第89話 魔獣の死骸
「さて!
新しい依頼を受けようか!」
「おうともさ!」
「メリ!」
「……ベンガスはともかく練人はまだ貯金があるのだから、
意気揚々としなくても大丈夫なのでは?
それとエアリーは今日もお留守番だ」
「俺としては久しぶりの戦闘やからな!」
「……そうか」
「あ、あの〜」
すると、ミノタウロスの件で俺達に要請してきた受付嬢が、
ためらいがちに、俺達に話しかけてきた。
「ん?
あん時の受付嬢やん。
どないしたん?」
「メリ?」
「……また私達に依頼を要請したいのか?」
「実はそうなんですよ」
「ほう!
前の依頼も報酬は良かったからな!
これは期待できそうだ!」
「決めるのが早くあらへんか?
んで、何を頼みたいねん?」
「実は今回は討伐ではなく、
護衛を依頼したいのですよ」
「護衛?」
「メリ?」
「どんなのでしょう?」
「……説明します。
ある日、北リーマハのとある村に、
魔獣の死骸が確認されたのです」
「魔獣の死骸?」
「はい……
しかも、不思議なのですよ。
村人の話によりますと、
襲われた後はないのです」
「単に老衰とかそんなんとちゃうの」
「それはありません。
死骸の状態は血管が浮かび上がり、
血管が破れたのか、ところどころ出血の跡があるので……」
「……確かに老衰ではなさそうだな」
「加えて、妙なことに分解者が現れないのですよ」
「分解者?」
「生き物の死体や排出物を分解して自然に返すことを言うんや。
……虫すら来んと言うんか?」
「はい。
通常、魔獣の死骸があった場合は、
魔獣の死骸を食べようと多くの魔獣が寄ってくるのです。
中には危険な魔獣もいますし、
死骸が見つかってから、その場を観察をしているのです。
でもーー」
「その死骸を食いに来る魔獣はいなかった」
「はい。
加えて死んでから時間が経っているので、
腐敗臭も出てきているのですよ」
「……腐敗臭」
「だから、ギルドとしても、
その魔獣を死亡扱いにして処分する予定なのです」
「だから、護衛か。
他の魔獣が寄ってきてもええように、
あるいはその死骸によって何かが起こる前に、
ある程度の備えをしておきたいっと」
「そうです。
サイレンさんのパーティーは心強いですし、
どうやら金になりそうな依頼が欲しかったようなので」
「いくら何や?」
「何事もなければ三千二百デラル。
何か起き次第、場合によっては追加報酬も与えます」
「……確定で一人八百デラルやな」
「受けようではないか!
面白そうだ!
金になるしな」
「ベンガス様、この前の会議の結果、
事前にいくら使うか明記するように言ってますよね?」
「わ、わかっている。
忘れたわけではないぞ、うん」
言い方が動揺している人のそれだな。
「サイレンはどないや?」
「……臭いというのが懸念材料だが、
金が必要なのはそうだ。
……私は問題ない」
そういえばサイレンは臭いのは嫌いだったな。
「……てか、その死骸、ちゃんと刺したんか?」
「完全に死んでいるのかの確認のことですか?」
「……いや、それもあるんやろうけど、大事やろ?
放置すれば爆発するし……」
「……え?」
受付嬢は初耳かのように俺を見ていた。
「いや、死骸なんやろ?
死骸で腐敗臭もしとるんなら、
死骸の中にはガスが溜まっとることになるやろ?
魔獣によってやろうけど、
もし、脂肪が分厚くて丈夫なら、
ガスが逃げへんから充満しやすいんや」
「……練人さんですよね」
「ん?
ああ……」
「すぐに行って他のギルド職員にも伝えてください!」
「マジかい」
そして、俺達は依頼を受けることになった。
「練人殿、今の話は本当か?」
「まあ、俺が言っとったんはクジラ型魔獣やけど、
魔獣なんや。
必ず起きひんという保証もあらへんわ。
……今回はバーニング系は危険かも」
「……危険なのか?」
「さっきも言ったんやけど、
魔獣の体内にはガスが溜まっとるんや。
せやからきちんとガス抜きせんと爆発して大惨事になるんや」
俺の言い方はまるで、
クジラが座礁して死んだような扱いをしているが、
その危険性もわかっている。
「……今回ばかりはグロ描写も覚悟せんとな。
爆発したら臓器や血液が飛び散るし……」
実はホラーはあまり得意じゃないが、しょうがない。
父がよく見ているだけで俺自身はそこまで得意じゃないんだ。
「……時間あるんやったら、ちょいと宿に戻ってええ?」
「……?
……何をする気なんだ?」
「俺のカバンに持ってきた方がええもんがあるんや。
すぐに見つかるやろうし、
ここで待っといて」
「わかりました」
「……エアリーはお留守番な」
「メリ」
下手に連れ出して爆発などに巻き込まれたら、
エアリーの体に臭いが移ってしまう。
綺麗な白い毛並みも血の色で染まり、
ある意味怖くなる。
「ん?
サイレン?」
「……私もついて行く。
……何を持ってくるのか気になるしな」
「大したもんやあらへんで……
マスクやからな」
「……マスク。
……いつの間に買ったんだ?」
「いや、元の世界で持ってきたもんや」
マスクを手に入れなければならない時期があった。
だから、カバンの中にもマスクが入っていた。
しかも、元の世界と何も変わっていない。
箱のマスクだから、値段も安い。
買った箱から一部を持ってきただけだから、
枚数はそこまで多くないが。
俺の部屋に戻ってカバンを漁り、
マスクを持ち出す。
「これや」
「……これが練人の世界のマスク」
サイレンは興味深そうにマスクを眺める。
「……いいマスクだな。
母もよく使うが、このようなマスクは見たことがない」
「そうなんか」
「……練人、金を払うから、このマスク、数枚売ってくれないか?」
「サイレンやったら別にタダでもええんやけど、
何でなん?」
「……私が故郷に帰った時に母に見せてやりたいしな。
きっと、母もすごいと言ってくれるぞ」
「それならええわ。
ほい、四枚」
「……ありがとう」
いきなり四枚使うことになったが、
サイレンに渡すのなら構わないだろう。
「ほな、行こうや。
気は進まんけどな……」
「……それは私もだ。
……想像以上に臭いんだろうな」
そう呟いて俺達はギルドに戻って行った。




