第81話 ギルドからの要請
「お待たせしました、練人様」
俺の冒険者カードのアップデートが終わり、
戻ってきた。
「おう、ありがとうのぅ」
「それでは今日の依頼を受けようぞ、練人殿」
「……そのことについてですが、お願いがあるのですよ」
そう言って俺達を見る受付嬢。
「ん?
お話ししたいこと?」
「ま、まさか、俺とデートを申し込みたいのか?」
大真面目で目の前にいる受付嬢に言うベンガス。
「違います」
当然ながら即答で違うと返す受付嬢。
「そ、そんな‘」
「当たり前やろうがい。
むしろ、話の脈略として変やろ」
「……頼みたいことは?」
「……いえ、サイレンさんのパーティーに、
依頼の要請したいのです」
「依頼の要請?」
「はい。
【ミノタウロス】の討伐依頼をお願いしたいのです」
「み、ミノタウロス?
ミノタウロスって二足歩行の牛型の魔獣やろ?」
「はい。
そのミノタウロスです」
ミノタウロスは俺の世界でも有名な魔獣だ。
雄牛のパワーと二足歩行ならではの動き。
「……強敵よな?
サイレン」
「……倒せないことはないが、
強敵なのは変わらないな」
「マジか……
そのミノタウロスを倒さんといかんのか?」
「……はい。
とある村の防衛網が、
ミノタウロスによって壊されてしまい、
このままだと村に侵入されてしまうようです」
「他のギルド職員はどないしたん?
強いんやろ?」
「確かにそうですけど……
防衛網の復旧とその間の魔獣の侵入を防ぐ、
それ以外にもやることが多くて、
正直、人数不足なのですよ」
「ギルドでも人数不足になることあるんやな」
「はい……
魔獣の被害、住民の要請に対する調査、
町などの防衛、魔獣の回収などなど……
ギルド職員の仕事も多いのですよ」
確かにギルドの仕事は多そうだ。
「ギルド要請依頼を受けてくれましたら、
報酬に色をつけますので、
お願いできませんでしょうか?」
「……ミノタウロスって、
危険な魔獣なんやろ?」
「はい」
「……ラミアと同じ魔獣人族だからな……
加えてミノタウロスは気性が荒く、
会話すらできないからな」
「魔獣人族……
他にも種類いそうやな」
「……ああ。
メリボーのように人間に友好的な種もいれば、
人間とは和解できない種族もいる」
「ミノタウロスってランク的には?」
「Eランクの魔獣ですね」
「……ラミアと同じか」
ラミアだけでも単騎では危うく殺されかけた。
ランクとしては強い部類と言ってもいい。
「大丈夫でしょうか、練人様?」
「サイレンの意見は?」
「……私は受けるつもりだ。
だが、その前に報酬金について聞こう」
「……ミノタウロス一体で三千デラル、
成功報酬で五千デラル……
合計八千デラルになります」
「……一人に二千デラルになるんやな」
サイレンと二人きりの時よりも貰えるデラルであった。
それだけあって、危険な魔獣だろうな。
「……先ほども言ったが、
私は受ける気だ。
ミノタウロスは倒せるからな」
サイレンは真剣な顔でそう言った。
「サイレン様」
「……ミノタウロスが村に乗り込んでしまったら、
被害は想像できない」
「わかった。
サイレンがその気やったら俺もやるわ」
「練人……」
「ラミアと同じなんやろ?
俺のやり方も通用する筈や」
「練人殿が出るのなら俺も行こう」
「ベンガス……」
「俺は練人殿に救われた。
命を懸けて救ってくれたから、
今度は俺の番だ」
命を守って欲しくて助けたわけじゃない。
あの時は意地のようなもので見捨てたくなかった。
だが、俺達を守るとベンガスは言った。
それもまたベンガスの意思だ。
「……わかったわ。
よろしゅうな」
「私も生きます。
私もグラットン・イーグルから皆様によって救われました。
私も精一杯頑張りたいのです」
「……と言うことだ。
……全員の腹は決まったようだ」
「わかりました。
ありがとうございます。
こちらの書類にサインしてもらえませんでしょうか?」
「ああ……」
サイレンは慣れたように書類にサインを書いた。
そして、判子も押した。
「少々お待ちください。
今、馬車の手配をします」
受付嬢は一礼して、奥の部屋に入って行った。
「よっ!
