第88話 貯魔石
「……ところで練人」
「ん?」
「……練人の小説だが、
爆弾魔事件の話が終わったら、
次は何を書く予定なんだ?」
「もちろん予定はあるーー
と言いたいところだが、今のところはノープランだ……」
「……ノープラン」
「今でも爆弾魔事件に関しては手直しいるかなと思っとるしな」
「……?
面白いと思ったのだが……」
「いや、ちょいと犯人が一直線すぎると思ったんや」
こう言うのは気になると、
手直しを加えたくなるのが、小説家の性なのだ。
「……そういうものなのか?」
「そう言うもんなんや」
後になって説明付け過ぎたのかなとか、
よく見れば行を空けていない、
誤字脱字していることなんて多々ある。
そして、ネットに投稿して、
読み直したら気付いて修正することも多い。
いくら気をつけてもやってしまう。
そういう作家や演出はよくあるものだ。
俺だって動画とかそういうのを見て、
あっ、これ誤字やなと思う時があるし。
「……ならば、今日は練人の小説のネタ探しをしよう」
「ええんか?」
「……構わない。
私としても、
練人がどんな風に小説を書き始めるのか気になるしな」
「ええ小説の保証はせえへんで?
実際には今までの戦いを小説としてまとめるだけかも知れへんし」
「……それはそれで構わない。
……そっちも面白そうだ」
「ほな、今回はこっちがメインになるんかのぅ?」
そう言って俺はカメラを取り出した。
カメラの方が映像として印象に残りやすい。
いざとなれば動画として残すことも可能だ。
「……ほんま、これ持って来れてよかったわ。
充電やのうて充魔になってるのも助かるわ。
こっちにコンセントとかあらへんし」
こっちの世界ではカメラを充電したい場合は、
手をかざして魔力を補充することができる。
勝手だが俺はこれを充魔(魔は魔力)と呼ぶことにした。
「……確か高かったと言っていたな。
……その割には練人は高い買い物をしないな」
「俺かて、欲しくないものを、
無駄に金をかけて買おうとは思ってへんわ。
このカメラも使えると思ったし、カッコええと思ったし」
「……そうか。
……なら、市場に行こう。
……掘り出し物が見つかるかも知れないしな」
「……それもそうやな」
そして、俺達は市場に向かった。
市場は賑わっており、
果物などの食材を売っていたり、
すぐに食べられる屋台があったり、
小物を売ってたりしていた。
「賑やかだな……」
「せやな。
あ、サイレン」
「……ん?」
不意打ちで、サイレンを撮る。
「……いきなりか?」
「ええやんか?
保存枚数はまだまだあるんやし」
現存方法は知らないけど、
いずれその方法もわかるだろう。
つまり、保証も何もない。
だが、今、それを考えるのは無粋だろう。
「……そうなのか?
……まあいい。
……置いて行くぞ」
「ああ、わかっとるわ」
俺はサイレンを追いかけた。
サイレンが小物を手に持って、首を傾げている。
これの何がいいのか、わかっていなそうな表情だった。
買い食いをすると思ったが、きちんとしてて、
まだ昼食ではないからと断っていた。
だが、それはあくまで自分だけであって、
俺が欲しいのなら買えばいいと付け足している。
「サイレン!
これはどうや?」
俺が手に持ったのはサングラスだった。
色は青く、かければ光を多少抑えられる。
「似合っとるか?」
「……それを私に言われても困る。
ふむ……
似合っていると、思うぞ?」
サイレンの気遣いというよりも、
本当にお洒落とは無縁の生き方をしていたから、
判断に困る感じだった。
「……欲しいのか?」
「せやな。
欲しくなったわ」
「……ならば買えばいい。
……練人の金だ。
……練人の好きに使えばいい」
「ほんならお言葉に甘えてーー
すんませーん!」
値段は二十デラルほどだった。
「サイレンは?
何か欲しいもんあるんか?」
「……そうだな。
……私が欲しそうなものはーー」
すると、裏路地の店を見つけたサイレンは、
何かに導かれるように、足を止めて、
その店に入って行った。
「ん?
