第72話 着たい物
「依頼達成を確認しました。
こちらが報酬になります。
四千デラルですね」
「……分配できるようにしてくれ」
「わかりました」
受付嬢はサイレンの要望通りに、
四人が分けられるように、
それぞれ銀貨を一枚ずつ渡してくれた。
「メリ!」
「ぐほ!
せやから、エアリー、
俺の顔面に引っ付くなや。
はは!」
そして、そろそろ初夏だから暑くなってきた。
リアーはいいなと言う目でエアリーを見ていた。
「ありがとうございます」
「あ、そういえば聞きたいことがあるんやけど」
「聞きたいことですか?」
「メリ?」
「……ん?」
「え?」
サイレン達が一斉に俺を見た。
そんなに凝視しては流石に恥ずかしいのだが……
「……いや、そこまで注目されることはあらへんが……
……こほん。
ほら、男性のギルド職員が着物着るとるやん。
俺も着てみたいなと思っての」
「……着てみたいのか?」
「ま、まあの」
俺も前にいた世界では、
作務衣を着ていた。
だから、久しぶりに着たいと思うのも無理はない。
同時に古い人間なのも自覚はしている。
まあ、着ていた理由は、
俺が好きな作家が着物を着ていたからという、
小さい理由だが……
「……ふむ。
なら、私もその服を着てみたい」
「え?」
「さ、サイレン殿の巫女服!?」
「い、いや、ちょい待て。
巫女服かいな?
あくまで着物着たいのは俺だけで……」
「……いや、普段とは別の服を着るのも、
旅をする上での醍醐味だろ」
「え?
それでは、別の服が、
露出が高い服ならどうするのですか?」
「……リシアからは、
性能の良い服は多いと言われたからな……
性能の良い服を着る練習と思えばいいのでは……」
「え、ええ……」
リシアは呆然とサイレンを見ていた。
「そういえばリシア殿の格好も際どったからな」
「リシアって、もしかしてエンディミオンの新生の、
リシア様ですよね?
ヴァルクロウ家の」
「ああ……
リシアは私の永遠のライバルだ」
「す、すごい……
い、いや、そうでなくて!
本当に露出の高い服を着るつもりなのですか!?」
一瞬、リアーはサイレンを尊敬する目で見ていたが、
冷静になって露出の高い服を着るつもりのサイレンに、
ツッコミを入れていた。
「……白と青ならな」
リアーは本当なのと言いたそうに、
サイレンを見ていた。
残念なことにサイレンは本当にそう言っている。
「……ああ、忘れていた。
私は今の姿が気に入っている。
魔術師らしい……
とんがり帽子とローブ、杖……
色も白と青……
この姿から変えるとしても、
そこまで違いはない筈だ。
……そして、私は魔術師を変えるつもりはない。
仮に伝説の武器やら防具やら手に入れても、
白と青の性能の良いローブやとんがり帽子でなければいらない。
武器もいらない。
私の杖、サイレン・ロッドが一番合っている。
だから、伝説の武器や防具が手に入って、
私の要望とは違ったら好きにするがいい。
自分で装備するもよし、いらないのなら売るもよしだ」
「サイレン様、魔術師に強い誇りを持っているのですね」
「……仲間同士で争うのは御法度だ。
しないと約束してくれるのならな」
そう言って、サイレンはウィンクをした。
「あ。あの〜……」
「ま、まあ、そういう訳やから、
俺は作務衣を買いたいんやが……」
「……私も巫女服を買うぞ」
「……売っとる店、教えてくれたら嬉しいんやけど」
「構いませんよ」
そう言って受付嬢は地図に赤丸をつけて、
場所を教えてくれました。
「ただ、作務衣は五十六デラル、
巫女服も六十四デラルくらいかかりますが」
一デラルは大体百デラルくらいだから、
作務衣は五千六百円、
巫女服は六千四百円くらいになる。
俺が作務衣をネットで買った時に、
大体そのくらいになっていた。
「……構わない。
パーティーが完成するまで、
多くの依頼を受けたが、貯金はしている」
確かに俺達はあまり使っていないから、
買って困ることはない。
「そういうことなら俺も買おう。
面白そうだ!」
「……み、皆様が言うのであれば私も〜」
「おいおい……」
確かに俺は好きで買おうとしているが、
それで皆も作務衣とか巫女服を買うことになるとは。
「……傍から見ればコスプレ集団やな」
何だか他にもトンチキな格好を着る羽目になりそうで、
微妙に怖くなった。
「……いいじゃないか。
私は面白くて嫌いではないぞ」
「は、はは……
ノリがええな、サイレン」
「……ノリが良くて当然だ。
何せ、私は冒険者だからな」
とサイレンは不敵に笑って見せる。
「そこ、不敵に笑うことか?」
「……練人、行かないのか?」
「行く、行くに決まっとるやろ」
だが、確かに皆が自分で決めたのなら、
俺がぶつぶつ言うのは筋違いか。
そこは反省することにしよう。
「あの、ベンガス様。
間違っていたらすみません。
やっぱり、二人って付き合っているのですよね?」
「む?