練人、聞いたぜ」
「ルフ」
「ミノタウロスを討伐しに行くんだろ?」
「せやで」
「……ミノタウロスは恐ろしい魔獣人族だ。
油断すると殺される」
「わかっとるわ」
牛だけでも恐ろしい相手。
闘牛でも牛と挑む時、人間が殺されることも多い。
それが二足歩行で、パワーもある。
回避に失敗すれば命はないだろう。
このオルド・ドラゴンの鎧でも、
耐えれるかどうかわからない。
「……心配するな。
……いざとなれば」
「俺が守るさ。
俺は守護者。
こう言う時くらい俺を頼ってくれ」
サイレンが言い切る前にベンガスが言った。
「私もお役に立てますよ。
この前のコボルト殲滅でギルド職員から、
【サーチ】のコツなどを聞きました。
魔獣の漏れがないように、私が調べます。
怪我した時も私が治します」
タンク役、アタッカー、回復役といった、
王道パーティーだからこそ、心強く思えた。
このパーティーにおいて俺の役目は何になるだろうか。
「……私の周りも心強い仲間が増えたな」
サイレンも不敵に笑う。
「……ただ、私が普通の魔術師だと思うなよ」
確かにサイレンは特訓の時でも、
全力を出さずに俺を一蹴した。
今までもサイレンは全力を出していないように思える。
「言うな、サイレン殿」
「ああ……
長年、冒険者になるために鍛え続けてきた。
……柔な特訓はしていないさ」
長年とサイレンは自信満々に語った。
確かに小説でもチートで問題を簡単に解決することが多いが、
冷静に考えれば、その世界に生きる人達は、
生き残るために戦い続け、強くなってきた。
年数が違う。
よほど怠けていたとかではない限り、
その差は簡単に埋まらない。
サイレンは真面目だからこそ、
その鍛え方もきちんとしたものと言うことがわかる。
「馬車の準備終えました。
こちらでございます」
「ああ!」
受付嬢の案内の元、馬車に案内される。
「この馬車やな」
「目的地まで一時間くらいかかります。
皆様、ご武運を」
「ああ……
みんな、乗ろう」
そう言って、サイレンは隣にリアー、
俺の隣にベンガスが座った。
乗り心地は硬い座席のバスのようなものだ。
そして、出発する。
「……」
サイレンは外の景色を眺める。
「そういえば俺と出会う前はサイレンは故郷から、
四日間馬車やったよな」
「そうなのですか?」
「……ああ」
「馬車の中は見飽きたりするん?」
「……そんなことはない。
馬車から見る景色も悪くない」
確かに俺もバスや父さんの車、バイクで移動する。
乗り物に乗って外の景色を眺めるのは悪くない。
ただ、父さんはヘビースモーカーで、
俺自身も車に酔いやすい体質だ。
だから、小さい頃はよく酔って吐いていたものだ。
今でも軽く外の景色を見てから寝るようになった。
「……四日間はどないしてん?
今は俺らがおるんやから、会話に困らんやろうけど、
俺らがおらん時の暇潰しは少ないやろ?」
「……確かに少ないな。
その時は杖磨きをしたりしていた。
後は魔法の復習などもな」
「真面目だな、サイレン殿」
「……今でも杖磨きは欠かさんもんな」
一緒の部屋にいて暇な時は、
サイレンはよく杖やローブなどの手入れをしていた。
後は寝る前に美容液などを使ったりする。
「……ああ。
サイレン・ロッドを手に入れた時は本当に嬉しかった。
魔術師にとって杖は大事な……
体の一部のようなものだ。
杖を自身の誇りとして大切に扱う魔術師も多い。
杖を大切にすれば、杖も、魔法も力を貸してくれる」
そう言ってサイレンは杖磨きをし始める。
「わ、私も杖を磨いたりしますよ」
リアーは慌てて伝える。
「……サイレン様ほどの頻度ではありませんが」
ただ、そのまま言い切ることができなかったリアーは、
目を横に逸らしながら小さい声で呟く。
「……気にするな、リアー。
あくまで私の拘りなだけだ。
リアーのやり方も問題ない」
サイレンはそっとリアーのフォローを言う。
馬車から見える風景は元の世界では味わえないもの。
「それにしても馬車の風景も悪くあらへんな」
「そうだな、練人殿」




