第66話 リアー
「昼過ぎたんやけど……
リーマハはまだなんかのぅ?」
「メリ」
「……大丈夫だ。
歩き続ければ夕方までには辿り着ける」
イナミ地方は緑が多くて、
見飽きることはないが、
太陽は容赦なく進み、真上を過ぎていた。
「いやああ!」
サイレンと話していた時に、
女性の甲高い悲鳴が聞こえた。
「め、メリ!?」
「な、何だ!?」
「……悲鳴の感じからして、
驚きだけではない……
恐怖が混じっているような」
俺は急いで音が聞こえた方を見て向かった。
「れ、練人殿!
サイレン殿も!
ま、待ってくれ!」
サイレンと一緒に向かった先にいたのは、
綺麗な女性が見覚えのある鳥型魔獣に踏みつけられて、
動けなくなっている場面だった。
「女性を襲っとる鳥型魔獣……
グラットン・イーグルやと!?」
魔獣は俺達が戦った個体が最後の一匹ではない。
生物である以上、繁殖もしているし、
旅をしていれば遭遇することもある。
だが、まさか人を襲っている最中だとは思わなかった。
「ま、まずい!
グラットン・イーグルが女性を抑えているから、
嘴を躱すことはできなーー」
「《マジック・ウェポン》!」
ベンガスが言い切る前に俺は速攻で動いた。
ブーツにマジック・ウェポンを使って蹴りの威力を強化する。
「……《シャイニング・ライフル》」
まるで俺が速攻で動くことがわかっていたように、
俺の横を正確に通り過ぎて、
グラットン・イーグルの背中に命中した。
「ギルアア!」
「うおりやあ!」
サイレンの光の貫通弾を、
背中に喰らったグラットン・イーグルは、
背後を睨みつけたが、
睨みつける前に俺の飛び蹴りが腹部に当たる。
「《マジック・ウェポン》!」
怯んでいる隙に素早く剣にマジック・ウェポンを纏う。
「……ベンガス。
グラットン・イーグルは私達で抑えるから、
抑えている間にベンガスは女性を……
エアリーは下がってくれ。
私達が戦っている間、女性を落ち着かせてくれ」
「お、おう!」
「メリ!」
ベンガスは急いで女性の元に向かって、
肩を貸した。
エアリーはサイレンの言う通りに、
女性に擦り寄って、
もう大丈夫だよと言うように擦り寄った。
「だ、大丈夫か?」
「メリ!」
「あ、ありがとうございます!」
「と、とりあえずついて来い」
ベンガスは俺をチラッと見た。
俺も素早く頷いた。
「おっと!」
グラットン・イーグルは嘴攻撃を仕掛けてきた。
だが、倒れているわけでもない。
動きを封じられているわけでもない。
加えて、グラットン・イーグルとは二度目。
攻撃を避けられない道理はない。
「はっ!
えいっ!」
剣で嘴を抑えて腹部を蹴る。
腹部に痛みを感じている隙に、
剣で切る。
相変わらず皮膚は頑丈だが、
俺だけに気を取られることはできる。
「練人殿!
待たせた!」
「……《シャイニング・バレット》!」
サイレンは再びグラットン・イーグルに、
八発の光の弾丸を撃った。
グラットン・イーグルが痛みで再度振り返る。
「よそ見すんなや!」
隙を見せたグラットン・イーグルの脇を切り裂く。
「パワーなら負けん!」
嘴攻撃を仕掛けるグラットン・イーグルに、
ベンガスはハルバードを使って抑え込む。
グラットン・イーグルがいくら翼で、
ベンガスを叩いたとしてもベンガスは気にしない。
気にしない様子から見て、
ダメージを受けていないことがわかる。
「おらああ!」
そして、ハルバードを軽々と振り回して、
グラットン・イーグルの腹部を切り裂く。
マジック・ウェポンを使わなくても、
切れ味とパワーは段違いで、
グラットン・イーグルの腹部は出血し、
堪らず後退する。
「……目と耳を塞げ!」
「何!?」
「サイレンの言う通りにせい!
目と耳が痛くなるで!」
グラットン・イーグルが羽ばたき始めると同時に、
サイレンは俺達に注意喚起をする。
目と耳の時点で何をしようとするのかわかった。
「ギルアア!」
「……逃がさない。
《シャイニング・ワーク・バーニング》!」
空を飛んで逃げるグラットン・イーグルに、
サイレンは光と爆音のシャイニング・バーニングを放つ。
ガキンッ!