さあな。
だが、練人殿はサイレン殿と、
一緒の部屋に泊まったことがあるが、
手は出してないとのことだ。
「え!?
サイレン様、練人様と一緒の部屋に、
泊まったことがあるって冗談とかではないのですか!?」
「ああ。
ただ、サイレン殿はわからぬが、
少なくとも練人殿は男女関係に奥手だからな」
「で、でも一緒の部屋に泊まったのでしょ?
それはもう付き合っているのでは?
やっぱり!」
リアーは興奮したように聞いている。
それから考えても、
リアーは男女の恋愛に対して興味津々だろう。
「気をつけろよ?
俺が荒んだ時にサイレン殿を侮辱した時はあるが、
練人殿は怒っていたからな。
奥手だが大切にしているのは間違いないだろう」
ベンガスはニヤニヤと、
俺を見て笑っている。
「……二人とも、聞いとるからな。
サイレンは知らんが、俺は難聴系やないわ。
俺とサイレンの関係はそう言うんやないわ」
まあ、サイレンには俺の秘密、
結構知られているからな
俺が転生者であることを知っているのは、
サイレンと喋れないエアリー、リシアだけだ。
リアーもベンガスも、
リシアのような情報網はないだろうから、
俺の口から、
あるいはサイレンが教えない限りは漏れる可能性は少ない。
まあ、俺が実は転移者であることを教えても、
中々理解してくれないだろう
理解してくれる相手といえば、
サイレンやリシア並の頭脳の持ち主だ。
そんな相手、そうそうないだろう。
あってたまるか。
「え?
お二人は付き合っているとかではないのですか?」
「付き合ってへん。
ほら、早う行こうや」
「……お似合いだと思うのですが」
「はいはい。
お好きなようにご想像を」
「……練人様も好きですよね?
そういう、恋愛話」
「はぁ?」
「だって、練人様の小説って探偵小説でもありますけど、
そう言う側面もあるような気がして」
俺の知っている推理漫画もそう言う描写が多いし、
俺としても恋愛話は嫌いではない。
王道の一途物は結構好きな部類だ。
「ですよね」
「ほう、練人殿も隅に置けませんな」
「あのな〜……
先に行くわ」
何だか、これ以上言っても追い詰められそうな気がする。
「はぁ……」
「……どうした?
練人?」
「いや、結構いじられそうな予感がしてな」
「……いじられか……
いじめよりは遥かにマシだろ?」
「そりゃそうやが……
まあ、あの二人の人間関係は知らんからな。
せめて、リシアのような凄い人とのコネがありませんように」
さもなければ、俺の秘密の扱いが軽すぎる。
俺の秘密はそこまで軽い筈はないと思うのだがな。
「……そうだな」
「……今思ったけど、サイレン。
リシア以外にヤバそうな相手おらへん?」
「……ふむ。
いないな。
私の知っている相手は、
私のお姉さん代わりの女性冒険者とその仲間……
委員長と魔獣使いの友人だな。
特に練人は魔獣使いの友人と会えたら喜ぶだろう」
「ん?
断言するやんけ。
何でや?」
「……魔獣使いの友人が育てている相棒の魔獣はドラゴンだからな」
「……マジかいな」
「……マジだ。
さぞかし、凄腕の魔獣使いになっているだろう」
「サイレンの仲間候補?」
「……私の最初の仲間は故郷以外の相手だが、
運命によってはそう言うこともあり得るな」
サイレンは楽しそうに笑った。




