第85話 加速する力
「う、ううぅ……」
リアーが一人で歩いていく。
俺達はガーゴイルに気付かれないように、
物陰に隠れて警戒しながら歩いている。
俺とサイレンがサイレントを使って、
足音などの物音を立てないようにしている。
今のリアーは、
さならがホラー番組に肝試しに行っているアイドルのように。
「……これ、ガーゴイルを使った肝試しとか、
やる一般人おるよな?」
「……だから問題なんだ。
前にも言ったが、
初期の段階では暗闇に乗じて、
相手を脅かしたり、背中を軽く押す程度」
「……肝試しをするんやったらピッタリな魔獣だな」
「……だが、段々とエスカレートしてしまう。
強く押したり、物を盗んだり、
最終的に人に襲い掛かり殺してしまう」
「……肉体を乗っ取るために?」
「……ああ。
……ギルドとしても扱いにくい。
……一般人は肝試しでスリリングを味わっておきたい。
だが、放置すれば確実に被害が出る。
だから、ギルドは大事になる前に処理しておきたいんだ」
「なるほどのぅ」
確かに、お化け屋敷に使えそうな魔獣だが、
確定で呪いの人形になるのなら、
確かに早めに何とかしたいと思うのは、
無理のない発想だ。
「……オカルトってあるんか?」
「……学校ではよく噂でやっていたな。
学校で肝試しをやった生徒はもれなく、
先生に怒られたがな」
「あ、そうなんか。
……まあ、触らん神に祟りなしや。
そういう現象とあまり関わらんようにせんとな」
「練人殿は怖いのか?」
「洒落にならんのや」
この世界にホラー番組はないが、
元の世界では父がよく観ていた。
俺は別に宇宙人の存在もオカルトの存在も否定する気はない。
地球という人間が住む星があるのだ。
体質が違う星に住んでいる宇宙人がいても、
ちっともおかしくない。
何せ、酸素は猛毒なのだ。
その酸素に適応している人間がいるくらいからな。
この世界にも酸素があって助かった。
宇宙人も、オカルトも、
何も関係のない、関わりようのない人間が、
同じような現象、証言をしている。
確かに中には嘘も混じっているだろう。
だが、全てが全て嘘と切り捨てるには、
人数が多過ぎる。
だから、信じている。
あくまで信じているだけで、
積極的に関わる気はないけどな。
「ガアアア!」
「きゃああ!」
「……!
話はおしまいだ!」
サイレンは急いで飛び出して、
俺達もついて行った。
そして、俺達は目標のガーゴイルを目撃した。
「……かっこわる!」
そのガーゴイルは目が飛び出して、
羽根はボロボロのように作られている。
加えて表情が必死すぎる。
必死で驚かしてますってのが見え見え。
(あの像、掘った人間、どんな気持ちで作ったんや!?
ウケか?
ウケ狙いで作ったんか!?)
俺は頭の中で制作者にツッコミを入れた。
俺も創作している身だから、非難はできないけどな。
「せい!」
俺はガーゴイルに向けて蹴りを放ったが、
ガーゴイルはすっと消えた。
「消えた!?
くっ!」
俺は蹴りを中断して着地した。
だから、リアーには当たらなかった。
「サイレン殿!
あのガーゴイル!」
「ああ……
……練人!
右だ!」
「っ!
ぐっ!」
右側からガーゴイルの体当たりを受けた。
サイレンが咄嗟に言ってくれたから、
ジャンプして腕を使ってガードすることができた。
体当たりの威力は逃げられ、
後ろに吹っ飛ばされる程度に収まった。
「練人殿!
うおおお!」
だが、ベンガスが攻撃する頃には、
すでにガーゴイルはいなかった。
「くっ!」
ガーゴイルは逃げるだけ。
だが、逃げも徹すれば攻撃しづらい。
一人なら逃げ切られる。
複数人でも攻撃に気をつけていなければ、
攻撃が味方に当たり、
最悪な展開になりやすい。
厄介な敵だ。
「……《シャイニング・ライフル》!」
唯一、正確に味方を巻き込まずに、
命中できた人間はサイレンだけ。
だが、像を相手に痛みは存在せず、
岩石だから一部分が砕ける結果になっただけ。
ライフルとしては相当強いだろうけどな。
「風の恵みよ、我が友を救いたまえ!
《ウィンド・スピード・アップ》!」
リアーがスピード・アップの魔法をかけてくれた。
「《ダブル・マジック・ウェポン》!」
剣に二重に魔力を付与する。
だが、それでもガーゴイルの方が速い。
俺とベンガスでは当てることが難しく、
空を切る結果にしかならない。
「グア!」
今度はまともに体当たりを喰らって、
サイレンの元まで吹き飛ばされる。
「れ、練人殿!
