第73話 作務衣と巫女服
「……は、はは……」
俺は、苦笑するしかなかった。
一種の冗談だと思っていて、
本気だとは思っていなかったからだ。
「む?
どうしたのか?
練人殿?」
「メリ?」
「いや、ほんま俺らノリがええなと思っただけやわ。
似合っとるで、ベンガス」
「そうか?
ありがとうな、練人殿!
練人殿も結構似合っているぞ」
「メリリ!」
「さよか」
そう言いつつ、俺は懐かしい気分に浸っていた。
本当にこういった服を着るのは久しぶりだからだ。
加えて、
ファンタジー作品は大体は中世のヨーロッパの世界観が多い。
故に、こう言った着物は本来少ない筈だ。
俺のような転移や転生した存在が、
こうした方がいいのではとかで、
伝えることで生まれる作品が多い。
だからこそ、俺が何も言わなくて、伝えなくても、
すでにあるのは、驚きであり、
手間をかけずに済んだと思えて良いのだ。
「お、お待たせしました」
「……何を緊張している?
似合っているぞ、リアー」
そして、サイレンとリアーが部屋に入って来た。
そう、俺とベンガスの部屋でお披露目会になったのだ。
リアーは恥ずかしそうにしながらも、
どこかきちんとしていた。
回復士だからこそ、
彼女は巫女服を真面目に着ており、
神社などで働いているように見える。
とは言ってもリアーはどちらかというと、
教会で働いているシスターや、
医療従事者であるナースなどの方が似合うかも知れない。
次にサイレンだ。
サイレンは彼女らしい青い袴を履いていた。
白と青という彼女らしい色合いの巫女服で、
色自体は今まで通りなのだ。
でも、巫女服は似合っており、
胸部の膨らみもよくわかる。
「……どうだ?
私としてはこういう服はよく着ているから、
苦戦はせずにきちんと着こなしていると思うが……」
「あ、ああ、に、似合っとるんとちゃうん?」
俺はサイレンの顔を見ずに、
でも、似合っていることを伝えた。
「……そうか、ありがとう。
……練人も似合っているぞ」
「さ、さよか」
「……ん?」
……だが、何故顔を逸らしている?
心なしか顔も赤い……
……まさか、練人」
「な、何や?」
「……また、無理をして熱などで体調が悪いのに、
無理に動いているわけではないだろうな?」
「そんなんとちゃうわ!
いや、確かに初めて冒険者になった時は、
サイレンの言う通り、熱出たまま行動したんやけどな!」
「したのですか?」
サイレンの予想斜め上の発言に対して、
俺は思わずツッコミを入れた。
リアーもエアリーを抱きしめて俺を見て聞いた。
「……違うのか?
なら、何故?」
「そ、そう言うことは深堀せんのが普通や」
「……?
……深堀しないのは普通なのか?」
「そうかも知れませんね。
でも、サイレン様の自由でいいと思いますよ」
「リアーさん!?」
サイレンは何故だというような顔で、
本気でわかっていないように思える。
対してベンガスとリアーはニヤニヤと、
俺を見ていた。
リアーに関しては若干煽っているような気もする。
ついでにニヤニヤしながら俺を見つめる。
「何や?」
「いえ。
できれば私はどうなのか、
感想欲しいな〜と思いまして」
「ん?
似合っとるで、リアー」
「ありがとうございます」
「……?
リアーと私の態度が違うような?」
「気にすんな、ほんま」
くすくすとリアーは笑っている。
リアーも意外と楽しんでいるな。
「ガハハ!
確かにこう言うのも面白いな!」
「ええ」
「……面白い?」
「でしょうね、お二人さん」
さっきから笑いながら俺達を見ている。
サイレンは本当に理解していないが。
「……だが、流石にこの服で戦いにはいけないな」
「そりゃな」
あくまで今着ている服は、
町で過ごすような服だ。
戦闘によるダメージを抑えられないだろう。
できるのは熟練者で常に攻撃を回避し続けられる強者だ。
(……チラッと外国の映画を思い出したな……
宇宙戦争の……)
あれは鎧などの装備は滅多に着ておらず、
光る剣での戦闘が多い。
全部観ていないからよくわからないが、
俺の戦闘も参考にしている。
「……どうした?
練人」
「ん?
