第76話 塩漬け依頼
レッサー・ドラゴンを倒して、
俺達は馬車でギルドに戻ろうとした時だった。
「……ん?」
サイレンが何かに気付いたのか、
外を急いで眺めていた。
「ん?
どないしたんや、サイレン?」
俺も一緒になって外を眺める。
そこにいたのは、
馬車に乗った軍隊のような人達だった。
「何や、あれ」
「何だ?」
ベンガスも一緒になって外を見てきた。
「……あれは」
「知っとるんか?
わっ」
すると、サイレンがぐいっと俺を引っ張った。
そして、体を密着させてきた。
サイレンの体で密着すると言うことは……
「……!?」
「……私達の小説の十七話……
練人が初めてゴブリン依頼を受ける時に、
私が言ったこと覚えているか?」
「サイレン、メタい」
「……めたい?」
「メタ発言のことや。
作者や見ている人にしか知り得ない知識についての、
発言をすることを言うんや」
「……そうなのか。
まあいい……
覚えているかどうか」
「そりゃ、覚えとるわ。
緊急性の低い依頼は残り続けるんやけど、
緊急性が高いものは少し違うんやったな。
サイレン、自分の口から話すのは、
もったいないと言っといたからな。
気になってはいたんや」
「……教える時が来たようだ」
「そうなんか?」
「ああ……」
何かリアーとベンガスはチラチラと俺達を見ている。
まあ、俺達の小説は秘密扱いだから、
サイレンがコソコソ話をするのは不自然じゃない。
あまりにも聴かれないように意識をし過ぎて、
体を密着させているから、
柔らかいあれが、ぎゅっと押し付けているのに、
サイレンは気付いていない、
あるいは無頓着のようだ。
「……みんな、せっかくだ。
あれを追いかけていかないか?」
「ふむ。
確かに、あれは珍しいからな」
「……もし、彼らが怪我をしたら、
回復魔法の出番ですしね」
「……そう言うことだ。
馭者、私達も行くことにした。
あれを追いかけてくれ」
「了解した」
そう言って、馬車は進行方向を変えて、
たくさん移動している方へ向かっていった。
「なあ、回復魔法の出番があるってことは、
危険なことをするんか?」
今度は俺の方からサイレンにコソコソ話をする。
「……内容によってはだな。
だが、心配することはない。
きっと、練人は興奮して見て良かったと思うぞ」
「そこまでのことかいな?」
「ああ……
私も故郷のギルドで見たことがあるが、
ゆーー
先輩冒険者に教えてもらって、
見ておきたいと思っていたところだ」
「へ〜。
せやけど、ついて行って平気なんか?
迷惑とかあらへんか?」
「……大丈夫だ。
受付も臨時でやっており、
おこぼれを貰いに来る冒険者もいるからな」
「……おこぼれ?」
そして、馬車が追いかけてしばらくした後。
一つの村に辿り着いた。
「……降りよう」
「おう!」
「はい」
サイレン達は馬車から降りる。
すると、まるで会場の受付のように、
受付嬢が受け付けていた。
「あら、アナタ達は」
「……すまない。
これに参加したいが構わないか?」
「構いませんよ。
参加する冒険者はあちらで待機してください」
受付嬢が示した場所には複数の冒険者達がいた。
「……ちなみにターゲットは?」
「コボルトになります」
「コボルト?
犬型の魔獣やろ?」
「はい。
この村近くの森に、
住み着いているコボルトの数が急増しておりまして、
放置すれば家畜などに被害が出てしまうのです」
「……だが、誰も受けずに放置されたのだろ?」
「はい。
ですが、これ以上塩漬けになりますと被害が拡大する一方。
時間切れということもあり、
我々で対処することになりました」
「え?」
「……ありがとう。
リアー、ベンガス。
世間知らずの練人に説明をしておく。
向こうで待っていてくれ」
「了解した」
「わかりました」
サイレンが指示した後でリアー達は向こうに行った。
「……塩漬けになった依頼はギルドが対処するんかいな」
「……そうだ。
魔獣に関わる塩漬け依頼の期限は短い。
コボルトの依頼も期限は短い。
何故だかわかるか?」
「……コボルトって要するに野犬の人型よな?
