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小説作家の冒険者生活  作者: 才練人
〜魔術師と戦士の讃歌〜 第3章 練人、新たなる力

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第87話 久しぶりの二人きり

「……どうしましたか?

 ベンガス様?」

「グオォォォ!」

「メリ?」


 朝からベンガスが頭を抑えて苦しんでいる。


「いや、何か朝っぱらから苦しそうなんや」

「……病気か?

 ……いや、この臭いは……」

「……ふ、二日酔い」

「……はい?」

「メリ〜……」


 心配でベンガスの近くでフワフワしていたエアリーが、

 ベンガスの息を吸って、逃げた。

 それだけ臭いと言うことなのだろう。


「うん。

 昨日、俺で遊んだ後でベンガス飲みに行ったんやけど……

 ほら、小金入っとるやん?

 それで調子に乗って……」

「……たくさん飲んだと言うことか?」

「それも複数の酒を飲んだみたいなんや。

 ベンガス、それは早死にするだけやからやめときーや」

「メリリ……」


 そして、ベンガスが苦しんでいるのも納得の理由だ。


「……リアー、なんかええ魔法ある?」

「……それは一時的に痛みをなくすことはできますけど……

 これは薬を飲んで一日休んだ方がいいですよ」

「ですよね〜」

「……仕方がない。

 ……今日も休むことにする」

「メリ!」

「ちなみにベンガス様、調子に乗って飲んだと言ってましたけど、

 お金はあるのですか?」

「すっからかんや。

 連泊しとるから追い出されることはあらへんが、

 今は一文なしや」

「メリ〜……」

「……ある意味ではすごいな……

 ……私達も強敵と戦ってきたのだがな」


 そう。

 俺達は結構様々な依頼を受けて、

 デラルを受け取っている。

 この町でもそれは同じで、

 きちんと分配もしている。


 それがなくなったと言うことだ。


「……ベンガス、流石に問題がある。

 ……二日酔いが治り次第会議だ」

「は、はい……」

「とりあえず、私は今日、

 ベンガス様に酔い止めの薬を渡して、

 経過観察しておきます」

「すまんのぅ、リアー」

「いえ、気にしないでください。

 後で、薬代はベンガス様が報酬を受け取った時に、

 引いてくだされれば」

「……それで行こう。

 ……文句はあるか、ベンガス?」

「文句はあ、ありません……」


 今のベンガスは二日酔いを何とかする方が忙しいようだ。


「エアリーはどないするねん?」

「メリ〜!」


 エアリーはフワフワとリアーの近くをフワフワと浮かんだ。


「エアリーちゃん、手伝ってくれるの?」

「メリ!」

「ありがとうね、エアリーちゃん」

「せやったら、頼むで〜」


 二日酔いの人はそうそう見ないので、

 俺は外に出た。

 ここにいても邪魔になりそうだ。


「……私も出よう。

 リアー、エアリー、後は頼むぞ」

「はい!」

「メリ!」


 俺とサイレンはやれやれと言った感じで外に出た。


「……冒険者は飲酒をする者が多い。

 ……ベンガスのように、

 酒のためにデラルを使い切る者も珍しくない」

「せやろうな」

「……まずいな。

 ……今日はてっきり依頼を受けると思っていたからな。

 ……予定がない」

「俺もや」


 一応、これでも小説は書き続けているし、

 修正もしているが、

 量が量なだけに部屋に篭ってばかりではいられない。


「……練人はどうするつもりだ?」

「俺は外に出ようと思っとる。

 ここのところは依頼でしか外に出てへんかったしな」

「……私もいいか?

 ……一人で散歩するよりマシだ」

「お、おう。

 ええで」


 そういえば、

 今まではベンガスやリアーが近くにいたから、

 サイレンと二人きりになるのは久しぶりだ。

 エアリーもいないから、尚更そう思ってしまう。


「……?

 ……どうした、練人?」

「何もあらへん。

 サイレン、財布とか持ってきとるんか?」


 ベンガスが二日酔いで休むことになった時点で、

 俺はすでに財布を持ってきている。


「……今日は休みなのだろ?

