第63話 Fランク昇格
ラミアを倒して気を失った俺はすぐにギルドの治療室に運ばれた。
多少の打撲はあったもののダメージは最低限で魔力も空っぽになった程度だった。
ベンガス達も重症という訳ではなかった。
しばらくすればすぐに動けるようになるとのことだ。
「……本当に無茶をする。
合同依頼を受けた理由が挑発されたから、私を侮辱されたからとはな」
「す、すまん」
「……ギルドも管理はしてくれるが……
本来合同パーティーは信頼できるパーティーでやるものだ。
今回のようにいきなりの強敵と遭遇する可能性があるからな」
「……反省してます」
「……反省したのならいい」
「意外や……
もっと怒るんやと思ったんやが……」
「……もっと怒って欲しいのか?」
「怒って欲しい訳やないけど……」
「……挑発されたら受けるのもまた冒険者らしさだ
……私も」
「……私も?」
「……守るために強敵と戦って死にかけたことがある……
だから、私が文句を言う資格はない。
同じことが起きたら私も助けるために……
守るために戦うだろうな」
「資格?」
「……私も未熟な時に人を守るために強敵と戦って死にかけたことがある」
「サイレンでも死にかけることあるんやな」
「……ある。
子供の時にな」
「子供?」
「ああ……
子供の時の私は慢心していた訳ではない。
きちんと自分の実力がわかっていたし……
相対した魔獣が自分の手には負えないことも理解していた。
けど、放っておけば私の故郷で誰かが犠牲になる。
誰かが犠牲になると思ったから無謀にも戦いを挑んだ。
結果的には勝利し、生き残ったが幸運が重なった結果だ。
普通は戦った時点で死んでいた」
サイレンは懐かしむように言った。
「……私が思った以上に私とお前は似ているな」
「似とるんか?」
「……少なくとも私は似ていると思っている」
サイレンが微笑んだ時、ギルドの扉が開いた。
ゾロゾロとやってきたのはベンガス達だった。
「あ、もう復帰したんやな」
「新鮮な肉を食べるための麻痺毒だったらしいからな……
数日もすれば全快するさ……
証拠となる瓶もお前は提出したからな」
説明した後、サイレンは俺の前に立った。
また、挑発されたり悪口を言う可能性を少しでも考えたのだろう。
「……練人」
すると、三人は全員土下座して頭を下げた。
「っ」
「すまなかった……!
俺達は自分の不甲斐なさを棚上げにしてお前を嫌っていた!」
「羨ましいと思ったし、なんで俺はお前より劣った立場なんだと思ってもいた」
「だから、冷たく当たったし……
お前が警戒していたのに、無視をした挙句……
警戒していることを言わさせない空気も作ってしまった!
結果、ラミアに何もできずに……
強敵相手にお前一人で戦わざるを得ない状況を作り……
危うくお前を道連れに殺しかけてしまった!
本当にすまない!」
ベンガスは深く頭を下げて心の底から詫びてきた。
「今でも俺は俺が情けないと思う!
お前に馬鹿にしながら、助けてくれと懇願し……
嫌っているとお前でもわかっているのに……
追い詰められなければ逃げろと言うこともしなかった!」
「でも……
お前が逃げずに戦ってくれた時は……
ホッとしてしまった。
怖かった!
