた理由がわからないと、
また同じことが起きる。
そう思うと不気味に思ってしまう。
「ほんま……
ゾンビのような魔獣やったわ」
その分、ホラーの演出もしようと思えばできる。
ああいう魔獣ばかりで町が占拠されたり。
ありそうで嫌だな。
そして、まとめて殲滅するために、
町丸ごと燃やし尽くす展開が透けて見えるが……
「サイレンはこういう魔獣の存在を知ってたんか?」
「……ゾンビのような魔獣は存在する。
……理由はまだわかっていないが、
それを探るのも面白いと思う冒険者も少なくない」
「さよか」
この世界は魔王とかそういう話は聞かない。
侵略者という存在も見えないから、
魔獣だけを気をつけていれば平和そうに見える。
だが、さっきの魔獣もいるとなると、
油断するのはまだ早いと思わざるを得ない。
「とりあえず、後始末は我々に任せてくれ。
倒してくれたから報酬も期待しててくれ」
「それはいいな!」
「俺は剣を錆びついたからな。
新しい武器を何とかせぇへんとな」
「……そうだな」