いや、何でもあらへん。
この服でも戦えたら面白そうなのになと、
そう思っただけや」
「……そうか」
ただ、この服で戦ってみたい気持ちになるのはわかる。
着物を着て刀を振るえば、
それは侍のように見えるだろう。
まあ、完全に侍にしようと思えば、
ちょんまげにする羽目になる。
コスプレもOKになったパーティーで、
それを言えば間違いなくちょんまげになるだろう。
ちょんまげは回避しておきたい。
「……そういえば、
俺らリアーさんに関して知らへん。
ここいらで自己紹介してくれへん?」
「私のですか?」
「いや、練人殿。
こういう紹介はまずは自分からですぞ」
「……一理あるな」
「俺の名は【ベンガス・アレクサンダー】!
守護者!
得意武器はハルバード!
大好物はハンバーガーと炭酸飲料!
嫌いなものはブラック・コーヒー!
何とぞ!
よろしくお願いします!」
「俺の名は練人や。
将来の夢は小説作家!
戦士系や。
武器は剣!
大好物はおにぎりなどの米料理!
大嫌いなのはマヨネーズと生トマト!」
「おにぎりが好きなのは正直らしいなと思います。
けど、マヨネーズ嫌いなのですか?
美味しいのに珍しいですね」
「めっちゃ嫌いやねん、マヨネーズ。
いくら美味しいと言われてもつけへんから、
そこはよろしゅうな」
「わかりました」
「んで、メリボーのエアリーや。
メスやからな。
可愛がってくれよ」
「メリ!」
「エアリーちゃんってメスだったんだ。
毛繕い、してあげるからね」
「メリ!」
「……私の名はサイレン・マジャン。
魔術師で、
幼い頃から魔法を鍛え続けてきた。
パーティーのリーダーを務める。
好きなものは魚料理。
嫌いなものはマヨネーズとカメムシなどの臭いものだ。
……これからよろしく」
「……色々聞きたいのですが」
「……順番で言っていいぞ」
「では、お言葉に甘えて……
まずは、サイレン様もマヨネーズ嫌いなのですね」
「ああ……
私もマヨネーズの味は好きではない」
「カメムシも嫌いなのでですカ?
「……臭いがダメだな…
隠さずに言えば、カメムシを見つけたら、
臭いを撒き散らす前に逃げるぞ」
「に、逃げるのですか?」
「逃げるで、最初見た時は俺も驚いたけどな」
「……でも、わかります。
臭いもの、カメムシ」
「練人殿は平気だったけどな」
「そうなのですか?」
「まあ、虫系統は慣れとるわ」
「……私だって慣れている。
ただ、私は臭いモノが嫌いなだけだ」
「わかります。
魔法は幼い頃から得意だったのですか?」
「ああ……
得意だった。
いずれ、話す機会もあるだろう」
「ほんなら、次はリアーの番やで」
「わ、私ですか……
私は【リアー・ドドタル】。
回復士をやっています。
戦闘は正直、得意ではなくて、
皆様の役に立ちにくいと思います。
ですが、回復なら負けません。
好きなものは野菜で、野菜スープやサラダが好物です。
苦手なものは虫ですね……
特にゴキブリは苦手です」
「……ゴキブリか。
先輩女性冒険者達も苦手だったな」
「実はネズミも苦手なのですよ」
「まあ、ネズミって病原菌いっぱいやもんな」
「……知っているのか?
練人」
「そうなのか?
練人殿、サイレン殿」
「せやで。
ネズミについているノミが原因で人がたくさん死ぬこともある。
せやからきちんと駆除せなあかんねん」
昔は病原菌の研究が進んでいない時に、
ベストが流行って多くの人が死んだ。
その原因がネズミだった。
「ふむ。
我々冒険者は派手な依頼を受けたがるが、
そう考えるとネズミ駆除のような依頼も、
きちんと受けんとな。
そして、ネズミ討伐数で報酬が良くなるのも、
理解ができるかも知れないな。
そういう意味では初心者が受けやすいのもある」
「たくさん駆除すれば、
その分だけ病気が広がるの防げるしな」
「そして、塩漬けになった場合は」
「……待った、ベンガス。
それ以降は言わない方がいい。
練人は初見になるだろうからな」
「ん?」
「私の紹介はこれで終わりです。
どうか、よろしくお願いしますね。
今更言っている感もありますが」
そう言ってリアーは笑った。