ラミアに攫われてゆっくりと食い殺されると思うと……
死にたくないと思って怖くなって……
泣きそうになった!」
死にたくない。
気持ちはわかる。
俺も夢半ばで死ぬ訳にはいかない。
冒険者をやりながら小説作家になるという夢を捨てる訳にはいかない。
生きていなければ夢も叶えられない。
多分、死にかけそうになれば俺も泣きながら命乞いをすると思う。
尤も自分の命と仲間の命との二択ならふざけんなと思って反逆はするが……。
「……本当に助けれくれてありがとうございます!」
そして、再びベンガス達は頭を下げてお礼を言った。
「えっと……」
やばいな。
俺は小説の主人公だ。
だが、普通の物語のようなカッコいい主人公になるとは思っていない。
強い人が近くにいるから、あくまで弱いが必死に戦う人ぐらいだと思っていた。
ベンガス達のように感謝されるとは思わなかった。
ラミアとの戦いなんて殆ど意地の張り合いだ。
何を言えばいいのかわからない。
チラッとサイレンを見てもサイレンも肩をすくめる。
助け舟は出してくれないらしい。
「俺はあくまで生き残るために……
生き残っても後味が悪くならないように戦っただけや」
素直な気持ちを言うしかできない。
「……ただ、感謝しているなら今度はお前達の番だろうが」
「俺達の?」
「……確かにムカムカしている時は乱暴な口調になる。
俺だって偉そうに言われたから言い返したんやし……
夢を馬鹿にして怒らない奴はおらんわ……」
「……すまない」
「せやけど、言われたら言い返すよりも……
やっぱ、俺は助けた方が気分がええ。
見捨てておいて、命を失わせたら……
夢を気持ちよく追えなくなるわ。
ずっと、見捨てたことを思い出して後悔する……」
後悔はずっと引きずる。
生きている限り、いくつもの後悔を体験するだろう。
でも、命に関する後悔はしたくない。
「俺に助けられてホッとしているんやろ……
なら今後はお前達に助けを求めている奴らを見捨てずに助けておけ……
他人を馬鹿にするよりも、助けた方が気分晴れるやろ。
自分は他人のためにできると自己肯定できるしのぅ」
「練人……」
「今の自分が情けなくてカッコ悪いんやったら目の前の奴助けて……
自分でもカッコええと思える自分になっとけや。
俺もカッコええ自分になるために生きるから……
お前らも俺が助けたように誰か助けてやってくれや。
俺がお前らを助けてよかった思えるようにな」
「……わかった。
もう人を馬鹿にした言い方はしない」
「練人殿に助けてもらった命……
恥をかかせないように生きていく!」
「……ええか、サイレン?」
「……いいんじゃないか?
練人が言うのなら否定する気はない」
「……まあ、お互い冒険者生活頑張っていこうや」
「「「はい!」」」
「……練人殿。
今回の依頼の報酬金は全て受け取って欲しい」
「え?
ええんか?」
「構わない。
むしろ、受け取って欲しい……
練人殿がいなかったら、報酬金は受け取れなかったから。
受け取ってくれないと俺達の気も晴れない」
「ええんか?」
「……彼らのようなタイプはしつこい。
受け取るまで折れない」
「わかったわ」
俺は受付の方へ向かった。
「はい、ベンガスさん達がおっしゃったように今回の報酬は全て……
練人くんに譲渡します。
依頼の報酬金は八百デラル。
そして、ラミアとその下僕を討伐した報酬金……
ラミアの危険度を考えれば五千六百デラルになります。
ラミアは本来Eランク相当ですから」
「ラミア……
Eランクやったんか」
「合計で六千四百デラルです。
お受け取りください」
「ほんなら、ありがたく……」
「……練人の力だけで戦ったのだ。
仲間だからと山分けはなし。
全て受け取れ」
「ああ……
わかったわ」
「そして、練人パーティーはそれぞれ強敵の撃破に貢献しています。
ラミアとグラットン・イーグル……
よって今日よりFランク昇格です」
「おおっ……
Fランクか」
「カードを」
俺達は受付にカードを渡した。
しばらくしてカードの登録が完了した。
ランク欄にGからFに変化した。
「こ、これで俺もFランクか」
「……私としては意外と早くに昇格した気分だ」
「……俺が弱いからか?」
「……弱い男がラミアに勝てる訳がない。
ラミアがEランクの魔獣である以上……
練人はもう才能がある子供よりも上になる」
「ほんまか?」
「……私はEランクの魔獣に勝てる者が……
才能を持っているだけの者よりも上だと確信している。
練人は練人の強さに自信を持てばいい」
「……ありがとうな」
「練人殿!
Fランク昇格おめでとう!」
「……おう!
Fランクに恥じひんように戦っておくわ!」
「よし!
今日はお祝いだ!
俺達が奢ります!」
「別にええんやけど……」
「お言葉に甘えてくださいよ」
「……わかったわ」
「……私達はそこまで大食いではないからな」
「はい!」
俺達はギルドを離れて料理を奢られた。