俺の世界の野犬問題を考えれば想像できるわ」
「……言ってみろ」
「犬は狼を家畜したもんや。
牙はあるし、スピードもある。
ハンターになるべくして生まれた生き物や。
闘犬や猟犬を考えれば危険なのは当然や。
それを放置するってことは、
家畜だけやあらへん。
子供や老人が危ないことになるわ」
「……よくわかっているじゃないか」
「それに野犬の中には狂犬病やエキノコックスなどの、
人体や家畜に悪影響を及ぼす病原菌も豊富や。
駆除するんもそれなりの理由があるんや」
そして、自分で説明する内に、
ギルドが動く理由にも気付いた。
「……要するに被害がデカくなりそうな、
魔獣の依頼が放置されたら、ギルドが動くってことかいな」
「……そういうことだ。
コボルトだけじゃない。
ゴブリンもそうだし、盗賊団もそうだ。
被害が拡大すればギルドは必ず動く。
下手に放置すれば村だけではなく、
他の場所の被害も拡大するからな」
「……ギルドが動くタイミングってわかるんかいな?」
「……わかる。
わかりやすいのは魔獣討伐の依頼が放置されて、
塩漬けになった場合だ。
だが、それだけじゃない。
塩漬けになっただけだと、
モノ探しの依頼もギルドが動くことになるからな」
「それもそうか」
「……もう一つは依頼場所に滞在しているギルド職員からの報告だ」
そして、サイレンは遠くの物見櫓を見た。
「あそこで監視などして調べるんか」
「……そうだ。
あるいは調査団が、
放置すれば危険かどうかを調べる。
そして、危険だと判断すれば、
すぐにギルドに報告。
危険だと判断された場所から近い大きなギルドから派遣されて、
討伐部隊を編成。
そして、被害が出る前に駆除などをするんだ」
「……その場合、資金はどうなるん?」
「……この場合は塩漬けになった依頼を受けるのではなく、
討伐部隊の依頼を受ける形になる。
魔獣などの討伐報酬は貰えるが、
依頼達成の報酬金は微々たるものだ。
そして、塩漬けになった依頼の報酬などは、
ギルドの資金に回される」
「……まあ、塩漬けにしたのに、
俺らが貰えるってのは都合がええよな。
せやけど、成功報酬が微々たるもんやのに、
受ける冒険者は多いな。
成功報酬が少ないんやったら、普通は受けたがらんやろ?」
「……そこから先の説明は、
私が言った、教えたらもったいないという話に、
触れることになる。
……今、教えなくてもすぐに練人もわかるさ」
「そういうものかいな?」
「……そういうものだ。
練人ならきっと……
いや、そこから先も言わないでおこう」
サイレンは不敵に笑う。
「サイレンも見たことあるんか?」
「……ギルド職員が気合を入れて行く場面なら、
見たことがある。
昔、あれは何だと聞いたら、
ある程度教えてもらったが、
今、練人が受けているような簡単な説明だけだ。
……私も冒険者になればわかると教えられた。
だから、私も実は楽しみなんだ」
「へ〜」
確かに、どのギルド職員も強そうで、
意気込みも感じる。
「……つまり、ギルド職員はどの村にもいるってことか」
そういえば、笑い花の依頼の時も、
滞在していたギルド職員がいた。
滞在していた理由はサイレンが言った通りだろう。
「……そういうことになる」
「ネズミ型魔獣も同じよな?」
「……同じだ」
よくアニメや漫画でもゴブリンなどの依頼が放置されて、
その結果、村が滅んだり、強大な組織になって、
王国などが滅ぶ理由になったりするが、
この世界の場合はそういう事態になる可能性は少ないだろう。
ここまできちんとしていれば、
危険区域の管理方法も教えられる筈だ。
「……新人ギルド職員に任せることあるんか?」
「……相当優秀ではない限り、ありえない。
……村や町にとっては命綱のような存在だし、
ギルドにとっても重要任務だからな。
様々な条件をクリアして、任されることになる」
「なるほどのぅ。
考えれば、それはそうやな」
「……ギルド職員が移動し始めた。
……私達も行こう」
「せやな。
さて、もう一仕事するか!」
俺達はベンガス達と合流して、
集団移動について行った。