大丈夫か!」
「お、俺は平気や!」
「……奴を倒すためには、
《シャイニング・バーニング》を当てるしかない。
だが、攻撃用のシャイニング・バーニングでは、
ガーゴイルは避けてしまう。
補助用のシャイニング・バーニングも、
ガーゴイルは元々像だから意味がない。
……他の攻撃魔法では威力不足。
……リングを使って動きを止めるしかない」
サイレンで倒したいのなら、
ガーゴイルの動きを封じるしかない。
そのためには逃げ回るガーゴイルを何とかしないといけない。
なら、俺のやることは決まっている。
「なら、逃げられないと思わせてやる!」
「……何?」
「《ダブル・スピード・アップ》!」
握り拳を額の前で交差し、一気に開く。
体内の魔力が流れ、今度は体が速くなる感じがする。
「はっ!」
「速!?」
ダブル・スピード・アップは、
筋力などパワーが上がらない代わりに、
脚力やジャンプ力が上がり、
今までは数秒かけないと行けなかった場所が、
二秒で行けるほどだ。
「ぎっ!」
逃げていたガーゴイルの背中に、
気付かれずに行くこともできる。
「グルアアア!」
再び翻弄するために逃げるガーゴイル。
そのガーゴイルの背中に移動。
「すごい……
ガーゴイルのスピードを完全に凌駕している」
「ゴガアア!」
遂に逃げ切れないと悟ったガーゴイルは襲いかかるが、
俺に追い抜けないガーゴイルが、
俺に攻撃を当てることはできない。
「はあっ!」
ダブル・マジック・ウェポンで強化した剣で、
何度も切りまくる。
像のガーゴイル相手に血や肉などはない。
だが、ダブル・マジック・ウェポンで強化した剣で、
ガーゴイルの肉体を砕く。
足の部分は特に砕く。
「たああ!」
最後に足を叩き切る。
ガーゴイルの足は切断されて、
片足状態になる。
「ぐ、グアア!」
これで素早い動きはできない。
「サイレン!」
「これにする……
練人!
みんな!
私のところに戻ってこい!
……《シャイニング・バーニング》!」
今度のシャイニング・バーニングは、
基本でもなく、振り回すでもなく、接近専用でもない。
かといって閃光特化でも、爆音特化でも、両方でもない。
見たことがないシャイニング・バーニングだ。
シャイニング・バーニングを大きい光球になるまで溜め込み、
上空へ飛ばした。
「……!
わかった!」
俺は急いでその場を離れた。
その時、サイレンは俺と目が合った。
つまり、サイレンは俺の動きに、
ついて行けていた。
サイレンが上空に放った遅くゆっくりと落ちていく。
「お、遅い!」
「あれでは!」
ガーゴイルも鼻で笑い、素早い動きができないが、
楽々と落下地点を避けた。
ケン、ケンと片足でジャンプしながら、
必死に逃げるのだから、どう見てもシュール。
「ああ!」
「……いや、あれはーー!」
「……問題ない。
……そのシャイニング・バーニングを避けてもいい。
何故なら、そのシャイニング・バーニングは……
割れることが前提なのだから」
サイレンの言う通り、
シャイニング・バーニングは地面に落下した時に、
まるで、水晶玉のように砕け散った。
そう。
あのシャイニング・バーニングを避けるのは難しくない。
問題は割れた破片だ。
「グガアアアア!」
割れた破片にもシャイニング・バーニングの威力はあり、
まるで爆弾のように周囲を巻き込んだ。
余裕を見せて落下地点から離れなかったガーゴイルは、
その無数の破片が当たり、
ガーゴイルの像は完全に砕け散った。
「よ、避けられる前提のシャイニング・バーニング」
「こんな隠し玉があったのか」
「……だが、練人が足を切ってくれたおかげで使うことができた。
……助かった、ありがとう」
「そ、そりゃどうも」
サイレンに褒められると、何だか照れ臭い。
「でも、練人様もすごいですよ」
「確かに!
めちゃくちゃ速いな!」
「リアーの《ウィンド・スピード・アップ》の影響もあるわ」
「いえいえ、それでもガーゴイルには追いつけませんでした。
凄いですよね、《ダブル・スピード・アップ》!」
「……その分、筋肉痛も凄いことになるだろうな」
「あっ、やっぱり?
てか、サイレン、俺がどこにいたのかわかったやろ?」
「ああ……
今の練人はボールのようなものだからな……
音も誤魔化せていない」
「いや、流石に音までは難しいわ」
音速でもなければ神速でもない。
あくまで俺の動きを速くさせる程度だ。
「……私、普通に無理でした」
「俺も……
もし、練人殿が俺との模擬戦の時に使われたら、
何もできずに負けるぞ、俺」
「私もです」
「……それにしても、あれがガーゴイルか」
そう言ってサイレンは砕け散ったガーゴイルの欠片に近づく。
「……やはり、魔力が蓄積されているな」
「そうなんか?」
「……ああ。
……魔力の含んだ鉱石を『魔鉱石』と呼ぶ。
それよりも良質なのが『魔結晶』だ。
私の杖にも使われている」
「へ〜……
その欠片一つええ?」
「ああ……」
俺は欠片一つを地面に置く。
「《ファイア》」
すると、ガーゴイルの欠片が激しく燃焼した。
「わっ!
火の勢いすご!」
「……原初魔法のファイアでこの火力になる。
……着火剤としては十分だろ」
そう言ってサイレンは水の原初魔法を使って鎮火させる。
「……さて、欠片を回収したら帰ろうか」
「そうですね」
「にしても、リアー殿、すごい驚きだったぞ!
可愛らしいじゃないか!」
「い、言わないでくださいよ……
恥ずかしい」
「いや、あの像の表情が必死過ぎるねん。
暗闇の中にいきなり現れたら、そりゃ驚くわ」
初めて見た時はその表情に驚き、
ツッコミを入れたものだ。
暗い場所でいきなりだからこそ、怖いものがあるが、
明るい場所ではそうでもない。
むしろ、シュール過ぎて笑いが起きるだろうな。