光と爆音をもろに喰らったグラットン・イーグルは、
飛ぶ途中で墜落した。
「グオ!
光と音が凄い!」
「《マジック・ウェポン》!」
剣に再びマジック・ウェポンを重ねる。
ラミア戦の時のように重ね掛けができた。
「でいりゃあ!」
グラットン・イーグルが怯みながらも、
立ち上がると同時に翼を叩き切る。
「ギルアア!」
もうグラットン・イーグルは飛ぶことはできない。
鳥相手に得意な空中戦では敗北は必須。
人間を襲った時点で、人間を襲わない保証は消えた。
次は子供かも知れない。
別のところで、知らない誰かを食べるかも知れない。
故に今、グラットン・イーグルを倒す。
「……練人!」
俺は急いで、今いる場所から離れた。
離れたと同時に、サイレンの杖から光が溢れ出す。
「……《シャイニング・バーニング》!」
今度のシャイニング・バーニングは、
通常のシャイニング・バーニングだった。
でも、弱っていたグラットン・イーグルには十分だったようで、
シャイニング・バーニングを喰らったグラットン・イーグルは、
バタリと倒れた。
「他に敵はおらへんな?」
「ああ……
マジック・ウェポンを解除してもいいだろう」
サイレンに言われて俺はマジック・ウェポンを解除した。
使い続けるたびに、
マジック・ウェポンもスムーズに発動できるようになった。
「さ、流石だな。
長い間、一緒に戦っただけはあって息がぴったりだ。
練人殿はサイレン殿が何をするのかわかっていたのか?」
「大体な。
サイレンは面白いと言って俺に隠し事をしとるけど、
何をやろうとするのかわかってきたわ」
サイレンの戦術はシャイニング・バーニングを、
如何に魔獣に当てるかを注視している。
自慢の強力な一撃も敵に命中しなかったら、
何も意味もない。
バーニングを使わずとも倒せる相手用に、
バレット、ライフル、ショット、カッターがあるが、
イリュージョン、リング、各種のバーニングは、
敵の動きを制限したり、怯ませて隙を作らせることが多い。
「メリ!」
「あ、ありがとうございます」
「おう、助けられて良かったわ。
俺の名は練人と言うんや」
「……私はサイレン・マジャン」
「べ、ベンガスだ」
「練人様にサイレン様にベンガス様ですね。
危ないところを助けて下さってありがとうございます。
私の名前は【リアー・ドドタル】と申します」
「リアーさんか。
連れおるんか?」
「いいえ。
私、一人で旅をしていたのです。
世界を見て回りたくて……」
「……世界」
「グラットン・イーグルに不意打ちで襲われて……
危なかったですが……
だから、助けてくれてありがとうございます」
「……すまないが、
冒険者ならカードを所持している筈だ。
見せてくれないか?」
ベンガスが警戒を隠さずに、
カードを見せるように言ってきた。
「カードですか?
もちろん、構いませんよ」
リアーは自分の冒険者カードを見せた。
確かに名前はリアー・ドドタルと書かれている。
「……近くにリーマハがあるだろ?
グラットン・イーグルを見せるついでだ。
ギルドにも確認しよう」
そう言ってベンガスはグラットン・イーグルを担ぐ。
「わ、わかりました」
ベンガスの警戒心にリアーは少し驚いている。
「え、えっと……
何か失礼なことをしましたか?」
「……てっきり嬉しそうにリアーに話しかけると思ったのだが……」
「ああ……。
まあ、俺としては美人相手に、
警戒心を剥き出しになる気持ちはわかるが」
「……わかるのか?」
「ほら、俺、ラミアと戦ったやん。
ラミアと戦う前にベンガス達、
ラミアの麻痺毒を騙されて飲んだんや。
下手したら丸呑みにされるところや。
俺を馬鹿にして、
俺の意見を聞かなかったからという負い目もあるし……
せやから、美人にトラウマ、警戒しないといけないと、
思うようになったんやろ」
「……なるほど。
そういう訳だ。
失礼なことになるが、
ギルドに着くまではベンガスの気が済むまで付き合ってくれないか?」
「わ、わかりました」
「メリ!」
エアリーはリアーに抱きつかれている。