お、おい」
俺もついて行く。
そこは魔術師のための店のようで、
ローブやらとんがり帽子、
アクセサリーも売っていた。
だが、どのローブもとんがり帽子も、
黒とか赤などの色でサイレンが好みそうな色はなかった。
だから、買わないだろうと思っていた。
「いらっしゃい」
店主は典型的なファンタジーの魔女で、
鼻も鷲鼻で老婆だった。
「おぉ〜
魔術師の店かいな」
こういう店もワクワクするものだ。
「……エンディミオンならいくらでもある」
そう言いながらもサイレンはある物を手に持った。
「それは?」
俺も手に取った石は綺麗な青い色で、
そこらへんの石とは違うものだと肌でわかった。
「……綺麗な石やな」
「……買うから、これよりも大きいものはあるか?」
「お嬢ちゃん、目が高いね。
これがこの店の大きい奴だよ」
そう言って二つほど出した。
さっきのは手で握れるほどだが、
出された石は大きくて手で持つものだ。
「……二つか。
……こういうのは早い者勝ちだな」
「これは何や?」
「……これは『貯魔石』。
リシアのローブを覚えているだろ?」
「ああ。
服が余剰の魔力を吸収して、
魔力が空になったら補充する……
その説明が出たってことと、
貯蔵的な言葉を聞いたからそれを考えるに……
魔力を保存できるってことか?」
「……その通りだ。
手をかざすだけで貯魔石に魔力が補充される。
魔力を取り出したい場合は強く握ればいい」
「へ〜」
「……ただ、デメリットはあり、
当然ながら貯蔵できる魔力量は決まっている。
……そして、貯魔石に魔力を貯蔵できるのは、
最初に使った人物で、補充できるのも最初に使った人物だけだ」
「……それを使って万能な魔力回復アイテムは無理ってことか」
「……そういうことだ。
……店主、これを買いたい」
「……それ一つで八百デラルだよ」
「高い!」
八百だと円で換算すると八万になる。
それだけ、貴重なものだろう。
「ちなみに小さいやつは?」
「一つで二百デラルだよ」
四分の一だが、それでも高い。
「……買おう。
……これは払う価値があるものだ」
「あいよ。
それでは魔力を貯蔵してみてくれ」
「ああ……」
老婆がそう言うとサイレンは迷わずに魔力を貯蔵した。
「なるほど……
最初使わせることで詐欺じゃないよという証明なんやな」
「ああ……
貯魔石を売るには資格と信頼が必要になり、
購入直後で使わせるのが義務になっている」
「他の人に使わせたいから勘弁したいって場合は?」
「その場合はこの紙に書いてもらうよ」
老婆が出したのは細かい説明がある契約書のような紙だ。
「これにサインしたら、貯蔵しなくてもいい。
その場合は返品不可になるからね」
確かに、これをしないと、別の人に使わせて、
魔力補充できないとクレームを言うことも考えられる。
「兄さんはどうするんかね?」
「せやな。
俺も買うわ。
ほんでこの小さい奴も四つ買うわ。
ただ、これとこれはサインするから貯蔵せえへんわ」
「あいよ。
お嬢ちゃんは八百デラル、兄さんは千六百デラルね。
これがサインだよ」
「《ライト》」
今のライトはキーボードではなく、ペンのように書いている。
「……多くを買ったな」
「念には念をが必要やろ?
空きの貯魔石も何か使えるかも知れへんしな」
「……確かにな」
サインを書き終わり、俺達は貯魔石を持った。
そして、それぞれカバンの中に入れる。
「やっぱ、外で出歩くの悪くないわな」
「……そうだな。
掘り出し物を見つけたからな」
サイレンは嬉しそうに歩き始める。
「……それでは、続きをしよう」
「せやな。
そういえば、ローブとか買わんかったな」
「ああ……
貯魔石で十分だし、効果もあるだろうが……
……はっきり言えば、私が欲しいと思う色はなかった」
「やっぱか?
俺もサイレンが好きそうな色あらへんなと思って、
サイレンは買わんやろうなと思っとったわ」
「……よくわかっているじゃないか」
サイレンは面白そうに笑った。
「……やはり、今までの私は間違えていなかった」
「ん?」
「……何でもない」
そう言ってサイレンは微笑みながら、
市場を歩き回った。




