第86話 筋肉痛にくすぐりはやめて
「おお……
足が……!
足が痛くて!」
次の日、俺は足がピクピクとしていた。
動きは遅くなり、長距離走るのは厳しい。
この状態では依頼を受けられる筈もなく、
前にサイレンが言ったように、
今日は休みになった。
「典型的な筋肉痛だな」
「……分かり切っていたことだがな」
サイレンは冷静にそう言い切る。
だが、何だかんだで心配だったようで、
リアーと一緒に俺とベンガスが休んでいる部屋に来ていた。
「ま、まさかここまで痛くなるとは思わなかったんや!」
「《シッピング・ヒール》」
リアーは俺が痛む部分に手を翳した。
リアーの手から細かい光が降り落ち、
俺の足に付着。
そして、光が消えた。
「おおぉ……」
痛みを完全に消し去る回復魔法ではなくて、
感覚的に湿布を貼られたような、
スゥーとする感覚だ。
「……それが回復魔法か」
「はい。
練人様のは傷があると言うよりも、
筋繊維に損傷があって炎症しているだけだと思います」
「ほ、ほんまに典型的な筋肉痛やん!」
「……捻挫にも効くのか?」
「効きます。
ただ、定期的に使わないと効果が出ないのですよね」
「……具体的には?」
「そうですね。
練人様、十二時間後にまた来てください」
「りょ、了解」
つまり、効果継続時間は十二時間になるのか。
てか、シッピングって、
もしかして湿布と関係あるのだろうか。
ネーミング似ているし。
「……ふむ。
……回復魔法には他に何がある?」
「典型的なのは《ヒール》です。
出血も止めることもできますし、
多少血が不足しても大丈夫です。
ただ、本当に多少ですし、
大怪我を治すこともできません」
ここに来て回復魔法の説明だ。
考えてみればサイレンがかなり強いから、
大怪我になる機会も少ないし、
ベンガスも頑丈だから、
よほどのことでもない限り、
回復魔法の出番はそうそうにない。
「さっきのシッピング・ヒールは?」
「ヒールとは別系統の魔法ですね。
ヒールの甲斐は《ナイン・ヒール》で、
軽いやけどや切り傷を治すことができるのです」
「なら、ヒールを使えばええんか?」
「そう単純ならいいのですけどね」
まあ、需要がなければ自然と消滅する、
今でも使われているってことは、
何かしらの理由はあるのだろう。
「前にも言ったように、回復と毒は表裏一体なのです」
「……この時点で嫌な予感がするんやが」
「……はい。
過剰に回復させると逆に毒なのですよ。
体が暴走して最悪の場合、壊死するのですよ。
尤も魔獣相手に使おうと思っても、
暴走を引き起こすことができず、
ただ回復させたパターンも多いので、
普通の回復士はその手は使いません。
一人ならそういう手段もあるでしょうけど、
仲間がいるなら、仲間に任せた方がいいです」
過剰回復が出るとは思ってもみなかった。
しかし、強力ならどの戦いでも、
リアーは回復魔法を相手に使っていたから、
リアーの基準でも魔獣相手に回復魔法を使うのは難しいのだろう。
「それはそうだ」
「……サイレンは知らんかったんか?」
魔法が好きだと公言しているのなら、
知っていても不思議じゃない。
仲間思いのサイレンなら尚更覚えていたって、
不思議じゃない。
むしろ、今まで使えないと言う方が驚きだ。
「……知っている」
「そ、そうなんか」
「サイレン様の実力と環境なら回復魔法は使える筈なのですが」
「複合職あるんやろ?」
「……いや、私は魔術師だ。
その一本でいく」
「大魔導師とかあるやん」
「サイレン殿は近接戦闘強いしな」
「……確かに近接は鍛えたが、魔術戦士ではない。
……私が一人だけ何でもかんでもできたら、
パーティーを組む面白さがない。
……私は他の人の役割を奪うつもりはない」
「そ、そうなんか」
「……それに私は魔術師というのが好きなのだ。
その一本でやっていきたいんだ」
サイレンはそう力説する。
まるで、本気で嫌がっているようだ。
今までにない表情だから何だか珍しい気がする。
「本当に嫌がってますね」
「そうだな」
「……でも、サイレンの気持ちもわかるわ。
俺かて冒険者は楽しいし、やめるつもりはあらへん。
せやけど、小説を書く夢を諦めろと言うんやったら、
それはそれでちゃうやん?」
それに関しては例え両親だろうと、
説得されないという自信はある。
「……そうだ。
……練人が冒険者であり作家であるのと同じように、
私は冒険者であり、魔術師なんだ」
「……二人とも拘りが強いんだよな」
「でも、ちょっと羨ましいです。
二人とも、それぞれ誇りを持って生きているのですから」
「そうだな。
……しかし、練人殿、足は大丈夫か?」
そう言ってベンガスはツンッと、
俺の太ももを突いた。
「っぎ!
いや、まだ、ちょっと痛いんや!」
「……ほぅ」
ベンガスは面白いおもちゃを見つけたように、
さらにツンツンと俺の太ももを突く。
「や、やめんか!
ほんまに痛いんやって!」
「ベンガス様、やめてあげてください」
「……そうだ。
練人、痛がっているだろ?」
「サイレン、リアー!」
「ええ、痛がってます。
だから、この部分です」
そう言って、リアーは俺の脇腹を突いた。
「わっ!
り、リアーさん!」
「ここなら患部ではないので大丈夫ですよ」
そう言って、リアーは俺の脇腹をツンツンと突いた。
「や、やめ!
リアーさん!
そこは、こしょばいねん!」
てか、リアーって意外にも、
揶揄いとかそう言うのが好きなタイプだったのか。
「そら!」
ベンガスが俺を羽交い締めした。
「ベンガス!」
「これで動けまい」
「ナイスです、ベンガス様!」
そして、ツンツンと連続で俺の脇腹を突いた。
「ちょ!
くは、ははは!
り、リアーさん!
ほ、ほんまにやめて、くははは!
やめてくれ!」
「……リアー、反対は私に任せてくれ」
「サイレンさん!?」
「……こういうことは冒険者ではよくあったからな。
……私もしたくなった」
「反対よろしくお願いしますね」
「ちょ!
一人相手に袋叩きやーー
ぎゃははははは!」
俺の言い分を聞いてくれる筈はなく、
唐突に始まったくすぐり大会。
標的は俺だけで、
逃げられる筈もなく、俺の笑い声が響いた。