 ……なら、着替える」

「おう。

 ほんなら、俺も着替えとくわ」


 挿絵(By みてみん)

 俺の荷物は水筒と、カメラと双眼鏡くらいだ。

 依頼を受けるわけじゃないし、

 荷物はこれくらいでいいだろう。


「……にしてもサイレンとか〜」


 やっぱり、サイレンのような美人と一緒に出かけるのは、

 どうしても心臓に悪い。

 緊張してしまうし、変な考えも浮かんでしまう。


 喋れないエアリーを除けば、

 俺が転移者であることも、俺の秘密を全部知っているのも、

 サイレンとリシアだけだ。

 そして、常に一緒に行動するのはサイレン。

 俺の意識はどうしてもサイレンに向けてしまう。


「……今回の話は何やかんやで言ってサイレンに見せないでおくか」

「……まだか?」


 すると、サイレンがノックした。


「わっ!

 も、もうちょい待て」


 俺は急いでベルトをしめて出た。

挿絵(By みてみん)

 何気にサイレンの私服は初めて見る。

 ちょいと戦闘用の服と似たような感じがするが、

 それでも町民として見える。

 ズボンを履いている。


「サイレンのズボン姿初めて見たような気がするな」

「……そうか?

 ……ふむ。

 ……今までは露出に慣れるためだが、

 私は本来はズボンなのだ」

「そ、そうなんか」

「……それよりも中からぶつぶつと、

 何か呟くのが聞こえたが?」

「い、いや〜!

 俺って新しい戦法使っとるやん?

 サイレン視点から見てどうかなと思ってな」

「……そうだな。

 ……ユニークだと思う。

 ……そして、焦りやすい練人らしい戦法だと思った」

「お、俺らしい?」

「ああ……

 安全に一つずつ使うよりも急いで二つを一気に使うのは、

 練人らしいだろ」

「あ、ああ……

 そうなんか」


 言えない。

 パワード・アップという存在を知った時から。

 いや、異世界で絶対に肉体強化魔法があると確信してから、

 すでに構想していたなんて。


 俺だって少し迷った。

 ダブル・スピード・アップなんて、

 今やっているやり方の他にも、

 拳を地面につけて発動するやり方もあった。

 海賊漫画の主人公のように。


 俺がやっているのは特撮の方だ。

 これ以上書かせるな、恥ずかしい。


「まあ、《ダブル・アップ》もできると思うわ」

「……《ダブル・アップ》?」

「……特化型やのうてパワード・アップと、

 スピード・アップを一気に使うやつや。

 パワーとスピードがバランスよく上がるやり方や」

「……また欲張りな。

 ……だが、面白そうだ」

「さ、サイレンはやらーー

 いや、サイレンは今のままでも十分強いか」


 何せ、俺のダブル・パワード・アップも勝てると言って、

 ダブル・スピード・アップのスピードも目で追いつけるくらいだ。

 今のままでも十分強い。


「……機動力強化の案としては、

 採用してもいいかなと思う程度だな」

「……あ、できるんか?」

「……私ができないとでも」

「思わんわ」

「……ただ」

「ただ?」

「……練人の考えを真似したいと思った」

「俺の考えを真似したい?」

「……ああ。

 違う系統の魔法を組み合わせるやり方を……」

「え?」

「……まだ構想の段階だが……

 ……完成すれば私のシャイニング・バーニングが、

 さらに進化する」

「シャイニング・バーニングさらに進化させるつもりなんか!?

 今でも十分過ぎるほど強いやんか!」

「……練人。

 ……私に対してそのセリフは今更だ」

「……せやろうな」


「……楽しみだ。

 ……進化したシャイニング・バーニングで、

 どれだけ発展できるのか……

 私には他にも魔法があるからな……」


 サイレンが不穏なことを言っている。

 シャイニング・バーニングが終わったら、

 他の魔法も種類別にするつもりかよ。

 ……するだろうな。


「……いや、本当に魔法は私を飽きさせることをしない」


 その表情は楽しいおもちゃを見つけた子どものようだった。


「ほんま、魔法好きなんやな」

「ああ……

 魔法があれば孤独でも怖くないと言い切れるくらいにはな」


 サイレンは自信満々に俺を見て微笑んだ。

 魔法を愛していると断言できる。

 彼女はそう言った。

 魔法もそんなサイレンの期待に応え続けている。


「……サイレンやったら無人島でも平気そうや」

「……魔法で快適に過ごしてやるさ」


 すごい。

 普通なら無人島生活舐めるなと注意したいのだが、

 サイレンなら魔法で本当に無人島を快適に過ごしていそうだ。


「……っと、話に夢中になり過ぎたな。

 ……行こう、練人」

「……はいよ。

 言っとくがノープランやで」

「……それを言うのだったら私もノープランさ。

 ……今日は依頼を受けると思っていたからな。

 ……予定がないのはお互い様さ」


 そして、サイレンが先に出て行った。

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